第二十五話:サービス回の概念
サービス回用ショット
「アンタねぇ…せっかく水着着て待っててあげたのに、
気付いたらもう夏が終わりそうじゃない!!」
8月の終わり頃、でび子はそう言って僕の前で突然服を脱いだ。
するとその下には胸元に【でびこ】と書かれたスクール水着が現れた。
「ちょ、おいおい、何だよこの展開、めちゃくちゃ刺激的だろ!!」
「フン。そう思ってせっかくこの夏中、ず~っと服の下にコレ着てたのに
アンタ新しい物語ばかり書いていてアタシに見向きもしなかったでしょ」
言われてみれば僕は何かに取り憑かれたように『マゾ狩り暮らしの二人』を
50話近く執筆していた。
「確かにあの物語は読み続けてるとそれなりの味があったけれど、
スク水を服の下に着た美少女を前にして見ないって言うのは
そもそも男としてどうなのよ?」
「いやいや、そんなの着てるってわかってたら見てたし。
ってか、スク水姿で応援とかしてくれていたら、
もっと執筆が捗ったって言うか…ん?お前、何か、こう?」
「え、どうしたのよ、後ろ前に着ちゃってる?
いや、ゼッケンはちゃんと前よね。何よ、何か付いてるかしら?」
「あ、いや、何かこうちょっと香ばしいと言うか、
嫌な匂いじゃないんだけど少し匂いがすると言うか…。」
「そりゃ、ちゃんと毎日お風呂入ってるとは言え、服の下に
スク水を着て暮らしてたんだから、多少の匂いはするわよ。
誰かさんが全然見ないせいで洗えていなかったからね。」
「え!?
ちょ、お前それ、ずっと洗ってないのかよ!?
どうりでちょっと股間に来る匂いだと思ったよ…!!」
「ちょ、変態的な事言うのやめなさいよ。
多少の汗が付着してフェロモンたっぷりになってる事は否定しないけど
アンタに欲情されても嬉しくないわよ!」
「いやいや、自分から美少女とか煽っておきながら、
それに興奮するなは無理があるだろ。
いやしかしそれにしても、そのスク水かなり価値あるぞ。
マニアに高値で取引されそうだよな。」
「あのね…、今回はせっかくだからサービス回と言う概念について
教えてあげようかと思ったのに…これじゃあ台無しね。」
その時チャイムが鳴り、暗部深夜子が訪問して来た。
「あ、どうも。でび子さん、最近外に出れてないですよね?
良かったら一緒にプールでも行きませんか?」
「あら、深夜子もプール気分なのね。
コイツがアタシの着てるスク水が売れるとか気持ち悪い事言うから
プールでも入って汗流そうかと思ってた所よ。
丁度良かったから、二人で行きましょう。
コイツは多分アタシ達の水着姿を食い入るように見るだろうから
物語の執筆もあるし置いていくわ。」
「いやいやちょっと待てよ、お前の水着姿はともかくとして、
僕は深夜子ちゃんの水着姿を見る権利も無いって言うのかよ!?」
「無いわ(キッパリ)」
「え、って言うかみぎゃーさんに見せるための水着じゃないです。
そもそもスクール水着に欲情する人って何かおかしいですよね。」
「え、深夜子ちゃんスクール水着なの!?」
「だって、誰の家にでもあって丈夫だし露出少ないし。
良い恰好する気が無ければこれで十分ですよ。」
「いや、すまん。お二人さん、僕も同行させてくれないか。」
「良いわよ。ただし、かき氷にフランクフルト、焼きそば。
あとメロンフロートにソフトクリーム、全部奢りね。」
「ハァッ!?」
こうして僕達3人は近くのプールへと訪れた。
~プール入場~
「いやぁ~、まだやってて良かったわね。
ピークよりも混雑していないし、ある意味でラッキーかもね。」
「やっぱり、風が吹いたり日陰に行くと少し寒いくらいですね。
それにイケイケな人達はナイトプールとか行くし、
普通の人達ばかりで安心ですよ。」
「いや~、しかし何と言うか、こんなスク水美少女が二人、
目の毒と言うか薬と言うか…。」
「あんま見んな、マジでキモいんだけど!!」
でび子がそこら辺にあったビーチボールを投げつけて来た。
「ちょ、お前コレ絶対誰かの使ってたやつだろ!!
