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竜眼のハーフエルフ  作者: 二砂音
二章 湖の街編
103/134

99話 調査依頼1 船出

 汚染した場所へ船で向かい、調査することになった。


 モード「緊急依頼としておきましょうかネ、報酬ははずみますよ?」

 依頼料を弾むということでアリエスタが乗り気になったからだ。


 レックス自ら船を出してくれるそうだ。

 港の奥まったところに大きめの漁船を持っていた。

 網元とやらの息子だからか?


 共に数人の部下と、案内人の例の若い蜥蜴人達も一緒に向かう。


 若い蜥蜴人「よろシくっス姉さん、俺はラプトって言いまス、あと、治療ありがとなソニーちゃん」

 私は姉さんじゃないぞ。

 ソニー「いえ、ちゃんと治ってよかった骨、こちらこそよろしくねラプト君」


 ビクター「……」

 アリエスタ「おいビクター、あの小屋に置いてるでっかい顎骨アゴホネ見てみろよ……ビクター? あれ、ビクター? 聞いてねえし!」


 後々聞いた漁師の話では、あの巨大なトゲトゲの牙のある骨は、けが人を多く出してやっと仕留めた魔物のものらしい。

 なんだかレックスの傷跡と言い、湖の過酷さがわかってきた気がする。

 顎だけだが、組合の暖炉の頭蓋骨より大きいかもしれない。


 若いカワウソ獣人「おいらはチャックでい、よろしくなエルフ様の姉さん!」

 他の漁師達「「よろしゃーす! 姉さん!」」


「こんにちわ、私はルーナだ」

 姉さん呼びで固定されているな。

 私はお前たちの姉ではないのだが。


 ガストン「さて、二日酔い明けで船の上か……ビクター、落ちるなよ」

「は、はいっ」

 彼は盾に、ほぼ全身が金属鎧だからな、もし落ちたら浮かんでこないだろう。


 アリエスタ「へへへ、ついでにちょっと岸に寄ってさ、俺の依頼もやりゃ“一石二鳥”だぜ!」

 何だその面白い言い方は。石一個で二羽を仕留めるのか。


 ガストン「はは、言うねぇ、でも向こうは危険地帯だからなぁ、そんなに奥へは行かないと思うぜ?」


 ビクター「うぅ……また何か起きる気がする」

 ソニー「頑張ろうお兄ちゃんっ」


 レックス「ルーナ様、荷物は少ない方がよろシいかと」

「うん?」

 背中の鞄のことか?


 確かに、カンテラや食器等はいらないかもしれないな。

 毛布もかさばっているし。

 置いていくか。


 ガストン「ルーナ、どうせ湖にしか出ないんだから、置いてけよ、あっ待て! 煙筒や魔法薬は持っていけよ? 別けておけ」


 アリエスタ「ちょっと待ったっ俺の袋に入れといてやるよっ、向こう岸に用事があんだからなっ!」

 ビクター「……やっぱり行くんだ」

 ガストン「行かねえって」


 レックス「……儂の船は奥地にはいかんゾ」

 ガストン「ほら」


 アリエスタ「何でだよ! てかさ、近くまで行ければいいんだって、手前で降ろしてくれりゃぁさぁ……」


 ソニー「先輩緊急依頼だって話忘れてますっ寄り道しちゃだめです!」


 話しあって重要な物だけ鞄に入れて、残りは結局アリエスタの袋に入れておいてもらった。

「軽くなった、助かるぞアリエスタ」


「これけっこうな重量だな? ったく、しょうがねえな」

 そう言ってぽんぽんと懐に入れて消えていくな。


 魔法袋だと皆驚いて見てるが、そのほとんどの感想は、彼が子供だと思っていたからだろう。


 ひそひそと、あれが噂のセレナール様の弟子のハーフリングかと言い合っている。

 漁師 (金にがめついらしいぞ……)

 アリエスタ「おいぃ! 聞こえてるからなっ」


 ソニー「えぇ、これ全部背負ったままあんなに動き回ってたんですか?」

 ビクター「さ、さすがルーナさん」

 漁師達が驚いているな。



 ゼラ「どうしよっかな~、俺も付いてっちゃおうかな?」

 ガストン「いいじゃねえか、衛兵の仕事だろこれも? 来い来い、認識票まだ持ってるよな?」

 む?


 冒険者はやめたのではないのか?

 認識票があれば、依頼を受けて報酬をえられるのだろうか?


