04 混乱
森田の死体が発見されてからおよそ2時間。まだ虚ろな目をしている者も多い。
友人が突然死ぬ。それだけでも学生の精神は強く揺さぶられる。そのうえその犯人が自分の目の前にいるかもしれないという緊張が、当人以外の胃をきりきりと締め付ける。
「私、部屋に戻る」
村重が重々しい口を開く。花村が返す。
「それ殺される奴じゃん。みんな一緒にいたほうがいいよ。そしたらお互いを見張ってられるし」
再び沈黙が腰を下ろす。
何時間にも感じられる虚無の末、村重は何も言わず自分の部屋に消えていった。これを皮切りに、各々部屋に戻っていく。
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202号室。他の部屋と似た作りの部屋だが、金井の存在がここが金井の部屋だと告げている。
ベッドに座り、考えごとを始めようとした、が何かを考えることはなかった。
扉の前に、古村が立っていた。恋人であるし、別におかしいことではない。ただ古村は、苦痛に顔を歪めている。
「こんなこと、誘ってごめんね…。あたしが誘ってなかったら森田君も死んでなかった」
どんだけ優しいんだよ。自分だって怖いはずなのに、俺と森田のほうを心配してる…。
金井もやはり感情を抑え込み、男らしいところを見せようと必死だった。立ち上がり、古村に歩みよる。
「游は悪くない。全部やったやつが悪いんだ。さっさとここを出る方法を見つけよう」
金井の力強い胸板を前にして、古村は少し安堵した様子だった。
金井と古村は連れ立って窓のほうに歩いた。窓はそもそも開閉式ではなくただ明かりを取り込むだけの透明なガラスだった。それも汚れてほとんど仕事をしていない。部屋の中は日中でも薄暗い。
力づくで叩き割ったとしても、ここは二階だ。飛び降りることなど到底できようもない。
そして一階には窓はない。正確にはありはするが、高さがある上にこれも開閉式ではない。それに細長いタイプなので人が通ることもできない。
「非常階段は?どこにあるのかな」
唐突に古村が鋭くなった。金井と会話したことで少しずつ心がほぐれてきたのかもしれない。
扉を開け、廊下に出る。誰もいない。部屋には一応窓があったので多少見える状態だったが、廊下はそうもいかない。完全な闇。だがある程度目は慣れていた。
先が見えない通路を延々と歩いていく。古村はふるえる手で金井の袖をつかんでいる。金井の胸は高鳴る。
しばらく進むと壁が見えた。非常階段は…。
「ここ!あるよ、扉!」
ようやくここから出られる、と思ったのもつかの間、すぐに二人はその扉が微動だにしてくれないことに気づいた。
「鍵…游、昨日持ってたやつは?」
「菜津ちゃんに渡した」
「あいつの部屋番号は」
「確か201」
二人は並んで来た道を引き返す。
201号室の扉を開く。古村が金井を手で制止し、中に入っていく。
10秒ほどで古村は出てきた。
「寝てる。疲れてるだろうから起きてからにしよ」
「じゃ、いったん部屋に戻るか。夕方くらいになったらもっかい出てきて」
金井は背を向けてドアノブに手を伸ばす。届かない。後ろを振り向くと古村が泣きそうな顔でシャツの裾をつかみ、呟く。
「ひとりにしないで……」
廊下には誰もいない。古村の息遣い以外に誰も音を発さない。
金井は、胸の内にこみあげてくる何かを感じた。そしてこれを我慢するのはお互いにとってマイナスになると判断する。
金井は扉を開け、古村の真っ白い手を取った。




