第二話:悪魔の夢の中
「物語」を喰らう古の悪魔ことでび子は、
小説家を目指している僕と出会い、
まだ世界のどこにも無い物語を食べさせ続けると言う、
とても変わった契約を交わしたのだった。
「とりあえず、今はお腹がいっぱいだから機嫌が良いわ。
1週間くらいしたらお腹が減ると思うから、
その頃までに新しい物語を考えておきなさい。」
そう言いながら彼女は僕の後ろを付いて来る。
どうやら家まで付いて来るつもりらしい。
いや、それにしても週一で新しい物語!?
さすがに無理があるだろう、それは・・・。
そこらにある有象無象の話なら、まだ良い。
実は雇っているメイドが暗殺者でその戦いに巻き込まれたり、
冒険の末にラスボスが実は父親だと判明して戦いを躊躇したり。
そういうどこにでもあるような設定なら、適当に作れる。
だけど世界にまだ無い話なんて、土台無理な話だ。
江戸時代とかなら、良かったかも知れない。
まだ世の中にそれほど物語が無かったし、
『未来では人口知能という生命体が社会に受け入れられた』
なんて話を書いたらオリジナリティ抜群だっただろう。
だけど現代はもう、あらかた一通りのセオリーと、
そのセオリーを外した話ですら、語り尽くされて来た。
こんな時代に目新しい物語をしかも週一で作れれば、
それはもう既に作家として十分な能力があるだろう。
だけど僕はまだ小説家でも無い。
こんな僕が次々と目新しい物語を作るなんて、
一体どうやれば・・・。
そこで僕は、独創的な物語の作り方についてを調べてみる事にした。
『オリジナリティのある話を創作するには、
相容れない要素を組み合わせる事が重要です。
例えば、ピアノ+コンパクトのように、
通常であればあり得ない組み合わせをする事で、
オリジナリティを作り出せます。』
なるほど・・・。
サッカー+個人戦で、格闘技みたいなサッカーって言うのもアリだな。
いや、意味わからなさ過ぎか(汗)
『二つ目には、主人公の能力や世界に制限を設ける事です。
魔法が使えるが一日一回まで、等です。』
ほう。じゃあ、一日にトイレ一回まで・・・は、さすにがキツいか。
って言うか、それじゃあ何のドラマも生まれ無さそうだ(汗)
やり方を見て頭を捻った所で、ただ突飛な話が生まれるだけだった。
僕は部屋に着き、でび子はそのまま床に転がりながら言った。
「ま、別に必ず一週間ってわけでも無いのよ。
大体それくらいで物語を食べさせてくれたら機嫌が良いってワケ。
あまり思い詰めないようにしなさい。
ストレスやプレッシャーは創作活動の敵よ。」
そう言って、でび子は眠りに就いてしまった。
腹がいっぱいになった事で安心して眠くなったのだろうか。
いやそもそも、悪魔にとって眠りってどんな感じなのだろう。
一日何時間寝て、夢とかは見るのだろうか。
色々と気になったが、目の前の穏やかな寝顔を見ていると
僕も眠くなって来た・・・・・・。
気が付くと、僕は流れる川を見ていた。
僕の側には多くの人々が列に並んでおり、
対岸では手招きをする人や、あっちに行けとやる人、人それぞれだった。
これは、夢だろう、という確信があった。
僕はこの景色を知っている。そう、三途の川だ。
だけど、自分が三途の川を渡るのでは無く、
他人が渡ろうとしているのを見るというのは新鮮だ。
するとそこへ、でび子がやって来た。
「あ、あんたまさか、私の夢に入って来たの!?
