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錬金サバイバル〜女神のくしゃみで無人島転生になりました〜  作者: 桜木まくら


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第33話〜新入りにやり返されました〜

貯水槽へ勢いよく流れ込む水を見つめながら、レントは腕を組んだ。


「……よし。次は風呂だ」


貯水槽の横には石を積み上げて作っていた囲いと、浅く掘られた浴槽用の穴がある。


「水路が通ったならあとはここに水を引いて、浴槽を整えて、湯を沸かせば完成だ」


「おおー!おふろ!」


「最後の仕上げですね」


「よし、さっさとやるぞ」


―――


石材と土を使って浴槽の内側を補強し、隙間は粘土質の土で埋める。竹樋を分岐させ貯水槽から水が流れ込むよう角度を調整する。さらに、外側には火を焚けるよう石窯のような構造も作った。

錬金帽子へ素材が吸い込まれるたび、加工された石材や竹材が現れ作業は一気に進んでいく。

やがて、最後の竹樋を繋ぎ終えたところで浴槽へ透明な水が流れ込み始めた。

ぱしゃ、ぱしゃ、と心地よい音が響く。


「入ってる!入ってるよ!」


ルビーは浴槽の縁をぺちぺち叩きながら大はしゃぎだった。


「まだ水だ。湯じゃない」


「えっ、そうなの?」


レントは苦笑しながら火床へ薪を入れる。しばらくして石越しに熱が伝わり、水面からうっすら湯気が立ち始めた。


「わぁ……本当にお風呂だ……」


「……完成、だな」


レントがそう言った瞬間、ルビーが両手を上げた。


「やったーーーっ!!」


―――


白い湯気が石囲いの中にやわらかく満ちていた。竹樋から注がれた水は、しっかりと熱を帯び、湯船の表面をゆらゆらと揺らしている。外の森から吹き込む風も、この囲いの中までは届かない。湯気と熱気に包まれたそこは、無人島の中とは思えないほど穏やかな空間だった。


「わぁ……すごい……」


メイが思わず声を漏らす。湯気の向こうに広がる石造りの簡易浴槽。決して豪華ではない。けれど、自分たちの手で作り上げた風呂だと思うと、その景色は何より特別に見えた。


「ほんとにお風呂だ……」


感動したように呟きながら、メイはそっと湯へ足先を入れる。


「……あったかい」


じんわりと熱が肌へ伝わる。川の冷たい水で体を洗うのとは、まるで別物だった。


湯に肩まで浸かったメイは濡れた銀髪をかき上げて小さく息をついた。湯気に包まれた柔らかな肌がほんのり赤く染まっている。


「メイ、ずるい!」


ルビーが慌てて駆け寄ってくる。耳をぴんと立て、尻尾をぶんぶん振っていた。


「ずるくないよ。順番に入ろ?」


「じゃあボクも!」


勢いよく飛び込もうとしたところでメイが慌てて両手を伸ばす。


「だ、だめだよルビーちゃん!滑るから!ゆっくり、そーっと」


「……むぅ……わかった」


口を尖らせながらもルビーは言われた通り慎重に片足を湯へ入れた。


「……!」


次の瞬間、ぱっと表情が輝く。


「あったかい!」


そのまま両足、腰、肩まで浸かると、全身の力が抜けたように湯船へ沈み込んだ。


「……ふぁぁぁ……」


「もうとろけてる……」


「これが、ごくらく……!」


「それ言いたかっただけじゃない?」


「うん!」


耳までへにゃりと緩んだルビーは幸せそうに湯の中でぷかぷか揺れている。


「ボク、このお風呂好き!毎日入る!」


「水と薪の都合があるから毎日は相談ね」


「えーっ」


そのやり取りにメイはまたくすりと笑った。少し遅れてアリーナも静かに湯へ入る。いつも通り表情は薄いが、肩まで浸かったところで小さく目を閉じた。湯気の向こうで濡れた髪が艶めいた。


