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物語を喰らう悪魔  作者: みぎゃー


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第四十三話:怪談(後編)

「逃げない。ただ、何故こんな事をしたのか、それだけを教えてくれ。」


僕は恐怖で動けない身体のまま、ただ声だけを出していた。


『アタシはねぇ、アンタが感じ続けていた【違和感】だよ。

 可愛い悪魔の少女と同棲しながら、更にそこのガキも言い寄る。

 自分にはそんな価値なんて無いと思いながらも止められない。

 そんなアンタの違和感を恐怖に変えて具現化した存在だよ。

 アンタが自分を認めない限りはアタシは恐怖を与え続けるよ。

 何なら追い回してやろうか?この小屋の中で絶望を与えてやるよ』


そう言うと怪異は僕に近付いて来た。

深夜子が恐怖から泣き出す。


「ふぇぇぇぇ、助けてよぅ、お兄ちゃん~!!」


しかし情けない事に、恐怖で足がすくんで何も出来ない。

しかし、この怪異は僕の感情から生まれたものだ。


「だ、だったら、僕が自分に価値がある事を認めれば良いのか?

 そしたら、お前は消えるのか?」


『知らないね!さぁ、喰ってやるよ。

 そこのガキも後で喰ってやるから、覚悟しな!!』


奇跡なんて信じなかった。

ただ、目の前にいる存在が単なる恐怖では無く、僕の弱さだと知った。

僕は、深夜子を傷付けさせるわけにはいかなかった。

ただ、自分の弱さを認めた。


こんなにいたいけな少女を連れていながらも何もしてやれない。

連れて来たは良いものの、結局解決に至らない。

ずっと目の前の深夜子の事ばかりを考えて気にして、

目の前から消えてしまったでび子の事が後回しになっている事。


とにかく、自分の弱さから目を背けずに、認め続けた。

すると、目の前の怪異の動きが止まった。


『ほぅ?少しは自分の中の【恐怖】を克服出来たようだね。

 だが、それじゃ足りない。残念ながらアンタはやっぱり、

 アタシに喰われるべき存在なんだよ!!』


怪異の口が僕の身体よりも大きく開き、飲み込もうとして来る。

しかしそこで僕は、この場にそぐわない言葉を発した。


「深夜子、愛してるよ。」


━━!?━━


怪異は一瞬にしてぐるぐるとした渦巻き状になり、消えて行く。


フッと、気持ちが軽くなった。


見ると、深夜子が元に戻っていた。


「あ、あの、えと…さっきの…キャー!!」


深夜子は顔を覆いながら廃屋から出て行ってしまった。

そこへ、でび子が廃屋の奥から出て来た。


「でび子!!無事だったのか!?」


「あ”-、まぁいわゆるセカイ系みたいな感じの、

 陳腐な怪異よね。結局はアンタの一人芝居って言うか。」


でび子は頭をポリポリとかきながら、視線を反らしていた。


「それにしても、まさかアンタ、深夜子に本気だったとはね…。

 まぁ確かに最近、あの子結構アピールしてたし、アンタもそれなりに

 意識しないワケにはいかなかったわよね。

 それにしても何だか気まずいわね、こんなタイミングで告白とか。」


僕は急に、先程の自分の言葉が恥ずかしくなり体が熱くなった。


「あ、あの、さっきの言葉は忘れてくれ、咄嗟の事で…その、あの、

 思ってもいない事を言ってしまったんだ。」


「べ、別に思ってもない事じゃないでしょ。

 無意識に口をつく言葉なんて、本音に決まってるじゃない。

 それにあの子の事も考えなさいよ。

 あの子なりに結構、いやかなり嬉しかったんじゃないかしら。

 アンタこれから、深夜子との関係性変わるわよ。」


まさかの、怪談そのものズバリのような展開から、

王道ラブコメのような展開へと急ハンドルがきられた。


「と、とりあえず外に行ってあげなさいよ。

 あの子もこんな山奥でずっと照れてるだけじゃかわいそうでしょ。」


「わ、わかった…。とにかく、でび子が無事で良かったよ。」


僕はそう言って、外へと出た。

深夜子は大きな木の側でただ照れ続けていた。


