101話 調査依頼3 奇襲
汚染した湖を調査しに出た漁船。
次々と襲ってくる魔物との戦いの最中、霧が想像以上に広がり、船が迷ってしまい港に戻れなくなる。
モードが大きな風魔術で霧をなんとかしようと詠唱している時、アリエスタが変化して霧より上空に飛び出て案内すると言ったが……。
上に何かいる?
そんなはずはないと思い込んでいたが、絶対にいないと断言できない感じだった。
「上に飛ぶのはやめた方がいいかもしれない」
アリエスタ「何だよ、なんか居んのか?」
ベル「あたしが見てきてあげる!」
「待てぃっ、だからそれを待てって話してんだよ今」
上の白い世界を見上げて睨むが、何も感じない。
周りから感じるのは、まだ詠唱しているモードや、まだ来る蚊と戦う者達。
あと少しのようだな。
船の周囲は、水グモも寄って来てはいないようだ。
水中は?
足元から船の揺れ、振動が伝わってくる。
眼を閉じていても、皆の場所は見たようにわかる。
ベル「ルーナ? お昼寝?」
アリエスタ「立ったまま寝るかっ、なんか探ってんだろ、静かにしてろ」
ゼラ「あれ? 何してんのキミら? ルーナさん? 寝てる?」
「しっ、黙ってろおっさん」
ゼラ「! ったくこのガキ、なんだぃなんだぃ」
ガストン「くっくっくっ、スネんなよ、お前もおっさん呼ばわりされてんだな」
「はぁ、時代かねぇ……この調子じゃ最年少のウィリアムも仲間入りだぜ」
「ああ、あいつは気苦労が多いからなぁ」
なにやら戦いながら話してるのがばっちり聞こえてきてるな、旋風時代の仲間だろうか?
響きが水中にまで伝わっている。
船の底を泳ぐ魚か? 驚き逃げていくそれがわかる……。
水中はこんなにわかりやすいのか。
ヴンッ。
ゼラ「なっ、その矢!?」
ベル「キラキラのやつ使うの?」
ビクター「あっ、ルーナさん、もしかして木矢をもう切らしたんじゃ……」
ラプト「スっげ~、おい、お前拾い集めて来いよっ」
チャック「おう! ってお前も手伝えよ!?」
来る。
巨大な魚が来る。
船に凄い勢いで迫るそれと、空中からの水音がさっきよりよく聞こえたのも同時だった。
ギリギリギリ……。
アリエスタ「なん、水中からか!?」
目を瞑ったまま何かを探っていたエルフの娘が突然、右手の湖面へ、ミスリルの矢を呼び出し今まで以上に弦を引き絞った。
見た者は驚き警戒する。
彼女の感知能力は証明されていたからだ。
レックス「右から来るゾ!」
ゼラ「ガストンッ!」
丁度、ビクターの突きを躱した最後の一匹をガストンの大剣が突き潰したところだった。
ガストン「ああん? ! お前ら警戒しろ!」
モード「行きますよ! ……突風よ!」
重なるように彼女の詠唱も終わったようだ。
短杖から溢れ出ようとしている魔力の激しいうねりは、もう片方の手の平でで抑えておくことができないように暴れている。
アリエスタ「っ今かよ!? お前らなんかに掴まれえ!」
「うなっ」
彼は傍に飛ぶベルを掴んだ。
水中から何か大きな影が浮かび上がって来た。
もう水中や湖面の揺れで大きなそれが来るのがはっきりわかる。
モードの魔術が放たれ、辺りを突風が飛び交う。
バシュウウウウウッ!!
船に落ちている軽い蚊の死骸が飛び、欠片が吹き飛び、船内の細かな物や布等が飛ばされ、周囲の霧が弾け飛ぶようにして水飛沫を上げて離れてゆく。
それと同時に、巨大な魔物が湖面から飛び出して来た。
ザバアアアアッ!!
