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第五話:機械化する消費社会

それにしても、でび子は食欲旺盛だ。

最も古い悪魔だと言うのに、成長期なのだろうか。

僕は想像力を提供し続け、消費されている。


そうだ、次の物語は消費社会を描こうじゃないか。

少し風刺チックに、身体の部位が壊れたら代替可能な機械に置き換え、

最終的には体が全部機械になってしまうと言う、

まぁちょっとありがちな感じかも知れないが、

最近はむしろこの手の王道SF話は逆にあまり無いだろう。


そんな風に考えていると、でび子が言った。


「良いわよ、似たような話はあれど、そのものズバリは聞いた事が無いわ。

 ただ今回は物語に、味付けを加えようかしら。」


味付けってどういう事だろう。

するとデビ子は言った。


「要するに、クリエイターに対する編集者みたいなものよ。

 アンタの物語は素材が良いからそのまま食べてたけど、

 食事である以上は味付けも可能なのよ。

 悲劇風味や喜劇風味、ギャグ味とかね。」


なるほど、そんな事も出来るのか。

だけど今回の話で味付けをすると、どんな物語になるのだろう。


「社会全体が機械化した、って言うディストピアにするわ。

 絶望の色が濃くなる事で、風味がグッと締まるもの。」


何だか、僕の考えた素材そのままを楽しんで貰えない事は寂しさもある。

だけど確かに一方で、脚色された話が好きな人もいる。

まぁ今回はデビ子が [編集者] として加わった物語を楽しんでみよう。

って、あれ?いつの間にか僕自身もちょっと楽しんじゃっていないか?


まぁ何はともあれ、今回は別に無理矢理とかいきなりとかでは無く、

こちらも準備をした上でデビ子の噛み付き攻撃に備えた。


「コレ、絶対やらなきゃダメなのか?」と聞くと、

「別に・・・でも、コレした方が覚悟決まるでしょ」との事。

そんな理由なら、今すぐに止めてくれ・・・。


しかし、デビ子はいつもの如く僕に牙を立てる(八重歯だけど)

今回は脇腹・・・いや、柔らかいしそこは止めて欲しい。


『ガブッ!!』

盲腸の時みたいな横っ腹の痛み。

そこに遅れて外傷特有のヒリヒリ感がやって来る。

そして僕は気を失った。




目が覚めるとそこは、絵に描いたような近未来都市だった。

と言うか近未来像って数十年前からずっと変わっていない。

AI化がこのまま進めば、チューブ管の中を車が走ったり、

全身タイツで人々は生活をしたりするのだろうか。


ある中年男性が話しかけて来た。


「おや、あなた達はまだ体のどこも交換していないのですね。」


見ると男性は、片腕と両足、それに目や外部スマートデバイス、

随分と体のパーツを機械化に頼っているようだった。


「あぁ、ここでは皆さん、身体のパーツは機械に交換可能なんですよね?」


僕は自分が作った設定だった為、違和感なく男性に答えた。

しかし男性の答えは想定していたものと違った。


「いえ、私達は元の体から成長していく過程で『生え変わる』のです。

 ですから、あなたのような機械化していない身体を見ると、

 何らかの障害の為に生え変わりが起こらなかったのかな、

 と思ってしまうのです。」


え!?と思った。

デビ子が意図したのは、一人の主人公だけが機械化するのでは無く、

社会全体が機械化する、というものだったはずだ。

その『社会』の定義は人が作る集合体としての意味合いでは無く、

自然の仕組みの成長としてのそれを意味していたのか・・・。


「それって、壊せばまた生えて来るんですか?」


デビ子が、相手の尊厳に関わるかも知れない際どい質問をした。


「えぇ、時間はかかりますが、また生えて来ますよ。

 暫くは、不便をする事にはなりますがね。」


「ふぅん。だったらさ、生えて来るまでの間、

 機械で代替しちゃえば良いんじゃないの?

 何の為に機械が生えて来るのか、わからないね。」


男性は非常に戸惑い困惑している。


「おい、デビ子。あまりイタズラに相手の尊厳を傷付けるんじゃない。」


しかし彼女は構わず、こう答える。


「この世界は失敗作だね、あまり詳細な設定が練れていない。

 だからこんな根本的な質問にも答えられない一般人がいる。

 この世界はダメだ、もう見限ろう。」


そう言ってデビ子は僕を連れて元の世界へと帰って来てしまった。


「やっぱり、あまり強い味付けをしたら風味が消えちゃうね。

 アンタの素材の味がいかに絶妙なのかがわかったよ。」


「いや、そんな事よりもあの世界だって作られたパラレルだろ?

