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錬金サバイバル〜女神のくしゃみで無人島転生になりました〜  作者: 桜木まくら


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第12話〜孤独なサバイバルが終わりました〜

「おお!自律思考モードが作動した!でも、初期設定って一体何をすればいいんだ?」


「所有者情報を登録します。お名前をお聞かせください」


「所有者情報か、要は自己紹介ってことかな。俺の名前はクロガネ・レント。レントって呼んでくれ。年は18歳で、趣味はゲーム、基本的にはどんなジャンルでもやるけど、ホラゲーとFPSは苦手なんだ」


「レント様、所有者情報の登録が完了しました」


「そのレント様ってのは辞めてくれるかな?なんだかむず痒くなる。ちなみに音声って変えられたりするの?」


問いかけると、空中に半透明のウィンドウが浮かび上がった。どうやらこれが設定画面らしい。


音声リストには、落ち着いた老紳士から活発な少女まで、幅広いサンプルが並んでいた。


さすがに野太いおっさんの声で呼び捨てにされるのは、男一人の無人島生活には刺激が強すぎる。

結局、一番聞き馴染みのいい、最初の透明感のある声をそのまま選ぶことにした。


「やっぱり初期設定の音声で。呼び方はそうだなぁ……『マスター』ってどうかな?」


実はゲームでもよくあるマスターという響きに密かな憧れがあった。


「かしこまりました、マスター。設定を保存しました」


「よろしくな、あ、俺はお前のことをなんて呼べばいいかな?」


「錬金釜、とお呼びください、マスター」


「いや、錬金釜ってそのまま過ぎるだろ、愛着もクソも無い。名前とかは無いのか?」


「個体識別番号は――」


「いや、番号とかじゃなくて固有名詞。無いなら一緒に考えるか。カタカナでかっこいい名前とか」


「……アルケミック・コルドロンはいかがでしょうか」


「お、かっこいいじゃん。アルケミストが『錬金術師』だから、アルケミックは『錬金術の』かな?コルドロンってどういう意味?」


「『釜』です、マスター」


「『錬金術の釜』って結局、錬金釜じゃん、もっと人名っぽくならない?」


「……では、アルケミーナ・コルドロンはいかがでしょうか」


「ちょっとだけ人名っぽくなったな、じゃフルネームはアルケミーナ・コルドロンで、愛称は……アルケロンだと怪獣みたいだし……アルミーナだとアルミ鍋みたいだし……」


腕を組み、ボソボソと呟きながら考える。これからの長い付き合いになるんだ。呼びやすく、かつ愛着が持てる響きがいい。


「アリーナなんてどうかな?俺の好きなゲームシリーズに出てくるお姫様の名前だ」


すると、黒金色の釜の縁を一筋の金色の光がスルスルと走り出す。

まるでスマートフォンの読み込み中のように、光は円を描きながら速度を上げ、柔らかな光の輪を浮かび上がらせた。


……あ、これ今、一生懸命考えてるんだな


やがて光の輪がゆっくりと収束し、釜の正面で一度だけパッと強く瞬いた。


「私の名前はアルケミーナ・コルドロン。愛称はアリーナ」


アリーナがその音を反芻するように繰り返した。不思議とその無機質だった声に少しだけ温かみが宿ったような気がした。


「これからよろしく頼むよ、アリーナ」


「かしこまりました。以後、マスターを全力でサポートいたします」


「ところでアリーナ、質問していいか?」


「はい、マスター。どうぞ質問してください」


アリーナが自律思考を持ったことで、どうしても確認しておかなければならないことがあった。一人のサバイバル生活を思い返し、冷や汗をかく。


「自律思考モード以前の記憶はあるのか?」


「はい、マスター。飲料水の精製から石鹸の錬金まで、全ての錬金は保存されています」


「錬金の記憶だけ?じゃあ、俺が水浴びしてたとこは見られてない?」


「錬金の記憶だけです。私には視覚機能がありませんので」


「そっかぁ、それならよかった。見られてたらと思って焦ったよ」


膝から崩れ落ちそうなほどの安堵にレントは胸をなでおろした。これまでの独り言も全裸での水浴びもすべて闇の中だ。だが、安堵の次に湧いてきたのはふとした疑問だった。


「って、視覚機能が無いってどういう状態なんだ?暗闇にいる感じ?」


「人間の感覚に置き換えるならば、暗闇が近いかもしれません。私はただ、マスターの音声や釜の中に投入された素材を認識した時に反応を返しているに過ぎません」


「そうなんだ、でもそれってすごくさみしくないか?一緒に綺麗な景色を見ることも出来ないってことだろ?」


「いえ、私は錬金釜ですので、マスターのお役に立つことが存在意義です」


「まあ、ものは試しだ、機能解放の中に確かあったはず……」


レントは言い返す代わりに、空中に浮かぶ半透明のウィンドウを指先で弾いた。


「あっ、あった。『光学センサー』。これがあれば、お前も見れるようになるんじゃないか?」


未分配のAPを流し込み、確定のアイコンを叩く。

直後、黒金色の釜の装飾の一部が、呼吸を始めたかのように淡い青白さで明滅し始めた。


「これでお前の世界も明るくなるはずだ。――さあ、アリーナ、何が見える?」


釜の正面に位置する紋章の一部が、精密なレンズのように鋭い光を放ち、周囲をゆっくりとスキャンしていく。

アリーナの『視線』が、レントの顔でピタリと止まった。


「……どうだ? 俺の顔、変じゃないか?」


思わず頬を掻きながら尋ねるレント。自分が見られていることに気恥ずかしさと緊張が混ざり合う。


「確認しました。目がふたつと、鼻と口が付いています」


「ああ、それが人間だよ、アリーナ」


レントは思わず吹き出した。


「これからよろしくな。俺たちが生きるこの世界は、結構綺麗なんだぜ」


「よろしくお願いします、マスター」


「さて、アリーナ。明日から何をする?」


「まずはその右頬の泥を拭うことから始めましょう。衛生レベルが低下しています、マスター」


レント苦笑いしながら頬を拭うと、アリーナの光学センサーが満足げに一度だけ明滅した。


その夜、昨夜とは違い、レントは深く安らかな眠りについた。

レントの傍らで、静かに金色の光を拍動させながらアリーナが守ってくれていた。


―――


「おはようございます。朝です。起きてください、マスター」


耳元で鈴が鳴るような澄んだ声に、レントはゆっくりと目を覚ました。

小屋の隙間から差し込む朝日の眩しさに目を細めながら身体を起こす。


「……ああ、おはよう、アリーナ。よく眠れたよ」


「睡眠の質は『良』と判定しました。良い寝顔でした」

「……最後の情報はデータに記録しなくていいからな」


気恥ずかしさを隠すように伸びをすると、アリーナの光学センサーがじっとレントを見つめていることに気づいた。そのレンズの奥で、金色の光の輪が静かに回転している。


「マスター、拠点の詳細なスキャンを完了しました。報告すべき事項が山積みです」


「朝一番から、なんだか頼もしいな」


これまではただ生き延びるために必死で、手探りで泥臭く積み上げるしかなかった。でも、これからは違う。


「よし、アリーナ!今日も頑張ろうぜ!」


「了解しました。マスター、まずは――」


アリーナの冷静な声が、朝の清々しい空気の中に響く。

孤独なサバイバルは終わった。

こうして、一人の少年と一台の釜による、二人三脚の開拓が幕を開けた。


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