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壬玖  作者: 丹午心月


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閑話、因縁の対決

 産まれた子供が色目だった事で、両親は毎日言い争っていた。父は壬玖じんく村出身で酷く色目を忌み嫌い、女を拵えて母と子供を捨てる。その色目が三ヶ月になった頃の事だ。

 そして母は女手一つで育てていたが、遂に己陸みろく村のカルカル牧場前に置き去りにした。そこへ奥村英太郎が通り掛かり、その色目は奥村英次の名を得た。それは英次が若菜色の虹彩に魅了された三歳の時の事だった。


 英太郎は極刑執行人で、己陸みろく村と辛捌しんはつ村の中間に位置する森付近の、打ち捨てられた古い家に居住している。極刑執行は言うなれば罪人を殺す仕事で、葵拾きじゅう市に連行するまでもない極悪人を始末し、時には逃走するそれを追跡する。

 英次はそういう仕事である事を聞かされて知っていたが、幼いながらも継ぐ気になり、五歳の頃から英太郎の厳しい訓練を受ける事となる。勉強もその頃から始まり、それにも励行した。


 英次がじっ歳になったある日、英太郎の下に依頼が舞い込む。

 何でも、対象者は極悪人に成り得る者が色目だと言う。葵拾市の警備隊隊長候補として、砂漠預かりになっていた幼い色目を半ば無理遣りに連れ帰って教育していたが、悪い方に育ってしまったという事だった。

 対象者は志川しかわさとる、髪はさび色、目は撫子色、と特徴も記されて、年齢は英次の二歳下で、英太郎はこれを英次の第一の試験とする。


 二人は早速葵拾市を訪問した。そこは犯罪者が多く、防壁は高さが五メートルもある。門は一対しかなく、入出者は厳しく管理されている。英太郎はそれが煩わしく、且つ手紙には秘密裏にと書かれていて、闇夜に乗り込む為に外で機を窺った。

 そして、それは到着して二日後に訪れる。日が暮れて割とすぐに月が雲で隠れ、かぎ縄を笠木に引っ掛け、英太郎が先に、英次が後から登った。

 地図は手紙に同封されていて、それを頭に叩き込んでいた。志川は刑務所内でも軽犯罪者のいる休泊舎の一室で寝起きしているとの事で、二人は一直線にそこを目指す。

 軽い運動のつもりで走って向かい、小休憩を何度も挟み、持って来た水筒の水を空にした。英次は緊張の所為か、喉が渇いていた。

「程々にしておけよ」

 そう促しつつも半分以上入っている水筒と交換した。

「ありがとう」

 英次は今からやる事を思い、再度喉を潤す。


 目的地に到着すると英太郎は屋外で待機し、英次一人で志川の部屋へ向かった。その前に角灯とマッチが置かれていて首を傾げる。

(対象者を確認しろと?)

 マッチを手にして角灯に火を点け、戸を静かに引いて中に角灯を入れる。八畳ある部屋の真ん中に布団を敷いて就寝している。髪の色を確認ようとしたが、灯りの色で錆色か判断が出来なかったが体が小さい事は理解出来た。そのまま角灯を置き、更に戸を開けて中に入ると閉める。左手に嵌めている手甲鉤を確認し、掛け布団の上から跨って輪郭を確かめて首に辿り着くと右手で押さえ付けた。

「ぐっ……。ふっ…ん……」

 布団の中から力む声が聞こえ、抵抗をされるが精一杯の力で押さえ付けた。にわかに後ろ首に衝撃が走り、掛け布団を頭から被った。蹴られたと理解した時には左側へ倒れていた。志川は跳び起きて距離を取り、英次の方に体を向けて咳き込む。呼吸が戻ると深呼吸を二度した。

「お前、オレをころしに来たのか」

 英次を睨み付け、腰を落とした。

(年下と思ってなめていた。手甲鉤を外しておくべきだった)

 反省しながら立ち上がって腰を落とし、両手を前に構える。角灯の灯りで手甲が鈍く光った。

「答えろ。オレをころしに来たのか」

 英次は無言で間合いを詰める。志川はそれを嫌って間合いを広げ、背中が壁に当たって後がなくなると勢い良く跳び掛かった。英次の左手を両手で取ってそれを外そうとしたが、英次の右手が顔面目掛けて放たれた。後ろに倒れながら左手を引っ張り、道連れにする。英次は咄嗟に志川の左手首を握ったが、手甲鉤の紐が外されていた。再度志川の上を取り、今度は蹴られないように足で押さえ付け、暫く我慢比べが続き、歯を食いしばっていた。しかし、俄に力を抜いて自ら鉤手甲から左手を抜いたと同時に右手も開いた。するとすっぽ抜け、引っ張っていた志川の右側頭部に四本の爪が走る。一瞬の出来事だった。

「ギャア!」

 痛みに声を上げた所で志川の首に両手を掛けて力を入れた。

「そこまで」

 戸が開いたと同時に聞き慣れない声がし、見ると英太郎もいた。英次は肩で息をし、立ち上がり際に手甲鉤を拾って英太郎の側へ行った。

「終いだ。帰るぞ」

 その言に力なく頷き、踵を返した英太郎に付いて行く。

 あの声の主は兼森かねもりたつと言い、葵拾市の警備隊隊長だ。英太郎は兼森がいる事に気付いて外で待機したが、結局対面する事になったのだと言う。服役している犯罪者を相手に無双をし、増長していた志川を始末したい市の依頼は、こうして未遂に終わった。


 志川は報復すべく、英太郎の仕事を手伝い始めた英次の情報を集めさせ、三年後にその機会を得、早くに好機が訪れ、始末が出来ると歓喜に震えて跳び掛かってみれば、虹介に邪魔をされて叶わなかった。

 二日後に講習が終わり、虹介が大穴熊を倒した現場で、虹介の前で英次と、防護眼鏡と布を外した志川が対峙していた。

「四宮、あの時に敵わなかった俺に対して勝てるとでも思っているのか」

「フン、偽名だって分かっててその名を呼ぶな」

 青鉄あおがね製の大太刀を光らせ、切先を英次に向けた。英次は徒手で相手をするようだ。虹介は自分がこの場にいる事が不思議でならなかった。

 そんな虹介を余所に、志川が中段に構えたまま突進したが、三歩目で虹介が志川の手を握って止めた。英次はその動作に唖然とした。

「戸二谷ぃ! 見届けさせるために呼んだのに、止めるなよ!」

 志川の怒号が響く。

「命は大事にしないとな」

「負けねぇっつーの!」

「オレにこうして止められている時点で勝ち目はないから諦めろ」

 顔を悲痛に歪ませた志川の手から、虹介が大太刀を取り、脇に置かれていた荷物の上にある鞘を手にして納刀した。

 その後、二人は何故か戸二谷家で夕食を摂り、風呂にも入り、虹介の部屋で雑魚寝をし、朝食を摂り、英次が先に帰った。

 志川は英次がいなくなるとキュウと戯れようと追い掛け回し、虹介に怒られていた。

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