96話 謎の魔力
ドドドドドド……。
台地の周囲の岩壁、そこからのぞく構造物――遺跡から流れ落ちる滝の壁が、水音と共に深淵に吸い込まれていく。
魔人ノーマダーラ「一度ならずも邪魔立てをするか、エルフ族の魔術士よ」
大魔道師セレナール「なに、これで仕舞いにするわい。疑いがかかっとるからのぉ、こっちも必至じゃ、すまんの」
皆「「?」」
「……」
そういえば湖岸の水壁内で妙な話をしてたな。
「フンッ! 我輩に勝てると思っておるのか? ここは我らの領域だ、本領発揮した魔装の性能を知るまい?」
ウニュウゾ……あの服、装具? は魔物なんだろうか。異界の中でも“ああいう感じの鏡”を割ったな。
「はて、どうじゃろうな? (日差しがない故、魔装を十全に発揮できる、ということかの? 戦時中に(うちらが)散々見知っておるのをこやつ、知らなんだな)」
ギリッ!
「っ時代は魔術より“魔科学”なのだ! 驕り高ぶる貴様ら魔術士ではなくなあ! 我ら魔族のっ我輩の開発した魔道具の進歩に慄くがよい! 下等種族共めが!」
(極端な奴じゃな、じゃが、魔術の才が低いのは哀れとは思うが、それは天の領分、その割には魔道具使いとして大成しておるクセに、燻って腹に抱えておるようじゃの)
セレナールと魔族の戦いが始まるようだな。
皆「「……ゴクリ」」
バーサ「お師匠様、首飾りからの反撃魔法に注意してくださいね?」
ガーデリア「ええ、恐らく分解の魔術です」
セレナール「うむ……(まじかの!? “防げぬ、操れぬ”というあれを!?)」
アリエスタ「なあっ外の魔導器だか黒球だかの魔道具は壊したのかよ? 異界にいきなり閉じ込めるのとかはもう来ねえのか? それとケイラッドは呼べねえのかよ師匠?」
師は頷くだけであった。
ガーデリア「ケイラッド“様”ですよアリエス」
先程奴の脅威に焦って汗だくであったガストン程ではないものの、今度はセレナールが、汗ばみはまだしていないが、極度な集中と緊張下にあった。
「すぅー……」
瞑想する時間が出来てありがたい。
すぐに手伝うからな。
ノーマダーラ「死ね」
グニュッ――セレナール「!」
奴が突然動く、もう何も助言を言わせない気か知らないが。
――ドゴゴゴゴゴゴゴゴウッ!
――バシャアアアアアアアン!
皆「「うわ!?」」
急に攻撃して来た。
あの切断した腕と取って代わっている新たな腕――魔装とやら“から”だ。
“手”の場所に相当する場所の“銃口”から、魔法の球を連射してきた。
その腕は、肩の部分に“筒”を数本生やし、そこから僅かに紫の粒のような光を煌めかせた、何やら得体の知れない煙を噴き出していた。
紫の光弾だ。
早過ぎて歪んで細く変形し、一つ一つがものすごい威力を持っていた。
ビクターの構えている鋼鉄の盾なんて穴だらけになるぞ。
すでに割れているが。
あの指輪の光弾とは比べ物にならない。
そう言えば斬った腕の指輪五個と腕輪は回収したのか?
腕の魔装は装飾品を着けていない。
アリエスタ「うおおお!?」
«何じゃ趣味が悪いのぅ、魔族の武装じゃなぁ、うねうねと気色悪いっ»
ビクター「ルーナさん、凄いですよっ!?」
見てないの? と言う感じで聞かれたが。
視てるぞ。
眼で見ずとも、全部視えている。
それを、セレナールはいつものように水壁で防いでいた。
だがこの水壁、普通じゃないぞ。
«何じゃ何じゃ、うっとおしい壁じゃあ»
ズズズズゴゴゴゴゴ……。
(ドキュドキュドキュドキュドキュ)
バシャシャシャアアアアアアッ!
ドドドンゴゴオオオンッ!
ビキピメキバキイッ!
