第四十四話:寝取られマゾの物語
その日、僕は突然の雨に傘を持って来ておらず、駅でボーっとしていた。
そんな時、駅の向こう側の商店街の方に暗部深夜子を見つけた。
「あ、深夜子の傘に一緒に入れて貰おうかな?」
最近僕に好意を向けている彼女の事だ、絶対に入れてくれるはずだ。
「よし、そうと決まればあそこまでは濡れるのも仕方ないな。
走って深夜子の所まで行くか。」
そうして走る準備をしていた僕の目に、とんでも無い光景が写った。
それは、深夜子の元に見慣れない黒いスポーツカーが停まり、
深夜子と親し気に話し始めたのだ。
「誰だ、アイツ…。丸刈りに黒い肌、ガッシリした体格…アイツ、
あんな男がタイプだったのか?って言うか何だよ、アイツ、
傘持ってねぇじゃん。もしかしてそのためにあの男を呼んだ?
嘘だろ、あんなヤツ絶対遊んでそうじゃん…。」
僕は一瞬にして頭の中が良くない妄想で満たされた。
そうして目を離せないでいると、次の瞬間男はとんでも無い事をした。
深夜子の腰に手を回し、撫で回していたのだ。
「オイオイオイ、何だよ、何でこんな駅前の人通り多い所で...。
ふざけんなよ、あんな下品な男と付き合ってたのか、深夜子?」
そしてそのまま二人は車に乗りどこかへ走って行ってしまった。
「信じられない…深夜子…裏切り…いや、別に付き合っても無いけど。
だけど、あまりにおかし過ぎるだろ、彼氏いるんなら言えよな、
別に付き合いたいとか無かったけど、何だよこの感情、チクショウ。」
家に帰ってからも、僕はずっとその感情に支配されていた。
「アラ、お帰り。どうしたの、何かイライラしてない?」
漫画を読んでいたでび子が僕の変化に気付き声をかけて来た。
「駅前でさ、深夜子が肌の黒い坊主頭のマッチョに声を掛けられて。
それで、二人で車でどっか行ったんだよ。
アイツ、僕に好意ある風な素振りをしながら裏切って…。
ふざけんなよ!!」
「あら~、それは…ご愁傷様ね。だけど仕方ないわよ。
アンタに比べたらその男の特徴聞くと、そりゃ惚れるでしょ。
今頃もうベッドの中かしらね?」
「ふっざけんな!!
何だよ、だったら最初から僕に好意を寄せるなよ!!」
「別にそれはあの子の自由なんじゃない?
色んなタイプの男を好きになるのはあり得る事でしょ。
ただ、その中でそこまでの関係になれたのがその男だったの。
結局は積極性よ。そもそもアンタ、付き合うとかじゃ無かったんでしょ?
今更嫉妬するとかダサいわよ。最初に声掛けておけば良かったでしょ。」
でび子の意見は確かだった。
しかし、それにはまだ感情の高ぶりとか色々とあるだろう。
僕は自室に籠り、今頃二人が何をしているかを想像した。
するともう、自分では抑えられないほどの何かがこみ上げて来た。
「ヤバ…何だよこの興奮…。悔しいはずなのに、何なんだよ、
くそぅ、くそぅ…。」
僕は泣きながら自らを慰めて処理を始めた。
それなりに没頭していよいよ絶頂という直前に、でび子が部屋に来た。
「アラ…とても悪いタイミングで来ちゃったわね。」
━ビュッ!!━
僕は一番情けない姿をでび子に目撃されてしまった。
「あー…別にアタシは気にしないわよ、そういうの。
良いから、まずは処理したら?さすがに惨めでしょ。」
僕は既に十分に惨めな気持ちだった。
その為【ソレ】をそのままにして、でび子に聞いた。
「いや、もう良いよ、今更。
それで、僕の部屋に来たのは何か用事があったんだろ?
何だよ、もっと惨めになるように追い打ちを掛けに来たのか?」
「アンタねぇ…。ちょっと卑屈過ぎないかしら?
別にわざわざそんなしょうもない事をしに来ないわよ。
アンタの今の状態って【寝取られマゾ】だと思うのよ。
知ってるかしら?寝取られマゾって。」
「え、何だよそれ。寝取られ…マゾ?」
「えぇ、寝取られは自分の恋人や思い人が他人に取られる事。
それに興奮する性癖よ。そしてそれに明らかな被虐心を感じるのが
寝取られマゾ。今のアンタ、それになっちゃってるんじゃない?」
「そ、そんな情けないものになってるワケが無いだろう!
何だよその寝取られマゾって、情けなさ過ぎるだろ…」
「それがね、そうでも無いのよ。
悲しいけれど、寝取られマゾは全ての男が堕ちる可能性があるのよ。」
「え…どういう事だよ、僕が特殊ってワケじゃないって事か?」
「アンタ、自分が寝取られマゾだって認めてるじゃない、それ。
まぁ良いわ、教えてあげる。寝取られマゾは決しておかしくないの。」
「と、とりあえず話を聞こうじゃないか!!
