↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
4/6

03 食後


 翌朝。

 

 あの惨劇のことなどなにも知らないまま、ぽつぽつと目が覚めていく。

 同時に二つの扉が開いた。花村と村重だ。


 一瞬、間があった。なぜなら花村は、森田が村重に気があったことを知っていたからだ。


 友達ではあるが二人きりになると気まずい。そんな空気を裂くように村重はあくびをする。


「おファぁよ。よく寝れた?」


「ま、まぁ。埃っぽかったから森田は多分目ぇ真っ赤だろうなぁ」


「ああ、アレルギーだっけ?ハウスダスト」


「うん」


「朝ごはんは済んだ?よかったら食堂行こうよ」



 何故自分を誘う?花村は内心戸惑いはしたが平静を装う。


「いいよ。部屋から乾パン持ってくる」



 エレベータが一階に降りていく。先ほどよりも距離が近くなってなんだか落ち着かない。


 扉が開く。と、二人は揃って鼻をつまんだ。


 

 異臭。生臭くて不快なにおいが一階には充満していた。


「なにこれ…。昨日はこんなにおいなかったよね?」


 恐る恐る前に進む。花村は自分の袖がきゅっと引かれたような気がしたが、目はむけなかった。


 食堂の前まで来ると、臭いはさらに強烈になっていた。常に片手がふさがっている。


 花村はポケットから充電の少ないスマホを取り出し、ライトをつけた。暗闇には目が慣れていたが、少し怖かったのだ。


 厨房の調理台の上に大きな塊がある。昨日はそんなものはなかった。


「あれか…。なんだあれは。」


 花村が一歩踏み出そうとした瞬間、甲高い悲鳴が響き渡った。



「も、森田…?」


 花村の首筋から搾ったスポンジのように汗が噴き出す。間違いない、これは森田龍太だ。



 上半身の服を裂かれ、両腕が丸ごと消えている。腹筋のあたりもほとんどが削がれているようだ。臓器たちは守ってくれる外壁を奪われ、呆然と空気に晒されている。


 村重が堪えきれず、こちらも吐いてしまうような声でえづく。


「森田…!森田!!!」


 昨晩まで騒がしく枕投げをしていた森田が、死んでいる。


 花村は我を忘れる直前に、横で必死に何かを我慢している村重の姿をとらえた。お陰で何とか踏みとどまった。


「森田くん......っっ」


 死体を見るなんて初めてだ。初めての割にはあまりにも刺激が強すぎる。


 深呼吸をする。肺に入ってくる濁った空気を肺の細胞たちが手荒く歓迎した。


「......いったん上に戻ろう。みんなに伝えないと」


「そうだね…」


 半ば這いつくばるようにして二人は食堂を後にした。エレベータに乗り込み、村重は瞼の裏に焼き付いた光景を振り払おうと頭を振る。長い髪が花村の顔を撫ぜる。


 扉が左右に開く。二人は廊下に転がるように出、深く息を吸った。決してきれいな空気ではなかったが、二人にとっては山頂よりも澄んでいるように感じられた。


 花村は金田の部屋のドアノブに手を伸ばす。開いているようだ。村重のほうは両手を伸ばして二枚の扉を同時にたたいていた。


 金田の部屋は予想どおり自分が寝ていた部屋と同じ構造だった。ベッドまで一直線に向かい、たたき起こすため手を振り上げる。


 

 数分後、五人全員がそろった。古村はまだ目が開ききっていない。


「森田が殺された。両腕と腹の肉が削り取られてる」


 三人が同じタイミングで息を吸う。花村は合唱コンクールを思い出した。


 絶望、不安、怒り、様々な感情が三つのディスプレイの上で移り変わっていく。


 

 そして先ほど、花村は気づきたくないことに気づいた。


 こんなことが本当にあるのか。身内を疑いたくない。こんなことは言いたくないが言うしかない。


 花村は、覚悟を決めた。


 ありきたりだが、事実だから。


「犯人は、この中にいる」



 

 


 

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。