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竜眼のハーフエルフ  作者: 二砂音
二章 湖の街編
104/132

100話 調査依頼2 連鎖

 ジャパアッ!

 次々と水中から跳ね飛び出し、船に立つたくさんの食い物へ噛みつき食い掛ろうとするピラーナの群れ。


 ドシュッ。


 そのことごとくは槍や銛、大剣や長細剣で貫かれるか切り裂かれていた。


 船内にあっという間にピラーナの死骸が転がり、まだ生きている何匹かは尾をビチビチと動かしていた。


 ビクター「くっそ、揺れて踏ん張りが効かないっ」

 ソニー「魔術も操作が難しいですっ!」


 ゼラ「あ~、戦いにくいったらないな」

 ガストン「せいっ! 逆に利用するんだっ!」


 皆動き回る為、船は揺れ、戦い辛い。


 だが漁師達やダロム等、全然平気な者もいるようだ。

 ダロム「ガストン殿の言う通りでスゾ!」 

 

 ドシュッ!


 ビクター「わっ!」

 彼に向かって飛び掛かって来た一匹は、大顎を大きく開く前に目玉を刺突された。


 だがその瞬間、後を追うようにして水中から飛び出してきたのに対応できず驚く。

 ガァンッ!

 しかし、受け止めた中型角盾に歯形を付けて跳ね返る。


 ソニー「水球!」

 バチイッ!

 そこを、ソニーの弾き飛ばした水球が撃ち落して湖に戻した。


 ベル「ほいっ!」

 いや、ベルが飛んで来てつかみ取って船に投げ返した。


 ドシュッ!

 ほんのり冷気が吹いたな、少し氷化してないか?


 漁師達「あの冒険者、若いのにやるな」「ラプトとチャックも口ばっか動かシてねぇで見習えよっ」

 ラプト「けっ、わかってるっスよ!」

 チャック「ほら、ラプトっ、手が止まってるぜい」


 ドシュッ!


 ズバアッ、山を描くように飛んで落ちて来たピラーナを、ガストンが大剣で半分に斬り別ける。

 大剣はそのままの勢いで、彼に飛び掛かる魚の頭を、潰すようにして斬った。

「“デコ”が硬いぞっ」

 彼は見えない左目の眼帯を向け、見ることなく船にいる者達に警告した。


 ドシュッ!


 レックス「フンッ」

 船の後方にいる巨体の蜥蜴人は機械を調べていたようだが、突然飛び掛かってきたピラーナの顔面を、鋭い牙の開いた顎ごと大きな拳で掴み、バキリと音を立てて潰し、ダランと尾をぶら下げたピラーナを、船内に積み重なり始めたピラーナの山に放り投げた。

「腕が落ちたか隻狼?」


 ドシュッ!


 別の位置では、アリエスタが横着をしてるのか、水壁を展開? して次々と飛び掛かって来るピラーナ達を捕まえていた。


 魚が水壁越しに彼めがけてどんどん飛び込んで来るが、水の壁に触れた瞬間、そのまま通り過ぎず、縫い止められたようにもがいて顎を上下させている。

 バグンッバグンッ!

「お~怖っ」


 ゼラ「ヒュッ!」

 息を吐き、彼がそれに槍を繰り出した。

 ズドドドドッ!

 そうして集まった空中を泳ぐようにしてる群れの体を、ゼラの槍の連撃が瞬時に穿うがたれ、穴を開けて仕留めていた。


 漁師達「おお~っ」「あのハーフリング、スげえ魔法使いだゾ」「ノーデント様もサスが元旋風のメンバーだ……」


 ドシュッ!


 ラプト「おらあっ! おらあっ!」

 チャック「あっ、またっ! ばーろー殴り返してどうすんだよっ! 同じ奴が復讐しに向かって来てるじゃねぇか!」


 ドガンッ! ビチャアッ!

 その反面のダロムは上手に体を動かし、最適な状態にとらえたピラーナをメイスで横殴りにし当てって、船の壁にぶつけ殺していた。

「よく“見る”のだ、若い“尾ら”よ」


 ドシュッ!


 モードは水の採取で忙しそうだ。

 ピラーナがそちらにも来たが、風壁を貼っていたようで捕まったところを熟練の漁師が槍で仕留めていた。


 黒白の猫族の漁師「お魚取れたにゃ」

「ありがとうございますネ」

 アリエスタ「魔物じゃん!」


 他の漁師達も同じように連携して戦っているな。


 全く危なげがない。

 流石レックスの部下だな。


 彼はというと、もりを使いもせず、噛みついて来る魚を拳の背で叩き殺していた。


 ヴン――ドシュッ!

