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物語を喰らう悪魔  作者: みぎゃー


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第三十七話:物語の世界と現実を同期させる力

挿絵(By みてみん)

大洪水を引き起こす悪魔



でび子はもうずっと僕の側で物語を食べ続けた。

そうしてついに先日、既に栄養素としての物語は必要無いと言った。

十分に力を蓄えたと言うのだ。


しかし、悪魔と言うのは目的を持っているはずだ。

一体でび子は十分な栄養を蓄えた後、何をする悪魔なのだろうか。


「悪魔だって神により作られた存在なのよ。

 決して神に歯向かう存在では無いわ。

 それはそれこそ、古い『物語』の中のキャラクター存在よね。」


更にでび子が言うには、悪魔は人の内側にある欲望や衝動を表し、

それは消滅させるようなものでは無く、操られるか飼い慣らすかだと言う。


「アンタは今の所アタシと上手くやってるみたいだし?

 まぁ良い付き合い方をしてる方かもね。

 アタシが司るのは人間の創造と言う欲望・衝動よ。」


それは、人間が他の動物と違う所だ。

例えば、性欲や暴食と言ったものであれば他の動物にもある。

特にやや知能の高い動物になれば一見無駄に思えるような贅沢も

自らの力の誇示のために行ったりもする。


しかし、物語を作り、それを形として残して語り継いだりする事は

人間にしか出来ない。つまり、どこまでも人間の欲望に沿った悪魔だ。


「つまんない話でも書きたくなってしまう時があるでしょう?

 例えばアンタなら、深夜子にヨガストレッチをさせて汗をかかせるとか、

 普通に考えれば公衆の面前で憚られるような恥ずかしい欲望を形にして、

 それを書き残せる事はある意味では罪深いかも知れないわよね(笑)」


でび子は、いまだに深夜子の汗の匂いを楽しんだ僕をイジって来た。

いや、それは当然だ。確かにちょっと変態っぽいのは認める。

だが、美少女の汗の香りを狭い室内で楽しむ事のどこがダメなんだ。

そんなの、9割の男は望むシチュエーションじゃないだろうか。


「別に、その事をダメと言ってるんじゃないわよ。

 ただ、あぁしたものはその場で楽しむだけに留めずに、

 物語の1シーンとして書き留める事でいつでも再現出来る。

 それは人間だけが持ち得る能力でもあり、功罪でもあるのよ。」


まぁ、深夜子からすれば薄いヨガウェアでエアコンを切られた室内で

結構負荷がかかるヨガエクササイズをして汗をかいたらそれを嗅がれる。

そこそこに恥ずかしい、と言うか気持ち悪い事かも知れない。

しかもそれを物語に書かれれば何度でもその場面が呼び起こされる。


「面白いわよね、人間って。性的な場面だけじゃない。

 カタルシスや倒錯的な場面、楽しい瞬間や悲しい感情。

 あらゆるものを記録し、想像し、それを物語に書き加える。

 そうした衝動と欲求がやがてはコントロール出来なくなり、

 狂って行く人間達も見て来たわ。

 現実よりもついには物語の世界の中を目指した者達もいた。

 アタシはこうした人間の独特の営みの側にずっと居たのよ。」


やっぱり、思った通りだ。でび子はそれほど恐ろしい存在では無い。

僕は安心して胸をなでおろした。


「ア”?

 アンタ、今アタシの事をナメ切ってたわよね?

 危険性の無い安心安全な可愛いだけの悪魔だって、

 そんな風に思ったでしょ?」


「え、いや、別に可愛いだけの悪魔とか、それは思ってない、

 って言うかいや、まぁでび子は確かに可愛いけどさ、

 大丈夫だよ、ホラ、そんな事思ってないからさ…」


「良いわよ?アタシの本当の恐ろしさを見せてあげようかしら?

 この前は深夜子に邪魔されてしまったけれど、もう一度今度は

 邪魔が入っても最後までやり遂げるわよ。」


何て事だ。先日は深夜子の助けがあって途中で中断されたアレが、

今度は最後までやり遂げるなんて…大災害必至だ。


「いや、あの、でび子の恐ろしさはもう既に先日、十分にわかったからさ、

 どうか抑えてくれ、な?でび子からしても面白く無いだろ?