漁師達「うおおおおっ!?」「にゃああ!?」「“池鮫”だあああっ!!」
「!」
眼を開けると、その巨大な口はピラーナの大顎がかわいく思える程だった。
顔だけ飛び出した鮫は船と同じくらいの大きさで、その目は他の生き物とは違い、穴が開いたような真っ黒だ。
頭と同じ尖った三角の牙は凶悪なのこぎり状で、一本だけで簡単に首を斬り落とせそうだ。
船の右手の縁を、そこに立っていたソニーごと、丸呑みするかのような巨大な口で噛みついて来る。
飛び出した巨体により湖面ごと船が大きく傾き、ソニーは倒れないようにするのがやっとで躱す気配がなかった。
ソニー「っ!!」
しかし、同時にモードの魔術が吹き荒れていて、鮫の奇襲は本来より抑えられていた。
そして、私がずっと狙っていた。
こんなゆっくりとした巨大な的は、外しようがない。
船中央の小屋の上に膝を立てしゃがみ構えていた為、揺れにも全く無事だ。
打ち慣れ限界を見極めた新たな弓を最大限に引き、木矢より強力だと思う、とっておきのミスリルの矢を、ゴブリン女王の大玉もギリギリ飲み込めそうな巨大な口の中へと放ち、すぐさま別の矢を呼び出し構えた。
バシュヒィィィィィィィンッ!
ズグゥッ!
池鮫「ッボオオオォォォォッ」
ソニー「きゃああっ!」
口内に銀の線が走って消えて行き、奴がのけぞった。
ガストン「おお貫通したぞ!?」
そっちからは見えてるのか、こちらは口しか見えなかった。
ビクター「ソニーっ、平気か!?」
「いっ、い今私……」
レックス「ソらあああ!」
ダロム「セいいいい!」
警戒していたレックスがすぐさま、その巨体から大型銛を横っ面に思い切り杭打つ。
ズゥンッ!
後に続くダロムは、すくい上げるようにメイスを叩き上げた。
バグゥンッ!
バシャアアンッ!
大きな打ち込み二つに鮫の巨大な頭が大きくのけぞり、反対の湖面に叩きつけられるようにして落ち沈んだ。
ふむ。
スチャ。
漁師達「「よっしゃあああ!!」」
ラプト「……スッゲ」
モード「まぁ、珍しい矢ですネ」
アリエスタ「出るもんが出やがったよ!?」
レックス「ルーナ様お見事っ! また来やがるゾぉ! てめえら縄を掴みやがれ! 引き寄セてぶっ殺スんだ!」
漁師達「おおう!」「にゃー!」「引け引けええ!」
彼は鮫に撃ち込んだ銛と繋がっている太い縄を解きながら部下を集めた。
「銛を絶やスんジャねえゾぉ! ダロム! 鈍ってねえみてえだな、止めはルーナ様と勝負だゾ!」
ダロム「承った」
む?
ゼラ「漁師さん達が息巻いてるけど、こっちだってこんな大物、逃さないから」
ガストン「あぁ別に俺らでもいいよな?」
ビクターを見て彼はそう言うが、少年は苦いような笑いしか返せていない。
アリエスタ「止めで報酬変わんのかよ? 山分けだかんな! 勝手に頑張れ!」
モード「船頭さん、港へ向かってくださいネ。しかし本来より随分と大きい種デスネ」
彼女は盛り上がる男達とは別に、霧が晴れ港の方角がわかり、エンジンに付いている漁師に退路を指示している。
霧は晴れたが、行きとは大違いに辺りがどんよりと曇っており、空気は湿ってて、何だか薄暗い気配だった。
鮫は潜ってしばらく動きを止めたが、すぐに船を周るように水中を泳ぎ出してていた。
チャック「あ、あ、ああ、な、なん」
カワウソの小さな獣人は一同とは別に、空を見上げ指さし、震えていた。
壁に刺さった矢を引っこ抜こうとしていたのか、その恰好で上を向いている。
モード「あれは!? ルーナさん上です!!」
普段静かな彼女が突然叫んだ。
「ああ」
矢を構える。
戦う者達の船の上空に、何かが降りて来ていた。
それは風が吹き荒れ、霧が払われて初めて明らかになった。
上空に、真っ黒な水の様なものが空に浮かんでいた。
ポチャ……。
どうやら壁より背が低い獣人達は見上げる分、それに気が付きやすかったようだ。
猫族の漁師「にゃ!?」
遅れて白黒の毛並みの彼も、耳を向けて反応していた。
他にも気が付いた一行はそれを見た。
ガストン「なんだありゃあ?」
ベル「なんか浮かんでるよー?」
ゼラ「ちょっと今度はなによ? 新手!?」
だが、透明な触手は誰も眼にすることができなかった。
皆から離れ、船尾? のエンジンに佇む漁師の身体に、今それが巻きつこうとしていた。
私はそれを縫い留めようと矢を放った。
魔力や感知で、鮫を撃ち抜くときから何かが来ているのはわかっていたから。
「そこだっ」
シュヒィィィィィンッ!