 アリエスタ「衛兵が依頼受けていいのかよ? ったく……報酬は山分けだぞおっさん!」

 レックス「おい小僧っ、ノーデント卿は貴族だゾ! サっきからルーナ様へもだっ何だソの言い草は!」

「うおっ!? へ、へんっ、俺は権力に媚びない主義なんだよ!」


 ソニー「……ちょっと怯んでません?」


「このガキ――『ゼラ「たんまたんま! 落ち着いて旦那、別にいいから!」』――……シューッ」

 レックスが怒ったな。


 貴族であるゼラは、蜥蜴族達の中でも尊敬されているようだな。


「はぁ~、困ったな、身分が高いとね? 女の子達とかにも騒がれちゃって困っちゃうんですよね~、ルーナさん、ルーナさん?」

「ん? どうした?」

 大変そうだな?

「いえ、なんでもありません」



「? ダロムは来ないのか」

 彼はここまでついて来たものの、船に乗ろうとしない。


 あ、確か買物に来ただけだったな。

 来てくれればメイスの腕前が見れるんだが。


 アリエスタ「はぁ? もう漁師じゃないんだろその爺さんって、片腕だしよ」


 ソニー「先輩っ、失礼ですよ!」

 ビクター「ダロムさんは強いんですよアリエスタさん」

「ふーん、いいけどさ、来んなら報酬は山分けだかんな!」


 彼はメイスをちらりと見て、にやりと笑って受け入れた。


 ガストン「いやいや、ダロムは買い物に来ただけだからな?」

 ゼラ「つってもダロムならいい戦力になるんだけどね」

 ほう。


 ダロム「いえ、ルーナ様、私なゾ頭数にも入りまスまい」


 ガンッ!

 レックス「シュウーッ! 貴様なんゾいなくとも、儂一人でルーナ様はお守りスるわ、セいゼい御者に戻って、小鬼でも叩き潰シてろっ、靴なんゾ履きおってっ」

 何故か彼が私の傍に来て、銛を地に打ち付けてそう言った。

 靴? そう言えば、蜥蜴族はみな裸足だな、ダロムはケンウッドと常に一緒の為か、靴を這いている。


 二人は仲が悪いのか?

 いや、だがこれは……。


 アリエスタ「おお? 煽ってんぞでかいおっさんが!」

 ビクター「な、仲、悪いのかな?」

 ソニー「……」


 ダロム「シュゥー……ルーナ様、若をお助け頂いたご恩に報いる時が来たようでス。このメイス、シばシお預けいたシまス」

 彼はメイスを抜き、横にして、私の前に掲げるようにして膝をついた。


 一同「「!?」」


 預ける?

 意味がわからん。

 よくわからんが来るらしいな。


「? いらん、それはこの奥地で存分に使ってくれ」

 ダロム「……御意にっ、ルーナ様!」

 立ち上がりメイスを握る手に力が入った。


 兄妹「こ、断っちゃった……」

 アリエスタ「あれ? そういうんだっけ今の?」


 彼も来ることになった。


 ビクター「やったー!」

 ソニー「よろしくお願いしますダロムさんっ」

 ガストン「はは、結局こうなるのね」


 ゼラ「よっしゃ、少しは楽ができるぜ」

 ガストン「おい」

 ふむ、やはりダロムは相当やるようだな、楽しみだ。


 レックス「フンッ、最初から連れてけと言えばいいのだ、行くゾお前ら!」

 部下の漁師達「「おう!」」


 ベルが楽しみにしてご機嫌だな。

「おっ船をうっかべてすーいすい♪ すーいすい♪」

 アリエスタ「てかお前いつまでおっさんの上に乗ってんの? おっさんは乗り物じゃねえぞ」


 見送る漁師達「奥地に行くってのにズいぶん余裕だな?」「俺らでサえ命がけなのによ」「姉サんご武運を!」「若頭もいってらっシゃいっス!」


 レックス「オウッ、エンジンを動かセ!」

 彼が部下に指示している。


 船の“尻のところにある機械”のことを言っているようだな。


 いで進むんじゃないのか、他の船はそうなのだが。

 む、随分揺れるのだな船というものは。



 モード「行ってらっしゃいですネ。ちゃんと黒い水を採取してきてくださいネ?」

 皆乗り込んだが、彼女は桟橋、とやらで手を振っている。


 アリエスタ「あれ? 来ないのかよモードさん!?」

「私は水が苦手なんですネ」

「何だよその理由!?」


 む、ずっと彼女の背後に控えていた、部下のごつい男達の追加が港に訪れて部下同士で話してるな、そしてモードの耳に話をしてるぞ。


 モードの部下 (……それがギャレス様がモード様を呼んで説明させれば話が早いと、用事があるとかで調査隊から勝手に抜けたそうで……激怒して追いかけたレガリア様もいなくなり、途方に暮れたケイラッド様と組長が……それと、ノーデント卿も呼ばれています)


 よく聞こえないが大変そうだな。


 迷宮の門を見に行く調査隊とやらが、バラバラになったようだな?

