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物語を喰らう悪魔  作者: みぎゃー


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第四十二話:怪談(前編)

ある日、ポストを覗くと小さな段ボールが入っていた。

差出人は不明。

怪しく思いながらも興味本位には勝てず、僕はそれを部屋に持ち帰った。


でび子は自室で何かをしているようで、僕はリビングでそれを見ながら

中身が何なのかを思案していた。


(何か応募していたキャンペーンが当選したとかかかな?

 まぁ、たまに思いもよらないような忘れていたものが届いたり、

 たまにあるし開けてみたらわかるんだろうな。)


そう思いながら開封しようとした時、インターホンが鳴った。

モニターを見ると深夜子で「開いてるぞ」と言い、鍵を開けた。

そして段ボールを開封しようとした時、でび子が部屋から出て来た。


「アンタ、それ!開けちゃダメよ!!」


「え?」


その時、玄関のドアが開いた。


「こんにちわ~。今日はお昼作ってあげましょうか?」


でび子の警告と深夜子の訪問。

二つの出来事が同時に起こり、僕は頭の処理が追い付かず、

とりあえず今やっている行動を終わらせようとして開封した。


すると次の瞬間、でび子が消えた。

後には煙だけがボゥッと立ち上がり、やがて消えた。


僕は驚きの中、訪問して来た深夜子を見た。

すると彼女は小学生の低学年くらいの体格になっていた。


「え、深夜子…それ、何だ!?」


「え…、お兄ちゃん、誰?」


僕は全くワケのわからない状況に焦りまくった。

しかし、このまま混乱していてもどうしようも無い。


まずは深夜子に聞いて見る事にした。


「僕を覚えていないのか?

 深夜子、…深夜子だよな?」


「ふぇ、そうだよ、私は『くらべ みやこ』だけど…

 お兄ちゃん、誰?」


深夜子は全くの子供になってしまっていた。

更にはでび子の気配も完全に消えてしまっていた。

僕はハッとして開封した段ボールの中身を見た。

そこには、一枚の紙が入っていた。


『おめでとう。あなたに呪いを届けます。』


とんでも無い事態になってしまった事だけを僕は理解した。

一体差出人は誰なんだ?書かれているのはこの文字だけか?


僕は紙を注意深く見た。


するとその裏面の下の方に『償いはコチラ』と地図があった。

地図と共に中途半端な住所が書かれており、調べてみるとそこは

人が住んでいる気配もないような山の中だった。


「嘘だろ…?こんな場所に来いって言うのか?

 大体、償いって何だよ…。深夜子を、でび子を、

 返せよ、何なんだよ、誰だよ、一体何の恨みが…。」


しかし、いくら誰かもわからない相手を恨み呪った所で、

現状は1mmも変わらない。僕はそこへ向かう事を決意した。

しかし、深夜子はどうしよう。


「自分のおウチはわかるかい?

 住んでいる場所とか、お友達とかはわからないかな?」


「う…私、何も覚えてない。

 ねぇ、お兄ちゃん。私、どうしたら良いの?」


深夜子は何一つわからない状況にあった。

僕は覚悟を決めて、深夜子を連れて行く事にした。

子供の足には山奥はキツいかも知れないが、

ここに置いて行けば更に危険に晒してしまいかねない。


「あのね、僕はみぎゃーって言うんだ。

 深夜子ちゃん、今からちょっと山奥に行くんだけど、

 僕が守ってあげるから、一緒に行こう?」


「うん、わかった…。山奥、怖いけど…一緒に行く。」


健気だな、と思った。いや、ボクに頼るしかないのだ。

僕自身、何の確証も無い。ただ、突き動かされているだけだ。

それでも、この不可解な状況を打破するには動くしかない。

僕は思いつく限りのサバイバルな道具をカバンに詰めた。

おそらく足りないものも多いのだろうが、仕方ない。


山自体はここから電車で一時間と少しで辿り着く。

しかし指定の場所に向かえば昼を過ぎるだろう。

そこから何をするのかはわからないが、少しでも時間を無駄にすれば

暗い山の中を歩かなければならないかも知れない。

それだけは避けたい。今すぐに行こう。

僕は何もわからないまま、山へと向かった。


~約一時間後~


電車の車窓から目的地の山が見えて来た。

あの奥の方に指定された場所がある。

地図アプリで確認した所、建物が確認された。

しかしそれは使われていない雰囲気があり、

どうにも良い気分はしなかった。

それでも、でび子と深夜子に起こった事を解決するには

これしか方法が無いのだ。


もちろん、怖くないワケが無い。

それでもただジッとしていて解決するワケが無い。

僕はただの義務感を勇気にすり替えて歩いた。


電車を降りる時、僕達以外の乗客はいなかった。

次の電車は約1時間後。更にあまり遅くなれば

そもそも電車の本数はかなり減ってしまう。

僕は山の方へと歩いた。


駅から山までの道には少しの民家や施設もあったが、

そのどれもが人が居る気配が無かった。

実際には住んでいるのかも知れないが、

人の気配が無いのだ。静かに暮らしている高齢者か、

電車で郊外や都市に働きに出ているのか、

とにかくこの周辺に人の気配が無い事が更に恐怖を増した。

この周囲数kmには僕と深夜子しか居なかったどうしよう。

しかも目的地は目の前の山をずっと進んだ奥地だ。

何かあっても誰にも頼る事は出来ない。


僕は無理矢理に意を決して、深夜子の手を引き山へと分け入った。


「お兄ちゃん、怖い…。」


「深夜子、大丈夫だよ。僕が付いてる。

 絶対に守るから、一緒に行こう?

