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第33話 温もりと影

「組織の詳細は彼女には話したのか?」

「いや、今のところ話すつもりはありません。あいつに話せば、また首を突っ込みかねないので……アストリウスにも口止めしてあります」

「だが、奴の特異魔法については共有しておくべきだ。王宮に入り込むことはまずあるまいが、彼女が常にここに留まるとは限らん。下町へ出た際、千貌魔法で接近してくる可能性は十分にある」

「しばらくはアイツを外出禁止に…」

「…いいのか?」

「…」


咲夜の身の安全を思えば、外出を禁じるべきだ。だが同時に、彼女の自由を奪いたくないという思いもある。逡巡の末、オリファスは「奴の名前と特異魔法だけは伝えておく」という結論に至った。


話すなら早い方が良いとオリファスは足早に昨夜の部屋へと向かう。


 ガチャッ

 

「……いねぇのか?」

「咲夜様でしたらシャドウィス様のところです。コピー機なるものを作っていただいているようでどのくらい完成しているかを確認してくるとおしゃっていました」

「そうか」


 オリファスは工房へ向かおうとするとアストリウスに引き止められる。


「…咲夜に何の用だったんだ?」

「例の殺し屋、ノクトの件だ。」

「アイツに話せばまた首突っ込みかねないから黙っとくんじゃなかったのか?」

「騎士団員が行方不明になっていることは話さねぇよ。ただ奴の特異魔法に関しては話ておいた方がいいと考えただけだ。…それとお前は俺の助手なんだからな、もっと敬え俺を」

 「へぇへぇ」


 ◆◇◆◇


「そういや聞いたぞソルヴェイラ国に行った時、誘拐事件に関わって殺されかけたって」

「あぁ、あはは、はい…」

「殺し屋は捕まったのか?」

「わかりません、特に捕まったとは聞いてないので多分まだ…」


意図的に組織に関しての情報を私には伝えられていないような気がしてならない。そう悶々と考えていると工房のドアが開く。


 ガチャッ


「ノックしろ」

「…したところでアンタ大概作業に集中してて聞こえてないだろ」

「…だとしてもしろ」


開口一番、喧嘩を始める二人に私はクスクスと笑う


「ゴホンッお前に例の殺し屋の件で伝えたいことがあってな」

「…!捕まえたんですか?」

「いや…まだ捕えられたはいないがアストリウスからの情報で奴の名前と特異魔法がわかったんだ」

「…それって随分前に分かってたんじゃないんですか?それでも私には秘密に…」

「…お前に話すとまた首突っ込もうとするだろ」

「そ、そりゃあだってセレナのことを刺した男なんですから首突っ込むに決まってるじゃないですか!」


オリファスさんの応急処置と精霊魔導士さんの治療のおかげでセレナの命に別状がなかったとはいえ、彼女を傷つけた事は絶対に許さない。


「それで?アイツの特異魔法って?」

「あ?あぁ、奴の名前はノクト。千貌魔法という変幻自在に姿を変えることのできる特異魔法を使うらしい」


私の特異魔法もそうだが自身のルーツに関係があるのだろうか。私の場合は、19年間の経験から「創造魔法」になったのも納得がいくが、こちらの世界の人達は生まれた時から自分の特異魔法が決まっているのだから先の人生を左右されてしまいそうだ。

 

「姿を変えられるなんて厄介ですね…あの、王宮に入り込んできたりとか大丈夫なんですか?」

「お前なぁ、警備の厳重なこの王宮にそうそう入り込むことなんてできねぇよ。第一、捕まるリスク抱えてここに乗り込む理由ないだろ」

「そういうのあの殺し屋にはあんまり関係ない気がするんですけど…アストリウスさんのことをえらく気に入ってるみたいですし、ハイリスクだろうが無理矢理にでも入り込んできそう…」

「まぁ、それも一理あるな。と、いうかそれをいうならお前もだろ。あの殺し屋の’’お気に入り’’に入っちまったって聞いたぞ」

「…大変不名誉ですが、一発かましてやったのでそのせいですかね」


あの殺し屋のお気に入り基準は自分に一発かました人間で、性別も容姿も関係ないのだろう。ある意味平等を体現していると言える。気に入られたところで微塵も嬉しくないのだが。


