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第67話 聞きたくても聞けなかったこと

(それにしても、なんだか眩暈(めまい)が……? 頭がふわふわするのは……いったい)

「お嬢様、顔色が悪いようですが大丈夫ですか?」


 レオンハルトの手が伸びる。繰り返される悪夢の映像が蘇り、私は既視感(きしかん)を覚え──反射的に彼の手を払ってしまう。


「!」

「あっ……」


 レオンハルトは優しく微笑む。その顔は酷く傷ついた顔をしていた。

 悪夢の中で何度も彼は、そんな顔をしていたのを思い出す。

 復讐が果たせるのに、嬉しくなさそうな。辛そうな顔をしていた。私を殺した時もそうだ。それが彼の望みなら、笑っているはずなのに、泣いているような気がして。私も胸が痛くなった。


「いえ。差し出がましいことをいたしました。……使用人に準備が出来たかどうか、確認してまいります」


 踵(きびす)を返す彼に、私は手を伸ばす。このままではダメだと直感が働いたのかもしれない。燕尾服(えんびふく)の袖(そで)を掴んだ。

 そう袖を掴んだのだが、思いのほか勢い余って彼の背に抱きつく形になってしまった。


「……! お嬢様?」

「……相談、聞いて欲しいのだけれど」

「お嬢様」


 レオンハルトは目を細めると、振り返って私の手を掴んだ。その手は大きくて、温かい。心なしか私の頬も熱を感じる。急に立ち上がったせいか、なんだかとても体が熱いし、舟をこぐように体が揺らぐ。

 なんとも不思議な気分だ。


「あ、ええっと……」


 こんな時にうまく言葉が出てこない。でも聞きたいことがあったのだと思い出す。ずっと悪夢を見続けて思ったこと。言えなかったことが、今なら言えそうな気がした。

 彼に聞きたかった事は──。


「レオンハリュト(レオンハルト)はにゃん(なんで)で、わたしを殺したいの? ふくりゅう(復讐)だから?」

「なっ……」

(あれ? ……これ本人に言ったら一番まずいんじゃ……)

 

 核心(かくしん)を突いた言葉だったが、私の声はどうにも舌足(したた)らずになってしまう。いつもはもっと滑舌(かつぜつ)がしっかりしている筈なのだが、どうにも口が回らない。

 というか言葉が勝手に溢れ出てくる。


「キャベンデニッシュ(キャベンディッシュ)家が、憎いから? にゃんじ(大事)なきゃぞく(家族)とりょーど(領土)を奪ったからぁ?」

「お、お嬢様?」

(ああ、もう! こうなったらヤケよ!)


 レオンハルトは私の額に手を当てる。いつの間にか私の傍にはレオンハルトが二(・)人(・)に(・)増(・)え(・)て(・)い(・)た(・)。分身だろうか。この偉丈夫(いじょうふ)は、本当に何でもできるものね。


「レオンハリュト(レオンハルト)が、ふたりに増えた。あははは」

「熱はない。熱でなければ一体……」

「わたしの質問に答えにゃ(な)さい」


 ぽかぽかと私はレオンハルトの胸元を叩いた。今ならいろんな本音を言えるような気がした。──というかどうでもいい。自暴自棄(ヤケ)だ。いつもなら制御できる気持ちも、今は坂道を転がるように止まらない。


「お嬢様、暴れないでください」

「やだ。レオンハリュト(レオンハルト)が私に優しくするのはぁ、キャベンデニッシュ(キャベンディッシュ)家にふくにゅう(復讐)する為のお芝居なんでしょうぉ! おみとーし(お見通し)なんだから」


 自分で口に出しながら胸がジクジクと痛んだ。自分で言っていて自分にダメージが返ってくる。


「…………それを、ずっとお一人で悩んでいたのですか?」


 気のせいだろうか。レオンハルトの声が震えているように聞こえた。

 うん、気のせいだろう。だって、彼はそんな姿を見せないもの。いつだって私をからかって、愛を囁(ささや)いて──甘くて我儘(わがまま)で掴(つか)めないな人だもの。

 彼の本当がどれなのか、私にはわからない。

 分からなくなってしまった。


「お嬢様」

「そーですよ。だってじゃなきゃ、レオンハリュト(レオンハルト)みたいなカッコいい人がぁ、私を好きににゃ(な)るわけにゃ(な)いものぉ」

「そんな訳あるのですよ」


 こつん、とレオンハルトと額がくっつく。彼の声はとてもか細く掠(かす)れて聞こえる。


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