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第二十一話:メタファーのメタファー

「さぁ、その役立たずの魂を食べさせて貰うわよ。

 どうせ大した可能性も無い、美味しくない魂だろうけど。

 目ざわりだから私の前から消えて貰う為という方が大きいわね。」


既にデビ子は僕に対して友好的な存在では無く、

僕をこの世から排除しようという悪魔になっていた。

暗部深夜子が言う。


「だけど、何だろう。どうしてあの悪魔は私に姿が似ているのか・・・。

 あっ、もしかして・・・。」


暗部深夜子は僕に ”ある仮説” を話した。


「あの悪魔、私に似ていると思っていたけれど多分偶然じゃないの。

 私をモデルとしてこの世界に受肉した姿なのだと思う。」


「え、だけどキミを作ったのはデビ子と出会った後だよ?

 時系列がおかしくないかな。」


「悪魔には時間の概念が無いの。

 だから、先に私と言う存在を感知し、それを真似た。

 そして大事なのはその理由よ。何だと思う?」


「えぇと・・・単に好みだったから、とか?」


「あなたの思い入れよ。

 あなた、私をキャラメイクする時に結構頑張ったでしょ?

 飽きの来ないアイコンキャラクターとして試行錯誤した。

 つまり私のキャラメイクにはあなたの思いが詰まっているの。」


「それが、でび子がキミに似ている理由?」


「あなたからの愛が欲しくて私の姿を真似たんだと思う。

 だからね、本当は寂しかったんじゃないかな。

 あなたがずっと創作活動に付きっ切りで彼女を構えていなかった事が。」


「え、そんな、そうだったのか・・・?」


そこでデビ子が我慢の限界と言った風に怒り出した。


「あ”ぁ~、もう!イライラするわね、名探偵推理ごっこは終わり?

 それじゃあもう、食べさせて貰うからね。」


「でび子、待ってくれ。」


僕はデビ子の方へと歩み寄り、彼女をギュッと抱きしめた。


「でび子、寂しくさせてごめんな。

 そうだよな、お前には頼る相手が僕しか居ないんだもんな。

 一人にして悪かったよ。謝るから、戻って来てくれ。」


「な、何よ・・・別に寂しくなんて・・・・・・。

 本当、バカよね、こんな最古の悪魔・・・

 美少女を放置して創作活動とか。」


でび子の頬を涙が伝った。


「別に、物語が美味しいかどうかなんて本当はどうでも良いのよ。

 ただアンタと、あーでもないこーでも無いって言いながら

 色んな創作活動を楽しむのがとても居心地が良かったの。

 それなのにアンタ、一人で籠りきって大作を書くとか言うから、

 そんなの応援しないわけには行かないじゃない・・・。」


でび子の顔が怒りから少しの不安の表情へと変わった。


「アタシも随分と人間臭くなったものだわ。

 物語の内容そのものよりも、より良いもの・目新しいものを書く、

 アンタのその姿勢そのものが既に最高の食事だったわ。」


そこに、暗部深夜子が言った。


「悪魔だって、愛を知らないわけじゃない。

 だけどその感情を知ってしまった時、扱い方に戸惑うのかも知れない。

 でび子ちゃん、自分の気持ちは正直に感じて、伝えて良いと思うよ。」


「う、うるさいわね!物語の登場人物キャラクターの分際で!

 だけど、アタシは暗部深夜子を模した姿って言うのは正解よ。

 アタシ達悪魔は本来、概念存在だから特定の形を持たないわ。

 ある時あんた(みぎゃー)と言う面白そうな創作者を見つけて、

 心を込めて作ったキャラ『暗部深夜子』の存在を知った。

 アンタの興味を引く為にアタシはその姿を模して実体化した。

 あの時アンタが公園でアタシを見つけたのは偶然じゃない。

 アタシによって意図されたもの、つまりは運命だったのよ。」


僕の今の状況は、こうなるべくしてなっている、と言うのだ。

要するにコレは、時間と言う概念への挑戦でもあり、

後付けと言うのは単なる辻褄合わせと言うより、

ある種の運命的な4次元解釈が出来るのだなと思った。


「なろほど、そういう物語の題材ネタに出来るな・・・。

 後から取り繕ったような後付け設定は、

 実は最初からそうなるように出来ていたなんて・・・

 量子論的な帰結だな、面白い。」


「何小難しい事言ってんのよ。

 最強の美少女悪魔がちゃんと元に戻って、何か言う事は無いの?」


「・・・。

 おかえり、でび子。これからも一緒に物語の世界を楽しもう。」


「ふん、催促されて言うなんて、随分と余裕ね。

 まぁ良いわ。ところで・・・暗部深夜子。

 アンタは作られた存在として、もし願えるとしたら

 どんな世界観の中で活躍したいと思う?」


「えっと、それはどういう事ですか?