それでさ、サービス回?について話してくれるんじゃなかったのかよ。」
「あぁ、そうだったわね、キモさにかまけて忘れていたわ。
サービス回、って言うのがあるでしょう。
主にこういうプール水着回とか温泉回とかね。
そういうのって、そもそも娯楽である物語の中で、
何故更にサービスすると思う?」
「え?そりゃまぁ、純粋に見たいからだろ、可愛い子の裸とか。」
「いや、裸はさすがに見せないわよ。でもまぁ、そういう事よね。
中世ファンタジーとかだと、普段は鎧に隠された女騎士の身体を
妄想で補っている勢は確実にいるわよね。」
「今の時代、AIに剝かせたりとか同人誌とか、いくらでも方法はあるがな」
「『公式』って所がポイントなのよ。
やっぱり公式の物語は正史だし、ファンの間でも共通認識になるでしょ」
「なるほど、確かに僕もあの水着回は神だったとか言ったりするな。」
「だから、こういうサービス回は時々挟むと物語自体の、
良いアクセントになったりもするのよ。
普段は見せない表情や仕草、意外な弱点とかね。」
「あーなるほど。例えばそこにいるスズメバチに恐怖したりとかって事?」
「ちょ、アンタね!!
こんな薄着でスズメバチは普通誰でも恐怖するでしょ!!
そうじゃなくてこう、強気な女騎士が胸にコンプレックスとか...」
「何かお前さっきから、女騎士にこだわるよな?」
「あーそれね、多分『弱者男性の女王』の物語の中で
『不思議の国の魔族とマゾ君達』のひよると会ったからだわ。」
「確かに、ひよるっていかにもな女騎士だったもんな。」
「まぁ、アンタの場合は匂いフェチだから彼女に匂いって言う
フェチズムを付与していたけれど、アレって高潔な女騎士からしたら
結構不名誉な事よね。そもそも女騎士って実在も怪しいけどね。」
「ジャンヌ・ダルクとか?」
「んー、詳しい定義付けはこの際止めときましょ。
しかしそれにしても深夜子って、ただプカプカ浮いてるだけなのね。」
「あー、コレが結構気持ち良いんですよ。
何も考えずにボーっとしてるのって良くないですか?
それに私、最近物語に登場させて貰って無くて、
何て言うかこうして羽を伸ばして幸せを感じたいな、って。」
「ふふ、サービス回って言うのは読者にとってのサービスであると共に
登場人物達にとっての日常や戦いから解き放たれる、彼らにとっても
サービス回なのかも知れないわね。」
「だったら、たまには物語内の登場人物にもうんこするシーンとかを
与えてあげた方が良いのかな?」
「ちょ、アンタはせっかくアタシが上手くまとめた所で、何でそういう
台無しになるような事を言うのかしらね…もうアンタ、帰って来るな!」
「あ、でび子さん、私うんち行って来ますね。」
「ちょ、深夜子!?
アンタあまりにボーっとし過ぎて暑さで頭やられてるわよ!?
アンタみたいな美少女がわざわざトイレの目的まで言わなくても、
あーもう、サービス回特有のこのドタバタ感、うんざりだわ(呆)」
こうして僕達3人は少しギリギリな夏の終わりを満喫した。
サービス回という概念自体には難しいものや説明は必要ない。
ただ、作者自身にとっても楽しく描ける場面である意味合いもあるし、
何よりも重厚な世界観や難解な謎解きの合間にあるオアシスだ。
今回の話が純粋な意味でのサービス回になったかはわからないが、
これからもこうした少し毛色の違う話を織り交ぜていけたらと思う。




