第二十三話:仲直り
「もちろん、人間の役割が終わりつつあるからって、
別にすぐに存在がパッと消えるワケじゃないわよ。
ただあくまでクリアした後のRPGゲームみたいな、
そんな世界になるわよね。」
「ただ彷徨うだけ、みたいな感じか・・・。
だって倒すべきラスボスを倒した後も冒険が出来たとして、
レベルを上げても倒すべき敵はいないし、
もう新たなイベントも起こらない。
そうなるともう・・・ミニゲームとかで遊ぶくらいか?」
「まぁ、そうなるわよね。それで良いのよ。
あとはもう一つあるけれど・・・ゲームを卒業する事ね。」
「え?そんな、ゲームを遊ぶ側はゲームを卒業出来るけど、
ゲームの中のキャラクターはゲームを出られないだろ。」
「アタシ、さっき何て言ったかしら?
人間の本質は肉体じゃないのよ。
それはコンピュータで例えれば操作者って事なのよ。」
「あ、そっか・・・。
人間の本質はゲームをプレイする側の存在って事なのか。」
「そうよ。だからクリアした後のゲームの中に居残っても良いし、
新たなゲームだったり、ゲーム世界を飛び出して次の展開、
例えば3次元空間を楽しんだりとか、別ゲームに移ったりとかね。」
「何て言うか、考え方を変えると凄い存在なんだな、人間って。」
「アンタが気付いてなかっただけでしょ、結構面白いわよ人間。
だけどまぁ、今のままの次元で生き続ける存在でも無いと思うけどね。」
「え、それってどういう意味なんだ?」
「さぁね。ここから先は自分で考えて答えを見つけ出しなさい。
あ、そうだった、そもそもの話の出発点は、人間は生まれて来る前に
自分の人生の青写真を決めて来ている、みたいな話だったわよね。」
「あぁ、ごめん・・・何だか壮大に遠回りさせちゃったな。」
「良いのよ、むしろこれだけの前情報があった上で聞いた方が、
より理解が深まるかも知れないわよ。」
「それで、結局人間が生まれる前に自分の人生を決めて来るって言うのは
どういう意味なんだ?」
「まぁ、そのままだけど?
どんな人生にするかって言うのは、アンタがどんな物語を書くか、
と同じ感覚よ。必ずしもハッピーエンドばかりでは無く、
鬱展開だってあるわ。そして大事なのはエンディングよりも、
その過程で何を得られ、感じられるかよ。」
そこで、ようやく暗部深夜子が口を挟んだ。
「何を得られたかって、もちろんお金とか物じゃないんですよね?」
「もちろんよ。
ここで『得られたもの』と言うのは、経験の事だからね。」
「人間はこの世界に、生まれる前に決めて来たシナリオがあって、
それを経験する為に生きている、って事か?」
「そうよ。言葉にしてしまえば陳腐だけど、この真実を本当の意味で
理解する事は容易では無いわよ。現実が容赦なく襲い掛かるからね。」
「結局、それを本当の事だと確信的に信じられたとしても、
結局は生きる上では何もプラスにはならないんだな。
もし自分の人生にいくつかの中ボスみたいなものを仕掛けていたら、
結局そいつらとの遭遇は避けられないんだろ?
借金を背負ったり恋人にフられたりも、
シナリオ通りならもう避けようが無いよな。」
「まぁ、今のアンタに教えられる事はこれくらいね。
あまり種明かしをし過ぎたら今度は生きる事が億劫になるでしょ。」
そう言うなり、でび子は唐突に暗部深夜子に提案をした。
「さて、ここまで頑張ったコイツにご褒美をあげようと思うのだけど、
暗部深夜子、アンタも協力するかしら?」
「えぇと、協力って一体、何をすれば?」
「ふふ、男にとっては最大のご褒美『ほっぺにチュ♪』よ。」
「えぇえーーー!!!???
