第二話 目的地へ!
ついに飛び込んだ世界で歩き始める少年。
だがその先行きは少し不安なものになるのであった。
「ほら、いつまでぶら下がる気!?」
背負い投げをされ、バンという音を立てて受身を取る僕。
何なんだこの糞ガキ。一々暴力に訴えなきゃ気が済まないのか。
野蛮人め。のんべんだらりと起き上がり、埃を払う。
あの打ち込みは普通なら悶絶ものだけど、耐えられたのは
ステータスの御陰ってことなのだろうか……。いやいや待てよ?
ここはどこでどうなってるんだ? ポケットを漁るが何も入ってない。
さっきまで着ていた服でもなければ、ズボンとかに入れていたチョコバーもない。
引篭もり必須装備なのに……。
ってそんな場合じゃない! 何させる気だあの糞ガキ。
「ホントドン臭いわね! さっさと前に行きなさいよ!」
今度は尻を蹴り上げられた。もうこれ以上蹴られるのは御免だ。
いそいそと前に出る。少し目線を上げると強面のおっさんたちが、
刺青を見せ付けるように腕を組んで並んでいた。
一体なんの団体でこれから何をしようって言うんだ。
任侠映画でよくある感じのカチコミってやつかな。……いやいやいや!
そんなの無理だから! 最近人と口を利いた覚えさえ無い僕に、
タマとって来いとか言われても逆に弾け飛ぶよ!
「お嬢……こいつは一体なんなんですか? 使いものになりませんよ?」
そうそうその通り。だから早いところ開放してください。
役に立たない事請け合いですから。
「駄目よ。満月に紹介料払ってるんだから。最悪餌にでもするわ」
「えい」
おいマジか。紹介料の一分も僕は貰ってない。その上皆納得した。
これはいよいよヤバイ……どこかに何か武器はないのか武器は!
慌てて体を触ったものの、何もない。
「おい小僧、御前に支給品だ。とっときな」
さっき僕は使いものにならないと言ってた顔に大きな十字傷のある、
スキンヘッドの髭オヤジが剣と銃を渡してきた。
剣は本当にザ支給品という安い作りの物で、銃に至っては
一見バズーカと見間違えるほど大きな筒にリボルバー式と言う
無茶苦茶なのがきた。
さてどうするか……。
ここは一丁スキル試しにこいつらを餌にしてやっても良い。
だが……。
「おい」
「……何だてめぇ……? お嬢に向って、おいとはなんだ!?」
さっき支給してくれたオヤジが胸倉を掴んできたが、
あっさりと払い除け足を引っ掛け転ばせる。どよめく周りの連中。
それを尻目にあの糞ガキにガンを飛ばす。
「おい糞ガキ、この仕事こなしたら本当に報酬出るんだろうな?」
「アタシも父ちゃんの後を継いだだけとは言え二代目よ。
口から吐いたものを飲む気は無い」
「ふん、糞ガキの癖に生意気な。なら期待しておこう」
「……もし役に立たない事がわかったら、餌にするわよ」
「一度聞いたら忘れない台詞だ。二度言うな。
こっちこそ御前らが役に立たなかった日には、餌にする」
「……面白いわ」
「……笑えるだろ?」
ニヤリと笑い合う僕と糞ガキ。
どうも僕は調子に乗りやすいところがある。
まぁ元々画面の向こうのヒーローに、君も僕と一緒に悪の手から
皆を守ろうとか言われて目差しちゃう馬鹿なのだが。
ただ報酬について聞こうとしたら、ついつい雰囲気に飲まれて
啖呵の切り合いをしてしまった。内心ヒヤヒヤものである。
武器は手に入ったから良いとして、この銃はまともに使えるか判らないし、
今の所手元にあるショートソードだけだ。
どうしよう、誰か試しに倒しちゃおうかな。
「さ、皆! 出航の準備を!」
「アイアイサー!」
糞ガキの合図でオヤジ共は散り尻になる。僕は剣の柄に手を掛けたが
急いで引っ込めて走ってくるオヤジ共を避けた。
「一応名乗っておくわ。私アイリよ。アイリカンパニーの代表」
「僕の名は芥川コウだ」
「生きているうちは宜しくね、コウ」
「こちらこそ人生が終るまで宜しく、アイリ」
「……っ!? はぁっ!」
近寄ってきたアイリと改めて自己紹介をし、握手をしようとしたら
僕の言葉が終ってから固まって、暫くしてから顔を赤くしたアイリに
顔面を殴られた。何がいけないのだろうか……?
嫌味に対して嫌味で返したのに、何か可笑しなことを言ったのだろうか。
僕は鼻血を袖で拭きながらアイリの後を付いて行く。
すると段々と家が少なくなり、ゆったりとした坂道を降りていくと、
そこには海が広がっていた。
うわぁ……久々に外出たから陽の光が眩しすぎて目が痛い……。
それに潮風ってなんかあたるだけで肌を掻きたくなる。
体力的にはステータスを九十九に振ったので疲れてはいないが、心は磨り減る。
もう実はどこかに閉じ篭りたい。何でこんな事になった?
あの兎見つけたらただじゃおかない。
「おい坊主! 御前はこっちだ!」
俯いて文句を言っていると、いつの間にか一人になっていた僕は声の方を向く。
すると目の前には立派な船があった。横浜とかで見た古い船のだ。
バーク型帆船だっけな。船首には金色の人魚みたいのが付いている。
目の前の橋を渡って乗船するらしい。
「って海上戦!?」
マジか! 海上戦が初戦て難易度高すぎだろ!
しかも酔う! 絶対船に酔うって!
「小僧! 早く上がって来い! 御前が最後なんだぞ!」
啖呵切った手前最早逃げ道を自分で潰した僕は、肩を落として
とぼとぼと乗船した。
「ま、まさか漕げって言うんじゃないでしょうね……」
「漕げなくもないがな。安心しろ、こいつは魔法玉ってので動かしてる。
後はマストを使いながら方向を修正していく。御前もそれには協力しろ」
……手漕ぎじゃないだけマシだけど、万能じゃないのか魔法玉。
取り敢えず酔いで死なないよう気をつけよう。
「さ、最後の奴が乗ったぞ! 仇に向けてけりをつけるべく出航だ!」
やっぱりか、そらそうだよな。魚釣りしようってんじゃないのは
勿論解ってたさ。でもなぁ海上かぁ……。甲板の端っこで海を見ながら嘆く。
そうこうしている内に船は動き出す。無風だったらどうしようとか思ったけど、
幸い風は追い風だ。この風に乗って勢いで乗り切りたいな。
出来れば仇に当る前に詳細を確認して、銃も試し撃ちを数回しておかないと。
そんな事を考えていて、はっとなる。別に戦いが楽しみだからではない。そう自分
に言い聞かせつつも、なんだか胸の奥から湧き上がってくるものを
抑えきれないでいた。




