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錬金サバイバル〜女神のくしゃみで無人島転生になりました〜  作者: 桜木まくら


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第9話〜石器時代に突入しました〜

「今日の最優先は決まってます」


「丘の上の拠点作りですよね!」


「そうですけど、キュリシアさん、テンション高いですね」


「拠点作りってワクワクしませんか!?家!マイホームですよ、マイホーム!」


脚を伸ばしながら立ち上がる。

少し体は重いがやる気は逆に澄んでいく。


「拠点ができれば焚き火の心配もいらないですし、夜の魔物を気にせず眠れますしね」


丘の上の拠点予定地は見晴らしがよく風も通る。

拠点が完成すれば夜の恐怖とは無縁になるはずだ。


夜のうちに編んだ籠に蔦の束や乾いた木材、洞穴で拾った鉱石を入れ、背負う。

そして、最後に両手で持ち上げたのは大きな錬金釜。


昨日までは腕が悲鳴を上げるほどの重さだった。

だが、今日はすっと地面から持ち上がり、バランスを保ちながら歩き出せるほどに軽くなっていた。


「よし、持てるな」


「あれっ?レントさん、なんか軽そうじゃないですか?昨日は『うおぉ』みたいな声出してましたよね!?」


「そんな声出してましたっけ?いや、出してたかもしれないですね」


レントは苦笑しつつ足取り軽く洞穴を出る。

朝の光が差し込み釜の縁が淡く光を反射した。


「でも、ほんとに軽そうです!どうしたんですか!?レントさん、筋肉つきました!?一晩で!?」


「さすがにそんな急激に力がついたりはしないですよ」


レントは釜を持ち直しながら、少しだけ得意げに言った。


「実は、APシステムを使って錬金釜の機能拡張をしてみたんです。『軽量化』の機能を解放しました」


「えっ!えっ!使ったんですか!?APシステム、触ってみたんですか!?」


興奮混じりの声が耳元で弾ける。


「でも、軽量化ですか?ほかにもなんかすごそう!って項目、ありませんでした?」


「今日は丘の上の拠点を完成させないといけないですし。今は移動しやすいほうがいいと思って」


朝の風がひんやりと肌を抜け、草の匂いが混じった空気が心地よい。

レントは丘の上の視界が開ける場所へ足を踏み入れた。


「視界が広いし、死角が少ない」


レントは周囲をぐるりと見回し、魔物の気配がないことを確認する。木々の揺れ、草のざわめき、遠くの波音。異変はない。


「ここなら、夜でも接近に気づけそうですね!」


「ええ。逃げ場も確保しやすい」


洞穴は安全だったが、閉塞感があった。ここは違う。開けている分、危険もあるが対策は打てる。


「今日の最優先は、ここに身を隠せる場所を作ることです」


「マイホームですね!」


「まずは小さな小屋くらいの広さですね」


レントは足元の地面を踏みしめる。硬すぎず、柔らかすぎない。柱を立てるにはちょうどいい。


「日が落ちるまでに壁と屋根。最低限それが条件ですね」


「時間制限ありですね!」


「ええ。だから、無駄な作業は減らします」


そう言って、レントは一度、深く息を吸った。頭の中で工程を組み立てていく。


「サイズは、二メートル四方」


「高さも、立てるくらいは欲しいですね!」


「ええ。二メートル四方、二メートル高。最初はそれで十分です」


「結構ちゃんとした小屋じゃないですか!」


「寝る、道具を置く、雨と風を防ぐ。それができれば合格です」


四角く区切られた地面を見下ろしながらレントは頷いた。


「柱は四隅に太い木の枝を使います。壁は木の板で塞ぎます」


複雑な構造は作らない。今は完成させることが最優先だ。


「あっ、でも、床はどうするんですか?」


「今日のところは地面のままです。ただ、干し草を敷けば問題ありません。後から、いくらでも改良できますから」


レントは空を見上げた。太陽はまだ十分に高い。


「それでは作業道具の錬金から始めましょう」


