第三十五話:でび子の成長
成長したでび子
「アンタ、もう物語を書かなくて良いわよ。」
突然でび子がそう言った。
これはどういう事だ?
僕に対するリストラみたいなものなのか?
「アンタ、アタシが好きでこんな少女の姿をしてると思ってる?」
「え、どうだろう。
だけど悪魔なんだから、見た目くらい選べるんだろう?」
「だったらもっと恐ろしい見た目をするかもね。
少なくとも好きでこの格好をしてるわけじゃないのよ。
だけどそれも今日で終わり。もう十分に栄養が得られたのよ。
これから、アタシの真の姿に近いモノを見せてあげるわ。」
そう言うと、でび子は禍々しいオーラを放ち始めた。
近くに居るだけで吐き気と気分が沈み、眠気もやって来る。
更には鼓動が早くなり皮膚は敏感になり触れても痛いくらいだ。
「ちょ、でび子…何だよコレ…かなりヤバいぞ…」
「ハアァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!!」
でび子は力の限りを込めて叫んだ。
すると、彼女の身長は伸び、身体中にタトゥーのような模様が浮かんだ。
「ふふ、まぁこんなモノね。
これでもアンタには感謝してるのよ。
お礼にどうして欲しい?キスなんかじゃ物足りないでしょ。
抜いてあげようか?それとも挿れたい?」
でび子は大人の見た目に成長していた。
本来の姿に近くなったとの事で、気が大きくなっているようだ。
「いや、でび子をそんな風な目で見てないからさ…。
って言うか、そんな事したらお前との関係が壊れそうで。」
「あら、アタシは気にしないわよ?
ただ、悪魔と交わればそれなりの代償はあるけどね。
気分が良いから、少しイタズラをしようかしら。」
そう言うとでび子は、窓から飛び出して空を飛んでいた。
そして空中で静止すると何やら力を溜め始めた。
晴天だった天気が一気に曇天になり、遂には雷が鳴り始めた。
「天地の万物よ、我に与せよ。
その内側に溜まった穢れを祓い、それを人へと返報するのだ。」
すると、突然大雨が降り出し、雷鳴が轟き、暴風が吹き荒れた。
「ちょ、何やってるんだよ、でび子!!
天才を起こして町を滅茶苦茶にしたいのかよ!!」
「あら、何を生ぬるい事を言ってるのかしら?
コレは全て、元はと言えば人間の業の成れの果てよ。
人類が自然を蹂躙して来たその歪みが蓄積した力、
それを今、解放させているのよ。」
その力は凄まじく、すぐに暴風により電線が千切れ、停電が起きた。
「で、でび子…!!
いくら何でもやり過ぎだ!コレじゃあ町が壊れてしまう…」
「だけど、それだけの事を今までやって来たのよ、人類は。
いつまでも自然を使いっ放しって虫の良い話じゃない?
そろそろ文字通りの天罰を受けるべき時なのよ。」
「マジかよ…だけど自業自得なら、コレを甘んじて受けるしか無いのか?」
その時、暗部深夜子が僕の部屋に入って来た。
「みぎゃーさん!!コレは…やっぱりでび子さんの仕業ですね!!」
「あぁ、だけどコレは元はと言えば人類が自然に対して行って来た
歪んだ搾取の報復と言う事らしい。」
「まぁ、それはわかります。
それにしたって、それを今この瞬間に全て解放してしまうと言うのは
あまりに悪意があり過ぎます。みぎゃーさん、逃げましょう。」
「え、逃げるって何処に?」
「不思議の国です。私が存在しているのはそうした不定形の世界。
そこへ一旦逃げ込み、対策を立てるんです。」
「わかった、よろしく頼むよ深夜子。
それにしても、戻って来た時に家がちゃんとまだあるかな…」
僕は深夜子に手を取られ、不思議の国へと向かった。
「ココ…か。安っぽい表現をすれば、不思議の国のアリスだな。」
「まぁ、人並みな表現だとそうなりますね。
確かにモチーフの一つではありますが、グリム童話や世界中のあらゆる
不思議な世界の要素を詰め込んであります。
あまりに雑多過ぎて散りばめられた要素を説明するだけで一生が
終わってしまうくらいなので、今回は何も言いません。」
「あぁ、わかった。
それよりも、でび子のあの力…とんでも無さ過ぎて打つ手が無いよな。
多分、元の姿に近い状態に解放された事が嬉しくてやってるんだ。」
「まぁ、どこまで行っても本質は悪魔と言う事です。
しかしあのまま放置は出来ませんね。さすがに町が終わりそうです。」
「直接でび子と戦う力なんて、深夜子には無いよな?」
「えぇ、私は戦闘タイプでは無いですから。
どちらかと言えばイリュージョン、魔法。不可思議の力を使います。
物理でぶつかり合うなら、一撃でやられちゃいますね。」
「そうか…。
だけど情けない話、今の僕は深夜子を頼るしか無いんだ。
頼むから何とかしてくれ。どんな手を使っても良い。」
「どんな手を使っても、本当ですか?」
「え?」
「例えばですが…みぎゃーさんが壊れてしまっても良いですか?」
「え...どういう事だ?