 あそこの人達はこれから先もずっと、

 ああやってぼんやりと自分達の事がわからずに過ごすの?」


「そうだよ。まぁ、物語に失敗作は付き物だからね、仕方ないよ。」


「そんな、デビ子の適当な思い付き、味付けしたいという我儘のせいで。」


「それを言ったらさ、この世界だって、アンタ、自分が何で生まれたのか、

 どこから来て何を目指して生きるのか、説明出来るの?」


僕はハッとした。

科学、哲学、宗教。

あらゆる学問からも答えが出せていない問題だ。

その答えがまさか、こんなに簡単で残酷だって言うのか?


「物語って言うのはね、ある程度無責任だから作れるんだよ。

 もしそこに自分が入って暮らすと考えたら、

 どうせ無難なつまらない物語しか書かないでしょ?

 どんな悲惨な災害も、不条理も、単なる幻想の愛も、何でも書ける。

 だけどそれは究極の無責任が担保されているから書けるんだよ。」


デビ子の表情がニヤァと悪意を含んだ笑みになる。

僕は少し背筋がゾッとした。


そうだ、デビ子は悪魔だ。

こうやって一緒に過ごしてコミュニケーションも取れるし、

それなりに僕の事を気遣ってくれている素振りもしてくれる。

それはエサの供給源だからかも知れないけれど、

それでもいくらか心が通っているものだとばかり思っていた。


だけどもしかしたら僕も、この古代の悪魔からすれば代替可能な

現代と言う時代で見つけた都合の良いパーツなのかも知れない。


「あぁ、怖がらなくて良いよ。

 アンタの事は結構気に入ってるんだよ。

 自覚無く無意識に無責任で残酷な話も平気で作る。

 その度に自分がどれほどの重い罪を重ねているかも知らずに。

 だから、人間って飽きないんだよね。

 壊れない程度に、こうやって自己否定の材料を含ませてやれば

 適度に絶望ごっこをしたりするから遊べて面白いよ。」


思い出した。いや、忘れていたわけじゃないけれど、

やっぱりデビ子は悪魔だ。どこまで行ってもその本質は変わらない。

僕はとんでも無いものと契約をしてしまっていた。

彼女にバニーガール衣装なんかを着せて遊んだりしたつもりでいて、

結局の所僕がただ遊ばれているだけなんだ。

そう思うと、目の前の存在と同じ部屋で空気を吸っている事が恐ろしい。

改めて自分の立ち位置の異常性を感じた。


「まぁ、でもさ」と、彼女が切り出す。


「あまり遊び過ぎていたらそれはそれで、世界の仕組みから調整が入る。

 それは神、と言っても人格を持った唯一神みたいな存在じゃなくて、

 『世界の仕組み』を統べる概念としてのものだけど、それの計らいでね。

 あまりメチャクチャは出来ないようにもなってるんだよ。」


そうは言っても、どこかのパラレル宇宙では自分の体の理由も知らずに、

機械の部位が壊れたらまた生えて来るまで待つしか無い、

何故か代替で機会を取り付ける事に思いすら至らない思考の空白を持った、

そんな人達が暮らす世界を作ってしまったのだ。


だけど彼女が言うように、僕達もこの世界の仕組みを全ては説明不可能だ。

そういった意味では完璧な世界なんて存在しないのかも知れない。


どの世界、宇宙もそれぞれに不条理で不合理で歪んでいて、

だけどその仕組みの中で自分達の愚かさと向き合いながらも、

とにかく日々を一生懸命に生きるしか無いのかも知れない。


そんな僕を横目に彼女は『トランスヒューマニズム』に関する本を読み、

「次はコレが暴走する話にしようか」等と笑いながら提案していた。

今回は特にそうなんだけど、デビ子のセリフっていわゆる「キャラクターが勝ってに動き始める」のレベルを超えて、

自動書記レベルで僕の潜在意識にある物語なのかわからないけれど、少なくとも顕在意識には無い何かを語り出すんだよね。

まぁ何はともあれ、まずは五話まで続けて書けて良かった(笑)

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