 ゴロンッ。

 手の中に瞬時に現れ、射られた木矢に貫かれたピラーナが足元に転がる。


 ふむ、一番飛んだぞ。

 この小屋の屋根まで飛び掛かって来た。


 というか、私に飛び掛かって来るのが多い。ここに立ってるからか。

 湖中から見えているんだなやはり。


 大弓は調子が良い、面白いように狙いやすい。


 ベル「大漁大漁~♪」

 猫族の漁師「大漁にゃ~♪」


 まだ食えるかわからないぞ? 内部が汚染されてるかもしれない。


 漁師達「スげえ……」「ぎょぎょっ!?」「なんだあの弓矢は?」「魔法の弓か?」「姉サんの腕だよっ」「つがえる手間がねえから早くて楽ソうだな」「にゃ~?」「サスがエルフ様」


 ソニー「ベルちゃん、大丈夫なの?」

 私の矢か? 大丈夫だぞ、“こっちが動いて”狙いはズラしているから。

 飛び回ってるからソニーが心配してくれている。


 アリエスタ「百発百中じゃねえか! 弓もいけんのかよお前」

 む?

 始めて見たのか?


 そう言う彼の方を見た際、背後からまた大きく飛んでこちらに襲い来る魔力を感じた。

 音と気配、空気の流れで視ずともわかるな。


 そっちに手だけ向ける。

 チャププ――バシャッ――ヴンッ。

 ケープから小剣を手に呼び、招き入れるようにして、刃に食いつかせた。

 ズドッ!


 漁師「おおっ」「姉サん、今のいつ間に抜いた?」「いや、剣は腰に差シたままだゾ?」「魔術か?」「魔法の弓矢ジャないのかな?」「にゃ~?」「サスがエルフ様」


 そのまま勢いで返り血が飛び散って来たが、練習で浮かばせていた“水球が伸び広がって防いだ”。


 アリエスタ「おいっ! パクったな俺の技!」

「何?」


 言われて初めて気が付いた。

 お。

 防いだ水球を驚いて見た。


 私がやったのかこれ?

「おい、もしかして“無意識”にやったってのか? マジかよ」

 そうみたいだ。


 漁師達「今の絶対魔法だよな?」「詠唱シたの聞いたか?」「杖も持ってないゾ姉サん」「サスがエルフ様」

 わかったから魚を警戒してくれ。


 レックス「ルーナ様はやはり、高度な魔道師なのでスな!」

「いや、新米だぞ」

 そんなわけないだろう。


 アリエスタ「そんな新米が――」

 ソニー「新米はそんなことできないですっ、ついでに私もできませんっ」

 ビクター「おぉ、アリエスタさんのつっこみより早い」


 バシャッ!

 ズドッ――ゼラ「うおっと! アリスタよそ見すんなっ!」


 アリエスタの広げた水壁の下側を攻めるように飛び掛かり落ちて来て彼の足元をえぐそうとした一匹を、彼が槍を大きく伸ばすようにして仕留めた。

「うおっ! っぶねぇってアリエスタだっつうの!」


 なんだ?

 群れの一部は船を襲わずに通り過ぎていく、こちらに襲い掛かって来たわけではないのか?


 ……集中すると、ピラーナ全体から、なんだか不安になる騒めきのようなものを感じる。

「……」

 奥地の霧の向こうの遠くから、耳障りな高音が聞こえてきた。


 それと、何だ、横から何か、音がしないが、空気の揺れで、何か妙な動きをしたものが来る。


 レックス「……逃げている?」

 漁師達「「?」」「撃退したぜ!」「なあ若頭!」


 アリエスタ「あれ? 船を狙ってたんじゃねえの?」

 ガストン「何だ? もう終わりかよ」


 ゼラ「わかんね……これさあ、“なんかから”逃げてたんじゃないの?」

 ガストン「うん? (暴走スタンピードに巻き込まれたってことか?)」


 ゥゥゥゥゥ……。


 ダロム「ハッ、レックス! “呼び蚊”の気配がっ」

「! お前ら、虫が来るゾ! 刺サれるなよ! モード殿、調査とやらは終わらんのでスか」

 蚊? あの小さい虫か? この音異様に大きいぞ。

 なら――。


 アリエスタ「は? 呼び蚊?」


 ガストン「“吸血蚊”かっ、でかくて速いぞ! 刺されんなよお前ら! お互いかばい合え!」

 ビクター「僕、あれ、苦手なんです!」


 吸血、少し血を盗むくらいじゃ済まなさそうだな?

