第十八話:物語の反省会
物語の世界を眺めるデビ子とみぎゃー
「さて、と。」
でび子は静かに言った。
「アンタが戻って来た所で、反省会と行こうかしら?」
僕はつい先程まで「不思議の国の魔族とマゾ君達」を書いていた。
それが、描き終わった途端に反省会とか、あまりに急過ぎないか?
「まず、物語の中に自分を出すのは良いのだけれど・・・」
厳しい言葉が飛んで来そうな雰囲気だ。
「アンタ、自分の分身のポジションを良くし過ぎなのよ。
もっと情けない役とか、損な役回りとかもしなさいよ。」
でび子の辛辣な意見に僕はただ、ハイ、ハイと答えるしか無かった。
「あと、大切な仲間達をラストバトルで安易に殺し過ぎ。
もう少し葛藤とか頑張りとか何も無いのかしら?
文字通りキャラの個性と言うか人格が死んでたわよ。」
こうして改めてダメ出しをされると本当にキツい。
「まぁでも、一応完結させた事だけは褒めてあげようかしら。
世の中には色々な事情があるけれど、物語を終えられずに
未完のままの話がいっぱいあるのよ。
作者死去とかなら仕方ないのだけどね、まぁでもそれさえも・・」
「と、とにかく!!
今回の話は美味かったのか、美味くなかったのか、どっちだ!?」
「・・・まぁまぁだったわよ。
マゾの世界とか、フェチ系でも無い限りあまり描かれないものね。」
とりあえず、描いた意味はありそうで良かった。
「それと、挿絵に頼り過ぎるのも良くない癖よね。」
更に追い打ちをかけるようにダメ出しが続く。
「あの・・・何か良い所は無かったの?」
「そうね・・・一応、伏線はあらかた回収したのかしら。
それは褒められる部分かもね。
先ほどの未完の話の多くには風呂敷を広げ過ぎて
どうしようもなくなって放置されてる作品も多いわ。」
「ちなみに、そうした作品の中のキャラクター達って、
メタ的な視点ではどうなってしまうの?」
「一生、未完の世界の中に閉じ込められるから辛いわよ。
せめてファンメイドで仮の終わりが提示されれば
そちらへ逃げると言う体もあるにはあるけど・・・。」
凄い世界観だ。未完の物語の登場人物達は、
永遠に終わらない世界の中をループさせられる。
それならばハッピーエンドにせよバッドエンドにせよ、
一旦物語を終わらせた方が魂も救われるのかも知れない。
「まぁ何にせよ、お疲れ様。そして、お帰り。」
特に笑顔も無かったが、でび子のその何気ない言葉に僕は、
帰るべき所に帰って来た感覚がした。
「ただいま、でび・・・」
僕はでび子に抱き着こうとしたが、見事にスルーさせてしまった。
「何、自然に抱き着こうとしてるのよ。
アタシ達、別にそういう関係性じゃないでしょ。
大体、長編とも言えない5万字程度の作品を書き上げた程度で
心からお疲れ様とか言わないわよ。」
でび子はとても手厳しい。
だが、別に僕に対して冷たいと言うワケでも無い。
「じゃあ仕方ないから、手だけ握ってあげるわよ。ハイ。」
ぎゅっと握られた手は、悪魔が人間を模したものだとしても温かく
彼女の可愛い容姿からそれはとても幸せな事のように感じられた。
本質がどんな姿かなんてどうでも良いのかも知れない。
「それで、次はどんな話を書くのかしら?」
そこそこの話を書き上げた後に間髪入れずに次の話を要求とは。
でび子のスパルタは厳し過ぎて一瞬頭がフリーズした。
「異世界・・・転売ヤー、とかは?」
「それ、どういう話なのよ?」
「異世界でゲットしたゴブリンのウンコを現実世界に戻って転売する、
みたいな。」
「キモッ!
せっかくタイトル良い感じかもなのに、何なのよそのゴミ設定は。」
僕はしばらく考えた後、言った。
「『セカイ、売ります』とかは?」
「アンタが作った世界観の中に購入者を入れるみたいな?
