第68話 それは偽りか真か
「……ああ、でも、そうですね。貴女を利用としたのは事実で、貴女を殺したいと思ったのも間違いなくて、貴女を愛しているのも本当です。だからこそ私はルーク殿のように、貴女を純粋に想えなかった」
「るーくさみゃ? あの方も私にこーいを寄せてにゃいですよ~。だって、未来で私をしょーけいだいに送るんですからぁ~」
「それも夢で?」
「そんにゃ感じです~」
「…………」
「なのでぇ、私は誰にも……ううん。レオンハリュトに殺されないように、逃げますぅ」
天才的な閃きだった。なぜ今まで考えが及ばなかったのだろう。二人とも死なないで済む方法。
「え?」
「逃げます。えへへ」
「お嬢様。逃げるとは? 私の殺意に気づいていたなら、ロロかナナシに相談すれば……」
「そしたら貴方が死んでしまうでしょう。レオンハリュトが死ぬのは嫌。でも私も死にたくないのぉ」
「は、はあ……」
「捕まらないよーに、傍から離れて、いっぱい逃げるの。ずっとぉ!」
戦略的撤退。なぜ思いつかなかったのだろう。ありとあらゆる魔導具と魔法を駆使して逃げ切る。
生誕祭が終わったら、旅を考えていたのでちょうどいい。なんて言い考えなのだろう。なぜ今まで気づかなったのか。
「お嬢様と、ずっと離れ離れに……?」
一気に血の気が引くレオンハルトだったが、私はそれも演技だと思った。つくづく役者だと感心してしまう。深刻そうな顔も、震える唇も、全部偽物だってわかってる。傷ついたように見えるのは、私がそうであって欲しいと願っているから。
「そうにゃの。会話もしないで、すたこらサッサするのぉ! こんなに近くにいることもぉ、笑いあうこともないけどぉ、これなら誰も死なないもの」
会話をしてしまったら、逃げられない気がして。
また柔和な笑みに騙されてしまう。熱のこもった視線で勘違いしてしまう。もしかしたら、演技じゃなかった部分もあるのではないか、と希望を抱いてしまうから。
「お嬢様、そんなのは嫌です。……そんな日常など耐えられません」
なぜレオンハルトが駄々をこねるのかわからない。殺したいくせに。
私を利用しただけのくせに。私はだんだんムカムカしてきた。いい気分が台無しだ。
「だって、レオンハリュトは私を殺したいのでしょう?」
「そんなことより、貴女と一緒に居られない方がよっぽど辛いです! どんな拷問よりも耐えられない」
「じゃあ、私のことぉ、殺さない?」
「殺しません! 貴女だけは失いたくない。貴女はキャベンディッシュ家の呪いが見えない。だから、アイシャ。貴女だけは復讐の対象外です」
そんな訳無いのに。私は間違いなくキャベンディッシュ家の血を引いている。嘘をつくならもっと上手な嘘をついて欲しい。
「嘘つき……」
「アイシャ……」
でも本当なら──私はこの家の子じゃないの?
そう思って私は重たくなった瞼を閉じる。急な眠気。なんでこのタイミングで眠くなるのだろう。
(ああ……駄目だわ。本当に意識が保てな……い)
「アイシャ……!?」
(ああ。こういう時だけ……名前をよぶ……なんて、本当に……ずるいわ)
これもまた予知夢の一つなのだろうか。思考がまとまらなかった。
ただ一つ。耳に残った言葉が私の心に響いた。
「名前、はじめて……呼んでくれた……」
たったそれだけの事が嬉しくて。
残酷な夢だと私は改めて思う。次に目が覚めたら私はまた深夜なのだろうか。
生誕祭の一週間前まで、ずっと続くのかと思うと気が滅入る。
耳元で「愛しています」と言った言葉は、やっぱり悲しくて私は頬から涙が零れ落ちた。
***
次に目を覚ましたのは、お日様が真上に来る頃だっただろうか。
夜中に起きることはなく、熟睡だったようだ。心なしか気分もすっきりしている。ただ──なぜか目が腫れているし、赤い。昨日泣いたのだろうか。
昨日の記憶を振り返ろうとするが、頭に靄が掛かって全く思い出せない。
「んー。頭が痛い……」
「お嬢様!」
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