 呼ぶってなんだ。


 ベル「あー! “アレ”やー!」

 どうやらでかくて速いようだな、さっきから近づいてる音は、確かに蚊が耳元に来たときのあの音に似ている。


 ブゥゥゥゥゥ……。


 漁師達「呼び蚊だって?」「“さめを呼ぶ”ぞ!」「尻尾噛まれるにゃ!」

 アリエスタ「今そこのおっさんが聞き捨てならねえことを言ったんだけど!」

 ああ、さめ


「……」

 あと、“別の何か”は止まったり大きく近づいたりと、空気の揺れで感じる、近いぞ。

 僅かな水でも。


 皆と違いルーナだけが横を向いて弓を構えているのを見て、レックスは首を傾げた。


 ソニー「も、モードさん、あの、レックスさんが」


 チャプ……モード「ええ、もういいでスよ、ソろソろ引き揚げまシょうかネ」

 彼女はいつもそうだが、慌てることなく採取した水を見つめながらそう言った。


 実際の所は、彼女の体内の魔力は巡っていて、恐らく、いつでも魔術を放てる状態にしてある。


 構えずとも腰に差した短杖に魔力を集中させているのは、流石に感心するしかない。


 ゥゥゥゥゥ……。


 アリエスタ「え? 奥地に行くんじゃねえの?」

 ガストン「だめだ、“水路”は危険すぎる」

 彼は多分正しい。


 この戦力なら行けるだろうが、多分怪我人が出るのをわかっているからだと思う。

 あと、陸路ならもう少し楽なのかもしれない。


 レックス「おいっ、エンジンを動かセっ」


 エンジン音に紛れて、遠くから例の音が近づいて来る。

 耳元で聞く蚊の音より大きいな、恐らく蜂みたいに大型なのかもしれない。


 アリエスタ「なぁ、何で蚊が鮫を呼ぶんだよ?」

 ビクター「え? えと、蚊は獲物の血を吸うから……」

 漁師に聞いたんだがビクターは自分で考え始めてる。


 ダロム「……鮫は血の匂いを嗅ぎつける能力がとても高いのでス」

 ガストン「食い物がたくさんあるって教えてるんだよ」

 アリエスタ「げっ」


 ビクター「羽音が聞こえて来たっ、ソニーっ後ろに隠れてて」

 ソニー「うん、ん? ルーナさん?」


 ……来たっ。

 ギリギリギリ……ドシュンッ!


 足元にたくさん落ちているピラーナでろくに歩けないので拾っているラプトとチャックの背後から――霧に紛れてヌウッと巨大な魔物が飛び出して来た。


 まったく水音をさせずにだ。


 縁から除き出てるラプトの後ろ頭を丸呑みしようと、“蜂の様な虫の顎”が開かれ――その虫の目玉に木矢が撃ち込まれ、止まった。


 ???「ッ! ジィィィィィイイイイ!」

 バシャアアアアッ!


 暴れて鳴き声を出した。


 皆「「!?」」

 ラプト「うおわああ!!」

 チャック「なんでいラプト! え? うおわあああい!」

 ソニー「きゃああ!」

 アリエスタ「蚊!?」


 ガストン「こいつは違うっ、別もんだ!」


 レックス「なっ、“水グモ”だとっ! 何故こんなとこに!? ボケ共、どこ見てやがったぁ!」

 漁師「ソんなこといわれても、見て下セえ若頭、この通りでスゼ」


 ダロム「霧だレックス! ソれに、汚染で生息地が変わったのだろう!」


 さっきから辺りに漂ってきてて視界が悪い。

 遠くが見通せない。

 だからさっさと退散しようと指示を出してた。


 レックス「ええい、忌々シい! 魔物の“瘴気”が呼びこんだんだ」

 しょうき?


