第二十話:悪魔とキャラクター
「で、結局不思議の国のアリスモチーフどころか、
フタを開けてみればアレは何?」
でび子が僕に責めるような目を向ける。
いや、と言うより実際に責めているのだ。
確かに僕は不思議の国のアリスみたいな不思議な世界観で
暗部深夜子というキャラクターを登場させると言った。
だけど結局僕が実際に暗部深夜子を入れた世界は
『変態学講座』と言う、かなりマニアックな世界観だった。
「ハァ、結局アンタって変態系しか書けないのかしらね。
せっかくあんなに可愛らしいキャラクター、
あんな世界観じゃ良さを活かせないでしょ?」
「あ、はは・・・。まぁでもホラ、変態おじさんばかりでは、
あまりに濃過ぎるからさ・・・。」
「だからってあんな濃い世界に入れられる美少女の身にもなりなさいよ。
まぁ良いわ。それで結局今回は、何か掴めたかしら?」
「ん~、やっぱり表現の難しさって言うか、
アダルト寄りにするのか哲学なのかファンタジーなのか、
結局はどっち付かずで何をやりたいのかが定まってなかった。」
「そうね、まぁでもそれがアンタだから仕方ないじゃない。
まぁ今回の『物語』はね、そこそこの味だったわよ。
二十話、5万文字程度の話としてはまぁ飽きずに読めたんじゃない。」
今日はやけにでび子が優しい。
長く一緒にいて、少し情が移ってくれているのだろうか。
「あのね、ハッキリ言うわ。
アンタ残念ながら才能無いわ。
だってこれだけ書いて大した実績も作れないようなら、
もうアンタ自体を喰ってしまうしか無いわよね。
本体を喰っても大した『創造の種』が無かったら、
あまり美味しくないかもだけど。」
そう言うと、でび子は突然僕に向けて爪を立てて来た。
彼女の顔から首筋、腕にかけて紋様が浮かび上がる。
「え、・・・ちょ、ちょ、どういう事だよ、でび子!!」
「もう我慢ならないのよ。
アンタ、駄作ばかりを中途半端に作って、こちとら欲求不満よ。
そういう時はいっそ、創作者自身を喰ってしまうのよ。
ちゃんと想像力を使って自身に内包されている以上のものを
作り続けられる創造者なら生かしておく価値があるけど、
アンタは残念ながら・・・ね。」
そう言って、でび子は僕に飛び掛かるポーズを見せた。
相手は最古の悪魔だ。勝てるわけが無い。
だけど、だけど・・・!!
空腹のでび子を見つけて救ったのに、こんなのあまりに理不尽じゃないか。
──その時、僕の前に光の渦が出現し、そこから光と共に女の子が現れた。
でび子VS暗部深夜子
『暗部 深夜子』だった。
変態学講座でヒロインを務めた彼女は、元々本来は不思議の国のヒロイン、
だったはずのキャラクターだ。
「暗部 深夜子ちゃん!?
どうして、ここに!?」
「私は物語の中のキャラクターだから、基本、作者の世界には干渉しない。
どんな世界観であろうと、その世界観の中で自分の役割を果たすだけ。
だけど創られたキャラクターだって、
自分が存在し続ける為には作者を守る事だってあるでしょ。」
そう言うと彼女はデビ子の前に立ちはだかり、手を翳した。
するとパァッと小さな魔法陣が宙に浮かび上がった。
でび子に対抗しているようだった。
「アンタねぇ・・・!!
