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錬金サバイバル〜女神のくしゃみで無人島転生になりました〜  作者: 桜木まくら


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第24話〜距離が少し縮まりました〜

「お帰りなさいませ、レント様、アリーナ様」


「……これ、全部メイがやったのか?」


「はい。お二人が戻られるまでの間、お部屋の清掃と昼食の準備を進めておりました」


「体調は……?」


「問題ありません」


レントとアリーナが腰を下ろすと、メイは一歩引いた位置に立ったままだった。


「……お前も座れよ」


「いえ、私は――」


「いいから。三人分あるんだろ?」


一瞬だけ間が空いたあと、メイは小さく頷き、静かに席についた。背筋はまっすぐに伸び、動きには一切の無駄がない。


「いただきます」


木の皿には、こんがりと焼き色のついた魚。皮はぱりっと張り、浮いた脂がわずかに光を揺らしていた。横には刻まれた野草の和え物。淡い緑が重なり、目にも涼しい。さらに、湯気を立てるスープの器。中で具材がゆっくりと揺れ、やさしい香りを立ち上らせている。どの料理も手間かけられているのが分かった。


「……なんだこれ、めちゃくちゃちゃんとしてるな」


「簡素ではございますが、お口に合えば幸いです」


「いやいやいや、簡素ってレベルじゃないだろ」


魚に箸を伸ばす。皮に触れた瞬間、軽い張りが指先に伝わる。割くと、内側から白い身がほろりと崩れた。湯気とともに、脂の甘い香りが広がる。


「……うまっ」


短い言葉が、ほとんど反射のように出た。外は香ばしく、中は驚くほどふっくらとしている。余分な水気はなく、旨味だけが残っていた。


「これ、焼き方どうなってんだ?」


「火力を一定に保ちつつ、焼き加減を見ながら途中で位置を調整しております」


「いや、さらっと言ってるけどそれ難しいやつだろ……俺が焼いたら焦がす自信があるな」


今度はスープに手を伸ばす。器を持ち上げた瞬間、ふわりとやさしい香りが立ち上る。


「あ、これもうまい」


じんわりと広がる旨味。強すぎない塩気。喉を通るころには、体の奥にまで染み込むような感覚があった。


「魚の骨と野草から出しを取っております」


「そこまでやるのかよ、俺そのまま煮るしか考えてなかったな……」


「より良い状態で提供するのがメイドの役目ですので」


野草の和え物にも手を伸ばす。ほのかな苦味のあとに、すっと抜ける清涼感。癖は抑えられ、食べやすく整えられていた。


「……これも普通にうまいな」


どれもが丁寧に作られている。ただ空腹を満たすためのものではなく、『食事』として整えられていた。


「ありがとうございます。改善点があればお申し付けください」


「いや、十分だろ。これ以上求めたらバチ当たるわ」


「お褒めいただき、ありがとうございます」


丁寧な返答に視線を上げる。メイの姿勢は崩れず、呼吸さえも静かに整っていた。あまりにも完成された『メイド』としての在り方。


「……なあ、そんなに完璧にやらなくていいぞ」


ほんの少しだけ、空気が揺れた。


「問題ありません、これが当然ですので」


「……そうか?俺は当然だと思わないけどな」


その言葉に、ほんのわずかに動きが止まる。箸を持つ指先が、一瞬だけ迷った。


「この島に来る前にどんなところで働いてたかは知らないけど、お前は俺のメイドじゃないだろ、気を使う必要なんてないぞ」


「……いえ、私は大丈夫です」


「そっか」


しばらく、静かな時間が続いた。器に触れる音だけが、やけに大きく聞こえる。

やがて――


「……今日、あの後、窓から外を眺めていたんです。外には草原が広がっていて、遠くには水平線が見えました……人の気配は全然なくて、ああ、やっぱりここは本当に無人島なんだなって思ったんです」


メイは視線を落としたまま、少しだけ言葉を探すように間を置いた。


「……私を、捨てないでください」


「……どういうことだ?」


すぐには返事が来なかった。メイの指先が、膝の上でわずかに強く握られる。


「……もしここを追い出されたら……私、一人では生きていけないんです」


そこで一度、言葉が止まる。呼吸を整えるように、小さく息を吸って――


「……私は何も覚えてなくて……だからせめて……役に立てるように……」


言葉はそこで途切れた。レントはしばらく黙っていたが、やがて一息ついて、顔を上げた。


「さっき外でアリーナと話してたんだけど」


何気ない調子で切り出す。メイの視線がわずかにこちらへ向く。


「この小屋、さすがに三人で使うには狭いよな」


軽く周囲を見渡す。整えられてはいるが、元は一人用の空間だ。どこか窮屈さは拭えない。


「だから、増築しようと思ってる。真ん中に食堂とキッチンまとめてさ、そこから左右に小屋を分ける感じでどうかなって。今の小屋は俺が使うとして……もう一つ、新しく建てる。そっちは、メイとアリーナ用」


メイは静かに聞いていた。背筋を伸ばし、いつも通り整った姿勢のまま。


「風呂も作るつもりだ。俺一人なら川で水浴びでも構わないけど、メイとアリーナには不便だろ?」


思いついた順に、淡々と並べていく。どれも現実的で、無理のない話だった。


「まあ、まだ構想段階だけどな。材料も集めないとだし。でも、やるならちゃんと作りたいんだよな」


「……とても、良い案だと思います」


「だろ?さすがに無人島に女の子一人をほっぽり出すようなことなんて出来ないしな。それに、タメ口でいいぞ。見た感じたぶん俺と同じくらいの年だろ?それなのに『レント様』なんて堅っ苦しいし」


「合理的です。現状の呼称は形式的であり、会話効率を低下させています。是正を推奨します」


メイは一瞬だけ目を伏せた。指先が、膝の上でわずかに揺れる。


「……えっと……それじゃあ」


小さく息を吸って、ゆっくりと顔を上げる。


「……レ、レント……くん」


言った直後、ほんのわずかに肩が強張った。続けて視線を横に向ける。


「……アリーナ……ちゃん」


言い切ってから、ぴたりと動きが止まる。自分の言葉を確かめるように、ほんの一瞬だけ沈黙が落ちた。


「……これで、いいかな……?」


恐る恐る、様子をうかがうような声。レントはあっさりと頷く。


「おう、全然いい」


「問題ありません」


アリーナも、変わらない口調で肯定する。その反応を受けて、メイの肩から、ほんの少しだけ力が抜けた。


呼び慣れない名前が、まだ胸の奥でくすぐったく残っていた。

それでも――さっきまでとは、何かが違う。

ほんの少しだけ。

ここにいてもいいのかもしれないと、そう思えた。


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