 ただ破壊を楽しむだけの低俗な悪魔じゃないはずだ、お前は。」


「ハ?何を言ってるのかしら。この前みたいな事はもうしないわよ。

 アレはあくまでアタシの力を試してみただけ。

 今度は本当の能力を使うわよ。」


「本当の能力?でび子の本当の能力って何なんだ?」


「フフ…物語の世界をこの現実と同化させるのよ。

 上書きして書き換えて、世界の記憶事変えてしまうの。」


「何だって?そんな事をしたら、世界がメチャクチャになるだろ!」


「知らないわよ。さて、何の物語にしようかしらね。」


「だったらせめて、深夜子が毎晩僕の部屋にやって来て、

 エアコンを切った部屋でヨガエクササイズをして汗をかいて

 その匂いが漂ってくる物語にしてくれ!!」


「嫌よ。って言うか何よ、そのアンタの欲望だけの物語は。

 何の面白味も無いじゃない。」


「だったら、一体どんな話を現実化しようって言うんだよ。」


「ふふ、そうね….聖書の洪水何てどうかしら?」


━ゾクッ━


僕は背筋を黒いモノが這ったような感覚に襲われた。

それはヤバい。文字通り、世界が死ぬ。

そんな事を現実化させてしまってはいけない。


「さぁ、コレは今更深夜子が助けに来てもどうしようもないわよ。

 アタシの真の力を見せてあげるわ。

 アンタが栄養を与え続けた悪魔の実力を噛みしめなさい。」


そう言うとでび子は、あっと言う間に世界を漆黒の闇に包んだ。


「嘘…だろ?今この闇は世界を全て覆っているのか?」


「えぇ、そうよ。こんなモノ、アタシの力にかかれば一瞬よ。

 さぁそれじゃあ、この世界に聖書の洪水の物語を同期させるわ。

 泳ぐ準備は良いかしら?」


そう言うとでび子は両手に激しくスパークする電撃を発生させた。


「そこで見ていなさい、最古の悪魔の能力の発現する瞬間なんて、

 中々見れるモノじゃないわよ。良かったわね、特等席で見れて。」


そう言うと電撃を空に向けて放ち、それはみるみる空へと広がって行った。


━バチバチバチバチバチィッ!!!!!!!!!!!━


夜空に激しい電撃の音が鳴り続けた。

一体どういう自然現象なのか、誰もそれを名付けられなかった。

人類が知るうちには無い空の現象だったからだ。

一時真っ暗になった夜空は、電撃によって真っ白になる。

それは文字通り何も見えない、本当にただ真っ白な世界だ。


この瞬間世界は、でび子の手に堕ちてしまった。


「おい、おい...本当にまさか物語の世界になってしまうって言うのか?

 だけど聖書の大洪水なんて…とんでも無いモチーフを持って来やがる…」


真っ白な光がようやく止んだと思ったら、空から大量の水が降って来た。


「ちょ、マ、マジなのか!?」


焦る僕。だけどどこにも逃げ場は無い。

50Mプールを丸ごとひっくり返したどころじゃない。

まるで琵琶湖のような大きな湖の水を全てひっくり返したような

とんでも無い量の水が空から降って来た。


「………終わった……。」


僕は全てを諦めた。

こんなもの、もうどこに行っても逃げ場なんて無い。

でび子はこの世界を物語の世界にする力がある、それは本当だ。認める。

だけど認めた途端、僕はもう消える。何をやってるんだ、この悪魔は。


「せめて死ぬ前にもう一度、深夜子の汗の匂いを思い切り嗅ぎたかったな」


するとそこへ、深夜子がやって来た。


「早く、私の手を掴んで下さい!!

 コレに巻き込まれたら確実に死にますよ!!」


僕は有無を言わずに深夜子の手を掴んだ。

そして深夜子は彼女のホームグラウンドである、

不思議の国へとワープした。


「…助かった、のか...?」


「間に合って良かったです。

 空が光り始めた時点で明らかにおかしかったから、

 助けに行こうとしたんですがギリギリになってしまいましたね。」


「本当に、とんでもない事をやってくれたよ、アイツは。

 もし元の世界に戻ったとしても、もう大洪水の後の世界だ。

 希望なんて残っていないだろう。」


「私は詳しくは何が起こったのかわかりませんが、

 大方先日の成長した事により力を取り戻せた事から誇示したくなり、

 彼女の悪魔としての能力、物語の世界と現実を同期させる、

 と言ったモチーフに聖書の大洪水を選んだ、と言った感じですか?」


「凄いな…よくわかるね、本当に全部その通りだよ。」


「一応コレでも、対でび子さんからみぎゃーさんを守る為に来ましたから。

 彼女が考えそうな事、実行しそうな事は少し察しがつきます。

 そして彼女はおそらく、私が助けに来る事も計算に入れていた…」


「ピンポーン、正解よ。」


そこには、でび子が居た。


「でび子!!お前、とんでも無い事を…。

 もう元の世界に戻れないじゃないか、居場所が無くなったんだぞ!

 それに多くの人達の命を…お前、どう責任取るんだよ!!」


「だったら、あんたがもう一度元の住んでいた世界を書けば良いじゃない。

 それを現実に同期してあげるわよ。ただし、正確に書く事よ。

 少しでも元の現実と違ったり内容を省いたりすればそこから綻びが生まれ

 結果的にその影響から全く違った世界になる可能性もあるわ。」


「それは...とんでもない無理難題だな…。

 だけど、元の世界に戻すにはそれしか無いってワケか。

 よし、僕の全身全霊を使って元の世界観を書き上げて、

 そこに帰れるようにしてやるぞ。僅かな希望があるんだ。」

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