第十七話:不思議の国のデビ子
でび子 in wonderland
「ようし、大作を作るぞ!!」
心の中のサキュバスを上手く飼い慣らした僕は、そう意気込んだ。
「あら、久々に何だかやる気じゃない。
スッキリした、って感じかしら?」
少し意地悪そうな笑顔で、でび子はそう言った。
「まぁ、憑き物が取れた、って感じかな。
ズバリ次の作品のテーマは『魔族とマゾ君』だ!!」
・・・。
少しの間、沈黙があった。
「あの、ねぇ・・・アンタ、変態系が得意なのかしら?」
でび子が少し困惑しながら言った。
「元々、不思議の国の話は書きたかったんだよね。
やっぱり自由な世界観で設定とかに縛られず、
書きたいものを書きたいしさ。」
「それで、書きたいものって言うのがマゾ物なの・・・?」
「まぁ、タイトルのインパクトはあるかも知れないけど、
これからの時代はマゾだと思うんだよね。」
「どういう意味よ、それ。
マゾが主役の時代なんて、一生来ないと思うけど?」
「そんなの、わからないだろ。
これまではさ、俺強ぇ~系が流行っていたのだけど、
これからは俺弱ぇ~系が流行るんじゃないかな、って。」
「何か、単なる逆張りよね。しかも俺弱ぇ~系って、
主人公に何の魅力も無いじゃないの。」
「ま、見てなって。弱さを曝け出す事が逆に強さ、みたいなさ。」
「本当に、そんな時代は来ないと思うけどね。
まぁ、やりたいなら好きにすれば?
アタシは今までに無い物語を食べられればそれで良いし。」
「男達は皆、魔物達との戦いの中でマゾになってしまうんだ。
仕方なく、女性達が戦う事になる。そこへ僕が転生して来る。」
「何でマゾになるのよ、弱すぎでしょ男達。」
「まぁ、それにも理由があるんだけどさ、
よくある魔法少女モノとか女の子が主役の物語って、
男は何してるの、ってなるじゃん?」
「それはホラ、主人公達は特別な力を得たから戦えるんだし、
普通の男性達は別にマゾになったワケでは無いでしょ。」
「じゃあ、自らの力で愛する人を守る事が出来ないのに、
それはマゾになったって事では無いの?」
「無いわ、絶対に(きっぱり)」
「う”ぅ・・・。
と、とにかく、僕はこの話を書くから・・・
ちゃんと食べてくれよ、今までで一番のごちそうになるよ。」
「ま、アンタが前向きに物語を作るようになったのは良い事だわ。
一応楽しみにしてるから、早く食べさせなさいよ、ソレ。」
その夜、僕は不思議な空間に居た。
水色と紫の渦が部屋の奥へとまるで異空間に続くようにあり、
チェスの駒、銀色の懐中時計、トランプ兵。
まるで不思議の国のアリスの世界を凝縮したみたいだ。
僕自身もウサギの耳が生え、スーツにベストを着ている。
白ウサギと言う事か。
そこへ、アリスの衣装を身に纏ったデビ子が声をかける。
「あら、ここは・・・アンタの夢の中みたいね。」
「そうか、僕の夢の中・・・。
部屋を見渡すに、あの渦の中へ飛び込むしか無いみたいだけど、
一体向こうには何があるんだろう。」
「さぁ。だけど行くしか無いのなら、早くしましょう。
迷っていても始まらないわよ。」
「わかった。それじゃあ行こう。」
僕の言葉を聞くまでも無く、でび子は先に渦へ飛び込んだ。
僕もそれに続き渦の中へと入って行く。
どうせ夢の中だ、何が起こっても問題無い。
そんな気持ちだった。
渦の先へはすぐに出る事が出来た。
そしてそこでは僕とでび子の服装は元に戻っていた。
「中世・・・いや、古代か?
時代設定はいつなんだ、この世界は。」
周囲には神殿が壊れたような風景が広がり、
荒野のため時代背景がよくわからない。
そこへ、男性達の悲鳴が聞こえた。
「キャアァー!!助けてー!!」
こちら側へ3人の質素な服を纏った男性が駆けて来る。
後ろにはゴブリンだったりオークのような魔物を引き連れている。
「え、え、コレ、僕達が助けるのか!?
武器とか何も持ってないぞ?」
焦る僕に、でび子はどこか冷静だった。
「キャアァー、だって(笑)
女の子みたいな悲鳴をあげて、恥ずかしくないのかな、アイツら。」
「いやいや、そんな事よりも助けなくちゃ。
と言うよりも僕達も危ないぞ!?」
男性達は僕達の所へ着くと縋り付いて来た。
「助けて下さい!!魔族に襲われて・・・。
私達、非力なので・・・頭も悪いんですぅ。」
おいおい、魔物に襲われてるのに頭が悪いとかは関係ないだろ、
と思った所で、ハッと気付いた。
これは僕がデビ子に語っていた、魔族とマゾ君達の世界か。
そこへ、魔物達、いや魔族が追い付いて来た。
リーダー格らしきオークは人語が話せるようだった。
「あー、マゾイジめは楽しいなぁ。
不味いけど、食べて更に怖がらせてやろうか。」
コイツらはどうやら、人を襲う事を楽しんでいるようだ。
タチが悪いが、果たして僕が敵うのだろうか。
少し怖かったが、どうせ夢の中だからと僕は立ち向かった。
「おい、あの人達を怖がらせるんじゃない。
話が通じないなら、僕が戦おう。」
「ほぅ?お前はまだマゾになっていないのか?