水壁反対側の、防いでる向こう側の地面が爆発して弾け飛んでいる。
弾は広範囲にばらまくように放って来てるからだ。
奴は私達全員を狙って、死ねと言ったんだな。
バキバキィッ。
水壁からこっち側まで砕けて来て、というか台地全体が崩壊しそうだが
ズズズズゴゴゴゴッ。
皆「「わわわっ」」
ガーデリア「うわっ補強しますよ」
パキパキピキ……。
流石に彼女が土魔術で塞ぎ始めた。
彼女も色々使えるんだな。水や土もか。
ガストン「皆もっと下がれ!」
ゼラ「ひゃ~っ」
ラグザ「ちょっと何やってんだよセレナール様あ! 攻めろっぶっ殺せ!」
ロムガル「グル、ラグザ、下がれっ」
バーサ「ほら、あなた達もっううん、“儀式魔法”をかけるには狭いのよねここ……」
マルギット「はい~っ」
ソニー「は、はいっ!」
儀式魔法……多分、大魔法とかか? もしかして、私達が居ると、セレナールの邪魔なのか?
ドドドドオオオオッ。
アリエスタ「ありえねぇ……くそっ」
ブブブブブ。
黒い腕に魔力が集中し始めた。
溜めているのか?
!
アリエスタがいない!
――いた!
白い鳥だ! いつの間にか変化し背後に回り込んでいる。
同時に鳥から戻って、何か放ったぞ!
ヴィイイイイイイイ!
――魔道銃か!
白鳥アリエスタ『どうだ! これで何もできねえだろ――ってはあ!?』
イイイイ――……。
「馬鹿めが! 自分が開発した兵器の対策をしてないとでも思ったか?」
魔道銃の波動が、防がれていた。
指輪もなしにだ。
首飾りの障壁か?
こいつは魔封じも効かないのか!
「フン、三流以下の魔術士だな、小人族の程度か」
『ってめえ!』
クイッ――『んならこれでどうだボケ!』
器用に嘴からいじった物を投げ飛ばした。
キ――――――ンッ!!
皆「「!?」」
「っ」
うわっ!? 魔除けか!?
皆急に響いた音に耳を塞いだ。魔力持ちだけだ!
キュン! キュウ~!?
(バイトベアの)子熊達もか?
ザバァッバババシャアッ……。
セレナール「っ何を!?」
集中が乱れたのか、彼の大水壁がぶれて、歪むっ!?
あれが私達を守ってるんだぞ!
アリエスタのやつ、最大音で奴に投げた!
ベル「あっ」
カチャンッキ――――キュイイイィィッ――…………。
「よい音であろう? 一応開発したのは我輩だ……効くとでも思ったのか? くっくっくっ、まるで玩具を拾った猿だな」
奴には魔除けの音さえも効かないようだ。
ベルもそうだったな。
バサバサアッ。
『クソ! それもかよ!』
だが、魔石や魔道具に悪さはするからな、止められた。
足元に転がったのを、片腕にある幾つもの魔法指輪の、恐らく念道術のそれで浮かばせ拾って、つまみを戻してしまった。
セレナール「ふんむっ」
バシャアアアアアアッ。
大水壁が持ち直す。
元々魔力を乱され多少ぶれただけで、彼は制御を保っていたが。
«チッ、何じゃ、持ち直しよったっ»
それでも、連射は止まらず放たれ続けていた。
ドゴゴゴゴゴゴゴゴッ!
魔力の量といい放たれる光弾といい、異常だ。
減った傍から回復していっている。
……どこからだ?
それに、奴の背中から、何か伸びてきてないか?
砲撃している腕と同じような、先端が怪しく光った黒い触手を四本。
魔装か? 別の?
ギュニュニュニュ……。
マルギット「後ろ! あいつの後ろからなんか伸びてる!」
ベル「お爺ちゃん後ろー!」
『師匠! やべえぞ!』
奴から無視されてる、向こう側の彼も警告する。そっちからはよく視えてるだろう。
今思うのもだが、鳥になってるが喋ってる声はいつもの彼の感じだ。
どの変化もそうだが。
ヴェルに化けていた時は彼女の声だったんだが。
パアァァ。
何だっセレナールの足元が光ってる。
「ゲコゲコ♪」
あれ? あの蛙は。
ベル「わぁーっ」
アリエスタ「ケロ助!」
バーサ「メメタでしょ」
ガーデリア「黙って見てなさいアリエス」
青晶剣が帰って来た時に見たことあるぞ?