何でそんな事をわざわざ・・・あ、でもまぁ確かに創造主ですけど、
だからって何もそこまでしなくても・・・。」
「そ、そうだぞ、でび子。
別に僕だってそんな事をされるほどに何かをしたワケでも無いし、
突然何を言い出すんだよ。」
「あら、別にいらないのならしないけれど。
せっかくこう言ってるのだから、チャンスだと思わないかしら?」
別に嫌なわけでは無い、むしろそれは確かにご褒美だ。
だけど、何だか本当に別に何をしたわけでも無いし、
そんな事をして貰える立場だと言う自身が無かった。
そこへ、暗部深夜子が堂々と言った。
「良いですよ、今回だけ。
こんなラッキーなチャンス滅多に、と言うか今後二度と無いですよ。
どうするんですか!?」
何故か少し怒った風にして決断を催促して来る暗部深夜子。
そりゃ僕だって別に嫌なわけでは無いのだから、
こうなればもう答えは決まっていた。
「何だかわからないけど、そっちがその気なら乗るよ。
ホラ、いつでも良いから、やれよ。」
そう覚悟を決めて目を瞑ると、突然両頬に柔らかな感触が触れた。
両ほっぺにチュ♪
「コ、コレは・・・・・・・」
「どう?悪くないでしょ、ふふ。」
「何か、何でこんな事をしたのか、自分でも良くわかりません(汗)」
悪魔のキス、もう片方は自分の最高傑作からのありがとうキスだろうか。
もちろん頬に対しての軽いものだから、濃厚とは程遠い。
だけどこの二人に物理的に包まれた感覚は、とても暖かかった。
「何だろう、頭がふわふわする・・・。」
「ふふ、小難しい話ばかりしていたからね、たまにはこうやって
親愛を情欲と勘違いさせるようなイタズラな遊びも良くないかしら?」
コイツは、遊びでこんな事を提案して実行したのか。
いやでも、別に悪くは無い。むしろとても良かった。
暗部深夜子が言った。
「な、何かデビ子ちゃんに唆されてやってみたけど、あの、これはほら、
その・・・私を作ってくれてありがとうって、その感謝のだから。」
頬を赤らめながら言う彼女の理屈はまぁまぁ通っていた。
やがて、でび子が仕切り直しと言った風に言った。
「さて、と。
とりあえず仲直りした所で、次の物語の構想は出来たかしら?」
「うん、実は少し構想に時間がかかったんだけどさ、
ゴシックな雰囲気と言うのが好きでさ。
まぁこの設定は暗部深夜子ちゃんに反映させているけどさ。
それをガチトーンじゃなく、中途半端に雰囲気だけ好きみたいな、
ゆるごしっく、みたいな。『ごしっく!?』とか言うのを書こうかな、
って思ってるよ。」
でび子は、ふぅん、と可も無く不可も無くと言った風な反応を示した。
暗部深夜子が言う。
「えーっと、その話は私が主役と言う事ですか?」
「深夜子ちゃんを主役にしても良いんだけどさ、
結構ゆるい雰囲気で書きたいから、カメオ出演として
同じクラスの同級生とか、そういう立ち位置が良いかな、って。」
「なるほどですね、私その役、頑張らせて頂きますね。」
世の中、設定を練って非常にリアルで本当にある話かも知れない、
と思わせるようなものが増えている。
だけど本来は物語はもっと自由で良いし、何なら適当でも良い。
雰囲気だけを味わったり、ナンセンスだったり幼稚だったり。
だけどそういう自由な空気感の中で得られる癒しや緩み、
そうしたものを書きたいと言うのが僕の中にあるのかも知れない。
でび子が言う。
「それじゃあ、また私はしばらく物語を食べるのはお預けかしら?
それとも、たまには構ってくれるの?」
「なるべく、物語を書きながらも構うようにするよ。
またデビ子がスネたりしないようにね。」
「別にスネてるワケじゃないわよ、勘違いしないで頂戴。」
不機嫌そうな素振りを見せながらも、今度は物語を書いている最中にも
構って貰える事への安心感からか、でび子の機嫌は良いように思えた。
僕はまた新たな物語作品の執筆に取り掛かる事にしたのだった。