「体温上昇を確認。筋疲労の軽減効果あり」


「アリーナちゃん、お風呂の感想がそれなんだ……」


「再利用価値は高いと判断します」


「また入りたいってことかな……」


アリーナがこくりと頷くとメイは思わず笑ってしまった。

ルビーは湯の中で尻尾をゆらゆら揺らしながら、ふと思い出したように言う。


「ねえねえ、レントは呼ばないの?」


「呼ばないよ!?」


メイが思わず大きな声を出す。


「なんで?」


「なんでって……その……!」


「現時点で同時入浴は非推奨です」


「またその言い方……」


「メイの精神負荷が高いと判断します」


「そ、それも言わなくていいから!」


顔を赤くするメイにルビーはきょとんとしたあと、すぐに楽しそうに笑い出した。


「メイ、顔まっか!」


「もう、ルビーちゃん!」


湯気の中に笑い声が広がっていく。


―――


しばらくしてルビーが湯船の縁にもたれながら、ぽつりと呟いた。


「ごはんがおいしくて、お風呂があって、みんないて……ここ、すごく好き」


その無邪気な一言にメイは目を細めた。


「……あたしも」


「同意します」


三人の笑顔が湯気の向こうでやわらかく溶け合っていた。


―――


囲いの外。薪の様子を見ながら座っていたレントの耳に、中から賑やかな笑い声が届く。


「……楽しそうで何よりだ」


騒がしい新入りが増えてから拠点はさらに賑やかになった。だが、不思議と悪くない。レントは立ち上がり、風を受けながら空を見上げた。


―――


木造の廊下にはまだ風呂上がりのわずかな熱気が残っていた。


「あったかかったね、ルビーちゃん」


「ボク、あのお風呂好き!毎日入りたい!」


「毎日は薪が持たないって」


レントは呆れながらも二人の後ろを歩く。その横でアリーナはいつも通り無表情のまま、淡々と記録をまとめていた。


「入浴設備の運用評価は高水準。維持管理計画の策定を推奨します」


「風呂の評価を論文みたいに言うな。……そうだ、メイ、ちょっといいか?」


「どうしたの?レントくん」


メイは不思議そうに首をかしげ、アリーナは静かに視線だけを向けた。レントは腰の袋から一本の包みを取り出す。錬金で作られた鉄製の包丁だった。刃は無駄なく研ぎ澄まされ、柄は手に馴染むよう木で補強されている。


「これ、メイに渡しとく」


「え……あたしに?」


「今までのナイフじゃ限界あるだろ。調理担当なら、ちゃんとした道具持っとけ」


メイは慌てて受け取り、両手で包丁を見つめる。


「……これ、すごくしっかりしてる……」


「錬金で作った。素材は鉄と木。アリーナ製だ」


メイは包丁を胸の前で大事そうに抱えた。


「ありがとう、レントくん……大事に使うね」


その言葉にレントはわずかに視線を逸らす。


「別に礼言うほどのもんじゃねぇよ。必要だから渡しただけだ」


「それでも嬉しいよ」


「それじゃ、さっそく夕食の準備をお願いしていいか?」


「うん!楽しみにしててね」


―――


食堂スペースには、すでに夕食が並んでいた。木のテーブルの上に置かれた皿からは、湯気がゆっくりと立ち上っている。


焼き肉の皿には果実を煮詰めて作った甘酸っぱいソースが絡められている。もう一皿には柔らかく煮込まれた葉物の料理が置かれていた。さらに、果実そのものを使ったデザートも並んでいた。ルビーはそれを見て目を輝かせる。