やはり彼の使い魔だったのか!
セレナール「(やれやれ、一瞬死ぬかと思うたぞ)アリエスタ、よく見ておくのじゃ、水魔法の真髄を」
アリエスタ「!」
辺りの水の気配が一層強くなる。
皆「「?」」
ロムガル「グル……?」
ソニー「うわっ……」
ドドドド――……。
!?
滝の音が消える。
周囲の水が、止まった!?
パアァァ。
何だ? セレナールの周りが、次々光って?
いや――足元に、青い魔法陣が!?
ガストン「何だ?」
ビクター「きょ、教会で見ましたっ召喚ですっ――けど!?」
パアァァ――。
青い鳥「ピルピ」
パアァァ――フヨンッ。
青い魚「……」
また魚も現れた。
入れ替えて地上に言った魚を、再び呼び寄せたのだろうか?
パアァァ――パシャ……。
透明クラゲもいるな。召喚された時から透明だが、今ははっきり魔力で視えている。
セレナールの使い魔が、多分全部来たぞ。全部か?
何体居るのかは知らないが。
一体だけしか、と言う訳じゃなかったようだ。
勝手に思い込んでいた。
多分、通常の事ではない。
全部出すほどの相手だということか。
ゲコゲコ♪
あと、蛙が歌ってるのはこれは、魔術なのか?
あっこれが魔術歌か!?
«何じゃあ! その歌を止めんかあ! 虫唾が走るわ!»
すごくこっちで嫌がってるのがいるぞ。
ザバアアアア。
セレナールは先を見越していたのか、水壁を曲げ歪め、奴を包みこみ始めた。
触手は伸びて、水壁を回り込もうとしていたのだ。
「! 貴様っ」
「ニヤリ」
ニュニュニュ――パパパッパパッ!
触手の先が紫に輝いた!
ドバババアアアアンッ!
すると、水壁の一部が弾ける!
パシャアアッ!
皆「「うわっ!」」
反動で、こちらに水飛沫がかかった。
王蜜蜂女王のやったような、範囲の攻撃か?
だが、水壁は表面だけ削れたようで、耐えていた。
凄い。
今の攻撃の余波? で地面が大きく円形に抉れているんだが。
ガーデリア「腕から来ます!」
あっ溜めていた砲が出るぞ!
ブブブブ――ギョルッ。
!
奴の蠢く黒い腕の、魔力が溜め込まれていた場所に、眼玉が現れた。
――ドバアアアアアアアアアア!
目玉から紫の極太の光線が放たれる!
ザババアアアアッ!
皆「「うわああ!」」
ズズズズズズゴゴゴゴゴッ。
地面が揺れる!
向こう側の周りの壁も、全てが!
ガラァッ。
貴族やマルギット達「「うわわっ」」
レズミル「ひいいいやっぱり死ぬううう!」
オルカーン伯爵「ぐぬぬったっ耐えろお! セレナール殿を信じるのだ!」
立てずにしゃがみこんでしまったものまでいる。
セレナール「ふむ」
だが彼は全く微動だにしない。
白いローブが青く照らされ、奴の側は黒く紫だな。
気配も空気も、魔力さえも淀んでいる。
水の清浄さがよくわかる。
ゲコゲコ♪
水壁がまるで、奴の障壁の様に硬いぞ。
それに魔水の、濃度? 多分、触れたら黒鎧スライムの体液並みに取れないぞ。
この一帯の魔力、まるで水中みたいだ。
あの蛙の歌か? 加護なのか!?
水を強化……そうか、スピネルが自力で帰って来れたのを助けた技だな!?
一緒に居たし。
今度は大光線が水壁に激突し続ける!
いかんっ彼の魔力は持つのか!?
ノーマダーラ「これもだあ!」
ヴヴヴ――ヴバアアアアッ!
な!
指輪のアレもだと!?
ザバアアアアアアアアアア!
