第一話:悪魔との邂逅
ちょっと今回のは連載5作目にして本気出して行きます。
是非、応援コメントとかお願い致します!!
人は長い進化の過程で「脳」を獲得した。
この脳は「想像力」を司り、人は物語を語り始めた。
それから人類の歴史には数多くの物語が登場した。
現存する最古の物語・古代メソポタミアのギルガメッシュ叙事詩に始まり、
中国では女媧の人類創造神話、日本では竹取物語と、
それらは人種・歴史を超えて語り継がれて来た。
そして聖書等の経典も古い物語の一つである。
そこには神が描かれた。
そして同時に「悪魔」も描かれた。
やがて現代、物語の類型は枝葉の伸び代が無い所まで来た。
どこかで見聞きしたような物語が溢れ、模倣が氾濫した。
それでもまだ、誰も知らない物語を描きたいと思う者がいた。
これはそんな主人公がある悪魔と出会った話である。
僕はみぎゃー。
小説家志望で、仕事を休職してオンライン小説に投稿を続けている。
もちろん、みぎゃーと言うのは本名では無く、
ペンネームであり、ハンドルネームだ。
世間では今、テンプレートに沿った物語が人気だ。
異世界に転生したり、悪役令嬢、スローライフ、配信者モノ。
今の読者は作品ガチャを嫌う。
生活のあらゆる面で一定品質の商品が供給されるのと同じように、
期待通りの展開となる作品が強く望まれているのだ。
だけど僕はその流れに迎合出来ずにいた。
確かに、読者が求める形式があるのであれば、
その期待に応えるのがクリエイターの使命かも知れない。
だけどそこにオリジナリティが無ければ、
それは想像力の放棄では無いか?
もちろん全てがテンプレート通りに進むわけでは無いけれど、
創作ってそんなに流れ作業みたいな感じで作られて良いのか。
そんな事を考えながら公園の横を通り過ぎようとしている時、
草むらの茂みの中にうずくまる女の子を発見した。
「どうしたの、大丈夫!?」
僕はとっさに声をかけた。
すると、声をかけられた女の子はゆっくりとこちらを向いて言った。
「お腹空いたぁ~。」
僕はカバンの中を漁り、何か食べ物が無いか探した。
すると昨日食べかけたままのパンがあった。
「コレ、食べかけだけど賞味期限まだいけるし、とりあえず食べる?
それともやっぱり、コンビニで何か買おうか?」
しかし女の子は首を横に振り、こう言った。
「人間の食べ物なんていらない。
そんなものより、まだ誰も知らない、聞いた事がないような
想像力に溢れた物語をあなた知らないかしら?」
よくわからない事を言う子だ、と思った。
だけど誰も知らない物語、と言う事なら僕の得意分野だ。
これから小説に書こうとしていたアイデアを、彼女に語った。
「現代の海軍が、突然古代の海にタイムワープするんだ。
そこでは大型の恐竜がいて、通信も出来ないまま彼らは戦う。
果たして、現代技術でどこまで生き残る事が出来るのか!?
って言う話とか、ね。」
僕はあらすじを軽く彼女に話した。
すると彼女は言った。
「へぇ、まだそんなお話を思いつく人がいたんだぁ。
じゃあ良いかな、あなたに決めちゃおうかな・・・。
ねぇ、アタシに”物語”を食べさせてよ。」
突然わけのわからない事を言い始めた彼女の目が、一瞬紫に光った。
かと思うと突然、おもむろに首筋に噛み付いて来た。
「痛っ!!」
注射器なんて比にならないほどの激痛が走った。
そしてその鋭い痛みはビリビリと脳へと至り、僕は気を失った。
ふと目が覚めると、僕は仰向けに寝ていたようだった。
空が黒い。雨が降っている。湿気が凄い。轟音がする。
そして激しく揺れている感覚。・・ここはどこだ?
人々の怒号が飛び交っている。
「未確認生物、コレは・・・恐竜としか表現出来ません!!」
「対象は我々を敵と見なしているようです!!
艦長、砲撃の許可を!!」
僕はむくりと体を起こした。
すると眼前には船の甲板の光景が広がっていた。
軍服を着た人々が慌ただしく走り回っている。
船はどうやら、海のど真ん中にいるようだった。
「砲撃準備・・・撃ち方、始めーーー!!!!」
その声で大砲が発射される。
大きな爆音と、煙、火薬の匂い。
とんでも無い目の間の光景にただ驚くしか無かった。
その大砲の発射された先には、大きな・・恐竜!?
