第十一話 出会い
相変わらず足取りは重い。
めんどくさい。
ダイエットには持って来いだろうけど、
その変わり長年の不摂生で筋肉痛などに苦しめられている。
これは慣れれば何とかなるんだろうな。
この腹の肉とか。
何の意味も無かったらどうしてくれようか。
最初の頃とは違い、のっそりのっそり歩いているので
延々続く気がしていた。こういう時懐中時計でもあれば見て
どれくらい頑張ったとか、成果が見えればやる気も出るんだけど。
坂道をずっと同じ景色が続いているのも余計宜しくない。
角度が急になっても、もしかしたら間違えて
この先上れなくなったらどうしよう、というマイナス思考に
囚われてしまっていた。正に不のスパイラルである。
「おい小僧」
そんな時脇の草むらから声がする。
生憎こんな時に誰かに構う余裕はない。
返事しないで居たらどっか行くだろう。
そう思って無視し、坂道を上がっていく。
ずっと雑草と樹と虫と小さな動物というホント何も変わらない。
「小僧……俺を無視とは良い度胸だ」
後ろから何かがついて来た。
案外しつこいなぁと思って振り向き足を止めると、
拳が顔面目掛けて飛んできた。
間一髪で上体を反らし避けたが、
拳圧が凄くてそのまま地面に倒れる。
やばいと感じてみっともない逃げ方だが、
這い蹲るようにして距離をとる。
筋力も素早さもMAXだからあっさり追撃をかわして距離を取れた。
しかしこういう時バック転が出来れば格好良いのになぁ、
などと思いつつ腰を少し落として脇を締めて迎撃体制を取る。
「ほう、やろうというのか。良かろう!」
その時僕は目を丸くする。
目の前には白い毛に鎧を来て歩いている猿が居た。
何だこいつ!? その異質な姿、そしてその気配にたじろぐ。
しかし聞いていたサイズより小さいぞ……。僕と同じくらいだ。
猿にしては大きいとかいう事なのだろうか。まぁどちらにしろ
こいつを倒せば問題解決だ! 一気に片付ける!
両腕を交差させて叫ぶ。
「ぉおおおおおっ! アディマライドっ……オン!」
「ぬっ!?」
僕の体から炎が湧き出て全身を覆った。
そして目以外の全身を黒いタイツみたいのに包む。
太股から足まで、腰周りに胸と肩、
最後に肘から拳まで部分部分を炎が包み、
それが段々と形作って赤の下地に橙色で、
炎の揺らめきを表した模様の鎧になる。
最後に橙色を
下地に黄色で細いラインが入った仮面をつけると、
両サイドには耳と米神を庇う様な炎の形をしたガード、
後頭部の方には赤く長い髪が飛び出てきた。
最後に目をガードする蛍光緑のガラスの様な物が閉まり、
全てが終わると両拳を当てあい脇を締めて拳を構える。
「これで終わりだ! 来い! ファイアライドバスター!」
右手を掲げそう叫ぶと、空から大きなバズーカ砲が降りてくる。
右肩に載せ左手で支え右手で引き金を握る。
「シッ!」
白くて歩く猿は一気に距離を詰めて来た。だが!
「ファイア!」
僕は引き金をギリギリまで抑えて、
相手の足が一瞬止まった時に引き金を強く引いた。
「ぐあ!」
直撃ではなかったけど、着弾した地面から吹き飛んだ
土や爆風で多少は削れたはず!
「来い! ファイアライドガトリング砲!」
ファイアライドバスターを空へ投げて消した後、
更にもう一つの武器を呼んだ。
そして右腰に着けると
「ファイア!」
ダダダダダダダと小気味良いリズムで銃身は回転し、
次々と猿を目掛けて飛んでいく。地面を抉り草木を貫通し倒す。
多少反動がある為コントロールが難しいが、
何とか押さえ込んで猿まで後一歩。だが定点でやるよりは
至近距離まで詰めてぶち込んでやる。
僕は一旦射撃を中断して担ぎながら猿を追った。
「逃げんな!」
この猿一体どんなステータスしてやがるんだ。
全力で走ってるのに差がまったく詰められない。
僕は何とか後を突いていく。暫く斜めに上がると、
狭いが平らになっている所がみえた。
猿は一足先にそこへ辿り着くと、
振り向いてこちらを見ている。
なるほど、あの場所でガトリング砲を撃てば僕も危ない。
素手でやり合おうという事か。
良いだろう、その誘いに乗ってやる!
僕はガトリング砲を腰から外して空へ投げて消し、
猿の待つ場所へ駆け上がる。
「人に迷惑をかける化け物め! 僕が退治してやる!」
そう指を刺して言うと、猿は鼻で笑い走ってきた方向を指差した。
「化け物か、お前と大差ないと思うがな」
その先を見ると、戦っていた事がはっきりと解るほど森は荒れていた。
しかも少し煙が立っている。
「草木を削り地を荒らし、命を無意味に汚したその罪。万死に値する!」
「五月蝿い!」
互いに同時に地面を蹴り間合いを詰め、
互いの右拳が互いの左頬にめり込む。
拳圧がマスクをしているのに頬に伝わり、
体が泳ぐ。
そして判った。
これは喰らってはいけないものだと。
なら避けて手数を打ち込むまでだ。
僕は足腰で踏ん張り泳いだ体を引き戻すと、
素早く踏み込んで拳を打ち込む。
だが当たらない。
拳速を上げても紙一重で避けられていた。
猿は余裕な顔をしている。
本当に不条理な世界だ。
ステータスはデータ上普通なら職業などで格差は出てくる。
だがそれを取っ払ってMAXにしている。
……ああそう言えば格闘というスキルを見ていなかった……。
通りで当たらないはずである。
だがこれだけレベルが高そうな相手なら、
格闘を上げられるはず!
だったら今この瞬間に上げ捲くってやる。
「可笑しなやつだ。俺が相当な使い手だと解って尚笑いながら仕掛けてくるとは」
「マスクの下がわかるのか?」
「どんなに高度なもので御前自身を隠そうとしても無駄なことだ。
御前が御前である事はどんな力を持とうが変わりはしない。
それは気を感じれば解る」
僕はそれを聞いて拳を振るうのを躊躇った。
神みたいなことを言う……。
「良いだろう。例え上が腐っても芯があれば切り株からでも新たな芽が出る。
ここで御前に出逢ったのも縁。この負けは力に溺れた御前の負けだ」
「なっ!?」
「聖典功拳!」
突然目の前に現れた猿が、
僕の鳩尾辺りに拳をそっと突いた。
ただそれだけだったはずだ。
凄まじい衝撃が鳩尾辺りから体に伝わり、
立っていることもままならなかった。
膝から崩れ落ち、そのまま意識も薄れてきた。
全くもって不条理極まりない。
こんなの誰が倒せるっていうんだ……。
出来れば立ち上がって一撃喰らわせたかったが、
僕の意識は土を掴んだところで途切れた。