一番水壁が震え波打った。
ズザザザッ――セレナール「ぬおっ!?」
彼の足がずり下がったっ。
――バゴゴンッ!
!
同時に、魔人のローブの影、足元から、何かが地面に刺さっていった!?
地中!?
また触手か何かか!?
ズズズズベキベキベキベキッ……。
いかん!
――「セレナール地中から来るぞ!!」
ビクター「うわっ!?」
とっくにルーナは瞑想もそこそこに竜眼を見開いて戦いを注視していた。
――ガーデリア「(今)固めています!」
――セレナール「(いや)無用じゃ」
ソニー「え? ルーナさん?」
ベル「ルーナ起きたー」
別に寝てないぞ。
ラグザ「おいルーナ、干し肉寄こせ」
今か?
ガストン「状況考えろっ!」
「ガルルッあたいは腹減ったんだよ!」
気付けば、召喚した使い魔たちに、水が纏われていた。
蛙、鳥、魚、クラゲ、全てが!?
«何じゃワシは帰るぞ! 水水水ッ忌々しいっ»
青い魚「パクパクパク」
フヨンッ――トポォンッ。
!
魚が、硬い岩の地面に飛び込んで行った!?
水面のように波紋を起こしているぞ。
何が起きてるんだ。
ガーデリアの土魔法でだじゃないんだな?
さっきひび割れを直していた。
これは――“これが”空間魔術か?
さっきも障壁を壊したんじゃなく、“隙間”を開けたように!?
魚!
ベキベキイイイ!
皆「「わっ!?」」
地面の中で、何かが引き裂かれて、ねじ切れて、潰れる音がした。
その岩の地中ごと。
感知によると、奴のローブ下から伸びていた魔装の触手が、どうやらやられたようだな。
変異とは違うのか?
そうか……ブラッダーが言ってたのはこれか!
ベタが瓦礫に埋まった彼を補佐して、助けてくれたんだな!?
ノーマダーラ「フン! さぞ自慢だろうその魔術が! だが所詮はエネルギーが全て! 我輩のストックしてある魔道具や魔力がどれ程の物か、身をもって教えてやろう! 諸共消し飛べ!」
奴はそう、魔法使いに何か含みがあるように言った。
盗賊リゾットのように……だが、奴はそれに十分対抗できうる程の恐るべき魔道具の使い手だ。
奴が浮かび上がり、腕と背中の魔装で地面を、水壁もろとも破壊し始めた!
ドゴゴゴゴゴゴゴオ!
パパパパアア!
ドバーーーーーードゴゴゴオオオオオオンッ!
セレナールっ奴の指輪の手も――。
――バヂュンッ!
ノーマダーラ「ぐがあああ!?」
何だ!?
全く見えなかった!
腕が、急にちぎれ飛んだぞ!?
右上、斜めから“青い筋”が貫いた!
腕が飛んで――こっちに向けた、指輪を光らせたのが――ピュンッ――また!?
青い光線?
ピピュンッ――。
青い鳥「ピュルル♪」
奴の遥か後方に、青い水飛沫と残光を走らせた水鳥が高速で飛び、水の滝を避けるように曲っていた。
あの鳥、あんな強かったのか!
「っぎゃあああ!? 腕が! またしてもお!? ぐっ、ぐあああああ!」
ジュビュルジュボボオッ!
皆「「!?」」
腕が生えたぞ!?
反対側の腕砲台と同じ様な、黒い生物の腕が。
奴の胴体から、背から足元から、寄せ集めるように集まり瞬時に形作られていた。
皆「「そんな!?」」
驚く皆。
セレナールは冷静に観察している。
彼の操る魔水は、ちぎれ飛んだ奴の、魔道具をたくさんつけた腕も回収して取り寄せていた。
あれだ。
奴の背後の、破壊から逃れている、いや破壊をしなかった、魔法陣。
周囲の魔力が底に集まり、奴に魔力を流し込んでいるんだ。
多分、魔装に。
そう考えながら、新しく生やした腕の、ラグザのような鉤爪の手を振り降ろす奴を私は呑気に見ていた。
バシャアアッ。
クララ「……」
まだクラゲが居るからな。
読んでくださりありがとうございます。