「う、嘘でしょ、みぎゃーさん、私の事を、そんな…。」


「あ、あの、深夜子…、その、落ち着いて聞いて欲しいんだが、

 さっきのは告白とかじゃなくて、だけど別に好きじゃないとか

 そんなのでも無くて、ただその、付き合いたいとかそういう、

 そんなんでも無くて…。」


「あぁ、大丈夫です。何か、咄嗟にワケのわからない事を言うみたいな、

 潜在意識のアレですよね?だけど、アレ?潜在意識と言う事は、

 やっぱり本音って事?キャー!!」


深夜子は今度はしゃがんで顔を覆ってしまった。

どうしよう、僕もめちゃくちゃ恥ずかしい。

そこへ、でび子が廃屋から出て来て声を掛けた。


「あのね...こんな山奥の廃屋を前にしてそんな事やってないで、

 早く帰りましょ。今から帰り始めても暗くなるかもよ。

 野生動物だって出るかもだし、夜道は危ないんだから、

 サッサと行きましょ。」


そうして三人で、山を下りる事にした。

少しずつ暗くなる道を慎重に、しかし遅くならないように真剣に進む。

僕達はずっと無言のままだった。


やがて暗くなりきる前に駅に着き、しかし次の電車までは30分あった。


「何か自販機で飲み物を買って来るよ。」


そう言って僕は駅にたった一つだけ設置された自販機へと向かった。

しかし、その自販機は何かおかしかった。


「コレ…かなり古い自販機じゃないか?

 いやそもそも、硬貨を入れるところ、昔の硬化だぞコレ。

 おかしい...どういう事だ?」


そこへ、でび子が近づいて来た。


「ヤバいわね、今度はアンタの中のノスタルジーが具現化しようとしてる」


「どういう事だ?」


「今のアンタの感情は、世界に影響を与え易くなってるわ。

 セカイ系の物語の主人公気質になってるのよ。

 さっさと自分の感情を安定させなさい。

 でないと、アンタの感情に巻き込まれてアタシも深夜子も、

 また迷惑を被る格好になってしまうのよ。」


僕は平静を装い、でび子に言った。


「もう大丈夫だ、気持ちは安定した。」


「全然変わってないでしょ。ちゃんと心を鎮めなさい。

 そうね、アンタ、祭で多くのふんどしの男達から

 かなり強烈な匂いの屁を喰らい続ける事を創造しなさい。」


僕は急にあらゆる感情が沈み込んでしまった。


「あら、良いじゃない。ほら、自販機も元通りよ。」


目の前の自販機は、何の変哲も無い自販機に変わっていた。


「おしるこで良いか?」


「アンタ、せっかく助けてあげたのに何よその仕打ちは。

 ちゃんと喉の渇きを取れるものを買いなさいよ。」


「ごめんごめん。メロンソーダだよな、好きなの。」


「何よ、ちゃんと覚えてるんじゃない、アタシの好み。」


「長いからな、一緒に住み始めてから。」


「….まぁ、アタシからするとたくさんの人間の中の一人でしかない。

 別に特別でも何でもないんだからね。」


「わかってるよ。それでも、僕の目の前にお前がいる間くらいは、

 ちゃんと一人の女の子として丁寧に接するよ。

 本当に、いつもサンキューな。」


「何よ、いつもはそんなに爽やかな事言うキャラじゃないでしょ。」


「….本当は、深夜子の事をどう思ってるのかわからないんだ。

 あんな事を口走ったのは本当に無意識で、でもそれが本音なのかどうか、

 自分でもそれを確かめる術が無くてさ。」


「まぁ、焦らなくても良いんじゃないかしら。

 確かに思ってもいない事が環境的ストレスから口を出る事はあるし

 あの子だって今、そうした可能性を考え併せた上で、

 別にすぐにどうこうなるとは思ってないはずよ。

 ただ、いつかはちゃんと結論を伝えてあげた方が良いかもね。」


「何か、ホラーしたと思ったらラブコメして、凄い慌ただしい展開だな。」


「世の中、一つのジャンルだけが人生じゃないでしょ。

 そういう群像劇を描くのも一つの物語の在り方よ。」


こうして僕とでび子はとりとめも無い話をし、やがて電車が到着した後、

僕達達は泥のように眠り、結果的に数十駅乗り過ごしてしまったのだった。

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