表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
錬金サバイバル〜女神のくしゃみで無人島転生になりました〜  作者: 桜木まくら


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/40

第10話〜そして一人になりました〜

「まずは拠点を完成させます。今日はやることが多いです」


「了解です!まずは住む場所ですね!」


「はい。骨組みから作っていきます」


「骨組みって何ですか?」


「柱と梁です。ここが甘いと全部やり直しになります」


「おお!職人さんみたいな発言です!」


石スコップを握り、最初に掘るのは四隅の穴。

二メートル四方の角に深さ四十センチほど。

石の刃が土に食い込み、鈍い音を立てる。


穴を掘り底を均し、太めの木の枝を一本ずつ立てていく。

傾きを直し石と土を詰め、足で何度も踏み固める。


四本の柱が立ち上がる頃には太陽は少し高くなっていた。腕と背中に疲労はあるが不思議と気分はいい。


「次は梁を乗せます」


上部に渡すのは、まっすぐな枝。石ナイフで軽く欠き込みを入れ、柱に噛ませる。

蔦のロープでしっかりと縛り、四辺を繋ぐ。


四角い骨組みが丘の上に姿を現した。

屋根も壁もない。

それでも――。


「家っぽいです!!」


「ええ。まだ枠組みだけですが、これでやっと拠点と呼べます」


梁に手をかけ軽く体重を預ける。

軋みはあるが致命的な揺れはない。


今日はここまでが本命だ。壁と屋根は目隠し程度。一日で全部やろうとすると精度が落ちてしまう。


「夜をしのげれば合格。明日以降に手直ししていけばいいです」


「おお、堅実ですね!」


木の板を手に取り、隙間を塞ぐように板を当てていく。風を和らげ、外からの視線を遮るだけの、簡易的な壁。屋根も同じだ。梁の上に枝を渡し、草を乗せるだけ。雨も完全には防げない。