 またあの髭が厄介なことを起したのだろうか。


 ゼラ「? 今、呼びましたー?」


 トッ。

 モード「ええ? ……今ちょっと急用で出掛けるところなんですよネ」

 彼女は嫌そうな顔をして、船に飛び乗って言った。


 レックスにむけて出発しろと手と目線で合図している。

 アリエスタ「何だよ結局来んのかよっ」


 部下達「ええっ!?」「そんなモード様!」「にゃ!?」「水がお嫌いでなのでは!?」


 モード「組長が一緒なんでしょう? 子供じゃないんですから、二人で降りて見に行けばいいんじゃないですかネ? この街最強なんですから全然問題ないでしょう、馬鹿馬鹿しい。さ、行きましょう皆さん」


 一同「「??」」


 ああ、やはりケイラッドとロムガルが一緒に居る様だな。

 途方に暮れた大きなケイラッドとロムガルの二人とやらは、一度見てみたいな。

 確かさっき会合で留守、と言っていたか?


 モードは湖を嫌がっていたと思ったが、心変わりして付いてくるようだ。


 考えてみれば、休眠してるらしい迷宮門の場所へ案内するだけの仕事より、こっちの方が楽しそうだからな。


 部下達「「お、俺達は!?」」

 モード「もう定員オーバーですから、報告をよろしくお願いしますネ~」


 レックス(……儂の船はまだ何十人も乗れるゾ)

 ゼラ(しいっ)


 アリエスタ「あばよー」

 ベル「ばいばーい!」

 何だ乗せないのか、代りに使いに出すということか。

 彼らはちょっとかわいそうだな、多分、向こうに説明しに行ったら怒られるのではないだろうか。


 ゼラ「じゃあちょっと行ってくるからっ、レガリア隊長に報告頼むよ!」

 彼は守護隊の衛兵にそう言っている。

 衛兵「……了解っす」

 あれ? 部下の衛兵の一人は、猫屋の長男の……ラ、ルークだった。


 ベル「ばいばーい!」


 漁師達「いってらっしゃーい」「気を付けてくだせー姉さん!」「ルーナ様ー」

「エルフ様ご武運を!」「レックスさんいってらっしゃーい」

「了解しましたー、ゼラ副長お気をつけてー」「戻って来てくださいモード様ぁー!」

「鮫に気を付けてくださいねー」

 最後の、港に残った若い漁師の警告は何だろう。

 さめ?


 アリエスタ「そして誰も帰ってきませんでしたとかだったりしてな?」

 ビクター「ちょっ、やめてくださいよっ」

 ソニー「もー先輩っ不謹慎!」


 ベル「ばいばーい!!」

 アリエスタ「うるっさ! わかったって!」

 彼女の大声は、港中に響き渡っていたな。


 下のレックスはよく耐えてるな。

 大した奴だ。


 ビクター「ブツブツ、水神様、どうか……無事に帰れますように」

 ソニー「ちょ、ちょっとお兄ちゃん、やめてよ」


 ゼラ「くっくっくっ、若い頃を思い出すね」

 ガストン「まぁ、このぐらいの緊張感があった方がいいよな(ルーナとアリエスタは……何も言うまい)」

 それに比べて二人は自然体だな。


 港の入り江? を進み、水門を抜け、橋の衛兵に敬礼され湖へ出る。


 まだ日も高い中、湖を初めて船で進む。

 水の気配が混ざった、朝靄あさもやのような風が船上の私達の間を通り抜けていった。


 練習中の水球が飛ばされてどっかに行ってしまったな。

 水は周りにたくさんある、大きめを作ってみようか。


 高速で過ぎ去る水を操作するのが難しいので、呪文を唱えた。

(ウンディーネ)

