第三十話:おならブッかけおじさんを追え
おならブッかけおじさん
「あの、実は電車内で新たな形のセクハラに合ったんです…」
そう言って、突然道を歩いていた僕に声を掛けて来た女子高生。
幸いな事に僕は別に急いではいなかった為、彼女の話を聞く事にした。
「あれは朝の通学の時間の電車内でした。
思えば何やら怪しい、ぐるぐるとお腹が鳴るような音が鳴っていました。
そして微かな異臭がありました。おそらく漏れていたんだと思います。」
でび子は頬杖をつきながら、しかし少し興味あり気に聞いている。
「それで、そうした怪しい動きから5分ほど経った頃でした。
私の前にいたおじさんが大きなおならをしたんです。
それはもう、車内中に響くような大きなおならでした。
それを嗅ぐと目が痛くなり、息を止めたものの数十秒経ち、
耐え切れず再び息を大きく吸い込んだ途端、肺が悲鳴をあげました。
朝食べたものを全てを嘔吐してしまったんです。
後で友人に聞くと、現在SNSで有名な『おならブッかけおじさん』
と言う、新たなタイプのセクハラおじさんである事がわかりました。」
「は、はぁ…、大変だったんだね…。
それで、僕にそれを伝えてどうしたいの?」
「お願いします!!
どうか、あのおじさんを捕まえて制裁を加えて下さい!!
お礼は、私が昨日洗い忘れて二日履いてるこの靴下、でどうですか?」
確かに、お礼の品は僕の性癖にバッチリ合致している。
いやしかし、初対面の女子高生が何故、僕の性癖がわかるんだ?
そこへ、でび子が声をかけて来た。
「アンタ、さっき書店で買った『匂いフェチ大全集』
袋から透けて見えてるわよ。」
何と、僕は書店で購入した『匂いフェチ大全集』が透けている事を
気付かないままにずっと電車に揺られて帰宅していたようだった。
「あ、あの、えと、コレはその、研究用資料って言うか、
それほど匂いフェチじゃないって言うか、あの、その…。」
「いえ、良いんです。あなたはそんなに悪い事は出来ない。
そう思うんです、女の勘です、コレ。
そして困った人を放っておけない感も凄く感じたので...。」
そう言われてしまうともう、助けざるを得ない。
僕はでび子に目配せをした。
でび子は面倒くさそうに「良いわよ」と言った。
「よし、じゃあ僕とでび子でおならブッかけおじさんを追うよ。
もし事件が解決したら、どうやって教えたら良いかな?」
「あ、あの、あなたを悪い人だとは思っていませんが、
正直二回り以上歳の離れたあなたと連絡先交換とかは嫌なので、
私のyoutubeチャンネルでコメントを貰えますか?」
めちゃくちゃディスられてしまい、僕は地味に傷付いた。
しかし、とりあえずその条件を了承した。
そこへ、暗部深夜子がやって来た。
「聞いてましたよ。あの女子高生ちゃん、酷いですね。
私は別にみぎゃーさんの事、そこまでキモいとか思わないですよ。
何ならハグくらいまでなら普通に出来ます。」
深夜子h気を使っているのか何なのかわからないが、
その優しさが心に沁みた。
「さぁ、しかしどうやっておならブッかけおじさんを探すかな。
やっぱり地道に電車に乗って探すしか無いか。」
「あ、それならSNSで、目撃証言がたくさん上がっていますよ。
何なら、おならブッかけおじさん自身が時刻表のように、
自分が出没する電車の到着と出発時刻をSNSに上げてますよ。」
「何じゃそりゃ!?
何だか、そこだけを切り取ってもヤバそうなヤツだな…。
とにかく、まずはおならブッかけおじさんとコンタクトを取るか。」
こうして僕達は一先ず、おならブッかけおじさんとコンタクトを取る為、
彼がSNSにアップしている時間に電車に乗り合わせた。
「いました!アイツですね、物凄くわかり易いと言うか…、
皆まだあまり知らないのか、近くに人がたくさんいますね。」
「よし、じゃあ声を掛けるか。」
しかしその瞬間、前兆と言えば良いのか、異臭が漂って来た。
もしかするとコレはあの女子高生が言っていた、
本番前に匂ってくるヤツかも知れない。
「コレは…危険かも知れないな。一旦対比するz」
しかしその瞬間、無慈悲にも屁と言う暴竜が解き放たれた。
「ぶっぷぷぷぅ~・・・ぷすっ、ぱすっ。」
辺り一面がまるで砂漠の嵐のように黄色く茶色く濁る。
それと共に強烈な異臭が周囲に蔓延する。
「ゲホッ、ゴホッ!