ズガンッ!
しまった、触手と、船壁まで貫通して湖面に消えていった。
アリエスタ「おい、鮫はこっちだぜ!?」
触手は平気で漁師に巻きついた。
「見えない体が襲ってくるぞ!」
モード「何ですって」
軽い力で撃ってこれか。
すぐさま、弓を仕舞い腰の中剣を抜きつつエンジンの漁師に跳んだ。
漁師「な!? え!? うおおお!?」
矢に驚いたものの、すぐさま自分の体が浮かび上がる異常に驚く蜥蜴族の漁師。
レックス「!? どうシた!」
空中の黒い水の部分、あれは体内だ。
それを包むようにして透明な体があり、たくさんの触手がぶら下がって浮かんでいる魔物がいるんだ。
魔力の集中が黒い水の下部分にある。
全体へ魔力が巡っていて透明な体は見えていた。
巨大な浮かぶ、変異したスライムだった。
ダンッ!
ズザンッ!
小屋の屋根を走り飛んで、今やそこより高くへ連れ去られようとする漁師に巻きつく触手を斬り断つ。
巨大透明スライム「……イЖ×タイ¶§イΘ°」
いたい?
喋ったのか?
今までのスライムで一番よく聞こえた。
ドダアンッ!
漁師「うおっとっとっ、たっ助かりまシたルーナ様!」
落ちて、無事着地したようだ。
ブヨンッ。
同時に、彼に巻きついた触手が船内に転がり落ち、ピラーナの死骸の血が付き半ば姿が露わになった。
ラプト「なんだこりゃ!? スライムかよ!」
チャック「空飛ぶでっかい、見えねぇスライムぅ?」
ダロム「ソうか、透明な触手に捕えられたのかっ」
眼の良いらしい漁師「よく見りゃなんとなく見えまスゼ! 俺ジャなきゃ見逃シちまうね!」
ヒュオオ――。
レックス「ルーナ様っ!」
ゼラ「ああっ、落っこちる!」
勢いこのまま、船の外に落ちるな。
船の縁をつかめるかっ?
ガシッ。
「っ」
外側からだが、ぎりぎり掴んで落下を防いだ。
ソニー「ルーナさんっ!」
ビクター「大丈夫、縁を掴んだよっ」
ガストン「よしっ……お前ら警戒しろっ! 湖にまで居やがったか」
ゼラ「あれって、例の奴か!?」
ガストン「あぁっまさか空飛ぶとはなっ」
モード「あの黒い水は……」
アリエスタ「あーもう今!? またスライムかよ! ソニー、水壁出せるか?」
「え? は、はいっ先輩!」
ザバアンッ。
キュッ、タッ。
縁に駆け上がる。
漁師組と冒険者組で分担するのか?
ダロム「宙に浮かぶスライム……南方の種に、似たようなのがいまスが……」
レックス「鮫に集中シろ! ルーナ様、縁は危ないでスゾっ」
彼は揺れる船の縁に立ったまま上を見上げる彼女に警告した。
斬った触手が元の長さに戻っていってるな。
他には捕まえようとしないようだが。
バレたからだろうか。
こちらを見ている様に感じる。
「来るなら容赦はしないぞ!」
奴に向けて言い放つ。
巨大透明スライム「……※Ж§?Θ¶ゴ§ハン」
よくわからんが、食う気か。
奴の体の奥の視えない魔石、思いきり撃つ銀の矢なら届くかもしれない。
触手は固くもなく今迄通り斬れた。
ヴンッ。
弓を出し構える。
だが、鮫と同時とはな。
……鮫を追ってきたのだろうか?