それによって、僕が寝取られマゾじゃないって証明できるはずだ!!」
「まず一つ目は【コンプロミション効果】ね。
パートナーが他者から性的に望まれている状況を認識すると、
そのパートナーへの性的魅力が増加する、という現象よ。」
「改めてパートナーを異性に選ばれる価値のある存在として認識するのか。
まぁそう考えたら生物的に自然な事なのかもな…。」
「二つ目に【精子競争仮説】よ。
複数のオスが同じメスと交配する可能性がある環境では、
各オスは精子の数・質・射出速度を高めることで競争に勝とうとする、
という仮説よ。」
「新たに現れた性敵に対して、こちらも精力を高めて応戦する…。
何だかこれも生物として自然な事じゃ無いか。」
「三つ目に【禁止されたものへの欲求】ね。
禁じられる程に欲しくなる、コレはわかるわよね?」
「何だかそう考えると、寝取られマゾも変態では無くないか?」
「四つ目よ。【ドーパミン報酬系の活性化】ね。
新奇性・不確実性・達成感といった各要素によって、
報酬が不確定だからこそ、それを得られると快感になるの。」
「うん、コレもわかるぞ...。って言うか、まだあるのか?」
「一応、次が最期よ。感情的カタルシス。
嫉妬・不安・興奮・安堵等の複数の感情の解放感、いわゆる
カタルシスが感情的充足感をもたらす、といったものね。」
「ネガティブな感情でも、それを発露出来る事により快感が…。
こう考えるとやっぱり、寝取られマゾは自然な事なんだな。」
「ええ、そうよ。だからアンタも安心して寝取られマゾを自称しなさい。
まぁそれによって新しい女の子と仲良くなってもドン引きされる可能性は
否めないけれど…そこで蔑まれるのも快感でしょ?(笑)」
「ちょ、人を勝手にマゾにするなよ...。
あーでも、思い出せば本当に悔しい!!
何であんなヤツなんだよ、もっとこう…せめて僕に似てる男とかさ」
「じゃあ、アンタにそっくりな他人と一緒にイチャイチャしてたら?」
「何で似てるのに僕じゃないんだよ!ってなるな。」
「…ハァ。結局は、嫉妬してるだけじゃない。
あれだけ隙だらけの好意を寄せていた深夜子に何も返さず、
今になってクドクド言ってるの最高にダサいわよ。
まぁでもそんなんだから、寝取られマゾになるんでしょうけど。」
「あ”-、く”や”じ”い”よ”ぉ”-、何とかしてでび子えもん~!!」
「ちょっと、人を勝手に猫型ロボットにするんじゃないわよ。
だけどもうそういう関係になってるとしたら、今更どうしようもないわ。
今更、挿れた事を無しに出来る魔法なんてあると思う?」
「挿れっ…!!
う”・・・う”あお”ぉぉぉん!!!!!」
僕はそのまま、パンツの中で盛大に漏らしてしまった。
自分が凄く惨めだった。あのマッチョには勝てない。
何であの時、深夜子に応えなかった?今更過ぎるよな、確かに。
「あのねぇ、だから言ってるじゃない。
今更後悔や嫉妬じゃなくて、寝取られマゾになりなさいって。
この状況を逆手に取って、快感に変えなさい。
自分の情けなさ、至らなさ、弱さ、惨めさ。そうしたもの全てを
自分の被虐願望に重ねて興奮のエサにするのよ。
さぁ、寝取られマゾになりなさい。」
「う”ぅ・・・」
僕は股間を撫でながら、寝取られマゾになる為に自分の思考パターンを
丸ごと根底から入れ替える事にした。
精神統一して、弱い自分を受け入れてそれを興奮に変える。
情けないが、今の僕にはこれしか出来ないように思えた。
その時、チャイムが鳴った。
━ピンポーン━
見るとモニタには深夜子が映っていた。
「え、もうプレイが終わったのか?
まぁ良い。プレイ後で男女の匂いが混ざった深夜子を間近にして
興奮に変えてやる!!」
僕は深夜子を自宅へと招き入れた。
かなり汗の匂いがした。やはり、かなり激しかったようだ。
「すいません、ヨガジムに行った後だから汗だくで。」
「え・・・?」
僕は数秒、フリーズした。
ヨガジム?確かに深夜子はジムをやっているような感じがあった。
しかし、そうするとまさか、あの駅前での男は…。」
「突然の雨だったから先生に駅前まで車を出して貰ったんですが、
ここに来るまでは傘を借りて来まして。
古い置き傘だから所々破れていて濡れちゃっててすいません。」
でび子がニヤァと僕を見て笑っていた。コイツ、わかってやがったな。
「アレ、みぎゃーさんも濡れて帰って来た所ですか?
だけど股間の所だけが濡れているような…。」
「深夜子…、先生はタイプか?」
「え?いえ、そもそもが妻帯者ですし、それにあぁいう感じの
オス!みたいなタイプって私苦手なんですよね。
どうしてそんな事を聞くんですか?」
僕は安堵して、再度びゅるびゅると漏らしてしまった。
そしてそれを深夜子に悟られないよう、すぐに風呂に入る事にした。
そして僕は風呂場でもう一回、安堵から致してしまった。
結果的に僕はこの日、三回も達してしまったのだった。