「おお〜!ついに来ましたね、道具作り!」


「まずは斧を錬金します」


レントは錬金釜の前に腰を下ろし素材を並べた。太めの木材、角張った石、束ねた草。今の熟練度で扱える素材一式だ。

レントは素材を順番に錬金釜へ投入する。

錬金釜が淡く光を放つ。光は強すぎず、しかし確かな存在感を持って渦を巻いた。


数秒後。


光が収束し釜の中に形が現れる。取り出したのは素朴だがしっかりとした石斧だった。石の刃は均整が取れ、柄との接合部も安定している。


「おお!ちゃんとした斧ですね!」


「ええ。手作りするよりもしっかりしてますね」


次に石のナイフを錬金する。素材を入れると錬金釜に光が走り、道具が完成する。


「これは、細かい作業用ですね。食材処理にも使えます」


続けて石のハンマーと石のスコップ。一つずつ手に取り、重さや握り具合を確かめる。


「おお〜!ちゃんと道具ですね!これはもう、文明人です!原始人卒業ですね!」


「まだ卒業ってほどじゃないですよ。やっと石器時代に入ったところです」


「えぇ〜!?そんな厳しい自己評価なんですか!?」


「木を切れて、穴を掘れて、やっと作業ができるようになった段階ですから」


石ナイフの刃先を見ながら淡々と続ける。


「住居も安定した食料も、まだ何もないですし」


「でもでも!一日目は地面で寝て、昨日は干し草のベッド!今日からは道具あり!ちゃんと進んでますよ!」


「それは、まあ、確かに」


認めるように小さく息を吐き、レントは道具一式を籠に収めた。


「石器時代でも、道具があるだけで生存率は跳ね上がります。次はこれを使って拠点を完成させます」


「おお〜!なんだか、本当に暮らしが始まる感じがします!」


すると、レントの頭の中に声が響く。


《錬金術の熟練度が3に上がりました》


《新しい素材『土』『肉』が使用可能になりました》


「来ましたか」


「おおっ!熟練度が上がりましたよ!」


「熟練度3になりました。……『肉』か」


口に出した声は思ったよりも低かった。

木でも、石でも、草でもない。

肉、それは生き物だったものだ。


「いよいよサバイバル感が本格化しましたね!」


横でキュリシアがぱっと明るい声を上げる。


「これで焼き肉も干し肉も作れますよ!」


レントは返事をしなかった。視線は草原へ向いている。朝の光の中、何か小さな影が動いた気がした。


「ということは狩りをしないといけませんね」


ようやく出た言葉は確認に近い。


「はい!生き抜くためには必須ですね!たんぱく質、大事ですし!」


ゆっくりと息を吐いた。頭では分かっている。肉を食べなければ体力は落ちる。果実や木の実だけ食べていてはいずれ限界が来る。理屈は何一つ間違っていない。


……でも。


「昨日までスーパーでパックの肉を買ってたんですよ。元は生き物だったなんて考えたこともなかったんです」


手のひらを見下ろす。追いかけて、捕まえて、殺して、解体する。


「急に現実が重くなりました」


「そうですか?生きるって、そういうことですよ?」


キュリシアの声はあまりにも軽い。


「生きるってことは奪うってことです。この島で生きるなら、ちゃんと向き合わないと、ですよ!」


否定はできない。狩らなければ生き残れない。目を背けたままでは前に進めない。


「やるしか、ないですね」


覚悟を固めるというより、受け入れるという言葉のほうが近かった。


「その時はちゃんと無駄にしません。命として扱います」


キュリシアは一瞬だけ黙り、それから、少しだけ声のトーンを落とした。


「ええ。それで十分です」


すぐにいつもの明るさに戻って続ける。


「じゃあ次は狩り用の作戦会議ですね!初めての獲物、何にしましょうか!」


レントは草原を見つめたまま小さく頷いた。石器時代に入った、という言葉が脳裏をよぎる。道具だけじゃない。覚悟もまた、進化しなければならない。

この島で生きるということは、そういうことなのだから。


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