 なんとか周囲の水を集め、大き目の水球を作る、飛ばされないよう操るのが難しいな。


 ビクター「おー、大きくなってる」

 ガストン「いいぞ、この分だとすぐ実戦でイケそうだな」


 レックス「なんとっ! ……ルーナ様は魔術も使うのでスか」

「さっき覚えた」

「!?」

 アリエスタ「そんなの誰も信じないっつーの」



 船に乗っているのは私、レックス、の上にベル。ガストンと兄妹にゼラとモード、ダロムの九人、そして案内の若い漁師の、蜥蜴人の確かラプトとカワウソ獣人のチャック? に後はレックスの部下らしき熟練の漁師達数人だ。


 熟練漁師達「気合入れて行くぞお!」「おう!」「お魚取るにゃあ!」「まかせろやい!」


 レックスは槍、銛使いのようで、背中に漁師達特有の三又の返し? がついた刃の、大きな槍、“銛”とやらを装備していた。


 竿には丈夫そうな縄が巻かれていて、それの緩みを利用して背負っている。

 縄は何故か腹に繋がって、巻きつけられていた。


 漁船は漁師達が声を出しながら連携して動かしていた。

 見張りもいる。


 一方、ダロムは先頭にいる。

 どうもレックスは、ダロムの失った右腕の辺りを見る度に、蜥蜴人特有の高音を不機嫌そうに出している。


 彼らにはやはり何かあるようだな。


 漁師の時に何かあったのだろうか、ダロムの“兜割”という二つ名も気になる。

 私はダロムの腰に差してあるメイスを見ながら、それを少し考えた。


 モードはいつの間にか腰に、まるで長剣のように剣を差しているが、実際は短剣だ、装飾が施された細身の、木製の鞘だ。柄頭に緑の石がはめ込まれていて、そこから魔力の気配がする。


 魔法の短剣かもしれない。


 モード「……私は遊撃扱いでお願いしますネ」

 ガストン「……そんじゃあ冒険者組は俺が、漁師組は旦那が指揮を……」

 レックス「? 待て隻狼、ルーナ様が隊長ではないのか? ソれにノーデント卿はどうスるのだ……」


 ガストン「いや、ルーナはまだ新人数日目なんすよ、だから……」

 レックス「は!?」


 ゼラ「俺は衛兵枠だから遊撃かな? ……ねぇ、ずっと旦那達漁師が無視してるダロムは、漁師組なの? 元漁師だよね彼?」


 レックス「……フンっ、好きにスるがいいサ奴は」

 ガストン(やれやれ、相変わらずダロムにスネてんのか旦那は)

 何やら向こうで話をしてるな。


 ガストンの囁きはさすがに聞こえなかった。


 船の尻の部分にある機械からくりがうるさい音を出して水をきまわしてるせいか。

 水中に浸かっている部分に羽があり、それが私の槍のように回転している。


 港から手を振る皆を船の後ろで見ていた後、下に目がいったのだ。

 アリエスタ「ふーん、ずいぶん高そうな魔道具だなおい」

「からくり、機械じゃないのか?」


 ガストン「あぁ、ルーナ、からくり自体が魔道具の括りの中にあるんだからな」

 彼は火を点けにくそうに風に背を向けてゼラと煙草を吸いながら言った。

 ああ、なるほど。


 ビクター「でも先輩、蒸気馬車とかは魔法じゃなくて石炭でしたよ?」

 ガストン「ああ、そうだな、まそういうこった」

 アリエスタ「ずいぶん大雑把だな!」


 ゼラ「あれ? 蒸気馬車って魔石も積んでなかったっけ、あと俺乗ったことあるんだよね、あれは速いぞお? うるさいけど」

 あぁ、確かに魔石を使ってた気がする、石炭も使うのか、あの臭いの原因か。


 アリエスタ「貴族はすげーなおい、馬車で通勤か!」

 ゼラ「いやいや、衛兵の任期中は詰め所に寝泊まりだよ? それに馬車ったって色々お金がかかるんだからね?」

「ふーん、じゃあいいやっ」

 ガストン「何がだよ?」


 ソニー「うーん……魔力と体力の違い、かな?」

 モード「ソニーさんが正しいですネ」

 ふむ。


 この機械は、風車機関と言うらしい。エンジンともレックスは呼んでいたな。

 そして、魔石で動くものなんだそうだ。

 石炭は使わない。


 ラプト「なんか難シソうな話シてんな」

 チャック「魔法使いはやっぱ頭がいいんだよ」



 ガストン「……そんでよぉ、今おやっさんとこですげえ剣を作ってんのよ、あいつの血で妙なことが起きて……」

 ゼラ「へぇ、戻って来るとか最高じゃん、あーあ、その槍の状態で買い取りたかったなぁ……」

 何か話してるな、工房の事だろうか?



