第6話〜今夜を越える方法を決めました〜
「魔物が出るんですか?」
「はいっ!もちろんです!ここは剣と魔法の世界ですから、魔物は標準装備ですよ!」
「標準装備って……じゃあ、その魔物って見つかったら、やっぱり襲ってくるんですか?」
その問いに、女神キュリシアは少しだけ間を置いてから、説明するように語り出した。
「えっとですね。この世界の魔物は、基本的に知恵がほとんどありません!」
「知恵がない?」
「はい!人間みたいに考えたり、作戦を立てたりはしないんです。動物みたいに、本能で動いている感じですね」
「なるほど」
「で、魔物が何を頼りに行動しているかというと、主に視覚です!」
「視覚?つまり、目ですか?」
「その通りです!つまりですね。魔物の視界に入らなければ、基本的に襲われることはありません!」
「それってめちゃくちゃ重要な情報じゃないですか?」
「えへへ、言い忘れてました!」
「言い忘れてたじゃないですよ!」
「ご、ごめんなさい!でも本当に大丈夫なんですよ!魔物は賢くないので、かくれんぼみたいに、岩陰とか木の影に隠れるだけで、普通にやり過ごせますから!ただし、見つかったら一直線です!」
「そんな仕様でいいんですか?」
「いいんです!序盤向けの環境ですから!最初から魔物に知恵を持たせちゃうと、人間なんてあっという間ですからね!」
そう言われると、確かに納得できてしまう自分が悔しい。だが同時に、それはとてつもないアドバンテージでもあった。
「じゃあ、夜に魔物が出ても、簡単な壁とか、身を隠せるシェルターがあれば、安全ってことですか?」
「はい!完璧です!魔物は扉の開け方も分かりませんし、家を壊すって発想もありません!」
「ゲームの初期エリアかな?」
「まさにそのイメージです!」
レントは深く息を吐いた。
恐怖はあるが、無策で放り出されているわけではない。
「よし、とりあえず、MPが回復するまでは素材集めだな。その後は、絶対に拠点作りをやらないと」
「はいっ!全力で応援してますよ!」
この世界の魔物は、視界に入らなければ無害。
だが逆に言えば、見つかれば問答無用で襲ってくる。
レントは改めて周囲を警戒しながら、森へと足を踏み入れた。
そのとき、女神が何か思い出したように声を上げる。
「あ、そういえばレントさん」
「はい?」
「昨日の夜、大丈夫でした?魔物、来ませんでしたか?」
レントは足を止め、昨夜の記憶を辿る。
「あ。昨日は雨を避けるために、海岸の洞穴みたいな場所にいました。入口も狭くて、奥に引っ込んでいたから、多分、魔物に見つからなかったんだと思います」
「なるほど。視界に入らなかったんですね。それは運が良かったです!」
……運が良かった。今になって、あの夜がどれほど危うかったのかを実感する。
「やっぱり、ちゃんと拠点を作らないとダメですね。一旦、丘の上に作ってみます。もし間に合わなかったら、また洞穴に戻ればいい」
「うん、それが一番安全ですね!丘なら見晴らしもいいですし、魔物の影にも早く気づけますよ!」
気持ちを切り替え、レントは森の奥へと歩き出した。MPはまだ心許ない。
だからこそ、今できること、素材集めが最優先だ。
木漏れ日の差し込む森は、昼間は驚くほど静かで、鳥の声だけが響いている。
「太めの枝を探さないとな」
足元には細い枝がいくらでも落ちているが、拠点の骨組みに使えるような太さのものはなかなか見つからない。
やがて、根元が朽ちて折れかかった倒木を見つけた。
「いけるか?」
力いっぱい引き剥がす。
「よし!」
肩に担ぐと、ずしりと重みがのしかかる。
「意外と原始的な作業ですねぇ。ファイトです、レントさん」
倒木や太めの落枝を見つけては運び、少しずつ積み上げていく。
直径五~八センチほどの枝が、徐々に揃ってきた。
運ぶ途中、木々の間に絡みつく蔦が目に入る。
「これ、使えそうだな」
試しに引っ張ると、しなりながらも切れる気配はない。
「それ、ロープ代わりになりますよ!壁の結束にもぴったりです!」
「よし、じゃあこれも」
慎重に蔦を引き剥がし、束ねていく。
絡めると、確かに縄のようだ。
こうして、レントは森と丘を何度も往復し、材料を集め続けた。
枝の山は、少しずつ壁の形を想像させる量になっていく。
太い枝はおよそ二十本。
蔦も両腕に抱えきれないほどだ。
「ふぅ。これだけあれば、人ひとり隠れるくらいはいけそうだな」
風が丘を吹き抜け、枝の山が乾いた音を立てる。
日はまだ高いが、時間は限られている。
「そろそろMP、回復してるかな?ステータスオープン」
光の板が浮かび上がり、数値が並ぶ。
―――
【ステータス】
名前:レント
職業:大釜使い
レベル:3
HP:23/23
MP:5/13
力:7
体力:8
敏捷:7
魔力:8
精神:9
【固有スキル】
錬金術
熟練度:2
【スキル】
鑑定
レベル:1
―――
「お、MPは5まで回復してる」
さらに、レベルが上がっていることに気づき、目を瞬かせる。
「今回はHPとか力の伸びが大きいですね」
「力仕事をしましたからね!」
森での材料集めが経験値として蓄積されるようだ。
「なるほど。行動によって成長するパラメーターが変わるんですね」
これで拠点作りも、少しは楽になりそうだ。
「でも、1日で拠点を完成させるのは無理ですね」
MPも少なく、錬金できる量には限界がある。
夜になれば魔物が動き出すかもしれない。
「今日は無理をしないです」
レントはそう言って、集めた枝と蔦を見下ろした。
「正直、もう少しやりたい気もするんですけど、やりすぎると倒れるんですよね?」
「はい!MPがマイナスになると、ばったりです!しかも、気絶中は無防備ですからね!」
「それ、今聞くと結構怖いですね。……拠点は、明日からでいい。今日は生き延びることを最優先です」
「いい判断だと思います!生存率、ぐっと上がりましたよ!」
「たまたまじゃ、次も生き残れませんから。拠点は作れなくても、今夜を越える準備ならできます」
「おっ、何か思いつきました?」
「ええ。さっきから、頭の中でずっと考えてました。何が一番、今の俺に必要か」
レントは小さく息を吸い、ゆっくり吐いた。
安全を優先し、レントは再び海岸の洞穴へ戻る決断をした。
拠点作りは、明日からだ。
今夜を安全に越えるために、次に錬金すべきものは、もう決まっている。




