第31話「飾らない美しさ」
「息抜きできていらっしゃっていたというのに外交問題を話題に出してしまい、申し訳ありません。」
「いや、救世主である君にも近いうちに報告しなければならないと思っていたからね。そういえば君は装飾品の本を読んでいる様だが、…好きなのか?」
ほんのわずかだが、第一王子の笑顔が曇ったように見えた。
「嫌いではありません。装飾品に限らずですが意匠にロマンを感じるんです。」
「…ロマン?」
思っていたような返答でなかったのかあっけからんとした表情を浮かべていた。
「それに今日は趣味のためではなく、ある魔道具のデザインに必要な資料を集めているところなんです。」
「魔道具?…あぁ、例のディヴィニア元構成員の身内が患っているという魔力散逸症のための魔道具か。」
「はい。」
「…君は随分と人助けが好きなようだね。」
「私は、そこまでできた人間じゃありません。ただ、約束を果たそうとしているだけです。脱出に協力する代わりに妹の病気を治せるよう取り計らって欲しいと約束をしたので。」
「…律儀だな。」
視線を外し、眉を顰めた第一王子を見て何か粗相したのかと冷や汗が止まらない。
「申し訳ありません、何か失礼なことを申し上げましたでしょうか。」
「いや、すまない。そういう訳ではないよ。…ただ近頃、あまり疲労が取れなくてね。」
王族と言っても私と同じ人間であることに変わりわない。だが、王族である以上国を背負う任から逃れることはできない、逃げたいと思っても逃げられないというのは想像するだけでも辛くなってしまう。
「公務が忙しく、睡眠の時間があまり取れていないんですか?」
「3時間ほどは取っているよ。」
「さ、んじかん?ですか?」
それは最早、睡眠時間というか仮眠レベルであって疲れが取れないのは当たり前だ。
「…失礼ながら3時間では睡眠時間とは言いません。それは仮眠というのです。3時間睡眠を続けていたら体が保ちません!」
思わず声を張ってしまってから気づいた。王族に対してこれは不敬罪にあたるのではないかと。
「こ、声を荒げてしまって申し訳ありません。」
「あはは、いや構わないよ。全然。」
「対症療法ですが、安眠道具を私に作らせていただけませんか?公務のお手伝いはできませんが、せめて…」
「それはありがたいね。じゃあ、頼むよ。…できたらヴェリネの分も作ってもらえないかな?」
「ヴェリネ様というと第一王子のご婚約者様、ヴェリネ・フィルグレイン様ですか?」
「あぁ、彼女も僕と同様に公務に追われていて中々寝付けないらしい。」
「フィルグレイン様のことお大事になさっているんですね。」
「…君が想像しているような感情を僕は彼女に持ち合わせてはいないよ。」
「そ、れは…政略結婚だからということでしょうか?」
「いや、そうではない。互いに恋情を抱いていないというだけであって、忌み嫌っている訳ではないんだ。彼女は有能でこの国にとって必要な人材だからね。良いビジネスパートナーであると思っているよ。彼女も私も今まで誰に対してもそういう感情を抱いたことはない、だからお互いに都合が良かったんだ。惚れた腫れたは公務に支障をきたす。」
第一王子として教育されてきたが為に恋心を抱くことを忘れたというような感じではないようだ。おそらく第一王子もフィルグレイン様もアロマンティックかアセクシャルなんだろう。
「誰かを想う心は恋情だけじゃありませんからね。共に国を背負う同志として良い関係を築けているというのはとても良いことだと思います。お二人が居れば、この国は安泰ですね。」
「…そんな事は初めて言われたよ。私達は社交界で’’仮面夫婦’’なんて呼ばれているからね。」
「それほどお二人が優秀で隙がないということですよ。」
「…?」
「人は、自分に理解できない関係性には、名前を貼って安心したがるものです。」
そう言って笑うと第一王子もクスリと笑う。
「貴方のような方が我が国の救世主で心強いよ。今度、ヴェリネにも君の事を話しておこう。きっと気に入る。」