漁師「……う、わ、若っ頭っ」
む、捕まっていた漁師がおかしい。
漁師達「!? おいっ」「様子が変だゾ」「若頭っ」
レックス「どうシたぁ!」
ソニー「え? あ! まさか毒? 見せてくださいっ」
彼女が駆け寄る。
毒? 体表は変化してないな。
見ると体がこわばって、変な恰好で倒れこんだ、そのままだった。
傍にいたラプトとチャックが抱き留めている。
漁師の眼だけがギョロギョロと動いている。
身体が動かないのか?
彼の尾もさっきから同じ形で固まったように動いてない。
ベル「かちこち?」
チャック「あっ、フェアリーの姉さん、これ拾い集めたっす!」
ラプト「姉さんに渡しても持てないだろバカッ」
「あたしがお姉さんー?」
彼らは集めてくれた矢を彼女に見せている。
ソニー「せ、先輩っ解毒が効きませんっ」
「よく見ろっ、それ、麻痺毒じゃねえのか? おいルーナっ、触手はこっち来てねーだろな?」
「来たら教える」
同じ毒らしいが、解毒は効かないのか?
ガストン「あんな上に居るのをどうやって倒すかだな」
ゼラ「俺の槍は投げないからね?」
ビクター「先輩っ、船に置いてる銛を借りれませんか?」
アリエスタ「よしっ、そんじゃあ、俺の出番だな。やれやれだぜ」
む、詠唱を始めたな。
かすかに聞こえる呪文は……火魔術か?
気付いたが、いつもの水魔法と違って魔力の流れが水より滑らかではない気がする。
もしかして苦手なのだろうか。
レックス「ルーナ様危ないっ!」
いかん、レックス達が引っ張る縄がこちらに来た。
縁に縄が突っ張って、すごい勢いで縁に立つ足元に滑り動いて来る。
鮫がぐるりと回ってこちらに来ているからだ。
バシャアンッ! ズザザザアッ!
漁師達「すげえ力だっ!! 危ねえぞおおお!!」
タンッ。
飛んで避けた。
反応する様にスライムが触手を伸ばしてくる。
鮫も見ていたのか、こちらに飛んで来ようと動く。
やれやれ。
船を跳び上がった私を触手が捕まえようとするが、魔力の流れで透明な触手は見えている。
ザンッ!
弓を戻すと同時に、腰の中剣を抜き斬り裂いた。
スライム「……※イタЖΘイイ」
どうやら触手に触れるとまずいようだ。
下で倒れている漁師をソニーが麻痺を治す魔法をかけているようだが。
ベル「ルーナー矢もらった!」
矢をたくさん抱えてこちらを見上げている。
今はちょっと無理だな。
ボココッ。
奴の体内の黒い水が音を立てる。
体内に黒い血のように張り巡らされているのが透けて見える。
ビクターが銛を投げているが取り込んで縄を溶かしてしまっていた。
魔石のとこまで届いてない。
キュタッ。
また縁に着地する。
ヴンッ――そして弓を構える。だが――。
アリエスタ「……焔の……息吹よっ、おらあっ!」
彼の持つ長杖から火球が二連続で高速で上空に放たれた。
バヒュヒュッ!
ドォンッ! ボォンッ!
ベル「おおー!」
スライム「……」
辺りが夕焼けのように赤く染まる。
アリエスタ「あり?」
ベル「ピョンピョンしてる、すごいね? はいこれ」
カチャカラ……。
「ありがとう」
アリエスタの火魔術に見とれて止まっていたが、ハッと気が付き持って来てくれた、木矢の束を受け取る。
スライム「……アツイノ……ヘイキ」
?
火魔法を喰らって、なんともないぞ? 平気だと?
ガストン「おいアリエスタ!」
ゼラ「効いてないっぽいんだけど?」
「はあぁんなアホな! スライムに火が効かねえだと!?」
ソニー「そ、そんな、火魔術が効かないなんて」
モード「……水性の魔物が、弱点属性の火耐性を獲得した? 黒い水の影響ですかネ?」
レックス「! (引く力が消えたっ)お前らっ、鮫が来るゾお!」
気が付けば銛や槍を漁師達がこちらに構えている。
私が邪魔している立ち位置だった。
「構わず突け!」
ザバアッ!
鮫の大きな口が私を船ごと飲みこもうと飛び出て来た。
頭に穴が開いてるな。
ああ、矢が貫通した跡か。
すぐさま跳び避けたのと同時だった。
漁師「「おらあああ!」」
ズドドスブスッ!