まぁ良い。丸腰で勝てるほど我々は弱くないぞ?
さぁ、お前も我々に負けてマゾになれ!!」
オークの右ストレートが飛んでくる。
避ける間も無く僕は強烈な衝撃に吹き飛ばされた。
「ぐわはぁーーーー!!!!!」
痛い。何だこれは。
夢の中とは言え、現実のような痛みだ。
僕は勝てない事を悟り、安易に戦いを選んだ事を後悔した。
しかし、一度火が付いたオークの闘志は消えそうに無い。
このままでは殺される。
僕は情けない事に必死で全力で逃げ出そうとした。
「ハッハッハ。一撃でもうマゾになったか。
敵前逃亡、それはもうマゾ化したのと同じ事だ。
お前ももう立派なマゾだな。イジめてやるぞ、ガハハハ!!」
嫌だ、死にたくない。もうマゾで良い。僕の心はあの一撃で堕ちた。
わからされた。コレが女の子が襲われた時の無力感なのか。
僕はせっかく心の中のサキュバスを飼い慣らしたのに、
結局はまた弱い自分に戻ってしまった。
その時だった。
「ハァーーーー!!!!」
一閃、剣戟が煌めいた。
長い銀髪が僕の目の前を流れたかと思うと、ズンッと重い音が響き、
次の瞬間オークが倒れた。
魔族とマゾ君達と女剣士とみぎゃーとデビ子
「大丈夫か?オークに追われて攻撃されてしまったのか。
怪我は無いか?」
目の前には、騎士のような恰好をした銀髪の女性が立っていた。
僕は命の危機が守られた事で、一瞬でその人の事を好きになってしまう。
「あ、いえ。ただあの人達を守ろうとして・・・。」
僕は怯える3人の男性達をチラッと見た。
すると女性が驚いた顔で言った。
「お前は・・・まさかまだマゾ化していないのか?
オークのような強い魔族を相手に立ち向かおうだなんて・・・
マゾ男性なら考えられない。ノーマル男性、なのか?」
「別にマゾとかでは無いけど、ノーマルとか、よくわからないです。」
僕はただ正直に答えた。
すると女性の口元に笑みが零れた。
「ふふ、そうか。いや、良いんだ。
希望が見えて来たぞ、まだマゾでは無い勇敢な男がいる。
それだけで私は明日も戦える。」
そう言うと女性は周囲の残った魔族達も蹴散らして行った。
そして僕に言った。
「是非、共に戦ってくれ。稽古なら付ける。
敵の親玉は、男が来なければ門を開かぬらしい。
共に戦い抜き、魔族の人間への攻撃を止めさせるんだ。
一緒に来てくれるな?」
しかしその瞬間、僕は現実へと引き戻された。
「あ、れ?あ、現実に戻って来たのか。」
でび子が僕に対して冷静に言う。
「お疲れ様。あのままじゃあの世界にどっぷりだったからね、
一度引き戻させてもらったわよ。
ところで、本当にあの世界を大作として書きたいの?」
僕は少し考えた上で、答えた。
「あぁ、強い女性は素晴らしいし、
何故魔族達はマゾを好むのか、謎も結構ある。
正直、あの世界を書いて行くのは楽しいと思うよ。」
でび子は少し考えて、言った。
「そうなのね、わかったわ。
アタシはまだ暫くエネルギーは大丈夫だから、
アンタはあの世界に集中しなさい。
たまには息抜きにアタシに何かしらの物語をくれても良いわ。
だけど大作を作ると言うのなら、それは素晴らしい事よ。
途中で挫折してしまっても構わないわ。
一度アンタの本気を創作にぶつけてみたらどうかしら?」
でび子の応援の言葉に僕は、心が熱くなった。
彼女はもう自らのエサのためだけじゃない。
純粋に僕を応援してくれているんだ。
その為には僕も本気で全力で応えよう。
僕はここから、一つの物語を紡ぐ事にした。
※この作品はここで終わりではありませんが、
ここから一度新作の「不思議の国の魔族とマゾ君達」の執筆に続きます。
時々こちらの続編を書くかも知れませんが、
新作の進行を持って今作の進行とさせて頂きます。
ご愛読者の皆様におかれましては、
新作「不思議の国の魔族とマゾ君達」をご愛顧頂ければと思います。
何卒、よろしくお願い致します。




