第九話 例えチートでも人付き合いまでチートだと勘違いしてはいけない件
今回は事件の後に街を散策です。
忘れてはならないのは彼は元々引篭もり。
そんな話。
「やれやれ……」
エクラノプランに逢った際にびしょ濡れになった服を、
アイリが用意してくれた似たような服に着替え、街をうろついて見る。
実際にマウスでキャラを動かして店に入ったりはしたことがあるが、
こうして生身で見て歩くのは始めてである。
個人的に凄く興味があるのはノンプレイヤーキャラクターが
決まった台詞だけ喋るのか、という事である。
早速試しに店に入ってみることにする。
丁度剣も折れ銃も馬鹿になってしまったので見たかったのだ。
目の前に剣と剣が交差している看板を見つける。
「いらっしゃい」
奥の方のカウンターには髪が右左に申し訳程度に残っていいて、
ちょび髭を生やしたほっそりした小父さんが、
すこし下がっていた丸い眼鏡を人差し指で直してそう言った。
表情はぶっきらぼう。見た事ある見た事あると思いながら、
店内を物色しつつ何の質問をぶつけて見ようか考えていた。
「あの」
「はいよ」
「こういうカードを売ってませんか?」
少し緊張とワクワクを抱えながら
エクラノプランから貰ったカードを見せてみる。
大体こういうゲームはカードの買取金額はゼロである。
多分ここは扱っていないが正解だ。
「こういうのは扱っていないねぇ。例え買い取るのでもゼロだよ」
そう言ってカードを返して来た。
頭の中でキター! となりながらカードを見ていると
「あーでもそういうのを集めている公爵が居るってのは聞いた事がある」
「あ、そうなんですか。これって武器に刺したり出来ませんか?」
「……さてね。ワシは知らんよ。あんた冷やかしなら帰ってくれないか?」
そう追い払うように言われた。
何か知ってそうなんだけどな……。
まぁ五回位来て好感度を上げれば教えてくれるのかもしれない。
ノンプレイヤーキャラクター、所謂NPCは
大体プログラミングされている言葉のみを喋る。
多分この小父さんは二回目はまたあんたかい? と来るはず。
三度目は同じ。
最近のネットゲームだと、好感度を上げると店の奥
にあるものを買えたりもする。
久々に少しいたずら小僧のような行動をとって
テンションが上がり、頭の痛さが何故か
消えているのも気付かなかった。
正直武具は勿論揃えたいが、もっと肝心なものがある。
今ほぼ死にスキルになっているものが。
「これはこれは、神聖なストファ教の教会へようこそ」
うむ。説明有難う。
とついつい口に出しそうになるのを堪えて押し黙る。
ストファ教っていうのが回復系の魔法を覚える所なのだろうか。
目の前の髪が無い頭の上に白いベレー帽のようなものを被り、
ローブを着て分厚い本を持っている老人が居た。
これも見た事のある風景だ。
「あの、すいません。回復系の魔法の名前と
効能を知りたいので全部教えてください」
僕は笑顔でそう言うと、今度は司祭っぽい人が押し黙った。
まぁ当然だろう。
多分普通はお金を払ってスキルを教えてもらって、
スキルレベルを上げてそれに振り分け使い込んで上級スキルを獲得する。
だが残念僕様はチートキャラなんで名前と効能さえしれば、
そんな糞面倒な事はしないのだ。
楽なことを考えさせたら、引篭もりに勝るものは無いだろう。
如何に人生を楽に生きていくかに特化した自宅警備員である。
舐めてはいけない。
「は、はあ」
「あの貴方の知っている一番凄い魔法の名前
と効能を教えてください。使って見せます」
また動きが止まる。これも当然の反応である。
多分プログラムが想定外の会話の為応対不可能に陥って居るのかもしれない。
