第32話 組織調査の行方
ネックレスをつけるようになってからエリスちゃんは普通に生活ができるようになった。
「…お前には感謝してもしきれない。あいつがあんな風に楽しそうに笑ってる姿見るのは初めてだ」
「私の方が感謝してますよ。アストリウスさんのおかげで子供達も助け出せたし、私も死なずに済みました。」
アストリウスさんは私の言葉にバツの悪そうな顔をする。
「俺がお前らを助けたのは、妹を助けるためであってお前らのためじゃなかった。だからお礼なんて言われる筋合いはねぇよ」
「そうだったとしても、結果的にアストリウスさんのおかげで助かったんですからやっぱり間違っていません。ありがとうございます。」
「…」
「それに、エリスちゃんを助けるためとは言っても会ったばかりの私の言うことを何の代償も無しに信じてくれた時点でアストリウスさんはものすごくお人好しだと私は思いますけどね。」
そう言って二マリと笑うと腕を組みながらため息をつく。
「…お前じゃなかったらそうはいかなかったろうな」
「え?」
「あんな犯罪組織にいたからか人を見る目は良かった。特に悪意の持って自分を害そうとする奴や利用しようとする奴とかはすぐに分かる。そう言う奴らとは明らかに違うと会ってすぐわかった」
「アストリウスさん…」
褒められ慣れていないが故に変な表情になってしまう。
「…お前それどう言う感情の顔だよ」
「い、いや褒められ慣れてないもんですからなんだかむず痒くて」
「本当に変な奴だな、お前」
「えへへへ…」
コンコンコン
「あ、はーい」
「咲夜様、お菓子と紅茶を持ってきました。」
「ありがとうセレナ」
「おはようございます。咲夜様」
「おはようございます。ヴァルさん」
二人は私の顔を見つめてニコリと笑う
『お二人で何を話してらしたんですか?』
「えっ何ってエリスちゃんが普通に過ごせるようになって良かったなぁとか…特に特別なことを話してたわけじゃないけど、…なんか二人とも怒ってる?」
『いえ、怒ってはいません』
そう言いつつも二人の目は笑っていなかった。
「まだ俺のことを警戒してんのか?…それとも」
途中で区切り、ニヤリと二人を見る。私には分からない二人の感情が見えているようで少しムッとしてしまう。アストリウスさんのその言葉に二人は気まずそうに咳込みしながら話題を逸らす。
「ゴホンッ…そういえば、アストリウス様これからどうなさるんですか?」
「もしかして、出ていって欲しいのか?残念ながら、ここで働かせてもらうことになったよ」
「私がオリファスさんに頼んだんです。何とか王宮で働かせてもらえないかって」
「なぜ咲夜様がそこまで…」
「エリスちゃんに何かあった時ここにいた方が対応できるし、ここで働いた方が何かと都合が良いかなと思ったんです。」
オリファスさんも頼んだ時、少し怪訝な表情をしていたがなんだかんだ国王に掛け合ってくれた。
「俺の幻術魔法は有益だと判断したんだろう。ま、当分はタダ働きだけどな。犯罪組織に与してたんだから処刑されないだけマシってもんだ。エリスと俺の衣食住を賄ってくれるってんだからありがたい」
「オリファスさんと同じように魔導師として働くんですよね?」
「まぁ、あいつの助手みたいなもんだけどな。俺に特別な権利なんて与えられてねぇし」
信頼できる人間がすぐそばにいるというのは異世界から来た私にとって心強いものだ。
「あ、そうだ。この間、第一王子に会った時安眠道具を作る約束したんだった。何を作ろうか考えないと」
「咲夜様は本当に、働かなくても良いと言うのに自分からせっせと働くんですからもうっ!」
「だって…何かしてないと落ち着かないし暇なんだもん」
こちらの世界に来てから創作意欲が湧いてくるのはきっと「創造魔法」のおかげだろう。正直言ってどこまでのモノを作ることが出来るのか定かではないため、自分の創造魔法で作ることができなければシャドウィスさんの力を借りることになりそうだ。
「そういえば前にシャドウィスさんにお願いしてたコピー機無完成してたりするかな?ちょっと聞いてくる!」
いろんな道具が揃えば創作の幅も広がる。私自身が作ることができれば良いのだろうが、いかんせん複雑な工作ができる能力がないというのがもどかしい。私が学んできたものはそれらの道具に頼りきりなため、もっと勉強しておけば良かったと後悔ばかりが溢れてくる。そんなことを思い出しながら私は意気揚々と廊下を駆ける。
