僕の婚約者を奪わないで。
「マルケル……! 来てくれたのね」
「当たり前だ。やっぱり、僕は君が好きだから」
息を切らすマルケルにサーシャは寄り添った。
僕は理解が追い付かない。
何故? どうしてその男に寄り添うの?
僕らの結婚式に乱入した奴なのに。
「サーシャ、彼は誰なんだっ!?」
大きな声を上げてしまう。
パニックになりそうだった。
「僕はマルケル・シーハック。サーシャの恋人です」
まるで僕からサーシャを庇うみたいに乱入者ーーマルケルはサーシャの前に立ち塞がった。
「何を言ってるんだっ。サーシャの恋人は僕だ。婚約だってして、今日こうして結婚式をあげているんだぞっ!」
「そうですね。間違いありません。けれど、僕とサーシャは学院時代から付き合っているのです」
「……なに?」
どういうことだ。
どういうことだ?
混乱する頭の中に認めたくない焦燥感が溢れ出す。
「ごめんなさい、リック」
サーシャに視線を向けると、彼女は深く頭を下げた。
「隠してて、本当にごめんなさいっ」
「どういうことなの、サーシャ?」
「サーシャは家柄のためにあなたと無理に縁談を組まされた。彼女は両親からの圧迫に抗うことができなかった」
サーシャの代わりにマルケルが僕に答える。
「だから、こうしてあなたとの結婚まで進んでしまった」
「何を言ってるんだ……?」
「あなたとの縁談が進む裏で、サーシャは僕と過ごしていました。実家に帰ると言って抜け出しては、僕の家に来たりしてね」
浮気。
その言葉をはっきりと僕は理解した。
「サーシャが本当に愛しているのはあなたではありませんっ。サーシャの最愛は僕ですっ」
マルケルは自信たっぷりにそう言い切った。
「だから、サーシャは僕がもらっていきます」
「ふざけないでくれっ! 彼女と婚約したのは僕だぞ!」
なあ、サーシャ? と僕は優しく彼女に問いかける。
すると彼女はすっと僕から目を逸らした。
「……ごめんなさい。リック、許して」
涙声でサーシャは言う。
「あなたとは結婚できません。婚約もなかったことにしてください」
「……」
サーシャの言葉が信じられなかった。
「サーシャの意志はわかりましたね。彼女が選んだのは僕です」
「そ、そんなの認めないっ!」
受け入れられるわけがなかった。
「ですよね、あなたとは話し合いができないことはわかってました」
と、突然、マルケルはサーシャの手を引いて走り出す。
「おい待てっ!」
反射的に彼らを追いかけようとして、しかし、僕は勢い余って転んでしまった。
「サーシャ、待って」
低い視界の先にマルケルの手をしっかりと握って走り去っていく花嫁姿のサーシャがいた。
「誰か彼らを追いかけてくれ」
僕の声に合わせて式場の係の者が彼らの後を追う。
僕はサーシャを連れ戻せるか、祈るしかなかった。