(ダメだ、息を止めれば数十秒後に大量に吸い込む事になる。
だけどこのままじゃ吸い続けるしか無いのか、一体どうすれb)」
その瞬間、深夜子が僕に口付けて来た。
あまりの出来事に一瞬目が丸くなったが、なるほど。
コレはロマンチックなんてものとはかけ離れているが、
今はこうするより他にないわけだ。
僕は最悪な形で、深夜子と口づけをしてしまった。
そのまま僕達は口付けたまま、お互いの呼吸を吸い合った。
通常であれば随分と親密な構図だが、
今回に限っては男女の情などと言うものとは無関係である。
駅のホーム階段を上がり切り、ようやく僕達は口を離す。
「ぶっはぁ!!すいません!!こうするしか無かったんです!」
「はぁ、はぁ、いや大丈夫だよ、わかってる。」
今でも少し吸い込んでしまった屁が鼻腔に残っている気がする。
早く洗い流したく、トイレに行き水道を浴びる程かけ続けた。
深夜子との口づけまでもが無かった事になるのはもったいなかったが、
今はそんな事を言っている場合では無かった。
とにかく屁の痕跡を消し去ってしまいたかった。
3分ほど匂いと格闘し、ようやく僕も深夜子も屁の匂いが取れた。
「でび子さんは大丈夫でしょうか?
見当たりませんでしたが…。」
「あぁ、アイツなら多分、周囲の人達に気付かれないようにしながら
飛んだんだと思うぞ。だからここら辺にいるはず...あ、ホラ!」
「あら、二人とも無事だったのね、良かったわ。
それにしてもアンタ達、口づけしていたわよね?」
「あ、アレは仕方なかったんですよっ、あぁするしか、
あの場で安全に退避する方法が無かったんです!!」
「そ、そうだぞ、僕達はお前みたいに飛べるわけじゃないんだ。
だからアレはまぁ、ノーカウントだ。」
「ふふ、別にアタシはそれをどうこう言ってないわよ?
何を火消しに必死になっているのかしら?
もっと堂々と潔白を主張すれば良いじゃない。
二人して、まるでやましい思いを隠すようにしちゃって(笑)」
ここはもう、これ以上この話題を引っ張れば悪魔の思うつぼだ(汗)
だから、僕は話題を変える事にした。
「それにしても、おならブッかけおじさん、半端じゃないな。
アレじゃあ近寄る事すら出来ないぞ…。」
おそらく、でび子の悪魔の力を使えば一発解決なのだろう。
しかしそれは反則と言うものだ。
僕や深夜子といった人間の手を使って解決してこそ初めて、
真の解決と言えるのだろう。」
「だけど、アレにもう一度立ち向かう気にはなれないです。」
深夜子はもう気力が削がれていた。僕もそうだ。
もうアイツの近くに寄りたくなかった。
しかしこのままでは被害者を増やし続けるだけだ。
もちろん、警察等の公が何とかしてくれるかも知れない。
だけど僕は女子高生の靴下を貰った身だ。
何とかして解決しないといけない。
ん、女子高生の靴下…コレ、嗅ぐために貰ったんだよな。
と、いう事は…。
「でび子、深夜子、靴下をくれ!!
それを嗅ぎながらアイツに接触を試みる!!」
しかし、二人の反応は僕の心意気とは真逆だった。
「嫌よ、アンタに匂い嗅がれるの癪だもの。」
「口づけしたからって何でもするワケじゃないですよ。
それに靴下ってまた、マニアックですね…。」
二人は全く協力の姿勢を見せてくれなかった。まぁ当然か。
その時、僕の背後から懐かしい声が聞こえて来た。
「アラ、みぎゃーじゃない。久しぶりね。
悪魔の子達と一緒にお出掛けかしら?」
パンクファッションにツンツン頭、シャツに書かれたみぎゃーの字。
彼女は『T霊界探偵事務所』のヒロイン、みぎゃ子だ。
「おい、何か困り事か?オレ達が力になってやろうか。
安くしとくぜ。」
「え、お金取るんですか?何だか皆さん困ってるみたいですよ。」
Tさんとユキちゃんもいる。
この3人に任せればもしかして、解決出来るかも知れない。
僕はみぎゃ子達に賭けてみる事にした。




