05 夜宴
”それ”は、独り思索する。
この舞台において”黒幕”といえるそれは、次なる欲望のための犠牲者を選ぶ。
...。
決まったようだ。今夜、彼女は”それ”のための贄となることだろう。
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真っ先に自らの部屋に退いた村重は、解散から1時間以上経っても必死に嗚咽を飲み込んでいた。ここで吐いても誰かに見られるわけではない。だがそれほどまでに動揺している自分が嫌だった。
ふう、ふ、はぁぁ。
乱れた息を押さえつけ、深呼吸をする。水のペットボトルのふたをひねり、喉に直接流し込む。ぬるい水が食道を駆け抜けると、少し頭がすっきりしてきた。
鮮明になった頭でもう一度考える。森田が殺されたこと。殺人鬼が身近に潜んでいること。
やっぱりだめだ。
気持ちが悪くて腹もすかない。何もできないし、したくもない。そんな虚脱感が村重の方に乗っかっていた。
慣れた手つきでスマホの画面を点ける。12時22分。ネットは入らない。彼女は溜息を一つ吐き出すとスマホを放り投げ、枕に顔を埋めた。
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金井の部屋。部屋には金井一人だが、ベッドにはかすかに古村の香水の匂いが残っている。
こんなことをしていていいのか。金井は自問自答する。
結局金井の部屋は古村の黄色い喘ぎで満たされ、彼らはそれを楽しんだ。
外まで聞こえていたかはわからない。でも。
罪悪感が芽をだした。
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夕方。金井と古村が約束していた時間が来た。金井はその時間ちょうどに廊下に出、扉が開くのを待った。
5分経った。どこの扉も開かない。
(游はルーズな子だから、これぐらいは平常)
10分経った。どこの扉も開かない。
(おかしい。5分は遅れても10分は遅れない子なんだけど)
30分経った。
(こりゃ寝てるな...)
金田は村重の扉の前まで歩いた。
何も音はしない。寝てるのか、と思ったその瞬間、部屋の中から音がした。金田の肩はひとりでに跳ねた。
ごっ、と、何かが床に落ちるもしくはぶつかる音だった。なんの音かはわからなかった。
金田は気になりだした自分の好奇心を即座に理性で粉砕した。仮にも女性の部屋。男一人でのこのこ入るわけにはいかない。
古村に会えなかったため少し肩を落としながら金田は自分の部屋のドアノブに手をかける。
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夜は音もなく、姿も見せずにまたも彼らのもとにやってきた。
あと何回こいつらの顔を見るのだろうと、夜のほうも気になってそわそわしていた。
古村の部屋。薄暗い部屋の中で独り、無防備にベッドの上に転がっていた。
かちゃん。扉の方からドアノブが回る音が聞こえた。古村は一瞬何が起こったのかわからなかった。
「…誰?」
精一杯虚勢を張った。わりかしうまく低い声が出せたと思う。
ざり。スニーカーがカーペットとこすれる音がした。来る。
顔が見えた。
「なんだ、びっくりしたぁ…」
古村は安堵した。
そして古村は、”それ”の手元にあるガムテープを見た。
ナイフも見た。
温かさを取り戻しかけていた血が一気に凍る。血の気が引くとはこういうことなんだろうなと遠くの方で考える。
一応説得も試みる。
「ねえ、何やってんの。やめてよ。そんな人じゃないでしょ…?」
だめだ。届かない。助けを呼ぶ?息を大きく吸ったが、吐き出すことには失敗した。
口が動かない。息を吐けない。声を出せない。ガムテープを張り付けられていた。
一瞬遅れて鼻の奥を刺すような痛みが襲う。行き場を失った大量の空気が鼻の中で暴れてしまったようだ。
殺される。古村の目線はナイフに縛り付けられていた。
”それ”は、ナイフを棚の上に置いた。古村の目が輝きを取り戻す。
だがすぐにそれは失われた。
”それ”は、古村の白いバルカンブラウスに手を伸ばした。
そして強く握り、
勢いよく引き裂いた。
部屋には布の悲鳴だけが響く。古村は声を発せずにいた。
抵抗する気力すら失い、されるがままの古村は、気づけばほぼ全裸であった。
下腹部に何か感じる。入ってくる…。
慣れ親しんだ”あれ”ではない。ただ苦しかった。
涙をこらえ、身をよじっていた古村は、突然何かの布で目を塞がれた。見えない。
動けない。
刹那、脳が火花を散らした。
3時間後。
古村はまともな思考ができなくなっていた。
殺してくれと、そう思うところまで来てしまっていた。
”それ”は、運動をやめない。古村をころころと転がし、形を変えながら突き続ける。
目隠しをはずされた。ようやく痛みから解放される。白目を剥いたままの古村は、朧げな意識のなかでそんなことを考える。
だがまだだった。
棚の上で3時間も待たされたナイフに、ようやく出番が回ってきた。
ぐちゃぐちゃになり動けない古村の前に、”それ”は刃物を持って立っている。
どす。鋭利な刃が古村の素肌に突き立てられる。
古村は、もう、何も感じなかった。
むしろようやくか、とまで思えた。
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長かった淫らな宴も、ついに終わりを迎える。
これ以上ない快楽を得た”それ”は、それ以上の快楽を求める。
3日目、肉欲が満たされた。
もう少しで、渇きは満たされる。