モード「ヒュッ!」
彼女も横から風の刃の魔術をいくつも放つ。
スバババッ!
池鮫「ッ!!」
バキャアア!!
跳び上がったその下で、たくさんの槍や銛が突き刺さるのに怯みもせず、鮫は齧り取るように壁や床ごと船を噛み砕いてしまった。
斬り落としたスライムの触手ごとだ。
バコンッ! バコンッ! バコンッ!
バキャミシッ、バギャッ。
一同「「うわあああっ!」」「下がれ下がれっ」
何度も噛み続けて滅茶苦茶にしている。
頑丈な顎が合わさって骨の当たる大きな音が響く。
バキィィンッ!
巻き込まれた金属の槍が簡単に折れ別れた。
ものすごい力だ。
あれに噛まれたら無事では済まないな。
レックス「畜生! やられた!」
欠けた月のように開いた大穴から水が入り込んできた。
そして、下降する。
ジャキッ!
奴の頭の上に飛び降り、その目に構えた中剣を突き刺した。
ドスゥッ!
浅いか!?
池鮫「――ッボオオオォォッ!」
痛みを感じたのか、邪魔なのか、首をもの凄い力で振り乱す。
くっ。
振り落されそうになるが、すぐさま小剣を逆手に呼び出し、脳天辺りを突き刺す。
ヴンッ――ザスッ!
中剣と小剣の両手で踏ん張る。
池鮫「――ッ!!」
吐く息がもうないようだな。
む、魔力が巡っている?
その時、周囲の水が突如“細い縄”のように持ち上がったかと思うと、鋭い槍のように私に迫って来た。
レックス「ルーナ様っ奴の水魔法が!」
ギュギュルルッ!!
「!」
奴が頭を思い切り振って体が振り回されたところに水の捻じれた棘が射さり迫った。
ヴンッ――両手の剣をケープに戻し、そのまま跳ね飛ばされるに任せて棘を“すんでで”躱した。
くっ、船に届かない、落ちるっ。
足場が一つあればっ。
バシャアンッ!
その時だ――水球が動き水壁のようになり、それを蹴って船に着地した。
「!」
なんだ今の!?
私がやったのか? うお――ジャバアアッ。
すぐ側の漁師たち「「うおお!?」」
間近の破壊された縁跡から、凄い勢いで水が入り込んでいる。
モード「あらまぁ」
ソニー「す、すごいですっ」
彼女は麻痺の治癒を終えたようだ。
ラプト「スげえや姉さんっ!」
アリエスタ「おいっ今のお前っ(俺の足のやつか?)」
チャック「ひいいい沈むううう!」
ラプト「お前は体浮くだろがこのクソラッコ!」
らっこ? カワウソじゃなかっのか?
ビクター「うわっ僕マズイんですけど!」
ガストン「俺もだ! 脱ぐしかねえなこりゃ」
漁師達「おおおお! ソれっ、とっちめろ!」
ダロム「待てっ、まだ近付くでないっ!」
池鮫はもうボロボロでそこに佇むように浮かび、中剣に潰されてない眼でこちらを睨んでいる。
奴の魔法はもう水に戻ったようだ。
小剣が頭に刺さったが、浅かったようだな。
まだ魔術を放ってくるか?
レックス「てめえら油断スるなっ! 弱ってるように見える今が一番危ねえゾ!」
彼は小屋から替えの銛を持ち出して来ており、奴を見るやそう叫んだ。
なに。
そして、上空の透明スライムにも変化があった。
巨大透明スライム「……コレ……デキル」
何?
奴の触手内の血管の様な黒い水が触手の先にまで到達している。
何だ?
一同「なんだ!?」「お、おい見ろ“クラゲ野郎”をっ」「触手が見えるゾ?」
くらげ? あいうのがか?
ガストン「何だ?」
ゼラ「見えるようになったじゃん」
ビクター「こんなでっかかったんですか?」
ソニー「それなのに浮いてるなんて……」
奴の魔力も巡り始めた。
モード「!? いけませんネっ」
彼女の毛が逆立った。
「魔法が来るぞ!」
その時だ。
触手から奴が黒い水を噴きだしたかと思うと、火が付き、炎の噴射がほとばしった。
ボオオオオオオオオウ!!