まぁ今アタシ達がやってる事を他の人がやるって事よね。」
「一見理想的な世界に見えても、実際に住んでみたら色々とトラブルとか
思いがけない事があるんだ。」
「良いんじゃない?
それ、早速描き始めるのかしら?」
「さすがにちょっと休ませてくれ・・・。」
僕は疲れから眠りに就いた。
そこで夢を見た。
どこまでも続く線路。
霧がかった森の奥へと続いており、果ては見えない。
それでも僕はその霧の中を歩いて行く。
向こうから電車が来ると言う事について全く考えもせず、
ただずっと歩き続けた。
どれくらい歩いたか、霧は晴れないままだったが、薄明かりが見えて来た。
かなり近くまで近づくと木で出来た小さな小屋のようだった。
僕はドアをコンコンとノックした所、奥から「どうぞ」と声が聞こえ、
ギィと音をさせながら入口の木製扉を開いた。
小屋の中には老人がいた。
暖炉には火が焚かれ、壁にはたくさんの本が並んでいた。
僕は尋ねた。
「あなたは、ここに一人で住んでいるんですか?」
すると老人は答えた。
「いつもは一人で住んで居るがの、たまにアンタのような訪問者が来て、
羽を休めて行くんじゃよ。ゆっくりして行くと良い。」
そう言うと老人は紅茶を淹れてくれた。
僕は椅子に座るよう促され、腰を落ち着けて老人の淹れた紅茶を飲んだ。
スッと憑き物が取れたような感覚になった。
「疲れていたじゃろう。ここに来る者は皆そうじゃ。
現実世界で常識や自分と言う枠に囚われて、身動きが出来ん。
そうしてどこへも行けなくなった時にここに来るんじゃ。
『どうしたら良いですか』とな。」
「そんなに僕は追い込まれていたんですかね・・・。」
「アンタ、何らかの強迫観念に縛られてモノを書いとらんか?
本来はもっと自由に好きな時に書くべきものなのに、
それがまるで絶対にやらなければならない事のようになっていると
自然と自らを縛る鎖になってしまう。
そうやって書く事から離れて行った者達が本当にたくさんいるんじゃ。」
だけど僕には、でび子に定期的にエサを与えるという役割がある。
執筆を休んだりは出来ない。
「本来、人間の食事とはもっと質素でも生きられる。
アンタも食べ物だけではなく、創作に対してもっと
育つものが育ち切ってからそれを形にするよう、
付き合い方を変えてみてはどうじゃ?」
言われて見れば確かにノルマのように書いていた。
一度でも執筆を止めれば次を書かなくなりそうで。
だけど、僕のペースで良いんだ。
少しだけ心がフッと軽くなったような気がした。
「表現だなどと、高尚な事のようにして扱ったりもするが、
本来は自らの内側から湧き出て溢れたものを形にするのじゃ。
そしてそれが一番自然で最も評価される形になる。」
何もアイデアが湧いて来ない時、無理矢理にでも何か、
話を作ろうとしたりしていた。
だけどそんな切羽詰まった中から良いものが出るワケじゃない。
自分の中から溢れ出した分だけ。僕はそれを心に刻んだ。
「おっと、そろそろ時間のようじゃの。
それでは、また疲れたらここへ来るがよい。
しばらくは戻って来ぬ事を期待しておるぞ。」
そうして僕はスゥーっと意識が変性し、やがて起き出した。
「疲れが見させた夢、かな・・・。」
そこへ、でび子が声を掛けて来た。
「おはよう。アンタ相当疲れてたのね。
もう12時間は寝ていたわよ。」
どうやら相当眠っていたようだ。
「それで、大丈夫なの?
まだ疲れてるなら、もっと寝ても良いと思うけど?」
「いや、大丈夫だよ、ありがとう。
焦らず急がず、自分のペースで物語を書いて行くよ。
そうしていつかデビ子に、最高の食事をさせてあげるからね。」
「ふふ、期待しないで待ってる事にするわ。
やる気が出て来たみたいで良かったわ。」
こうして僕は一つの物語を書き上げた後、
再び物語を書いて行く気持ちを新たに決意を固めたのだった。