 ふむ、確かに……小鬼ゴブリンの洞窟に似た、空気の感じが少しするな。


 ベル「でっかいアメンボだ!」

 あめんぼ? 見たことないな。


 暴れてる巨大な虫は、長い六本足の水に浮かぶ蜘蛛だ。

 体が細長く、あごのところに口のそれとは別の、棘槍みたいなが口? があり、小型の前足と一緒に馬が駆けるかのようにカチャカチャ蠢めいている。


 あの棘、口か?

 まるで中に穴が開いてる水草の茎みたいだ。


 続けて、木矢を放った。

 頭に浮かぶ、魔法のケープ内が頭に浮かぶ“絵”を見るに、もうあと数本だな。

 ズンッ!


 水グモ「ジイイイギュゥッ! ……」

 ザバアアアンッ。


 一同「うおっとと」

 船が揺れ、縁を何人かが掴む。


 船への慣れなのか、漁師達より、ビクター達冒険者達のほうが苦労していた。

 レックスの巨体は私と同様に、全く動じていない。

 ベルは浮かんでいて関係ない。


 死んだか。

 水面に少し沈んだが、水に浮かんでる。


 水グモとやらの手足は細かい毛がびっしりと生えていて、水を弾いているようだ。

 この長い足と毛が音をさせずに変な動きをさせて忍び寄って来たのだろうか。


 ラプト「ひえぇ、奥地のバケモン蜘蛛っすよ」

 チャック「こ、これが漁師殺しかよぉ……」


 レックス「ルーナ様、お見事でス」


 アリエスタ「びびった~、今度から“事前”に来ること教えろよな!」

「ちょっと静かすぎて、魔物だとわからなかった」

「お前が!? 怖っ」


 モード「……接近には気付いてたようですネ? 大変素晴らしいですが、この状況で近付くモノは敵だと割り切った方が正解ですよ」

 わかった。


 ガストン「よう、吸血蚊もおいでになったぜ!」


 ブゥゥゥゥ……。


 辺りはより濃い霧に囲まれ、岸や森が見えずらくなっていた、音が近付いて来る。

 五、六匹か?


 他に水グモはもういないように感じるが、警戒しておこう。


 船が動き出し、回り込むようにして来た先へと戻り始めた。

 バンバンッ――ラプト「早く早く!」

 チャック「んなとこさっさとズラかろうぜい!」


 去り際に熟練の漁師が銛をひっかけて水グモを回収した。

 便利だな。

 そしてどうやら見た目よりずいぶん軽いようだな。


 ブウウウウンッ!

 漁師「のわあっ!」

 突然霧の中から体当たりするかのように出て来た蚊の魔物は、漁師の男を刺突剣のような口で突き刺そうとしたが、ギリギリで躱し、槍で突き返したものの、素早く横にずれ躱した。


 そうか、水グモもあの口で吸うんだ。血とか“中”をか。


 ブブブウウッ――蚊はただでさえ早い動きがさらに速度を上げて、その漁師の周りをジグザグに高速飛行し回り込み始めた。


 こちらに背を向けているが、動きが滅茶苦茶に変化していて狙いづらい。


 やはり、王蜜蜂ぐらいに大きいな蚊の魔物だ。

 棘だらけで足が長い。


 呼び蚊は次々とあちこちから霧を抜けて表われ、船の上を飛び回り羽音だらけにした。


 ブウンブウゥンブブブブブブゥゥゥゥ。


 ベル「うるさーいっ!」


 漁師「このっ! このやろがっ!」

 ラプト「おらあっ! くっソ当たんねえ!」

 漁師達が槍で突こうとするも、見事に避け続けている。


 ブウウンッ!

 チャック「ひょええっ!」

 ビクター「危ないっ!」

 チャックが危うく突き刺されようとしたが、ビクターが盾を振りかぶるも、避ける。


 奴ら目がいい。


 刺されたらどうなるのかは、水グモの死骸に口針を突き刺して血を吸っているのが教えてくれている。

 尻がみるみる膨らみ、中に赤、いや泥みたいな濁ったクモの血が現れた。


 ビシュッ! ズンッ!

 水グモに留まって血を吸う奴を狙ったが、寸前で跳び上がり躱した。

 すごい反応速度だ。


 アリエスタ「うおおこっち来んな気持ち悪いっ!」

 彼に飛び掛かるが、伸ばし広げたままの水壁を盾にするも、素早く飛び越え、回り込んで針を刺そうと迫った。

 ソニー「先輩っ」

 バシュッ!

 ブゥンッ。

 彼女が水球をぶつけるが、簡単に躱された。


 アリエスタ「おらあっ!」

 バシュッ! ドズッ!

