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訳あり侯爵令息のお世話をしていたら、なぜか旦那様に気に入られました  作者: 白キツネ


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8.ちょっとした思いつき

 レオン様の部屋を出ると、掃除道具を抱えた侍女が驚いたように私を見る。


「あっ! エレナ! もしかして、若様って今は部屋に居ない!?」

「いいえ、ちょうど朝食を食べてもらったところですが?」


 そう言う私に、彼女——ローラは露骨にがっかりした様子を見せる。そんな彼女を不思議に思っていると、ふと思い当たることがあった。


「もしかして、レオン様のお部屋の掃除でしょうか?」

「そうなの。様子を見て来てって言われちゃって……」


 ローラはそう言いつつ振り返る。私も彼女の視線の先を追うと、ローラと同じように掃除道具を抱えた侍女が2人ほど見え、ある考えが思い浮かんだ。


 もしかして、私がレオン様と外に出れば掃除をしてもらえる?

 

 あの部屋で掃除をして埃が舞い上がらないわけがない。だから、レオン様がいる状態であの部屋の掃除をするのは論外だ。

 どうにかしてレオン様が人と合わない時間帯を見つけて外に行ってもらわないといけないと思っていたけど、これなら……


「ローラ、レオン様の掃除って昼食後でも大丈夫?」

「別に時間は大丈夫だけど……だって、今日はほぼここに待機だし……でも、掃除って若様がいらっしゃる間に?」


 そう言われ、今までレオン様がお手洗いなどで部屋から出る度に慌てて掃除をしていたのだと推測する。それも数週間置きに……


 どおりであの惨状になるわけだ。そして今日もその手筈だったのだろう。

 

「いえ、掃除の間は私がレオン様と一緒に外にいます」

「……外?」

「はい、お庭などに行こうかと」


 ローラが訝しげに私を見るが、私はこの方法が一番上手く行くと思う。お庭なら人と会う機会もほぼゼロに近いはず。そんな私の発言に、ローラは目をキラキラさせて私を見る。


「……レオン様が部屋から出てくださるの!?」

「これからお願いしてきます!」

「まだ決まってないの!?」

「大丈夫ですよ。たぶん!」

「たぶんって……」


 先ほどの驚きから一転、呆れた声が返ってきたけれど、今のところ他に方法は思いつかなかった。


「とりあえずお話ししてきます! 少しだけ待っていてください」


 そう言い残し、レオン様の部屋の扉を二度ノックをした。


「……誰?」

「エレナです。レオン様、入りますね」

「……どうぞ」


 渋々と言った感じだが、やはり許可をもらえるようになった事に嬉しく感じつつ扉を開ける。

 レオン様はベッドの上で本を読んでいた顔を上げ、私をまじまじと見る。部屋を出てちょっとしたらすぐに帰って来た私に警戒しているのが一目でわかった。


「昼食後、レオン様のお部屋を掃除します」

「嫌だって言った」

「はい。ちゃんと覚えています」

「じゃあやらなくていいだろ」

「それとこれとは別です」


 レオン様が本を閉じ、不満そうにこちらを見るが、部屋を見回せばやはり埃は気になる。窓枠だけならまだしも、家具の下や棚の隅までこのままにしておくのはよくない。


「掃除をしている間、私にお庭を案内していただけませんか?」

「……どうして僕が」

「あら、将来この侯爵家を継ぐお方が専属侍女にお庭の案内もできないなんて……」

「できないなんて言ってない!」


 ふっ、チョロい。


 レオン様も自分が言ってしまった事を自覚したのか、慌てて口を開けるが、私の目的は既に達成しているため待つつもりはない。


「まっ……」

「では、昼食後に。楽しみにしていますね」


 部屋の中でレオン様が何かを叫んだ気がするが、私は気にする事なく部屋から少し離れたところで待っていたローラたちの元へと向かう。


「エレナ、どうだった?」

「バッチリ! 昼食後にお庭に行くから、徹底的にお願い!」


 ローラたちがしっかりと頷いたのを確認し、今度は侍女長の元へと向かう。


 昼食後の時間、お屋敷の庭に人がいる事はほとんどないとわかっているが、こればっかりは侍女長に相談して可能な限り人を近づけないようにするべきだろう。


 そう判断してのことだったのだけれど——


「あなたはまた、そんな唐突に……」


 これがレオン様の部屋の状況と今の流れを侍女長に伝えた後のセリフである。

 

 頭痛を堪えるように、目尻を抑えて上を向いながらそれだけ絞り切るようにそう言い放った後はだんまりしている。

 まるで私が頭痛の種であるような態度には納得いかないが、唐突な事だけは事実なので我慢する。

 けれど、一言だけ言わせてもらえるなら、今まで最低限にしか掃除ができなかったこの体制が問題だと思う訳です。

 ……直接は言えませんが。

 

 そんな私を放置して、侍女長は多くの紙を引っ張り出し、一枚の紙を見て手を止めた。


「……何かありましたか?」

「いえ、これもいい機会かもしれませんね」


 侍女長が何を気にしているか分からず、首を傾けるが、今回は説明してくれる気はないらしい。

 侍女長は紙を片づけ終わった後、私を見る。


「時間は昼食が終わってすぐでしたね?」

「はい。食後の運動も兼ねてでちょうどいいかなと」

「その時間なら構いません。ですが、くれぐれも気をつけてくださいね」


 何に気をつけるのかはわかっている。レオン様の身体能力の強さ。そして、これ以上レオン様を苦しめないようにという意味が含まれている事もすぐにわかった。

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