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第八話:ファンタジー作品の舞台は中世ヨーロッパだらけ

今回はそこそこ事前にと言うか最中にと言うか、少し勉強をしたから内容は小マシかな?

あまり知らない世界観に首を突っ込む上では、やはり取材や勉強が必要。

そうした意味では、ただ書きたいものを好きだから書くと言うよりも、

知識欲の赴くままに世界の構造をわかり易く噛み砕いて提示する事が創作者の務めなのだとしたら。

少しは頑張らないとね。お金にならないとしてもね、前回のテスラさんみたいにね。

挿絵(By みてみん)

ファンタジー世界でサキュバスと対峙するデビ子とみぎゃー



「最近の創作物って、ファンタジー作品が多いよね。

 ああいった作品の舞台って大体は中世ヨーロッパばかりなんだよな。

 テンプレの美学、みたいなヤツだよな。」


創作物語が数多く書かれているサイトを閲覧しながら、僕が言った。

でび子が応える。


「まぁ、そうよね。だけど必ずしも部隊は西洋、ってワケじゃないわよ。

 J.R.R.トールキンの『指輪物語』は英国を中心とした西洋文化がモデル、

 田中芳樹の『アルスラーン戦記』は中東文化がモデル、

 上橋菜穂子の『精霊の守り人』はアジア文化がモデル、

 どちらかと言えば中世期と言う時代がファンタジーに適しているのよ。」


「たまに例えが古いな、さすがは古代の悪魔・・とは言え超大作揃いだな。

 それにしても、でび子はその時代に実際に居たわけだろ?

 やっぱり、ファンタジー作品に描かれている世界と現実の中世は

 違っていたのか?」


「アンタねぇ・・・ちょっと考えればわかるでしょ。

 現代を舞台にした創作物でも、本物の現代じゃない。

 そもそも登場人物が実際には存在しないからこそ、創作なのよ。

 そういった意味では伝記や自叙伝でも無い限り、現実とは違うわよ。」


「まぁ、それもそうか。

 それにしたって、皆に好まれる設定としての理由はあるだろ?

