第二十四話:繭の中の少女達
足裏を嗅がせようとするでび子
「ただいま~、戻ったわよ。
ほら、美少女がクタクタになるまで歩いて蒸れた足嗅ぎたいんでしょ?」
でび子がみぎゃー宅に帰って来るなり、そんな事を言った。
「え、いや、そりゃ嗅ぎたいけど、そんな事して引いたりしないか?」
「そりゃ引くでしょ、正直印象は最悪よ。
だけど今更アンタ、そんな事がバレてないとでも思ってたのかしら?」
「って言うか、でび子の前でそんな事言ったりしてないのに、
何でそういうのが好きってわかるんだよ(焦)」
「アンタがスマホの画面を見てるのを後ろを通りかかった時に見れば
匂いフェチ系が好きな事くらいわかるでしょ。」
「うわ、マジか・・・、忘れてくれって言っても無理なワケだよな?」
「別に、アタシと付き合ったりするわけでも無いんだし良いでしょ。
今更カッコ付けたりしても意味無いんだから、曝け出しなさいよ。
ほら、嗅ぎたいの嗅ぎたくないの、どっち?」
「・・・・すいません、嗅がせて下さい。」
そう言ってみぎゃーはでび子のニーソックスの足を存分に嗅いだ。
ひとしきり堪能した後、ようやく満足の言葉を上げる。
「ありがとう、でび子。何だか色々と充電出来た気がするよ。
さぁ、リビングへ行こうか。」
「ハァ、何だかこっちは大切な時間を浪費した気分よ。
まぁ、アタシにとって時間は無限みたいなものだけど。」
自身の欲求を満たしてもらえた手前、みぎゃーは少し卑屈だった。
「あ、何か飲むかい?今ならカルピスとコーラがあるけど。」
「いらないわよ、水で良いわ。
ところで、次の物語の構想は固まったのかしら?」
二人は「弱者男性の女王」の物語の中で他作品のヒロイン達と共に
弱者男性や女王と戦う物語の中に入って来たばかりだ。
そこででび子は早速、次の物語の構想を聞いて来たのだ。
「さすがに催促が早過ぎないか?」
「どうせアンタなんて物語を書くくらいしかやる事無いでしょ。
だったら、早く次の構想を考えなさい、って言ってるのよ。」
ここで普通なら「無い」と答える所だったが、今回みぎゃーは
次の物語の構想を考えていた。
「あるには、ある。いや、コレはもう書く予定だ。
ただ、今回はその出し方についてを思案してるんだ。」
「へぇ、早いじゃない。出し方についての思案って、
どういう事かしら?」
「構想自体は、まぁ面白いと思う、手前みそだけどさ。
それで、その書き方について、連載なのか短編なのか、
短編だとしてもいつもみたいに3000~10000文字程度じゃなく
50000文字程度の作品にする事も出来ると思っていてさ。」
「へぇ、じゃあ短期連載にでもすれば?
あぁでも、ようするには文庫本みたいな形で、
連載じゃなくて一気にお披露目したいワケね。」
「まぁ、そうなんだ。だけどその出し方についてを
相談したいワケじゃないんだ。それは自分で考える。
ただ、今はでび子に対して、次の物語の期待に胸を膨らませて欲しい。」
「へぇ、やけに自信があるようね。
良いわよ、適度な自身は良い作品作りの上で大切な事よ。」
「あぁ、それでタイトルはね、『少女繭』だよ。」
「何だか耽美系のゴシック派閥の人達に好まれそうな感じね。」
「まさに、退廃系の物語ではあるかな。
決して青春スポーツみたいな爽やかな話では無いよ。」
「アンタらしいわね。それで、簡単なあらすじを教えてくれるかしら。」
「少し前、まだTVが普及し始めたくらいの海外が舞台なんだ。
これは細かな時代考証をするワケでは無いから、あくまでイメージね。
そしてそこではある年齢に達すると繭の中に入る少女達がいた。
彼女達はある場所へ行き、そこで数年間を繭の中で過ごすんだ。」
「・・・・・・セミ、かしら?」
「アレは幼虫だろ(笑)少女達はその間、全く動かない。
眠ったように眉の中で過ごすんだ。」
「それだけを聞くと物語が進まなさそうだけど?」
「だけどその少女達はある年齢に達するまでは普通に生活してるんだ。
そして主人公もそんな将来少女繭になる少女と友達だった。」
「ソイツをメインで物語を動かして行くのね。
そしてある日、友達がいなくなり、気が付けば繭の中にいた、と。」
「簡単に言えばそんな感じだよ。
そしてその眉になる意味や、それを買い付ける金持ち達等、
社会構造や謎を含める事で物語に緩急を付けようと思ってる。」
「これまでの物語よりも多少マシなものが書けそうじゃない?