いわゆる豆腐建築。

それでも帰る場所が形になった。


「今日はここまでで十分ですね」


腕も背中もじんわりとした疲労が溜まっている。だが嫌な重さではなかった。


そのとき、ふと思い出す。

朝、罠を仕掛けていた。


「罠の確認をしてきます」


「おっ、行きますか!」


「正直、あまり期待はしていません。初日ですし」


草原を下り、木々の間へ入る。風に揺れる草の音。遠くで鳴く、小さな生き物の声。


「まさか」


近づくにつれ、その音ははっきりしてくる。必死にもがくような音。

蔦のロープが張り詰め、一本の太い枝に結ばれている。

その先に、小さな茶色の動物がいた。


ウサギに似た体つき。大きな目。

後ろ脚が罠に絡まり、必死に暴れている。


「やりました!トラップ成功ですよ!」


レントは一歩、距離を保ったまま立ち尽くす。

罠は完璧に機能していた。


胸の奥が静かに締め付けられる。

『命』をここまで近くで見ることはなかった。


小動物は震えていた。

石ナイフにそっと手を伸ばす。


逃がすこともできる。

罠を外して見なかったことにすることもできる。


だが、それは逃げるだけだ。

自分に言い聞かせるようにレントは呟いた。


「この島で生きるなら、奪わないと生きられない」


深く息を吸った。


「無駄にはしません。食べて、力にして、生きます。だから、ごめんなさい」


石ナイフをしっかりと握る。

目を逸らさず、覚悟を決めた。

これが、この島で生きるということだ。


―――


収穫を抱えたまま拠点に戻る頃には、辺りはすっかり薄暗くなり始めていた。


「今日は、ここまでだな。暗くなる前に火を起こさないと」


風向きを確かめ、地面を少しならしてから、拾ってきた石を円状に並べる。

簡素だが火が広がらないための最低限の囲いだ。


「あれ?昨日とは違うやり方ですか?」


「今日はこれを試します」


そう言って取り出したのは、洞穴で拾った鈍く光る鉱石だった。

キュリシアはそれを見て、きょとんとする。


「それって何の石ですか?」


「黄鉄鉱です」


レントは火口となる干し草を整え、火打石と鉱石を構えた。

そして、迷いなく打ち合わせる。


――パチッ。


何度目かの乾いた音とともに火花が散り、小さな赤い点が生まれる。

そこへ息を吹きかけると、じわりと熱が広がり、やがて炎が立ち上った。


「えっ!?もう!?」


キュリシアの声が一段高くなる。

昨日の木と木の摩擦の時とは比べものにならない速さだった。


「黄鉄鉱は火花が出やすいんです。火打石と合わせると、火起こしに向いてます」


淡々と説明しながら、レントは薪をくべていく。

炎は安定し、石の囲いの中で静かに揺れ始めた。


「レントさん、鉱石の知識まであるんですね!」


「実は、洞穴で拾ったときにスキルの鑑定を使いました。それまでは黄鉄鉱なんて知りませんでした」


「なるほど。でも、それをちゃんと使えるのがすごいです!」


「APシステムのおかげです。そういえば、実はポイントを使って錬金釜の機能拡張をしたんです」


「えっ?何に使ったんですか!?」


「時計機能です」


「え?」


焚き火の上で、肉がじゅう、と音を立てた。

脂が落ちて炎が揺れ、香ばしい匂いが夜の空気に混じっていく。


「と、時計ですか?せっかくの無人島生活なのに、時間に追われるなんて」


「追われるためじゃないですよ。生き残るためです」


肉を裏返しながら、レントは首を振る。


「時間の管理は重要です。日照、作業時間、MPの回復。把握できていれば無駄が減ります」


「うわぁ!サバイバル脳ですねぇ!」


肉を火から外し、少し冷ましながら、レントはふと空を見上げた。

夜は深まりつつあり、星が増え始めている。


「時間といえば、通信サポート、もうすぐ終わりですね」


「あれ?三日間じゃないんですか?あと一日あったような」


「本来はそうなんですけど。でも、一日目はレントさんを探すのに使っちゃったので。その分、短くなっちゃいました」


「そうでしたか」


「まあ、でも!ここまで来たら大丈夫ですよ!拠点もできて、道具もあって、ごはんもあって!」


「そうですね」


レントは小さく笑い、焼き上がった肉を一口かじった。


―――


籠の中には今日の狩りで手に入れた肉の残り。今夜すべて食べてしまうつもりはない。肉をそのまま放置すれば明日には傷む。

レントは肉の残りを錬金釜へと入れた。


「干し肉を錬金してください」


淡い光が釜の内側で渦を巻き、静かに熱を帯びていく。

数秒後、光が収まる。

取り出した肉は、均一に引き締まり、表面は乾いている。

指で押すと、弾力があり、嫌な湿り気は一切なかった。


「よし。これなら、数日は持つ」


「おお〜、完璧な干し肉ですね!これで明日も安心です!食料問題、だいぶ楽になりましたよ!」


「楽にはなりました。でも、まだ余裕とは言えません。明日からは本格的にサバイバルです」


「おっ、具体的には?」


「まず、罠を増やします。狩りに毎回出るのは危険ですから」


「うんうん」


「次に、保存食の安定化。干し肉だけじゃなく、燻製も作りたい。火も、もっと安定させたいですね。炭を確保できれば、夜通し管理する必要が減ります」


「なるほど〜。やること、盛りだくさんですね!」


「ええ。でも、一番は拠点の完成です。もっと広くして、雨と夜を完全に防げる場所にする」


ここが身を隠すだけの場所ではなく、生活できる場所になるかどうか。

それが、この先の生存率を大きく左右する。


「ちゃんと考えてるんですね」


「ここまで来れたのは、キュリシアさんのおかげです」


「ふふ、そう言ってもらえると嬉しいです。でも、もう大丈夫そうですね」


「ええ。あとは、自分でやります。明日からは、本当の意味で一人ですから」


「レントさん!ここまで来たんですから、大丈夫です!道具もある、拠点もある、知識もある!ちゃんと、生きていけます!」


明るく、いつもの調子で続ける。


「心配いりませんよ!だってレントさん、サバイバル適性、高すぎですから!」


思わず、レントの口元が緩んだ。

くすくすと笑う声。


「明日からは一人ですけど、ちゃんと食べて、ちゃんと寝て、無理しすぎないでくださいね!」


「はい」


「拠点も、ゆっくりでいいですから!焦らず、確実に!」


「はい」


「それじゃ、レントさん、明日からもがんばっ――」


声が途切れた。


頭の中も、耳元も、完全な静寂だった。

焚き火の燃える音だけが、やけに大きく聞こえる。


「終わった、か」


ぽつりと漏れた声は、誰にも届かない。

錬金釜に目を落とすと、縁に刻まれた簡素な表示が、淡く光っている。


《24:00》


キュリシアがいなくなった瞬間を、時間だけが正確に記録していた。


外は、闇に包まれた無人島。

逃げ場も、助けも、もうない。

それでもやるしかない。


時間は進む。

待ってはくれない。

生きるために動かなければならない。

明日からは完全な無人島サバイバルだ。


静寂の中、レントは静かに目を閉じた。

ここからが本番だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