「身に余る光栄です。」
「…不思議だ。こんな話、今まで誰にもしたことがなかった。弱さを見せればつけこまれかねないからな。」
「同じようなことをヴァルさんも言っていました。」
「君の聖務官か。もしかしたら君には人の心を開く才能があるのやもしれないな。」
「いえ、そんな、悩みは…他人の方が話やすいというだけだと思います。」
この世界の人達は私達の世界よりもはるかに足の引っ張り合いの多い世界なのだろう。自分の内を曝け出して信用できる相手などそうそう見つけられないと誰もが思っている。出世欲などさらさら無い異世界人である私だから心配なく話せたというだけであって信頼されている訳ではない。…こんな風に卑屈な考えしか浮かばない自分にもほとほと嫌気がさす。
「君の仕事の邪魔をしてしまって悪かったね。私はそろそろ失礼するよ。」
「いえ、お話をしていただけて光栄でした。嬉しく思います。」
話し始めた時よりも気持ち、晴れやかな笑顔で第一王子が図書館を後にした。私は図書館に残り、参考になりそうな装飾品のデザインをいくつか描き写してから部屋へと戻った。
「お帰りなさい、咲夜様。参考になりそうなデザインは見つかりましたか。」
「はい、見つけたは見つけたんですが…」
私は王宮図書館にて第一王子にお会いしたことをヴァルさんやセレナ、オリファスさんに話した。
「第一王子とお話しするなんて、不敬なことを口走らないかビクビクしてしました。」
「基本的な礼儀作法は教えましたから余程のことがなければ不敬罪になんてなりませんよ。第一王子は聡いお方で器も大きいですから。」
「…それは話していてわかりました。」
話さずともわかっていた。パーティーで一目見た瞬間、第一王子もヴェリネ様も只者ではないと。
「そういえば、魔道具の機能に関してはどうですか?」
「必要なものは揃いました。あとは微調整だけです。ただ複雑な構造上、無駄な部分を削ったとしても一番最初に作った試作品よりも魔石は大きめになりそうですね。」
「魔石の属性によって色が違うみたいですけど好きな色に変える事ってできるんですか?」
「えぇ、できますよ。属性を変える事はできませんが色だけを変えるくらいなら簡単にできます。」
「良かった。じゃあ、魔石はどのくらいの体積が許容範囲内ですか?」
「最低限、胡桃大ほどの体積は欲しいですね。」
最低限って事は余裕を持って一回りほど余裕を持った大きさにした方が良いか。
「わかりました。それを考慮して私も試作品を作ってみます。ペンダントトップに使う魔石の大きさの最終確認お願いしてもいいですか?」
「はい。」
その後創造魔法でいくつか試作品を作り、型をとって魔石を溶かし流し込んでペンダントトップの形を作った。
普通だとペンダントトップに使う鉱石は研磨などの加工によって整えるものだがこちらでは溶かして成形することの方が多いらしい。
翌日、数種類作った中からエリスちゃんに好きなものを選んでもらうことになった。
「すごい…!どれも素敵で迷っちゃいます!」
そう言って、彼女はじっくりと見ながら熟考していた。そして、一つのネックレスを指差す。
「これがいいです!一番最初に作ってくれたハートのネックレスも素敵だったけど、なぜだか、このお花のネックレスにとても惹かれました」
選んだのは花形のベゼルシャトンの中心にピンク色の魔石をあしらったものだった。
「この花は’’エリス’’って名前の花。エリスちゃんと同じ名前のお花だから選んだの」
「私と同じ…」
嬉しそうにネックレスを首に下げると彼女は私の手を握って涙を流す。
「グスッありがとうございます…!とっても嬉しいです!こんな素敵なモノつける余裕なんて今までなかったから…」
ずっと寝たきりでおしゃれをしたことがなかった彼女にとって初めてのアクセサリー。
「…これからはもっともっとたくさん楽しいことが出来るよ」
「はい…!」