 避けて動きが止まった一瞬を、彼の尖った氷弾が突き刺した。

 よし!


 ガランッ。

 氷の礫が刺さったまま、勢いよくわずかに飛び、離れた場所に墜落して死んだ。



 そうか、読めない動きを読むんじゃなく、動きを作るのか。

 水球で脅かして見るか。


 ガストン「ちいっ!」

 彼が大剣を速さ重視で振り上げるも、見事に躱した一匹にめがけて飛ばす。

 呼び蚊が慌てたようにすぐさまギリギリで躱した。

 ――そこだっ。


 ビシュッ! ズガンッ!

 ガストン「おおっ、当てたな!」

 やはり上に飛び上がった、予測して狙うと見事に貫き、船の縁に射止めた。

 船はすまん。


 だが、水球が向こうへ離れ飛んでって、わからなくなってしまった。


 ゼラ「ヒュッ!」

 息を吐くようにして槍の連撃し、彼は見事に一匹仕留めていた。

 数を打つやり方か。

 それに槍の技も見事だ。


 バシャンッ!

 ゼラ「冷たっ! なに!?」

「すまんっ」

 制御を失いただの水の球となった水球が、向こうのゼラの頭に落ちたようだ。


 ダロムは小屋に入って行ったと思いきや、網、の束をいくつも持ち出し、レックス達にも投げ渡した。

 すると、投げた網で呼び蚊を簡単に捕まえて、メイスで叩き潰していた。


 熟練達ほど動ずることなく淡々と作業の様に始末しているな、若い連中も真似し始め混乱が収まってゆく。

 見事だ。


 モードはさらに簡単だ。

 ブオオオッ。

 ザシュザザシュッ!

 風を巻き起こし、飛び回る呼び蚊を大人しくさせ、蜂みたいな“風刃”を飛ばし真っ二つにしていた。

 魔力の操作がかなりすごい。


 短杖で風魔術を、短剣を振り抜いて、そこから風刃が出たな。


 なんと、抜いた短剣の刃が刃ではなく、一枚の羽だった。

 魔道具なのだろうか。


 モード「やれやれ、買取部位ごとバラバラですか。こんな腕では、組合員に注文を言える身分ではありませんネ……」

 アリエスタ「書類仕事ばかりでなまったんじゃねえの? 瞑想してますちゃんと?」

 ソニー「ちょっと先輩っ、大先輩に生意気言わないのっ!」


「おいほらソニー前見ろっ、一匹来てんぞ!」

 ブブブブゥッ。

「え? きゃあっ!」

「けけけけっ」


 戦いでバタバタしている船は動き出していたので更に余計に揺れ、かなり不安定になった。

 チャック「うわっととと、落ちるってえの! 皆じっとしねえと!」

 ラプト「今ソれどころジャねえから!」

 ああは言っているが船の壁は高く、小柄なカワウソ獣人の彼は小さいから落ちようがないな。


 漁師「よシ! やった仕留めたゾこの虫野郎!」「チョロいにゃ」「ああ、だが随分魔物の血が湖に落ちたゾ……」「こりゃ呼んジまうかもシれねえな」

 

 霧があっというまに濃くなり、視界が全て白い靄に覆われた。

 こんなに急激に変化するとは……。


 港は、どっちだっただろうか。


 ガストン「まじいな」

 ゼラ「……港の方向がもうわからないんだけど?」


 船頭「あれっ、こっちだっけか? 若頭っ、霧で港がっ」

 レックス「何だと馬鹿野郎!」


「……モード、風で霧を何とかできないか?」


「よい質問ですネ……ですが霧を払う規模の魔術は、ちょっと詠唱に時間がかかりますよ?」

 ガストンの方を見ると、彼もゼラも頷く。

「頼む」

 彼女が詠唱を始める。


 アリエスタが小屋に立つ私の足元まで来た。

(鳥に変化して空から案内できるぜ?)

 ああ、そうか。

 それで行くか? む!


 更に蚊が二匹、白い世界から飛び出し突っ込んできた。

 やはりこいつら、私達とは違う感覚で見つけて襲って来てるな。


 ラプト「ひええっ、来んな来んなっ」

 レックス「おい小僧っ、銛をむやみに振るなっ、突け! 蚊トンボ程度の何が怖いんジャ」

 ダロム「刺サれたら一瞬で干からびるシ、毒も注入シて来よるゾ」


 匂い? 魔力か? ……振動?