 願えばその通りの世界観の中で生きられるって事?」


「当たり前だろ。コイツはお前の創作者だぞ。

 しかも心を込めて作ったお気に入りのキャラだ。

 お前が願う世界線があれば、その中で活躍させる。

 そうだよな?」


僕はデビ子から質問されて、『あぁ』と言いそうになった。

だけど、本当にそれで良いのか?

キャラクターが自我を持つという事は、実は珍しくない。

創作をしていれば自分の意思とは関係無く、キャラクターが

自らの意思で動いているかのように勝手に物語が進む。

こうした現象は多くの創作者が経験しているだろう。


しかし、今回のような明確にハッキリとキャラクターから

願う世界線を告げられた場合はどうだろうか。


「ええと、試しにどんな世界で活躍したいのか、

 言ってみてくれるかな?僕の書く力の問題もあるし、

 必ずしも叶えられるとも限らないかも知れないし。」


「ええと、そうね・・・、だったら中世ヨーロッパの世界観の中で、

 生きるには特に心配の無い家の中で薬草学や神学等についての

 本を読み耽っている生活がしたいわ。

 だけどそんなの、物語として映えるかしら?」


そう、そこなのだ。

『世界一の盗賊になる』とかなら書き甲斐がある。

だけど大抵の場合、物語として書くにも値しないくらい、

結構普通に真面目だったり地味だったりする事が望みと言うのが多いのだ。

人は退屈を嫌いながらも、本質的にはそこまでドラマティックな生き方は

求めていなかったりする。何よりリスキーだし、心身ともに疲れる。


「そう、だね・・・。ちょっと地味かなぁ。

 やっぱり物語として書く上では苦悩があったりピンチだとか、

 どうかしたら命を脅かすくらいにスリリングな方が

 面白いものになり易いよねぇ。」


「・・・うん、やっぱりそうだよね。わかってたよ。

 ゆる日常系が持てはやされたりしても、

 やっぱりそれは適度に脚色された『物語的な日常』なんだよね。

 だけど別にそれが悪いわけじゃないものね。」


そこでデビ子が、ある提案をした。


「だったら、アタシが考えた物語の世界にアンタ達二人で入ってみる?

 結構残酷な世界観だから覚悟しなさい。伊達に最古の悪魔じゃないわよ。

 特にアンタ。暗部深夜子がお気に入りなのなら、

 本気で守らなくちゃ彼女死んじゃうかも知れない世界線よ。」


「え、嫌だよ!!

 何でそんなリスキーな世界観に自ら望んで行かなきゃなんだよ。」


「でも、物語的な『映え』って、そういう事じゃないかしら?」


まぁ、ある意味でそれは確かに正しい。

だけど、物語中の死だとしても、お気に入りキャラクターのそれを見る事は

あまり良い気分では無いように思えた。


そこに、暗部深夜子が言った。


「あの、って言うかこういう話って登場人物を前にしてする話ですか?

 何か、最初からどんな世界に行くかとかをわかってるのって、

 それってズルいって言うか・・・違和感があるんですが。」


「そうでも無いぞ?」とデビ子が言った。


「お前が今経験している事は、正に人間の魂の仕組みの模擬的なものだ。

 そうだな、丁度良い機会だ、その話をしてやろうか。

 運命とは自ら決めて生まれて来るもの。

 こうした人間世界の本質的に隠された事を『オカルト』と言ったり

 最近は都市伝説だスピリチュアルだと言うが、全ては繋がっている。

 お前の姿を模させて貰った礼に、こうした魂の仕組みと言うものを

 教えてやるぞ。原初の悪魔としてな、クヒヒ。」


最古の悪魔が教える、人間の魂の仕組みとは一体どのようなものだろうか。

挿絵(By みてみん)

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