第71話 愛しい人の本音(レオンハルト視点2)
「お嬢様、先ほどは申し訳ありません」そういって、状況を説明してすぐ屋敷を出るつもりだった。けれど、彼女に手を振り払われた瞬間。
明らかな拒絶に息が止まりそうになった。
すぐにこの場から撤退しなければならないというのに、彼女の拒絶が酷く胸に突き刺さる。
理解していたはずだ。
彼女は聡い子だと。だから僅かな殺気に気づいたのだろう。慕っていた者が実は利用していたなどと知れば、当然の拒絶だ。
(これは報いだ。私が安易な感情に流された結果、失いたくない人への信頼を自分で壊したのだから……)
「んー。レオンハリュトはにゃんで、わたしを殺したいの? ふくりゅうだから?」
核心を突いた言葉に、私は目を見開いた。
いつから気づいていたのだろう。なんとなくそんな予感はしていたが、このタイミングで聞かれるとは思っていなかった。
(仮にお嬢様が私の復讐に気づいても、生誕祭までは何も言わないと思っていたのが甘かったですか……)
「キャベンデニッシュ家が、憎いから? にゃんじなきゃぞくとりょーどを奪ったからぁ?」
「お嬢様?」
もしかしたら熱が出て、溜め込んでいた感情が噴き出してしまったのかもしれない。復讐者だと気づいていたのなら、悪夢というのも私が原因な可能性もある。
そんな当たり前なことにさえ、私は気が回っていなかった。あと少しでキャベンディッシュ家を潰せる。その感情が──いや。違う。そうじゃない。
私はもうキャベンディッシュ家のことよりも、アイシャの隣に私以外の誰かがいる姿を見ることが嫌だったのだ。ゆっくりと距離を縮めていくアイシャと宰相の息子の姿に目が潰れそうだった。心が痛くて苦しかった。
私が先に見つけたのに。
理不尽で大人気ない。
「レオンハリュトが、ふたりに増えた。あははは」
「熱はない。熱でなければ一体……」
「わたしの質問に答えにゃさい」
ぽかぽかとアイシャは私の胸元を叩く。まったく痛くもない。けれど胸の奥がズキズキと痛んだ。この細い肩を抱きしめられたら、どれだけいいだろうか。
抱きしめて自分の想いを曝け出せたら、どれだけ救われるだろう。十八歳になるまで待つといいながら、堪え性のない。
「お嬢様、暴れないでください」
「やだ。レオンハリュトが私に優しくするのはぁ、キャベンデニッシュ家にふくにゅうする為のお芝居なんでしょうぉ! おみとーしなんだから」
心臓を貫かれたような痛みが、衝撃が走った。
アイシャはすぐ傍に居るのに、なぜこんなにも遠く感じたのか──理解した。
「…………それを、ずっとお一人で悩んでいたのですか?」
愛している想いが先だったとしても、それは私だけの感覚だ。アイシャがキャベンディッシュ家を潰すなら利用しようと思ったのは後からだったとしても、彼女の受け取りが私と同じな訳はない。むしろ最初から利用するために近づいたと思う方が自然だろう。過程はどうあれ、事実なのだから。
不純すぎる想いなど、届くはずがない。
「そーですよ。だってじゃなきゃ、レオンハリュトみたいなカッコいい人がぁ、私を好きににゃるわけにゃいものぉ」
「そんな訳あるのですよ」
こつん、とアイシャの額を重ねた。
想いが届いていない。これほど胸が切り裂かれるほど辛いことはないだろう。今更、言葉を重ねても嘘にしか聞こえないのだろうか。
「……ああ、でも、そうですね。貴女を利用としたのは事実で、貴女を殺したいと思ったのも間違いなくて、貴女を愛しているのも本当です。だからこそ私はルーク殿のように、貴女を純粋に想えなかった」
「るーくさみゃ? あの方も私にこーいを寄せてにゃいですよ~。だって、未来で私をしょーけいだいに送るんですからぁ~」
「それも夢で?」
「そんにゃ感じです~」
「…………」