 キミは本当はね、もっとお姉ちゃんなんだよ。

 ちょっと何かの理由で今はちっちゃくなっちゃってるんだ。

 だから元のお姉ちゃんに戻る為に、行くしか無いんだ。」


「うん、わかった。深夜子頑張るから、手を離さないでね?」


震えている深夜子の手。

それは普段の僕を守ろうとしてくれる深夜子からすると、

本当に頼りなく守らなければすぐにでも消えてしまいそうだった。


森の中は静かとは言えなかった。

鳥の声や虫の音、木が風に揺れる音等、それなりに音がする。

しかしそのどこにも人の気配は無く、それが恐怖をかき立てた。


途中で何度も転びそうになり、その度に心臓がキュッとなった。


もし僕がここで怪我をして歩けなくなれば、深夜子はどうなる?

僕自身だってどうする事も出来ない。

だけど慎重に進み過ぎて夜になるのだけは避けたい。

僕は慎重かつ最適ななるべく安全な経路を模索しながら、

山の奥へと分け入って行った。

途中にはわずかに人の生活の痕跡があった。

それは祠だったり掘っ建て小屋だったりしたが、既に荒れ果てている。

やはり、もう既に人の手はこの山に一切入っていない。


急峻で険しい角度になって来た辺りで、周囲に異様な気配が漂う。

まるで人間の侵入を拒むかのようなその寒気に気圧されながらも、

僕はここまで来るともう引くに引けない気持ちで自身を鼓舞し、

何とか一歩一歩を勧めた。


もちろん、手を繋いでいる深夜子にもそれは伝わっている。

彼女の身体は震えていた。


くそぅ、何だってんだよ。

一体何の恨みがあって、僕と深夜子、それにでび子をこんな目に遭わせる?

そもそもでび子はどうなってしまったんだ。

すると、深夜子が泣き出してしまった。


「う...うぐ...お兄ちゃん、ダメだよ、怖いよぅ、帰りたいよぅ。

 う”ぅ...こわいよぅ~!!」


僕だって泣きたくなるほど怖い。

大体、もし今目の前に幽霊の類が現れたらどうする?

1人ならなりふり構わずに逃げ出すだろう。

もちろんこんな足場の悪い場所では逃げきれないだろうが。


しかし今はそこに来て、この幼い深夜子が居る。

つまりは、逃げ出す事なんて出来ない。

例えどれだけ恐ろしいものが目の前に現れようが、

いやそもそも現実的に考えれば野生動物の可能性もある。

僕は極限の中で、それでも深夜子を励ました。


「深夜子ちゃん。本当はね、僕も怖いんだ。

 だけどね、キミをこんな風に変えてしまった何か、

 それと向き合って解決するためには、もうすぐそこにある

 建物に行かなきゃなんだ。お願いだから、一緒に行こう。

 絶対に、キミを守るから。」


「…うん、わかった。絶対に、守ってね。」


深夜子が僕の服の裾をギュッと掴む。

不謹慎ながら、本当に可愛いと思った。

あの普段の深夜子の僕に対する行為も嬉しいものであるが、

今のこの完全に無力な幼い深夜子の信頼を裏切りたくない。

僕はもう一度自分を鼓舞して、建物へと進んだ。


ようやく見えて来たそれはこんな山奥の頂上付近にしては

不釣り合いなほどに立派な廃屋であった。


「誰かが住んでいるのか?

 いや、だけどこれはどう見ても廃屋だ…。

 じゃあ、僕を呼んだのは一体…。」


一瞬、体が強張り動かなくなった。当然だ。

映画や小説で読むようなホラーでは無い。

本当に現実として目の前にある、理解不能な建物。

この中に自ら歩を進める理由が頭から遠のく。


(そんなに怖いなら、逃げ出しちゃえよ。

 でび子はもう諦めて、小さな深夜子は養女に向かえて。

 それで、誤魔化せば良い。わざわざこんな場所で

 怖すぎる思いをする事は無い。)


僕の中に天使と悪魔はおらず、悪魔が囁き続けた。

それは数十秒の葛藤に思えたが、実際には一瞬だった。


僕にはもう、後退・諦め・逃げると言う選択肢は無かった。


無理矢理に勇気を振り絞り、ボロボロの扉を開いた。

開けた途端、それはボロッと崩れ落ちた。


廃屋の中はかなり埃っぽく、人の生活感は無かった。

所々に置かれている生活の跡からは、昭和初期を思わせるような

非常に質素で僕からすれば使い方のわからない農具もあった。

更に一つ特筆すべき事。『瘴気』が満ちている。


僕はこれまでに、そのような霊感めいたものは無いと思っていた。

しかしこの廃屋に満ちているそれは、瘴気と呼ぶしか無かった。


恐怖をもたらすだけでは無い。

悲しみや同情、全ての希望を削いでこの場から動けなくなる。

僕はまるで体が人形になったかのように、動けなくなった。


そこへ、廃屋の奥の方から『何か』が這い出して来た。


『よく来たねぇ、まさか本当に来るとはね…。

 アンタ怖くなかったのかい?こんな山奥、誰も来ないよ…』


僕はここに来た事を後悔した。

2Mはあろうかと言う巨躯に荒れ果てた長髪を振り乱し、

血に塗れた顔と生気の無い白い肌。それにこちらを睨むように見つめる

悪意に満ちた剥き出しの目玉。

深夜子は恐怖に震え上がり声さえ出ない。

僕は足がすくみ、しかし何故か目が反らせなかった。


『さぁ、逃げたきゃ逃げな。』



挿絵(By みてみん)

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