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物語を喰らう悪魔  作者: みぎゃー


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第三十四話:死以上の恐怖

「ホラーでも書こうかなぁ。」


僕が何となくそう口にすると、でび子が鋭い目で僕をジッと見た。


「アンタね、単なるホラーで良いのかしら?

 そんなものせいぜい、『人の死』なんてものを最大の担保にした、

 見掛け倒しのお遊びごっこでしょ?」


「どういう事だよ、人の死なんて究極の恐怖だろ。

 それ以上の恐怖なんて少なくとも個人にとってはあり得ないよ。」


「ふぅん、まぁ『意識』はそう言うかもね。

 だけどアンタの深層心理はどうかしら?」


「死以上の恐怖なんてあるワケが無いだろ。

 だってそこで終わっちゃうんだぜ?」


「…そう。だったら、永遠に生きれば?」


「それ、よく言うけどさ、死が無いと退屈だとか、

 だけどそんなの実体験してみないとわからないよ。」


「じゃあ、一日部屋の中で何もせずにボーっとしてみなさい。

 それが永遠にアンタの人生の何百、何千、何億兆…終わらないのよ。」


「それが死を超えた恐怖ってヤツなのか?」


「いいえ、違うわよ。そんな簡単な答えをアタシが言うと思う?

 死よりも恐ろしい恐怖、それは永遠の消滅よ。」


「永遠の消滅?死だって永遠の消滅じゃないか。

 生まれ変わりがあるとしても、少なくとも僕のこの意識は

 死をもって終わるだろう?そうじゃないと時代が変わっても

 同じ意識を持っている人間なんて聞いた事が無いからな。」


「だから最初に言ったでしょう。アンタの深層心理よ。

 知っているのよ、本当は。死が終わりじゃないと言う事を。」


「死が終わりじゃないって、おいおい…そんな事わかってなi...」


「どういう事か、疑似的にもアンタに教えてあげるわよ。

 これまで宇宙や地球は幾億もの年月を重ねて来た。

 それくらいは知ってるわよね。だけど、その全てが無かったとしたら?」


「いや、無かったも何も、あるじゃないか、地球も宇宙も。」


「だから、それが無いとしたらの話よ。

 つまりはそういう事よ?」


「えぇ、どういう事だよ…。

 前回と言い、最近のでび子の話は難しいな…。」


「だから、あくまで疑似的にって言ってるでしょ。

 永遠の消滅と言うのはそういう事なのよ。

 アンタ、自分が死んでもまだ地球や宇宙は続くと、

 周囲の人間やその子孫達は生き続けると思ってるでしょ。」


「そりゃそうだろ、僕が死んだら一緒に死ぬのだとしたら、

 それこそおかしな話だろ。」


「だから、その全てが一瞬にして無くなるのよ。

 文字通り、跡形も無いわ。あったと言う記憶すら消されるのよ。」


「そんなめちゃくちゃな話…だって現に今こうして世界はあるし…」


━パチッ。━


その瞬間、僕は気を失った。


・・・・


・・・・


・・・・


・・・・


・・・・


・・・・


・・・・


・・・・


・・・・


・・・・


「おはよう。」


でび子の声が聞こえた。


「アンタ、意識無かったでしょう。

 今が何年か知ってるかしら?」


「え、気を失ってる間の記憶が全く無くて…

 実は3日くらい経ってるとかか?」


「3038年よ。」


「えぇ!?」


「永遠の消滅を体験させてあげる事は出来ないけれど、

 かなりマイルドに模擬的に表すとしたらこうなるわ。」


「え、だけど物凄く時間は経っているけれど、

 確かに今僕はここに居るし、きっとこの世界には僕の知る人達の

 子孫が暮らしているんだろう?別にこれを怖いとは思わないな。」


「何を言っているのよ、そもそもアンタ誰よ」


「え?僕は…、僕は…ええと、僕は…アレ?誰だっけ?」


「ホラ、鏡を見なさいよ」


「え!?写ってない…どういう事?そもそも僕は誰?」


「あのねぇ、アタシに質問してるアンタのその『自我』。

 それって本当にあるのかしら?写っていないと言う事は、

 それは幻や灼け付いた影のようなもので、もう既にここには居ない。」


「・・・。」


「そう、そのまま思考を止めて。もう自分が何者か、

 考える必要も無いのよ。そもそもこれはアタシの独り言。

 だってここにはアタシだけしか存在していないのだから。

 まるで誰かがいるような幻覚を見ていたわ。」


「━━━」


「あの…」


「ん?誰かと思ったら、深夜子ね。どこから入って来たの?」


「私は不思議の国・幻想の国の住人です。

 このような概念世界にも自由に入り込めますよ。」


「なるほどね、アンタの目的がわかったわ。

 アタシの監視と言う事なのね。だけど無駄よ。

 アンタが守るべき存在って何だったのかしら?」


「え?私が守るのは…アレ?

 いや、勘違いでした、すいません。

 私、何をしに来たんだろう。」


そうしてデビ子は3038年の世界を見て、

人間の業というものが変わらないという様子を眺めていた。

ひとしきり気が済むまで眺めた後、でび子は現世に帰った。


そこには公園があった。

彼女はその中のおままごとハウスを居所としていた。


「今日も平和ね。」


そこへ、市の職員、みぎゃーと言う女性が声を掛けた。


「アラ、貴女。こんな所に住んでいるの?