所詮は物語の中のキャラクター如きが、
原初の悪魔たるアタシに勝てるわけが無いわよ!!」
「それはどうでしょうね。
物語の中の存在だからこそ、その力は思いの強さに比例する、
大体の物語はそんな設定が多いですよね?」
「フン、御託はどうでも良いのよ。
そこの役立たずを喰ったらまた新たな創作者を見つけるから、
そしたらアンタを書くように依頼してやるから邪魔しないで。」
「そんな事したら、私じゃなくなっちゃう。
同じキャラクターに見えても、同じ作者からで無いと
単なる似ただけのキャラクターでしか無いでしょ。」
「生意気なキャラクターね、これでも喰らいなさい!!」
そう言うとでび子は大きな赤く黒い球を作り出し、
それをコチラへと投げ付けて来た。
─ドゴッ!!─
「ぐぅ!?」
その球は見事に暗部深夜子の腹にヒットした。
ダメージを受けて狼狽える暗部深夜子。
「大丈夫か!?」
「ぐ、う・・・やっぱり強いわね、原初の悪魔・・・。
逃げましょうか、私の世界に。」
「逃がしはしないわよ、追いかけてやるんだから!!」
「ふふ、創作者がいないと世界に入り込めないでしょ。
さぁ、行きましょ。私の創作者さん。」
そう言うと暗部深夜子は僕の手を取り、精神を集中し始めた。
そうして手を握る力が一層強くなった時、意識がフッと飛んだ。
後に残されたデビ子のビジョンが一瞬見えた。
「クソ、逃げられたわね。
あんな役立たずどうでも良いけれど、だけどやっぱり腹が立つわね。
どうにかしてアチラの世界へ干渉出来ないかしら。
原初の悪魔をコケにした報い、受けて貰うわよ。」
~暗部深夜子の世界~
気が付くと僕は不思議な空間に居た。
隣では暗部深夜子が座っていた。
「あ、気が付いたんだね。
ココは私の世界。私だけの心の内側の投影だよ。
まだ貴方が私の設定をハッキリと決めていないから、
私がすぐに行ける世界はこの私の心的内世界なの。」
「あ、何かごめんね。
そうだよね、あんな変態講座の世界観はキミに似合わないよね。
早くキミにぴったりな物語の世界を作らなくちゃ。」
「ふふ、別に焦らなくても大丈夫だよ。
私は物語の中のキャラクターなんだから、どんな所へでも行くよ。」
「それにしても、キミが来てくれなかったら僕はでび子に喰われていた。
でび子との間には確かに信頼関係が築けていたと思っていたのに。」
「所詮は悪魔って事だと思う。
あらゆる物語で悪魔は軽く扱われる題材だけれど、
本来はやっぱり人間とは相いれない存在だもの。
身近なものに見せかけて、本来は恐ろしいものだよ。」
僕は暗部深夜子の意見は最もだな、と思った。
でび子は悪魔、しかも低級悪魔なんて可愛いものでは無く、
最古の悪魔を語っている。コレももしかしたら嘘かもだけど。
そんな上級の悪魔が、本当の事だけを言うワケが無い。
あの可愛らしい見た目と無害そうな立ち居振る舞いに
完全に信用しきってしまっていた。
「しかし、でび子の事だからもしかしたらこちらの世界に干渉する方法を
何か編み出してしまうかも知れないな・・・。
そうなる前に早くキミの世界を作って・・・アレ?
だけどそうなると僕はもう元の世界には帰れないって事か?」
「しばらくは・・・私の世界の中にいる方が安全だと思います。
だけど、いつかは帰らないといけない。その時にあの悪魔が
もう別の場所に行っているか、まだ居残っているかは・・・
正直賭けだと思いますね。」
僕は短い間ではあったけれど、でび子と一緒にたくさんの物語の世界へ行き
普段の暮らしでも彼女を近くに感じていた。
だけど彼女がついに僕に愛想を尽かして、僕を食べようだなんて・・・。
今更、そうした悲しみがこみ上げて来た。
「そもそも、あの悪魔は『物語を喰う』んでしょ?
おそらくだけど・・・食べられた物語の世界はもう、
そこで終わってると思うわ。吐き出させれば別だけど。」
「え・・・?」
僕は一瞬、頭がストップした。
僕が作った物語の中には多くの登場人物がいて、
その中で彼らの暮らしを送っている。
それが、でび子に喰われたらそこで世界が終わる?
「試しに、今回食べられた変態学講座の世界に行ってみよう。
私もいた世界だから、容易にアクセス出来るから。
だけどちょっと怖いな。私のクローンが代わりに私の役目を
務めてくれていれば良いけど。」
暗部深夜子に連れられて、僕は変態学講座の世界へと向かった。
あの物語は将来の日本に希望が持てるようなラストだった。
ハッピーエンドの続きなら、素晴らしい世界があるはずだ。
しかしそこにはもう既に何も無く、代わりに荒野にでび子が立っていた。
「あら、遅かったじゃない。
来ると思っていたわよ。
お察しの通り、アタシが食べた物語はそこで終わるわ。
文字通り『物語を喰らう』のよ。
さぁ、それじゃあそこの役立たずの創作者も喰らおうかしらね。」
そう言うとデビ子は、とんでも無い邪気を放った。
恐ろしい・・・今までに感じた事が無い程に、でび子が悪魔だと感じた。
ただこの場に立っているだけで魂が持って行かれそうな感覚。
僕と暗部深夜子は、でび子から逃げられたと思ったら
今度は最大のピンチを迎えてしまった。