ジュウウウウウッ!
船や周りの湖面も関係なく、噴射しまくっている。
周りの汚染した水が煙を出し、小さな透明スライムごと蒸発している。
船にも大量の炎が降り注いできた。
一同「「うわああああ!」」
皆飛び降り避けようとしたが……。
モード「風壁!」
ヒュゴオオオッ!
だが、モードの放つ風防が大きく広がり、私達を炎から守ってくれた。
アリエスタ「おぉ……」
水壁を放とうとして手が止まるアリエスタ。
ソニーの方は集中していた魔力が乱れ消えた。
レックス「おお、サスが”風壁”」
二つ名の通りか。
見事だ。
モード「やはり黒い水を利用してますネ……皆さんっ、どのくらい続くか知りませんけど、船が沈む方が早そうですネ」
彼女はいくらでも続けられるとでも言っているように聞こえるが、船内の水かさ? が増して来て、傾き始めている。
それと、何だか私に対してさっさと倒してくれと言っているような気がする。
彼女は私を見てそう言ったからな。
ゼラ「えぇ、スライムが火を噴いてんだけど?」
ソニー「は、初めてみました」
アリエスタ「皆そうだよっ!」
ガストン「一旦小屋ん中に避難しろ! ? おいっ、周りの池の水を見ろ!」
トプンッ、パチャンッ。
何だ、急に魔力の塊が現れたぞ。
周囲の汚染した水、小さな透明なスライムが融合して、あちこち大きなものに変化していた。
しかも、透明ではなく黒いスライムだ。
炎の中で元気に動いているな。
一番大きなものはアリエスタぐらいある。
何が起きたんだ?
魔力から感じられるが、内部に魔石もできているようだ。
大きくなると魔石ができるのか?
黒いスライム達「「……モウ……ヘイキ」」
やはりスライムが喋っている。
通常の生物の喋り方ではないがわかる。
揺れる湖面に沈んだや奴も同じようにだ。
水中で籠ることもなく響いてきた。
そして、融合して火に耐性を付けたようだ。
だから浮かんでる奴は火が効かないのか。
そして、周囲の汚染水とスライムが一緒になり、水がきれいになっている。
漁師達「み、水が!」
レックス「水神様の御導きなのか……」
アリエスタ「おいっ、んなことよりあいつら火耐性身に着けてんぞ!?」
ビクター「ひええ、水がっ沈む!」
ラプト「おい盾の人族っ小屋の上に昇れ! あとソれサっサと脱げ! 沈むゾ!」
チャック「届かねえよ~ラプト、手ぇ貸してくれよっ」
「駆け昇れっての!」
ザバアアッドボンドプンッ。
風壁で守られているが、降り注ぐ燃える黒い水が船に開いた大穴から流れ込んできていた。
水が流れ混じり消えるのもあるが、まとまって燃えるそれを、取り出したミスリル矢の“矢じり”に付ける。
ボォォ。
「……」
レックス「ルーナ様、鮫が!」
バクンバクンバグンッ!
鮫がスライムをすごい勢いで食べ始めていた。
漁師が銛を投擲してたが、まだ死なない。
バキンッ!
バリンッ!
?
魔石を食べている?
漁師達「なんだ? 何を食ってんだ?」「スライム食いにゃ!」「中が硬いのか?」
モード「あらら、まずいですネ」
アリエスタ「今の砕ける音、って透明魔石か!? やべえぞルーナ!」
? 敵が減って丁度いいのでは。
そして、遠くで勝手に争ってくれないだろうか。
ゼラ「進化ですルーナさんっ」
進化?
ガストン「魔物は魔石を食って更に強くなるんだよっ」
何だと!
ダロム「何と!?」
レックス「馬鹿な! スライムに魔石が!?」
漁師達「嘘だろ?」「あの音は魔石が砕ける音だよっ」「スライムがぁ?」「あのなんでもありな変なスライムなら、納得できるゼ」「にゃ~?」「一体俺達の湖で、何が起きちまってんだ……」
巨大透明スライム「……タベタ……タベル」
敵認定したようだな。
鮫に触手を向け炎を吹き付ける。
ボオオオオッ!