壊れ…だけどもし、それしか方法が無いのなら…いやそもそも、
それはどんな方法なんだ?」
「ええと...。おそらくですが、でび子さんを止めるにはみぎゃーさんが
一度死ぬしかないと思います。」
「なるほど、僕が死ぬってワケか…って、えぇえ!?
死ぬ!?しかも一度って、生き返る事が出来るのか?」
「まぁ、運が良ければ…ですね。成長した存在は何を望むのか?
それは自らを立派に成長させた者の消滅です。」
「いやいやいやいや、今までお世話になった存在だろ?
それが消滅する事を望むとか…どんだけ恩知らずなんだよ。」
「恩と言う概念は特定の時代のある特定の思想の中でだけ発動する
平和な世界の概念でしかありません。
成長した者が自らの成長を実感出来るのは、先ずは成長を促した者を消し
自らの完全性を証明する事からはじまります。」
「….言ってる意味が半分くらいしかわからないよ。
大体、前回僕はこの世界から存在を消されかけたんだ。
そこに来て次は死ぬしか無いだなんて、滅茶苦茶だよ。
いくら物語の世界だからって、弄ばれ過ぎてるよ。」
「じゃあ、私はでび子さんに挑んで死にますね。
みぎゃーさんも多分、何も出来ずにむざむざと殺されるだけですよ。」
「いや、どちらにせよ僕は死ぬんだろ?
だったら自ら望んで死にに行くよりも、一応の抵抗をしながらでも
殺される方がまだマシだよ、結果は同じだとしても。」
「…一旦、私の作った【静寂の繭】の中に入れば、
再び生まれ直せる可能性があります。あくまで可能性ですが。」
「何だ、それは?大きな繭みたいだな。」
「コレは、文字通り繭ですので幼虫が蛹になる為の疑似装置です。
幼虫は通常、蛹になる時にドロドロに溶けてからまた作り直されます。
この過程がまるで一度死んでから生まれ変わるように見えると言う、
一旦の疑似的な死を作り出すのです。」
「なるほど!だったら、また成虫になる段階で復活出来るワケか!」
「だけど、そう簡単ではありません。
一度ドロドロに溶けた後、また元の姿に戻ろうとすれば、
それは強い意思とやり遂げる実行力が必要となります。
もしそれらの力が足りなければ中途半端になってしまい、
結果的には蛹の中で死んでしまいます。」
「強い意思とやり遂げる実行力、か…。
何が何でも生き返ってやるという気持ちが大事なんだな。
そしてそれが中途半端であれば羽化は失敗する、と。」
「もしやるのであれば、私から一つのおまじないをかけます。
と言ってもそんなにロマンチックなものでは無いですが。
ええと、もし復活出来た暁には、またみぎゃーさん…いえ、
先輩の部屋でエアコンを切って汗だくでヨガをやりますよ。」
「え、えぇえ!?」
「あの後、私の汗の残り香を必死に嗅いでましたよね?
お好きなんですよね?あぁいうのが。
だったら、それを励みにして生き返ろうと思いませんか?」
「いや、めっちゃ思う!!!!!!!!
深夜子のヨガによる汗の匂いを嗅ぐ為に、絶対生き返るよ!!」
「…えと、それじゃあ静寂の繭の中に入ると言う事で良いですよね?」
「あぁ、絶対に汗の匂い、嗅ぐ!」
「…ハイ。あの、あまり何度も言わないで下さい。
さすがに私も恥ずかしいです。」
「あぁ、ごめんよ。それじゃあ、この繭の中に入れば良いのか?」
「えぇ、一旦はドロドロに溶けて行く過程の中で自我や意識を失い、
仮死状態になります。そこから神経や臓器、身体の各所が再結成され
もう一度同じ体が出来上がれば成功です。違うものになるなんて事は
あり得ないので、まぁ成功か失敗、二択ですね。」
「わかったよ。それじゃあ繭に入るから、
最後に深夜子の汗の匂いを嗅がせてくれないか?」
「嫌ですよ。そもそも、それは成功した時のご褒美です。
今からご褒美を渡してどうするんですか。
サッサと繭に入って下さい。」
そう言うと、深夜子はみぎゃーを繭の中に押し込めた。
しかし彼女は不安が勝っていた。
静寂の繭からの生還率は15%。失敗すれば死。
深夜子は勢いを付けて彼を繭の中に入れなければ、
ダラダラと話をしていたら決断が鈍ると考えたのだった。
みぎゃーが繭に入ってしまった後、彼女は深く後悔した。
(あぁ、もう二度と元に戻らないかも知れない…いえ、
その可能性の方が高いのに…。やってしまったわ。
コレは私の罪。一生背負って生きていくしか無いわ。」
そこへ、でび子がやって来た。
「ふぅん、静寂の繭か、考えたわね。
だけどコイツはもう無理よ、生き返らない。
何故ならコイツの意思の力なんて全然大した事は無いから。
アンタ何をエサにしたか大体わかるけど、
そんなもので生き返れる程この仕組みは甘くないでしょ。」
「そんなの、知ってます。それでも、賭けるしか無かったんです。
でび子さん、コレで満足ですか?」
「えぇ、とりあえずコイツは一旦は死んだ。
アタシはそれで満足よ。後は生き返ろうが死んだままだろうが、
アタシはその結果を受け入れるだけよ。さぁ、どうなるかしらね。」




