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錬金サバイバル〜女神のくしゃみで無人島転生になりました〜  作者: 桜木まくら


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第23話〜帰ってきたら部屋が綺麗になっていました〜

薄暗かった室内に、やわらかな朝の光が差し込み始めていた。粗く組まれた板の隙間から漏れる光が、細い線となって床に落ちている。


その光の中で、少女はゆっくりと目を開けた。まだ慣れない天井。昨日と同じ光景。けれど、もう現実だと分かっている。隣で小さく布の擦れる音がした。


「おはようございます。メイさん」


静かな声。視線を向けると、すでに身を起こしていた少女と目が合う。黒を基調とした装いに身を包み、その頭には黒地に金の模様が施された帽子が乗っている。声は穏やかだが感情の読み取りづらい表情だった。


「おはようございます、アリーナさん」


ゆっくりと体を起こす。まだわずかに残る倦怠感に、昨日の出来事が現実だったことを改めて思い出した。

そのとき。

隣の部屋――道具置き場の方から物音がした。がさり、と何かを動かす音。 続いて、軽い足音。扉越しにかけられる声。


「起きてるか?」


「はい、マスター。二人とも起きてます」


アリーナが答えると、扉が開き、男性が顔を出した。まだどこか寝起きの気配を残しながらも、すでに動く準備は整っているようだった。


「おはよう……体調は?」


「おはようございます。だいぶ良くなりました」


「無理してないか?」


「……いえ」


ほんの一瞬だけ、言葉に間があった。 それを見逃すほどレントも鈍くはない。


「今日は一日、ゆっくり休んどけ。昨日の今日だしな、俺たちは外の補修やるからさ。嵐でやられたとこ、まだ直せてないし」


「……分かりました」


一瞬だけ何か言いかけて――結局、素直に頷いた。


「昼ごろには戻るから。行くぞ、アリーナ」


「はい、マスター」


二人は外へと出ていく。扉が閉まる音が小さく響いた。その後ろ姿を見送りながら、メイはそっと息を吐いた。


外に出ると、朝の空気は思ったよりも澄んでいた。

嵐の名残はまだそこかしこに残っている。倒れた木、崩れかけた畝、吹き飛ばされた資材。昨日の時点で被害の確認は済んでいるが、手を入れるべき場所はいくらでもあった。


「っと……アリーナ、ここ、押さえてくれ」


「はい、マスター」


押し当てた板をアリーナに押さえてもらう。位置がぴたりと定まった瞬間。迷いのないリズムで釘が打ち込まれていく。


「……やっぱ二人だと楽だな」


「作業効率が約1.8倍に向上しています」


「細かい数字出すなよ……でも体感そんな感じだわ」


ひとつ打ち終え、軽く腕を回す。昨日まで一人でやっていた補修作業とは、明らかに進みが違った。支える役と打つ役が分かれるだけで、ここまで変わるのかと少し感心する。

アリーナが応急処置はしてくれていたが、屋根の一部はまだ剥がれたままだ。吹き飛ばされた板を拾い集め、使えそうなものを選びながら、順に戻していく。作業の合間、ふと小屋の全体を見渡す。