 だが、それは私もだ。


 即座に弓を構える、だが、木矢が一本しかなかった。

 バシュッ!

 瞬時に弓をケープの中に戻し、ナイフを投げる構えをしたその手に呼び出す。

 ブウンッ! 出た。

 いけっ! ズンッ!


 ヒュウンッ。

 ブブブブ……。

 最後の矢が躱された。

 ナイフは当たって落下し、縁にぶつかって湖に転がり落ちてった。


 ビクター「おおっ」

 ガストン(なんかもうて手こずらなくなってんな)


 躱した仲間と通り過ぎた矢に気を取られたようだ。

 彼の頭の上を飛び回る蚊。

 アリエスタ「うおおお!?」

 バシャッ。

 水球をぶつけるつもりで飛ばす、躱した。


 だが、瞬時に出して投げた別のナイフは見てなかったようだな。

 ズンッ!


 ボトッ――「痛ぇっ頭の上でやんなっ!」

 死んで落ちてきた呼び蚊の棘のある硬い体表が、頭に痛かったようだ。


 彼を見下ろしていた瞬間、背後。

 遅れて三匹目が頭上から落ちるように襲来して来た。

 ガシッ。

 あまりに真っすぐ音を立てて来るので視なくても手で捕まえた。

 先程のレックスのように顔面ではないが、音を立てる羽の付け根だ。

 いい加減、体の構造は把握、した。


 ッブヌヌヌヌッ。

 目の前に鋭利に尖った吸い口のある針状の口が付き出されてる。

 すぐさま、腹の“魔石部分らしき魔力”をナイフで刺し仕留め、死骸の山へ放り投げる。


 やはり魔石があった。


 アリエスタ「油断も隙もねえなこの羽虫共はっ」


 漁師達「おお~っ!」「呼び蚊を掴んだの、若頭と網元以外で初めて見たゾ」「姉サんホントにスげえな!」「にゃ~?」「サスがエルフ様」


 アリエスタ「最後のしつけえなっ! 師匠だって無理だぞあんな馬鹿げた芸当!」

 そうだろうか? 彼の物腰ならいけそうだぞ。

 ソニー「セレナール様は“魔水壁”をすぐ展開できますからね……」


「矢がなくなった。アリエスタ、(空に)上がれるか」

「ん?」


 足元の矢が刺さったピラーナから矢を回収する。

 周りを見ると、モードは魔力からしてまだなようだな。


 船は方角がわからないまま飛ばしている。


 ぐるぐると動いて戦いもあったしこの霧だが、なんとなく、港の方はわからないでもないが……はっきりと自信はない。

 ちなみに水中のことも感じ取れているが、あまり違いがわからん。

 だが、最初の時よりかなり深くて底まではもうわからない。


 そしてなんだこの臭いは。


 む。

 小屋の上に立ってるとよく視える、湖の水はさっきよりかなり汚れていて、スライムの魔力だらけだ。

 まさか、奥地とやらに近づいてしまってるのでは?


 レックスはエンジンを操る部下と共にいて、すでに気が付いていたようで、方向を変えろと指示していた。


 アリエスタ「あぁ、ほんじゃ行ってくるぜ、あーあ、秘密もここまでか」

 彼は周りで戦う者達に見られやしないか見回し、大鷲か何かに変化しようとし始めた。


 もうだいぶ、多くの人に変化を知られてると思うけどな。


 ……何だ?

 胸がざわざわする。


 崩落現場に行く前の様な感じだ。


 あの時は濃縮毒で大事になったな……。


「待てっ!」


「ああん? なんだよ?」

 ベル「どしたのルーナ?」


 あの時、拾った盾の亀裂に、濃縮毒の付いた瓶の破片が挟まっていて、大事になった。

 あの時はそれ予感? したのだろうか?


 私は自分の気が付きやすい感覚を疑ったことはないが、どういうものなのかはよくわかってはいない。


 だが、さっきの水グモを感知したように、上空に集中した。


 ……チャプ。


 ほんのかすかに、水音がした。


 手を伸ばすと指先が埋まるような濃い霧の、はるか上から。


 読んでくださりありがとうございます。

 ピラニアに蚊、アメンボ。アメンボは近くの水草が茂る岸辺に漁船が寄っていたから来たのかもしれませんね。


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