 どんな理由が考えられるかな。」


「アンタ・・・それくらい自分で考えなさいよ。

 創作者として自分の頭で考える事を止めた途端に、

 創作の渦は止まるわよ。まぁ良いわ。

 特別に現代が持っている、そのお手軽な仕組みを教えてあげる。

 そもそも、最近流行りのライトノベルに描かれている世界は、

 中世では無いわ。アレは文化的には近代よ。」


「近代!?って、日本だと明治時代くらい?」


「そうね、文化水準や描かれている服装の精緻さ、技術、

 どれをとってもアレは中世では無いわね。

 それでも何故中世という舞台が好まれるかと言えば、

 露悪的に言えば作者達が楽にその世界観を消費出来るからよ。」


「何だかまた、悪魔的にイジワルな言い方をするんだね・・。

 どういう事か、このキミに比べれば頭の悪い僕にでもわかるように

 教えてくれるかな?」


僕はあえて自らへりくだり、でび子の講釈を頂く事とした。


「良い心がけね。私はアンタからすればずっとお姉さん(お婆さん)なの。

 そういった年上を敬う思想は儒教の影響が強いでしょうけど、

 コチラ側としては悪い気はしないものよ。

 さぁ、それじゃあ中世が舞台として好まれる理由ね。

 まず一つには、科学的な思考が無い事なの。

 現代のようにあらゆる事象を科学で解き明かせる時代と違い、

 目の前で起こる事物に対して魔法だとか奇跡だとか、

 神の力みたいな事を本気で信じていた時代よ。

 まぁ、悪魔の私が言うのもなんだけどね。」


僕は、『悪魔がそれを言うかw』というツッコミを

先んじて封じられた事に残念さを感じた。


「さらに、法律の未整備による自由度の高さね。

 例えばアンタが現代の警察に関する物語を書こうとした時、

 シッカリ取材をしないとおかしな事が起こるわ。

 安易に犯人を傷付けてみたり、上司に逆らうヒーローイズム、

 そうしたものは警察法等に適合しない可能性があるわ。

 だけど中世という法律が未整備な時代なら、大体許される。

 国家にその存在を登録する事で管理されて福祉を享受する現代。

 だけど中世なら生まれた時から何者でも無いまま、

 法律に縛られず自由に戦ったり研究する余地があるわね。」


「本当の意味での自給自足が成り立ち得る、と言う事か。

 まぁでもファンタジーでも無ければ現実には、そうした暮らしは

 めちゃくちゃ大変そうだし、やりたいとは思えないな。」


「更に古代では無く中世である必然性としては、旅という文化ね。

 これは精神的な内面の成長を象徴する物理的な行動として、

 ファンタジー物語の核となる骨子よね。

 旅をせずに店番だけをやるような話もあるかも知れないけれど、

 多くのファンタジー作品は旅が物語の中心にあるわ。」


「世界中の可愛い女の子と出会う為の旅なら、僕もやってみたい。

 だけど一期一会でお気に入りの子とも二回目が無いと考えると、

 やっぱりどこか旅と言うのは切ない思い出だよね。」


「・・・何の話をしているのかしら?

 アンタ、頭の中まで海綿体が詰まっているのかしら。

 まぁとにかく、これらの理由が中世という舞台が

 ファンタジーにとって最適解である理由、・・・

 もっと平たく言えば、都合よく消費される理由よ。」


この悪魔は本当に、スケール感が大きい悪かと思えば

小さく矮小な小悪魔のようなイジワルを言ったりもする。

本当に、どこまでも解し難い・・と共にそれが魅力でもあるのだが。


「何よ、あんた。こんな話をするって事は、

 ファンタジー作品でも書きたくなったのかしら?

 確かに流行りではあるから読んでもらえるかもだけど、

 その分絶対数も多いのだから、その中で頭角を現すには

 何かしらの特別な仕掛けが必要よ。

 それか前回言ったような根回しの技術とかね。」


でび子は、ただ僕の物語を消費して、喰らい、栄養を得るはずだった。

それがいつしか、僕に創作のアドバイスをする

パートナーのような存在になっている。

これは決して偶然では無く、蓋然性のある事のように思えた。


彼女が僕の物語を食べる程に、僕らは共に成長している。

そんな妄想を抱いてみたが、そもそも彼女は古の悪魔だ。

おそらく、そんな成長なんてものとは無縁で、既に完成形だ。

僕なんかが共に成長すると言うのはおこがましい、そう思った。


「アンタね、何か勘違いしているようだけど。

 別に古い存在だからとかそんな事関係無く、

 人も悪魔も、成長し続けるものよ。

 生きるとは新陳代謝し続ける中で世界の理を取り込む事。

 そうする中で得る様々な理知や記憶を魂に刻み、

 存在として成長して行くのよ。」


半分以上、何を言っているのかが観念的にしか理解出来なかった。

この悪魔の言葉に耳を貸してしまえば、地獄へ堕ちるのだろうか。

人の言葉を解しながらも、それはひどく人の理とはかけ離れた存在。

どうにもデビ子が僕と縁を持った事が信じられない。


こんな良い歳をして小説家志望のままどうしようもない僕を

エサの供給源として消費し続ける契約を交わした古の悪魔。

しかし僕はそのデビ子を通じて今まさに成長していると感じる。


そうであるならばこの出会いと関係性には何か意味があるのかも知れない。

僕は彼女に聞いてみた。


「なぁ、でび子。

 僕と一緒に暮らして、楽しいか?

 良質なエサ(物語)を与えられているかはわからないけど、

 少なくとも僕はデビ子が来てくれてから、少し成長出来た気がする。」


フン、と鼻を鳴らし、でび子が応える。


「まぁ、ガワだけ小立派な偽物達よりかは幾分かマシよ。

 貧しくても本物を求めて心根を創作に燃やす姿勢は、

 それ自体が私のような存在からすればエサにもなり得るの。

 料理で例えるなら "におい" 、かな。

 お腹を満たせなくても、美味しそうな匂いがする料理に人は惹かれる。

 今のアンタから漂うのはそこはかとない、美味しい料理を作りそうな

 最高のシェフが纏っているにおいよ。

 アタシがここまで評価してやってるんだから、シッカリ励みなさい。

 誰にも作れないような最高の物語りょうりを期待してるわよ。」


どうやら僕は最古の悪魔から最上の期待をされているようだった。

それが例え人類に対する罠の起動のキッカケだとしても構わない。

あの日縁を結んでしまった時点でもう僕はとっくに

この悪魔に魅入られてしまっていたのかも知れない。

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