 ダメよ家出しちゃ。もし困ってるなら、しばらく私の家に来る?

 何も無いOLの一人暮らしって感じだけど、ここよりは良いでしょ。」


でび子は彼女をジッと見つめた後、黙って頷いた。


その様子を遠くから眺める深夜子は、ボーっとただ眺めていた。


「あんな平和そうな様子をただ見ているだけ。

 私、ここに来た理由って休暇やバカンスだったのかな。

 それにしたってこんな普通の街よりももっと、

 バカンスらしく海とか山に行けば良かったなぁ。」


世界はただ完璧に回っていた。

そしてこれこそが真の世界だった。


みぎゃーの自宅に入ったでび子が言う。


「玄関が臭いわよ。アンタ、靴下ちゃんと洗ってる?」


「べ、別に一日くらい良いでしょ。二日に一回はちゃんと洗ってるわよ。」


「え、毎日洗ってないの?二日履いてから洗うとか…そりゃ臭いわよ。」


「だってそんな毎日洗ってたら面倒くさいじゃない。」


「いや、面倒くさいじゃなくてアンタが臭いのよ。

 しかも部屋全体に蔓延するこのカビ臭…アンタ換気もしてないワケ?」


「それは…だって一人暮らしだし、部屋戻ったらエアコンかけるだけだし、

 カーテン開けたら眩しいし暑いし…」


「最悪ね、臭くなる事ばかりやってるじゃない。

 あとは部屋干ししてるから、もうコレ役満ね。」


「ちょっと、助けて貰った立場で何を人の部屋を評価してるのよ。

 あーハイハイ、臭くて悪かったですねー、こちとら確かに職場で

 出会いが無さ過ぎて32なっても全然相手がいませんよーだ。

 だけどその理由は別に匂いとかじゃない…はず…」


「絶対に匂いよ。だってアンタ、臭いもん。」


「ムキー!!この子、追い出してやろうかしら!!

 人を臭い臭いって、それくらい我慢しなさいよー、

 コレが私の部屋の匂いなのよー!!」


でび子は、指をパチンと鳴らした。


「どうだったかしら?

 アンタの代わりにはアンタとは違う存在が居座っていた。

 もう世界にアンタの居場所はなかったの。

 まぁこうして戻って来れたから今回は良かったわよね。」


「…何となくだけど、言いたい事がわかって来たよ。」


「えぇ、そうよ。次は本当にもう戻って来れないわよ。

 だってあの臭いOLのみぎゃーって子、面白そうなんですもの。

 アンタなんかよりも全然、あっちとやって行く方が楽しいわ。

 それじゃあバイバイ、これで本当にアンタの意識、

 転生どころかこの世界から丸ごと存在が消えるから。」


「や...やめてくれ!」


「ふふ、ここで止めてしまったら意味が無いでしょう?

 救いが無いからこそ、物語は臨場感があるのよ。

 じゃあね、『これまでのみぎゃー』さん。」


━パチンッ!!━


でび子が指を鳴らした。

瞬間、みぎゃーの身体中をビクンッと電流が流れる。


「・・・嫌だ、消えたくない…。」


みぎゃーは薄っすらと涙を流していた。


「あ・・・れ?まだ、ここに居る?」


「…ハァ。これでも全然まだまだマイルドだけど、

 一応模擬的にやってみたけれど、どうかしら?」


「…本当に存在の記憶が丸ごと全部消えるって事か。

 だけどやっぱり、ホラーの直接的な死の表現に比べると

 かなり難しいタイプの恐怖だな。」


「もちろん、展開運びとか言葉を重ねたり色々tあると思うわ。

 だけどその根源にあるのは存在の消去よ。

 生まれ変わりどころじゃない、本当に存在そのものの抹消。

 だけどそれは臨場感を持って感じるのは実際に消えた時だけ。」


「実感として共感出来ないから、ホラーには使えないワケか。」


「まぁ、いざその直前の瞬間に居合わせたら最高の絶望よ。

 それをこれからの人生で味わう事が無いように生きなきゃね。」


「あぁ、少し、ほんの少しだけど、その片鱗を見た気がするよ。

 それにしても深夜子…でび子のお目付け役だったなんてな。」


「何となくはわかってたわよ。

 アタシが悪魔と言う事で、アンタを喰ってしまわないように遣わされた。

 だけどアタシがその気になればあんな小娘、敵じゃ無いわ。」


「いや、お前も見た目は小娘なんだが…。

 おっと、深夜子か。」


「みぎゃーさん、でび子さん。

 何だか私、さっきまでずっとふわふわしていて記憶が無くて。

 何か世界を巻き込んだ概念的な実験とかをしてましたか?」


「ハハ、深夜子は鋭いね。でも多分、言ったらデビ子に殺されるから、

 言わないでおくよ、ごめんね。」


「いえいえ、心中お察し致します。」


こうして、結果的には元通りの世界が得られた。

しかし、でび子が作ったパラレルワールドは周囲の泡に波及し、

みぎゃーの存在が丸ごと消えている世界を作り出してしまった。


直接的に理解する事は難しいが、本当の死以上の恐怖と言うのは

こうしたいくつも存在するパラレルワールドの自分が存在する事

なのかも知れない。


挿絵(By みてみん)

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