次に出くわしたらどうしたもんかと私が大きなため息をついているとシャドウィスさんは工房の奥の方からデカい筒を担いで持ってきた。


「ま、まさかそれ…」

「あぁ、バズーカだ」

「バズーカだじゃないですよ…え、おもちゃですよね?ものすごくリアルな戦闘武器に見えるんですが…」

「前の救世主のやつに聞いて作ったものだ。」

「…前の救世主の人物像が全く見えないんですが。確か病弱だったんですよね??なんでこんな殺傷能力高い武器なんかに詳しいんですか…」

「さぁ?社会に鬱憤でもたまってたんじゃないか?」

「洒落になりませんって…」

「いざという時は俺がこれを使ってお前のこと守ってやるよ」


 たとえいざという時が来たとしても絶対に使って欲しくない。周囲に甚大な被害が及そうだ。


「…できればもっと小ぶりなものでお願いします」

「…そうか?」


 苦笑いしているとオリファスさんが耳打ちをしてきた


「お前も含めてモノ作りをする奴はみんなぶっ飛ん出るやつが多いのな」

「し、心外ですね私は違いますよ」

「…」


 同じ穴の狢だとでも言いたそうなオリファスさんの呆れ顔を横目に私はスケッチに戻った


「あははは…」


◆◇◆◇


しばらくスケッチした後、私はタブレットに安眠道具の絵を描き、特異魔法で生成を試してみた。

遮光カーテンに抱き枕、もこもこパジャマとシルク製のパジャマ


「ホットアイマスクも外せないけど、これは外の布地と小豆を別々に描かないと無理そうだな…」


というかまず、小豆に関しては生成することができるのだろうか。食材は未知数だ。食べ物も再現できるのか小豆だとすぐに食べて確認することができないため、私は試しにおにぎりを描いてみることにした。

 

 『『クレアーレ!(創造せよ!)』』


「見た目は完全におにぎりだ…後は食べられるかどうか…」


どんな味がするのか、そもそも食べられるものなのかも定かではないが私は意を決してガブリとかぶりついてみた。恐る恐る噛み締めてみると驚くことにモチモチで甘みがあり、とても美味しいご飯の味がした。


「食べ物もいけるんだ…」 


見た目も味も再現可能だと知ることができ、私はかなり高揚していた。この世界にはない食べ物も食べることができるかもしれないと。


「おっと、脱線しちゃいけないな。小豆作らなきゃ」

 

創造魔法で小豆を作った後、別に作っておいた布地を縫い合わせるため裁縫道具を借りようと作業に没頭しているシャドウィスさんに声をかける。


「シャドウィスさーーん、裁縫道具ってありますか?」

「ん?あぁ、裁縫道具ならそこの棚の右上だ」

「ありがとうございます」


 袋状に縫い合わせた後、中に小豆を流し込み、閉じて完成。


「後は魔法で均一に温められれば…」

「なんだそれ?」

「ホットアイマスクです。疲れ目に効くんですよ、睡眠の質が上がります…使ってみます?」


まさにシャドウィスさんのような人が使うべき代物だ。これでちゃんと眠ることができれば少しは目の下の隈も減るだろう。

 

「…あぁ」

「どうせならベットに入ってしっかり眠ってください?まともに寝てないでしょ」

「…三日前に寝た」

「今すぐ寝てください」


シャドウィスさんの背中を押して無理矢理にベットへと連れて行く


「これはどうやって使うんだ?」

「中の小豆を温めて目の上に乗せるんです」

「ほぉ…」


『『カロール・ミティス(穏やかに熱せよ)』』


温めた後、目の上に乗せて寝っ転がると気持ちようさそうにしながら段々と声が小さくなっていく。


「これは…最高、だ…な……スゥ」

「ふふ、気持ちよさそうに寝てる…これは作って作ってよかった…」


シャドウィスさんを起こさないよう、抜き足差し足忍足で部屋を後にする。作業部屋に戻ると机に突っ伏して寝ているオリファスさんが目に入る


「いつの間にか寝てたんだ…暇なら帰ればよかったのに、ここが好きなのかな?」


反対側に座り、彼をじっと眺めていると私の視線を感じたのかモゾモゾと動き始め顔を上げる。


「…ん、うぉっ!?」


 起きた瞬間、私が目の前にいたことに驚き、ひっくり返って椅子から転げ落ちる


「んふっふふふっあはっ、そんな驚きます?」

「う、うるせぇな。起きてすぐ目の前にいたら誰だってビビるだろ馬鹿」


のっそりと立ち上がり椅子に座り直すとあくびをしながら頬杖をつく。


「んで?作業は終わったのか?」

「あ、はい。まだ試作品ですけど完成しました。」

「じゃあそろそろ戻るぞ、あいつらが心配する」

「そうですね、あ、そうだオリファスさん。」

「なんだ?」

「さっき試しに食べ物を描いて創造魔法で作ってみたんです。そしたらなんとちゃんと美味しく食べられたんですよ」

「!…お前の創造魔法は食べ物でも作り出すことができるんだな…だが、無闇に人の前では使うなよ?」

「はい!もちろんちゃんとわかってます!」

「全く信用できないな…」

「えっ」

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