「……なあ、アリーナ、これ、さすがに狭くないか?」


「現状の居住人数は三名。対して本建築物は元々マスターの単独使用を想定した規模です。結論として、狭いです」


「やっぱりそうだよなあ……」


元は二メートル四方の豆腐建築。そこに無理やり作業場や道具置き場を追加して、なんとか生活してきた場所だ。そこにさらに二人増えた。


手を動かしながら、少しだけ視線を遠くに向けた。小屋の周辺にはまだ手付かずの空間が広がっている。


「……拡張するか。まず小屋だな。今使ってる小屋は俺用にして……別で女の子用の小屋を建てようか。ちゃんとしたやつ」


「対象はメイさんですね」


「ああ。さすがに俺と同じとこってのもな……落ち着かないだろ。もちろんアリーナもだ」


「私はマスターの所有物ですので、同室で問題ありませんが」


「いやいや、所有物って……釜だったときならまだしも今は人間の女の子なんだから倫理的に問題だろ」


「必要に応じて錬金釜に戻ることも可能です」


「え、そうなの?変形ロボ的な?」


「どちらかといえば魔法少女の変身シーン風です」


魔法少女の変身シーンといえば光りに包まれて、いつの間にか服装が変わってるやつか。確かに錬金するときはいつも光を発していたな。


「とにかく、女性用の小屋は必要。アリーナもそっち。あとは……風呂も欲しいよな」


「入浴設備ですか」


「そう。ちゃんとしたやつ。今は水浴びだし」


「合理的です。衛生状態の維持にも寄与します」


「だろ?」


話しているうちに、少しずつ形が見えてくる。近くの地面に木の棒で簡単な線を引いた。


中央に共有スペース、食堂やキッチンをまとめ、左右にレントの小屋と女性用の小屋を配置する。共有スペースの奥には風呂。T字型の構造。


「……なんか、それっぽくなってきたな」


「はい、マスター。素敵な拠点です」


考えているとだんだん楽しくなってくる。ただの補修のはずだったのに、いつの間にか拠点づくりの話になっていた。


「とりあえず、まずは屋根を直すとこからだな」


「了解しました、マスター」


再び、乾いた音が響き始める。その音は、ただの補修ではなく。ここに、新しい生活を組み上げていく音だった。


―――


屋根の補修をひと段落させた頃、レントはふと思い出したように手を止めた。隣で板を押さえているアリーナを見る。


「……そういえばさ、さっき釜に戻れるって言ってたけど、錬金するたびに毎回釜に戻らないといけない仕様なのか?」


「いえ、この姿のままでも錬金は可能です。何か錬金するものはありますか?」


少し考えてから、足元に積んであった木材を顎で示した。


「じゃあ、これ。木材を……木の板にできるか?」


「了解しました。木の板の錬金を開始します」


あまりにも自然な流れで了承され、脳裏に嫌な想像がよぎる。まさか、木材をそのまま飲み込んで――とかじゃないよな……?

細い腕。華奢な体。 どう見ても木材を丸呑みできるようには見えない。……まさかな。

内心で自分にツッコミを入れつつ、様子を見守る。


アリーナが被っている帽子に手をかけた。黒地に金の模様が施されたそれを、すっと持ち上げる。そして――軽く、一振り。


違和感。気のせいかと思ったが違う。帽子の縁がわずかに広がった。いや、広がったというより――内側が深くなったように見える。

帽子の内側に光が揺れていた。底があるのかどうかも分からない、淡い光の渦。


その帽子をくるりとひっくり返した。そのまま、木材を持ち上げて――触れた瞬間、木材はそのまま吸い込まれるように帽子の中へ消えていく。


帽子の内側が、ほんのりと明るくなる。淡い光が脈打つように揺れ――


ぽん、と軽い音がした。


帽子の中から整った形の木の板が飛び出す。アリーナはそれを片手で受け取り、何事もなかったかのように差し出した。


「木の板の錬金に成功しました」


「いや、その帽子で錬金できるのかよ……」


「はい、マスター」


アリーナは平然と答え、何事もなかったかのように帽子をかぶり直す。その仕草があまりにも自然で、逆に現実感が薄れる。


「……なあアリーナ、その帽子で錬金できるってことはさ――もしかして、本体そっちだったりする?」


「本体の定義によります。いずれにせよ、錬金機能に支障はありません」


「そこは濁すのかよ、まあ……錬金できるなら助かるけどさ」


「はい、マスター。錬金が必要な際はいつでも申し付けください」


どこか誇らしげにも聞こえる声が返ってきた。……まあ、いいか、錬金できるなら。細かいことは考えないようにしよう。


―――


昼を回った頃、小屋へ戻ると、扉を開けた瞬間に違いが分かった。空気が整っている。さっきまでの木と土の匂いに混じって、どこか落ち着く香りが漂っていた。


中へ入ると、思わず足が止まった。床は綺麗に拭き上げられ、薄く差し込む光をやわらかく反射している。雑然と置かれていた道具は用途ごとに整然と並べられ、壁際に寄せられていた。寝具もきっちりと整えられていた。


別の小屋に迷い込んだかと、一瞬本気で疑った。視線を奥へ向ける。簡素な机の上に、食事が用意されていた。木の器に盛られた料理は、どれも丁寧に整えられている。色のバランスまで考えられているのが一目で分かった。湯気が立ち上り、ほのかな香りが鼻をくすぐる。


そこに一人の少女、青眼の銀髪メイド――メイが立っていた。


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