良いと思うわよ、頑張りなさいよ。」
「あぁ、ありがとう。
何だかそんな風に普通に誉めてくれるとは思わなかったよ。」
「アタシってそんなに捻くれてるように見えたかしら?
自分の食事になるんだから、良い物語は褒めるわよ。」
「ちょっと、照れるな。とりあえず、執筆頑張るよ。」
「ハイ、足。構想だけでも少し楽しめたから、ご褒美よ。」
そう言ってでび子はみぎゃーに足を差し出した。
既に靴を脱ぎ匂いは薄まっていたが、思っても無い申し出だった。
「でび子、お前何だか少し変わったのか?
弱者男性の女王の物語の中で、他作品のヒロインと関わって
少し柔和になったような・・・。」
「まぁ、何か変わったのかも知れないわね。
あのコ達を見てると、アンタもこれまでにそれなりにキャラを生み出し、
そしてちゃんと忘れずに愛を注いでいる事がわかったから。
悪魔が愛の話をするなんておかしいけどね。」
「悪魔の愛、か・・・。
実はその、物語における『テーマ』の重要性について、
これまでは考えて来なかった。だけど、テーマを決めた方が
ブレが無いなとも思ったんだ。」
「それはそうよね。それで、『少女繭』のテーマは何かしら?」
でび子はみぎゃーの鼻頭に自らのニーハイ足を押し付けて言った。
「むぐっ、コレヤバ過ぎる、でび子からの無理矢理の押し付けが・・
あ、そうじゃなくて、えっとテーマだよね、んー・・・
社会正義だとか、そんなものを描きたいワケじゃない。
ただ、耽美で不思議な不条理さと、人間の醜さ、あとは
少女の美しさとか、そういったものを絵のように描きたいかな。」
「ふぅん。『絵のように』ね。言うのはカッコ良いけど、
案外難しいわよ?」
「うん、そう思う。だけど、漫画じゃなくて小説にするという事は
自分の取る手法で他の手法と競えるだけの表現技法を使わないと
単なる劣化版にしかならないと思うんだ。」
「ふん、一丁前に物語論みたいな事を言っちゃって。
まぁ良いわ、そうやって意識を高めながら、良い作品が出せるのなら
全ては無駄にはならないんじゃないかしら。
期待してるわよ、『センセイ』?」
でび子は意地悪な笑みでそう言った。
しかし、みぎゃーはそれに少し自信のある表情で返した。
自分のペースで、一歩ずつ、より良いものを作る為に経験を重ねる。
必要な事はただ、続ける事。
そうして彼は少しずつではあるが、成長しているのかも知れない。
そしてそれを支える存在が師や友人では無く、不思議な存在、悪魔。
この環境が彼にもたらすのは、現実に縛られない発想だった。
また、彼は自室に籠る日々が続く事となる。
それを思えばでび子の足嗅がせに関しても、
その前の景気付けだったのかも知れない。
移ろいゆく時の流れの中で変わらない価値を探しながら、
彼は物語に何かを込めようとしている。
しかしそうした哲学的な主題が物語に冠される事は
まだもう少し先になりそうなのであった。