 アリエスタ「しかし呑気だな、魔物が出るんじゃないの湖にも?」

 モード「ああ、居ますけど、この辺はまだ襲い掛かっては来ませんよ? 今だけですよネのんびりできるのは」


 ガストン「そうそう」

 ゼラ「そういうことよ」

 ふむ、やはりか。


 レックス「フフ、落ちなければな」

 アリエスタ「押すなよ! いいか? 絶対押すなよ!」


 ビクター「うーん、何でそれを聞くとムズムズするんだろう?」


 ガストン「あぁ、わかってるって」

 ゼラ「絶対押さないから」

 アリエスタ「近づくんじゃねえおっさん共!!」


 さっきから感じていたが、水中には魔力の気配があるがどれも小さい。

 他に実際に見える影は、みなただの魚のようだ。


 しかし光の反射もあり、水中は私の眼でも見通し辛く、深い部分は光が届かないのか、青が濃くなり底が見えない。


 これが湖か。


 ソニー「気持ちいいですねルーナさんっ」

 ケープやソニーの緑の束ねた髪が、湖の揺れる波のようにはためいていた。

「ああ、そうだな」

 近くにいるダロムも同じ気持ちの様だな。


 モード「はぁ、湿ってて気持ちが悪いですネ」

 だが彼女は水気を嫌がっていた。


 乾燥した環境? が好みなのだろうか。

 本で読んだ砂漠とやらが、そうだったな。

 そういうネズミ族の一族なのか?


 進む先に森が見える、その岸を回り込めば、奥地とやらか、遠くに霧が、まるで地上に落ちた雲のように広がっていた。



 広大な湖をしばらく進んだ後。


 アリエスタ「まだー? もう飽きたぜ俺」

「そうか?」

 ベル「こうやると空飛んでるみたいなんだよ!」

 両腕を名一杯横に広げてレックスの上に寝転がっている。


 私も真似してみよう。船の中央の小屋の上に昇った。

 ソニー「あっ、もールーナさんたらっ」

 ビクター「えっ、屋根、汚れてないかな」


 レックス「……」

 ゼラ「自由な方だ……だがそれもイイっ」


 おお、本当に飛んでいるようだな。



 ガストン「うう、気持ち悪ぃ……」

 ビクター「ぼ、僕もです……」

 ソニー「大丈夫? お兄ちゃん」

 アリエスタ「何だ? 船酔いってやつか?」

 船酔い? 酒以外でも酔うのか?


 アリエスタは全くなようだな。

 鳥とかに変化するからだろうか?