わぁ~、やりにくいわね、まったく・・・。」
何だか現実みたいな事を言う夢の中のでび子だ。
今日の一連の出来事が強烈過ぎて、夢にまで出てしまったのだろう。
しかし夢の中のでび子は、おかしな事を言った。
「あのね、あんたが今来てるのはアタシの夢の中なの。
あー、契約した事が関係してるのかなー、厄介ね、本当に。
まぁ良いわ、コレが夢は夢でも悪魔の夢の中って事を教えてあげる。
アンタ起きたら、部屋の時計を見なさい。
電池切れてたわよ。さっき部屋に入った時に気が付いたの。
起きた時に時計を見て電池が切れていたら、
コレが夢は夢でも悪魔の夢の中だったって気付くでしょ。」
夢の中の割に、いきなり物凄い喋るでび子だ。
だけど言っている事はかなり現実的だ。
何より彼女が言うように、目覚めた後に時計を見て
本当に電池が切れていたら、これは彼女の夢の中と言う事になる。
何だか悪魔の夢の中って、人間と変わらないのだろうか。
しかし、彼女は言った。
「あのね、悪魔は夢の中で人々を救わなきゃいけないの。
だから、邪魔しないでね。」
そう言うと、彼女は川を渡ろうかと悩んでいる人達の背中を蹴り飛ばした。
「アンタら、行くならサッサと行きなさい!!
悩んでいたって時間の無駄よ!
アチラ側に行けば親しい誰かが必ずいるわ。
その人目掛けて、飛び込みなさい!!」
随分と荒っぽいやり方だ。
そもそも、渡らずに現世に帰って来るべき人はいないのだろうか。
「あー、アンタ今、帰るべき人もいるんじゃないか、って思ったわね。
あのね、ここまで来てる時点で、本来全員向こうに行くべきなの。
現世に帰って来てしまう人達は本来は間違ってるのよ。
アチラ側へ行けば、救いがあるんだから。」
何だか不思議な事を言う悪魔だな。
そもそもサタンより上なんて言っていたし、
悪魔なんて言う概念自体が西洋のもののはずなのに、
こんな東洋的な宗教観の場所にいて良いものなのだろうか。
しかし、また僕の心を見透かして彼女が言う。
「本来はね、死生観に国も時代も関係無いのよ。
ただそれぞれに生きた環境によって解釈が違うだけ。
そもそも、三途の川の概念自体がギリシャ神話や
メソポタミア文明、北欧神話にもその記載があるわ。
別に東洋だけの概念ってワケじゃないのよ。」
でび子のあまりに詳細な語り口に、
どうやらこれは僕の夢では無いようだという事が確信となった。
だって僕の知識では、こんな事を夢の中の登場人物に言わせられない。
僕はそのまま、意識がスゥーっと抜けて行く感じがした。
気が付けば、僕は深夜に目覚めていた。
そうか、昼過ぎに彼女を公園で見つけて、
そのまま自室に帰って来て、そのまま寝たから今は深夜か。
さて、夢の中で言われた事を確認してみるか。
僕は時計の電池の状態を確認した。
確かに秒針が動いていない。
どうやらさっきの夢は本当にでび子の夢だったようだ。
ほどなくして、でび子が起き出した。
「んー・・・あ、おはよう。
さっきアタシの夢の中に来たわね。
時計、確認したかしら?」
「あぁ、凄いね。まさかキミの夢に入るなんて。
いつも夢であんな事をやってるの?」
「別に、いつも三途の川に行くわけじゃないわ。
ただ少なくとも、人間を救う活動をさせられてる。
現実社会で羽を広げて搾取・略取する為に、
夢ではその反力を蓄えるの。結構大変なのよ、悪魔も。」
どうにも生っぽい話だった。
だけど、その分リアルさも感じられた。
「命、ひいては魂は、循環が必要だからね。
ずっと流れを滞らせるような永遠の命なんて存在しないの。
三途の川だって、ずっと流れているでしょう?」
僕は今回の夢の件を通じて、悪魔を自称するでび子が、
完全に悪と言うわけでは無く、ただ役割を演じているだけだと感じた。
全ての存在が宇宙という舞台装置の中で踊る役者。
壮大過ぎるかも知れないけれど、あの夢の後なので
考える事のスケールが大きくなっていた。
だけどこの経験は僕の視点を確実に変えた。
イタリアの詩人ダンテが神曲の中で地獄や天国を巡ったように、
異世界を巡ると視点がとても大きくなる。
僕の中で次の物語への創作意欲が湧き始めたのを、確かに感じた。
二話目にして、唐突に仲良くなっている感があるかも知れないけれど、主人公は小説家志望だから、
多少の不可解な出来事には寛容だと言う感じで。
それにしても二話で急に哲学的な宗教観みたいな所に踏み込んだけど、コレちょっと急展開過ぎるか?
まぁ、楽しめればそれで良しとしよう。