「これ、ボクが取ってきたやつだよね!」


「ルビーちゃんが森で集めてきてくれた果実だよ。ソースもデザートも、それ使わせてもらったの」


「えへへ!ボク役に立ってる!ちゃんと働けって言われてたからね!」


「そこだけ覚えてるのか」


ルビーは次にもう一皿をじっと見つめた。


「これなに?葉っぱのかたまり?」


「ロールキャベツだな、まあ、キャベツじゃないから似たような料理だ」


「野菜とお肉を一緒に煮て、やわらかくしたの。レントくんに教えてもらったんだよ」


「ふーん、野菜料理かぁ……」


「そうだね。ちゃんと野菜も食べようねってことで作ったの」


ルビーはしばらく皿を見つめてから、意を決したように一口食べる。


「……あれ?」


次の瞬間、ぱっと顔が明るくなった。


「これ、おいしい!野菜ってもっとまずいと思ってた!」


「どんな偏見だよ」


「やわらかく煮ると食べやすくなるんだよ」


「ボク、これならいっぱい食べられる!」


「栄養バランス改善に寄与。食生活評価は上昇傾向」


「ねえねえ、これ毎日食べられる?」


「材料があればな」


「材料集める!」


「畑荒らすなよ」


メイはそのやり取りに笑いながら、ふと果実の皿を見た。


「そういえば、この果実もすごく助かったよ。甘いのも酸っぱいのも、ちょうどいいのが揃ってて……ソースもデザートも作りやすかった」


「ボク、すごい?」


「うん、すごいよ」


メイは素直に頷くとルビーは満面の笑みになった。


「えへへ!やった!」


「まぁ……役には立ってるな」


その言葉にルビーはさらに嬉しそうに胸を張った。


「もっと働く!」


「張り切りすぎるな」


「一緒に頑張ろうね、ルビーちゃん」


穏やかな食卓の中で笑い声だけが静かに広がっていった。


―――


夕食を終えた食堂スペースには満ち足りた空気が漂っていた。

皿の上はきれいに空になり、果実の甘い香りだけがまだわずかに残っている。椅子にもたれかかったルビーはお腹をさすりながら幸せそうに伸びていた。


「たべたぁ……」


「食いすぎだ」


「だっておいしかったもん……」


「ふふ、いっぱい食べてくれて嬉しいよ」


メイは笑いながら皿を重ね立ち上がる。アリーナも無言で食器を持ち上げた。


「洗浄作業へ移行します」


「毎回きっちりしてんな、お前は」


レントは肩をすくめ、それから食堂の隅にある棚へ目を向けた。日用品や回収品をまとめて置いてある棚だ。湖近くの小屋から持ち帰った物もそのまま並べてある。

ふと、一つの球体へ視線が向いた。手のひらほどの大きさ。金属とも石ともつかない質感。傷一つなく、妙に存在感だけがある謎の球だ。


「……そういや、あんなのもあったな。結局なんなのか分かんねぇまま放置してたけど」


その瞬間。

だらけきっていたルビーの耳が、ぴんと立った。


「……あっ!」


椅子から飛び降り、そのまま駆け寄ってくる。


「それ!」


「うおっ、急に走るな」


ルビーは球を指差し目を丸くしていた。


「それ、おじいちゃんの!」


食器を運んでいたメイの動きが止まる。アリーナも静かに振り返った。レントは球とルビーを見比べる。


「……知ってるのか?」


「うん!」


勢いよく頷いたルビーは両手を差し出す。レントが渡すと、大事そうに抱え込んだ。


「おじいちゃん、これよく持ってた!」


「何に使う物なんだ?」


「わかんない!でもね、秘密基地いくとき、いつも持ってた!」


「……秘密基地?」


「うん!石のおうちがいっぱいあるとこ!」


「この島にそんな場所があるのか」


「あるよ!そのときはこれぴかぴかしてた!」


今の球は何の反応もない。ただ静かに鈍い光沢を返すだけだ。


「現在は発光なし。機能停止、条件不足、周辺環境変化などが推定されます」


「つまり?」


「調査価値ありです」


「便利な言い換えしやがって」


レントは腕を組み深く息を吐いた。拠点整備が終わったと思えば、今度は謎の施設らしき情報である。しかも情報源は今日も騒がしかった新入りだ。


「ちなみにその秘密基地。どんなとこなんだ?」


ルビーは少し考え、首を傾げた。


「んー……おやつ食べたり、かくれんぼしたりした!」


どうやら本人にとってはただの楽しい遊び場らしい。レントはしばらく黙り込み、球を見つめる。


「探索準備を推奨します」


「……そうだな、明日、詳しく場所を聞く」


「いくの!?」


「話を聞くだけだ」


「ぜったい行くやつだ!」


「うるせぇ」


メイがくすりと笑い、アリーナは小さく頷いた。和やかな空気の中、ルビーは球を抱えたままじっとレントを見上げた。


「……レント、食べ物ぬすむの、だめって言ってたよね?」


「言ったな」


「じゃあ――ひとのもの勝手にもってくるのも、だめだよ?」


ルビーは球をぎゅっと抱きしめ、にやりと笑った。食堂がしん、と静まり返る。数秒後、メイが吹き出した。


「ふふっ……!」


アリーナも真顔で頷く。


「正論です」


「違ぇ!これは拾って回収しただけだ!」


「ぬすんだ人って、みんなそう言うんだよ?」


「誰に教わったその理屈!」


「ボク、かしこいから!」


「そこだけ妙に成長してんじゃねぇ!」


ルビーの笑い声とメイの楽しそうな笑い声が食堂に広がる。騒がしい新入りが増えてから拠点はますます賑やかになった。そしてどうやら、レントの苦労もまた増え続けるらしい。


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