ザパンッ! ザバアアアアッ!
魔石を食う鮫はボロボロの体が嘘のように元気に暴れ食いながら炎から逃げ、沈み、泳ぎまわっていった。
さっきの瀕死なのは、“フリ”だったのか?
何て奴だ。
黒い水は奴の本体の内部にまだ大量に揺れていた。
水を底に溜め込んでいる奴の本体は膨らんでいて中は空洞のようだ。
何かそこに詰まっていて、それで浮いてるんだろうか?
この燃える矢じりを撃ち込んだら、中から燃えるんじゃないだろうか?
メラメラ。
思いついた通りに。
「アリエスタ、あの膨らんだとこに氷弾で穴を開けられるか?」
「? ……! おおっやってやんよ! とびきりのやるから俺に合わせろや!」
ガストン「? いい案だな!」
若い連中「「沈む~!」」
ゼラ「こらこら落ち着けって、傾いてるだけだろ。ガストン! いい加減鎖帷子脱げっ、沈むぞ!」
モード「最悪な状況ですネ、さっさと討伐してください」
レックス「……足場が無事なうちに網で捕えるゾ!」
漁師達「でスが、下手シたら引きズり込まれまスゼ若頭!」
ダロム「だが沈んでからでは網はよく使えんシ、鮫サえ仕留めておけば他は雑魚だ。この面子なら良い選択だなレックス」
ああ、鮫が泳ぐ中、港まで木の板を抱えて帰るとかは嫌だな。
「フンッ」
透明スライム「……カクレタ」
鮫じゃなく、奴がまた私達を狙い打ち始めた。
ボボボボオオオ。
辺りはまた炎に飲まれ始める。
一同「「うわあああ!」」
ずっと風壁を貼るモードは涼しそうにしているな。
だが彼女の魔力は半分を切っている。
その鮫だが、潜り込んで下から船に向かって来ている。
おかしい。
魔力がさっきとは違い格段に増え、大きさも変わっているように感じる。
魔石を食い、こんなに早く強大な魔物へと変貌、したのか?
なんという生き物だ。
まだかアリエスタ。
皆、小屋の屋根に上り始めた。
チャック「もう終わりだぁ……」
ラプト「ゴチャゴチャ言ってないでおめえも手伝え!」
「おいらの背丈じゃ沈むってえのっ」
漁師達は網を投げる準備をしている。
ビクター達は途方に暮れているようだ。
それでも生き延びようと重たい鎧を脱ぎ妹が手伝っている。
船は沈みかけているが、傾きが強くなっているだけで、もう沈まないようだな。
これ以上破壊されなければだが。
ガストン「こりゃ最悪、レックスの旦那に上に投げてもらうかな」
ゼラ「誰をだよ? 余裕あるなガストン?」
ガストン「そりゃあ、ルーナもいるし、“奥の手”あるからな」
ほう?
ベル「奥の手? あたしだ!」
ガストン「うん? あ、ああ、そうだなベル」
私はまだ、それほど大事に感じてはいない、まだ死にかけていないからな。
まだできることはたくさんあるはずだ。
同様な考えかもしれない、ガストンやレックスらと一瞬目が合い、頷き合う。
アリエスタ「あの炎が切れたらやるぞ!」
うむ、だが、この炎、途切れるのか?
やつの触手をぶった斬りに行きたいな。
火矢が“浮袋まで”ちょっと邪魔だ。
ベルに持ち上げてもらうか、ガストンの言っていたように投げてもらえば片が付きそうだ。
水球をなんとなく自在に動かせるようになっているが、これは刃の様に放てないものか。
下から鮫が迫って来た。
とてつもない気配だな。
カシィィン、火の付いた矢を口に咥え、更に数本呼び出しつがえ、下の湖面に構える。
船底越しに。
漁師達「若頭! 姉さんが下に矢を構えてるにゃ!」
レックス「! ちいっ、真下からかぁ!」
横ではモードが風壁を放ちつつ、鮫を警戒し短剣に魔力を込めて構えていた。
剣に魔力が乗るんだな。
ィィ……。
うん? 矢に、魔力が乗る?
ふむ。
読んでくださりありがとうございます。
中ボス二体同時って感じでしょうか。舞台も不安定で。