「…そういや、組織の調査は進んでいるのか?俺が渡せる情報は全部渡したと思うが」
「鋭意捜査中ですが、なかなか尻尾を掴めないようです。あの時、緊急包囲網を敷いたのにも関わらず殺し屋を捕らえることはできませんでした。面は割れているのにこうも情報が集まらないとは…」
「無理もない。あいつの特異魔法は『千貌魔法』つって変幻自在に姿を変えることが出来るからな。まさに暗殺者向きの能力だ」
「そうは言っても魔力量に限りがある限り、どこかで魔法を解いているはずです。」
「どんな人間でも魔法を使えば痕跡が残る。だから普段から魔法はあまり使わずアイツは暗殺術のみで都合の悪い人間達を殺してきた。大きな関門を切り抜ける時以外は滅多に千貌魔法は使わないはずだ。身を隠すのは得意だからな」
「…ヴァル様、咲夜様の護衛をもっと増やしませんか?あの殺し屋は咲夜様のことを狙っているかもしれないんですよね?」
「そうですね…例の聖務官の件もありますし。」
◆◇◆◇
コンコンコン
「ん?あぁお前かどうした?」
「いえ、前にお願いしたコピー機ってどのくらいできてますか?」
「スマホの方を優先して作ってたからまだ5割ってとこだな」
漫画やポスターなどを作りたいと思い、同じものを大量に複製するためにコピー機をお願いした。複製魔法があることにはあるが、コピー機があった方が楽なのでどうしても欲しいのだ。
「あと、今度第一王子とフィルグレイン様に安眠道具を作ることになって…私の創造魔法で思ったように作ることができなかったらまた手伝って欲しいなぁって…」
シャドウィスさんは頭をポリポリと掻きながら椅子に腰掛ける。
「また寝れなくなりそうだな」
「すいません…あはは…」
私はスケッチブックを手に取る。
「あの、シャドウィスさんここで作業しても良いですか?ここ、落ち着くので…」
「別に構わない」
どんなものを作ろうかと想いを馳せ、筆をはしらせる。
「安眠道具の定番といったらホットアイマスクだよなぁ。でもそれくらいだったらわざわざ創造魔法使わなくても作れれるか…あとは遮光ドームや遮光カーテン、抱き枕…ブツブツ」
ブツブツと独り言を呟きながらスケッチをしているとシャドウィスさんがじっと自分を見ていることに気づく。
「…なんですか?シャドウィスさん」
「ん?あぁいや俺と同じようにモノづくりをするような人間はあまり周りにいないからこうして一緒に作業するってのは久しぶりだなぁと思ってな」
「確か、シャドウィスさんのお祖父様とお父様も同じようにここに勤めていらしたんですよね?今は…?」
きっとシャドウィスさんと同じようにモノづくりが好きな人達だろうし、ここで一緒に働いていないのはなぜだろうと以前から少し気になっていた。もしかして…
「爺さんも親父も腕が立つからな、全国から引っ張りだこなんだ。小さな依頼でも受けてるし、王宮に勤めていたのは製作するのに必要な道具や材料が国から用意してもらえるってのと依頼がもらえるっつう理由でいただけだ。モノを作れるってんならどこにでもいくからな。ここには俺がいるし」
「さすがですね…というかシャドウィスさん達が長命種だったのすっかり忘れてました。」
「はっ、死んでるとでも思ったのか?ま、爺さん達は簡単に死にやしないと思うがな」
シルヴィアさんもシャドウィスさんも大きな隈をこさえて今にも死にそうな割には謎に生命力がみなぎっているという感じだ。それだけ好きなことというのは生きる理由になるんだろう。
(死にそうになってるのもその好きなものが理由だけど…)
◆◇◆◇
「ご自慢の騎士団はまだ組織の情報をつかめていないんですか?国王様」
相も変わらず、オリファスは国王に対して不遜な態度を取る。こんなことをして不敬罪にならないの彼くらいだろう。
「アストリウスからの情報やお前達の報告でどんな組織かはわかったが、足取りはつかめていない。」
「咲夜のメイドを刺したあの殺し屋は特に要注意人物です。奴のことは?」
「奴の名前はノクト、本名かはわからんがな。『千貌魔法』という特異魔法を持っており、変幻自在に姿を変えることが出来るらしい」
「それは厄介ですね…」
「…最近、何人か団員が行方不明になっているそうだ。そいつの仕業かどうかは定かではないが腕の立つ宮廷騎士や王都警備隊の人間を消しているかもしれないと考えると下手に手出しできない。なるべく複数人で行動するように徹底してはいるが…」
「組織に近づけば近づくほど危険っつうことですか…」