 ゼラ「座ってな、休んどきなよ、ガストンお前は……二日酔いだね」



 ガストン「はぁ……そういやモードさん、森の盗賊拠点の報酬って何か返事が返ってきましたかね?」

 モード「ああ、戻って来たうちの部下が聞いたのですけどネ、知らないと言われ追い返されたそうです」

「ええ?」


 ゼラ「ふぅん」

 ガストン「おいゼラっふうん、じゃねえよ、戦利品の整理とやらは終わったのか? 外の盗賊のアジトからは引き払って帰って来てんだろ?」


「はあ? とっくに受け取ったんじゃないの? 昨日もう終わったって部下が言ってたぜ?」

「は?」

「え?」

 アリエスタ「何やってんのおっさんたち」


 話を聞くと、昨日、盗賊の拠点を空にして、ゼラ達は街へ帰って来て戦利品を全て移動し終わり、詰め所に戻っていたギャレスと交代し、ゼラは仮眠をとった。


 起きた後、部下から戦利品は片付いたと聞き、全て終わったと思っていたようだ。


 ガストン「なんだそりゃ、終わってねえし取りに行ってもねえぞ、俺は飲み過ぎて昼頃まで潰れてたんだからな」

 モード「冒険者の常ですネ」

 アリエスタ「どうしようもねえおやじだな? 稼ぎ全部使っちまったんだろっ、貯めろよ!」

「やかましい」


 ビクター「昨日は依頼で忙しくしてましたから」


 ゼラ「なんだよそれ、んなバカな」

 ガストン「馬鹿もクソもあるかよ」

 アリエスタ「なあなあ……それギャレスの奴、闇商人に横流ししたんじゃねえの?」


 ゼラ「なっ!?」

 ソニー「なっ、なに言ってるんですか先輩!」


 モード「まぁまぁ、疑い深いのは冒険者の一応、良い資質ですネ、ふむ、実は別件でギャレス隊長が怪しいと我々組合は睨んでいるのですよネ」

 そうだな。ギルドで話した。


 私も髭はなんだか胡散臭いと思ってる。

 頭を弩で狙われた時あたりだろうか。


 ゼラ「ええ!? ……報告を受けたのは、ギャレス隊長の“直の部下”だったな」

 アリエスタ「だろお? 直接あの髭を問い詰めるか、いやっ! その部下って奴を締め上げようぜ!」

 ガストン「ああ、そりゃいい案だな、ギャレスを叩いても、多分知らぬ存ぜぬで躱されそうだしな」


 ゼラ「むむむ……はぁ~~、“やっぱり”かぁ?」

 ちょっと衝撃だったようだな。

 まぁ、まだ確定ではないんだが。


 モード「今の話、私は聞こえませんでしたからネ」

 アリエスタ「うっわズルぅっ」


 ゼラ「う~ん、そんな怪しい商人、詰め所に出入りしてっかなぁ?」

 アリエスタ「こっそりしてたんだろ」

「無理無理、詰め所は要塞なんだからね? 朝晩門番が詰めて、見回りもしてるんだから」

 ふむ、アリエスタの変化でなら、忍び込めそうだけどな。


 アリエスタ「じゃあ地下に穴でも掘ってんだよ」

 ゼラ「んな馬鹿な」


 後々、それが本当だと知ることになる。

 詰め所の地下どころではない事も。



 ベル「ルーナの座ってるとこのが高いね!」

 船の小屋に座って話を聞いていた私の頭の上に、彼女が飛んで来た。


 うん? 例の臭いがしてきたな、水も濁って来ている……。

 レックス「皆サん、ソろソろ奥地でスゾ」

 彼も頷いた。


 ラプト「こっ、ここらへんで“鮫”に追っかけられたんでスよ! もりを失くシたんス」

 カワウソ「網を引っ張ってたらいきなりバクンッてラプトが!」


 アリエスタ「鮫に食われたんじゃねーの?」

「穂先に赤い布巻いてあるんで、見つけたらよろシくっス」

「こんな広い湖ん中でそれ言うのかよ」


 漁師達も警戒を強くしてるな、魔物が出るのか。

 皆、槍や銛を構えているな。


 見ると、銛には縄が巻かれ、腕と繋がっている。

 投げても失くさない為だろうか。


 ヴンッ。

 弓を瞬時に構える。

 矢はいつもの木矢で、例の矢は仕舞っている。


 ザワッ。


 急に立って弓矢を構えたからか、皆が驚いて見た。

「何だ?」「どっから出シたんだあの弓」「姉サんの魔法か?」「ばか、魔法の道具なんだよきっと」


 ゼラ「うおっ、る、ルーナさん? 今どうやって弓を? あ、弓が新しくなってる」

 ガストン「いろいろ買ったんだよ、あとで説明すっから」


 皆武器を抜いた。


 レックスが指示を出すと、漁師がエンジンをいじり始める。

 む、船の音が変わった。

 静かになり速度が遅くなったな。


 レックス「少シシたら止まりまス、音で寄って来るので」

 アリエスタ「聞いたかベル? 静かにしっろって意味だぞ?」

 ベル「うん! ――(あ、いけない、うん! わかった)」


「何が寄って来るんだ?」

 ラプト「ああ、虫とか鮫っす、姉さん」

 チャック「こーんなでっけえんすよ!」


 ケンウッドと同じくらいの背格好でめい一杯両手を広げて大きさを表現してくれているが、アリエスタぐらいの大きさでしか伝わらないな。

 それだとデカいとは言わない。


 アリエスタ「おいっ、なんで俺を見てんだよ! 小さくて悪かったな!」

「言ってない」

 ソニー「先輩、静かにっ」


 ベル(くすくす、食べがいがありそうだね!)


 アリエスタ「なぁ、鮫ってさ、海にいる魚じゃねえ?」

 そうなのか?