ここはあれだ。勇者お得意の家捜しでもするか。
僕は呆けている老人を残し、ズンズンと教会の奥へと進んでいく。
鍵が掛かっていたが、蹴り破る。
むふぅ……チートとは傍若無人だぜぇ下手なニートより性質が悪いや、
などと何か悟りながら足を下ろして部屋の中に入る。
「家捜しは、歩いていかない、物を壊して進むんだね。
一日一軒三日で六軒十日歩いて街壊滅」
などと替え歌をしつつそれっぽい書物を探す為、
物をぶん投げながら漁る漁る。
「な、なんばしよっとかー!?」
そんな時後ろからそんな言葉が飛んできた。
次にゴッという音と共にバタッと倒れる音がする。多分直撃だろ。
本の角は痛いからなぁ……。
とかしんみりしながらも漁る手を止めない。
これこそが勇者よ。王の風よ。天真爛漫、天下御免、海砂利水魚、五里夢中。
「お、有った有った!」
何故か不明だが、神聖魔法大全という分厚い本を小汚いベッドの下の、
石床の一つを外した中に隠してあった。めんどくさいのである。
取り敢えずこれさえあればクリアまでは楽が出来る。
僕は適度に部屋を直した後、倒れている司祭の腹の辺りに金貨を一枚置いていく。
この世界では金貨の価値が高いらしい。まぁ多分現実も高いのだろうが。
一応単位的に下はブロンズで上は紙幣になるらしい。
まぁゴールド以上の鉱石で経費の掛からない流通させやすいものは無い気がする。
例えあったとしても加工が大変で生産が間に合わないとかになると思われる。
なので家捜しのお詫びと本代とお見舞い代で一ゴールドというのはそれなりだ。
きっと後で泣いて喜ぶだろう。
苦しうない苦しうない、はっはっは。
まるで殿様気分で街を歩いて居る。権力というか財力というか、
やっぱりチートは素晴らしいね! やりたい放題である。
スキップしながら次から次に店や民家をダイレクトアタックしていく。
最早僕を止めるものは何一つ無いのだ!
そうこうしているうちに夕暮れになり、
僕の背中には大きな風呂敷包みがあり担いで
アイリの所へ戻ろうとした。
その時である。
前のほうに何やら松明を持ったNPC達が
わらわら集まっていた。何だろう。
勇者様に何かお願い事であろうか。
仕方なし。
聞いてやらんではないぞぅ。
ふぅふぅふぅふぅふぅー、と某声の様に民家から頂いた甘いお菓子を
食べながら近付くと、皆が一斉にこっちを向いた。
そして直ぐに怒りの表情を表していた。
「居たぞ! あいつだ!」
「あの見たことも無いやつが、私の秘蔵の書物をぉおおおっ」
「私たちの昼ご飯を返せ!」
「ワシの所はへそくりを取られたぞ!」
「……あんた後で話があるよ!」
あれ可笑しい。普通こういう場合はスルーするんじゃないのか?
NPCが一揆を起こしたなんてゲームは聞いた事が無いぞ!?
「コーウー……」
そんな群集を掻き分けて、大魔神が来る。
血管を浮き立たせて何か時空を歪め、
修羅を背に出しながら鬼が来るっ……!?
「ちくしょー! きたねえぞ!
他人の家の家捜しをしたい、これは純粋なるネットゲーマーのみならず、
アーケードそして家庭用ゲーマーの望みの形である!
何故私のこの行為が許されるのか!? それは勇者だからである!
一部の既得権益に現を抜かしたものたちによる汚された常識を護らんとする
諸君のその姿勢が間違っているのである! だからし」
「うるさいわ馬鹿者!」
意味の無いことを一生懸命演説したが、
アイリに顔面を殴られ倒れこんだ。
そしてその後朝までご飯抜きで、
私は常識を知りません人付き合いが苦手ですと書かれた
木の板をぶら下げ通る人全てに土下座をさせたれた。
諸君にも伝えたい。
例えネットゲームだろうと人の家を漁る時は確認しようね!