そうか、コレは僕が次の小説に書こうと思っていた世界だ。
その世界に何故か僕自身が入ってしまっている。
「あら、目覚めたのね。」
後ろからやって来たのは、先程公園のしげみの中でうずくまっていた
女の子だった。やけに落ち着いている、と言うより嬉しそうだ。
「あなたの想像の世界に入らせて貰ったわ。
中々面白いじゃない。死と隣り合わせの恐怖ね、素敵だわ。」
揺れる船体の上で上手くバランスを取って倒れない彼女・・・いや、違う。
数mm、浮いているのだ。
コレは夢か?だけどこの恐怖感、全身に当たる雨と風、聞こえる音。
そのどれもが、恐ろしい程にリアルだった。
このままここにいたら、船の揺れによって投げ出されて海へ落ちる。
しかもここは太古の海のど真ん中、陸地は無いし、海は荒れ放題だ。
確実に、死ぬ。僕は絶望的な気持ちになり、心臓がギュッと縮んだ。
「嫌だ!こんな所、絶対死ぬ!助けてくれ、怖い!怖いよ!!」
僕は彼女に泣きついた。多分、次の揺れが来たらもう立っていられない。
その時、大砲が恐竜に命中した。
「ギャワオォォォォォーーーーー!!!!!!!!!」
とんでもなくけたたましい、耳をつんざく、いやもう絶対に耳が壊れる、
そんな大音量の悲鳴があがる。軍隊の人達も耳を必死に抑えている。
恐竜が撃ち込まれた大砲により大怪我を受けたようで、
のたうち暴れ回る。そしてひと際大きく尾を海面に叩きつけた時、
船体はこれまでで最も大きく揺れ、90度に傾いた。
僕はとんでも無い高さから古代の真っ黒な海面へ向けて落ちて行く。
「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ
こんな最悪な場所で死にたくない!!!!
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い
落ちた先の海にはあのとんでも無く大きい恐竜がいる!
頼む、夢であってくれ!!」
強く目を瞑るが、落下する感覚は消えない。
ならばいっそ、落下中に気を失ってしまいたい!
僕の心臓はもう、限界を超えて破裂してもおかしくない。
そもそもこんな環境で生き残れる人間など、絶対にいない。
その瞬間、フッと意識が途切れた。
気が付くと、女の子と出会った公園だった。
体中が汗びっしょりで、涙に鼻水でぐしょぐしょだった。
呼吸も乱れていた。もし人が見ていたら、絶対に通報されるだろう。
目の前で、女の子が笑っている。
「ふふ、お帰り。」
座り込んで膝に肘を付いて、手のひらで顎を抱えてコチラを見ている。
僕は先ほどの恐怖から解放されて現実に戻って来た安心感から、
ようやく少しだけ冷静になった。
そうするとこの女の子の妙に落ち着き払った態度に怒りが湧いて来た。
「キミさぁ!何であんな世界に僕を!!
あんなの、絶対死ぬし、滅茶苦茶怖かったじゃないか!!
何であんな事をしたんだよ!!大体、キミは何者なんだ!!」
女の子は、ニヤリと笑って言った。
「アタシは、最も古い悪魔だよ。サタンよりももっと古い、ね。
名前なんてとっくに忘れてしまった。誰も呼びたがらないから。
私はね、ずっと人々の想像力を糧に生きて来た。
だから、人間と共にあった存在だったんだ。
だけどね、最近人間はどうやら、想像力を放棄し始めている。
AI?とか言うものに全てを委ねようとしてね。
それで、最近はエサが食べられず、飢えていたんだよ。
だけどアンタみたいなのがまだ居てくれて良かったよ。
さっきの物語、中々面白かったよ、コレ、お礼ね。」
そう言うと彼女は僕の喉元にキスをした。
「悪魔の喉元へのキスの意味は、強い愛情や保護欲。
アンタ面白そうだから、アタシのものにしてやったから。
もう逃げられないよ?フフ。」
僕はハッとして、あの世界へ行く前に噛み付かれた首元を
近くにあったガラスに写してみた。
するとそこには、何らかの紋章のようなものが刻まれていた。
「あぁ、気付いたんだね。さすがは創作者、知ってるんだね。
それは契約の証。アタシから逃げられない代わりに、
もしアタシを満腹に満たす事が出来れば何でも一つ、
願いを叶えてやるよ。まぁ、拒否権は無いよ。
だって公園でアタシを見つけて不用意に声をかけた時点で、
既に縁は結ばれてしまっていたからね。」
僕は期せずして、とんでも無いモノ(悪魔)と契約をしてしまった。
そこへ彼女が質問を投げかけて来た。
「ところで、名前は無いと言ったが、
今後アタシを呼ぶ時に名前が必要だろう?
創作者なら、決めてみろ。
特別にお前に、アタシの名前を付ける権利をやる。
サタンよりも古い最古の悪魔だ。
とんでも無い厄災の名を与えるのだぞ。」
僕はイラッとした。
勝手に契約をして、偉そうに名前を付ける権利だとか、
そんなのペットショップで飼って来たハムスターと同じだろ。
僕はせめてもの抵抗に、安易で、かつ可愛らしい名前を付ける事にした。
「そうだ!
”でび子” にしよう!
悪魔のデビルに女の子の子で、でび子!!
よし、キミは今日から、でび子だ!!」
でび子は一瞬ポカンとした後、ボクを強く睨んで来た。
「アンタ・・・何よその安易で可愛い名前は・・・!!
アタシは本当ならもっと高貴な名前のはずなのに・・・。
仕方がないから今はその名前で我慢するけど、
もし元の名を思い出した時、復讐してやるんだからね。
覚えてなさいよ!!」
僕はどうやら、恐ろしい悪魔からの恨みを買ってしまったようだった。
だけどそれと同時に、僕の想像する物語を必要とする存在が出来た事に、
少しだけ嬉しさもあった。
何よりもこの経験を後から物語に出来たらきっとそれは、
僕の小説家としてのデビュー作に相応しいんじゃないか。
それまでの間、この恐ろしい悪魔との生活を過ごしてみるか。
そうして僕はこの不思議な状況に無理矢理の納得を試みたのだった。