 ガストン「そうか? モッカ湖にもいるけどな」

 チャック「おいら、海なんて知らねえっす」ラプト「なあ」


 ビクター「うう、虫が気になるなぁ」

 ソニー「蜂じゃないよね? 水辺の虫の魔物だから……?」


 モード「ふむ、汚染がひどいですネ、 奥地だけだったと聞きましたが?」

 レックス「はい、儂らで朝晩見回ってまスが、どんどん広がっとりまス」

 そうなのか。


 モード「さて、水をちょっと採取しましょうかネ」

 彼女がさっそく、水を取ろうと魔術を唱える。

 水面は船が大きいので大柄のレックスがようやく手を伸ばして届く高さだ。


 奥地に近づいたせいか、辺りに霧が出て、徐々に視界が悪くなってきている。

 水も随分汚れているな。

 例の汚染した水か。

 透明スライムがうようよしてるんだろうか?


 む、だんだん魔力の反応が増えて来た。

 やはりスライムが湖で増えているようだな。


 でかいのもいる、いや、魚か?

 それとも、鮫という魔物だろうか。

 チャプッ。

 ビクター「ごくり」


 モードが船の縁まで行って木箱に昇り、縁から頭を出して、水を取ろうと魔術を放つ。


 大きめの魔力はその反対側から近づいて来る、ゼラが立っている方だ。

「ゼラ、目の前だ」


 狙えるが、正体がわからん、ゼラの反応を見ておきたい。

 ゼラ「っ!」

 歩幅を広げた。


 バシャアンッ!

 ゼラ「フッ!」 

 ズンッ。

 仕留めた。


 アリエスタ「魚じゃんかよっ」

 ただの魚だったな。


 大きくて、口が大きく牙が大きい。大きく開けた口で噛みつこうと飛び出してきたが、ゼラの槍に口内ごと貫かれてビクビクと震えている。


 しかし中々の突きだったな。

 ゼラ「ルーナさんありがとうございます、教えてくれてすごくやりやすかったです」


 ガストン「錆びついてはねえみたいだな」

 ゼラ「馬鹿言え、いっつもオーガのような訓練でしごかれてんだよ」

「あぁ、そういやそうか、師匠が団長だもんな……」


 レックス「船を止めろっ、大顎魚でス、こいつらは群れ動きまスゾ」

 ガストン「ピラーナだな、落ちたら群がって来て骨も残さず食われんぞ」

(? わざわざ当たり前のことを……あぁ、若者に向けて説明シてるのか)


 アリエスタ「マジかよ、ってか(船の)“縁”が高くてよく見えねえんだけど!」

 ゼラ「待ってりゃ向こうの方から入って来るから」


 チャック「見えねえよぅ!」

 ラプト「ソっちの方が低くなってるだろ!」

 チャック「行くわけねえだろがい、噛みちぎられるってんだ」


 ガストン「お前ら、位置取り気を付けろよ、狭いし足滑るぞ」

 ビクター「はい先輩っ、ソニーっ」

 ソニー「うんっ」

 ビクターは盾を構え直し、魔法使い達は魔法を唱え始めた。


 ガストン「ルーナは……自由にやるか」

「そうか?」

 索敵、はまかせろ。


 ラプト「シュウッ、何でこんな街側にいんだよ」

 チャック「これ奥地の魔物でっせ!」


 ベル「おっきい口だね、おいしいかな?」

 レックス「うまい、骨ごと食えるゾ」

 そうなのか。

「わーい!」


 だが、汚染されてなければだが。

 アリエスタ「余裕だなおいっ」


 モードは、我関せず水を調べているな。

 全然こちらを心配してない。

 まぁそれは、こっちもそうだが。


 そっちからも二匹来てるな。

 だが、漁師達が両脇に控えていて、大顎魚の迫る水の動きを見ていた。


 チャパッ、ザババッ、ビチャッ!

 それほど大きくはないが、すごい数が前方から迫って来ていた。


 レックス「来るゾぉ! てめえら下手こくんジゃねえゾ!」

 漁師達「「おおーう!」」


 ベル(おっきい声出しちゃだめでしょっ)

 アリエスタ「もう襲われてっから関係ねぇっつうの!」


 ジャキ。

 ガストン「そんじゃあ稼ぐかルーナ」


「ああ、弓の練習ができる」

 それぞれ大剣と弓を構えた。


 ラプト「ええ……」

 チャック「び、ビビってんのオイラ達だけか!?」


 読んでくださりありがとうございます。

 さあ遠征が始まりました。さてどうなることやら。

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