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第十五話:人類の最初の一人

「なぁ、でび子。

 人間は、もし自分が最後のたった一人の生き残りになったら、

 とは想像するけど、自分がもし最初の人類なら、とは想像しないよな。」


「まぁ、そうね。最後の一人になる想像は核戦争等で想像し易いけれど、

 最初の一人なんて、一体周りがどんな環境かとか、設定作りが大変よ。」


「そもそも ”最初の人類” なんて存在したのか?

 いや、存在したから今の僕達がいるのか・・・。」


「今の所科学的には、元を辿ればある一人のアフリカの女性に辿り着く。

 そしてそれは『ミトコンドリアン・イブ』と呼ばれているわね。

 だけどそれをハッキリとは特定出来ずにいるのが今の人間の学問よ。

 よくあるミッシングリンクって、進化の途中経過の証拠が無い事

 なんて言われているけれど、この最初の発生を証明出来ない事なのよ。」


「あと、全く違った視点なのだけどさ。

 以前に人の悪意について考えた事があったんだ。

 悪人だってその生い立ちの上で性格や考え方が歪まされて生まれた。

 それなら、そうさせた親や社会が悪い。

 だけど、その親や社会もそれ以前の個体や社会から生まれた。

 それならばあらゆる悪意の根源は原初の何かにあるんじゃないかって。

 僕はそれを原初の悪意と呼んでる。」


「中々に面白い物語の骨子じゃない。

 最も、アタシはその原初に何があったかを知っているけれど、

 今のアンタに理解させる事の必要性も旨味も無いからしないけどね。

 それで、人類の最初の一人と原初の悪意をどう結び付けるのかしら。」


「聖書で言われる知恵の木の実。それは象徴だよね。

 ある時に ”意識” が芽生えた。それは創造の原点。

 知恵の木の実を食べるよう唆した蛇が象徴するのは、善悪両面。

 自らの尾を噛み付くその姿から "永遠の循環" をも示す。

 つまりは悪意も罪も最初から存在していない、なんてどうかな。」


「やけに仏教的な帰結じゃない。

 良いも悪いも同質・同等だから最初から実は何も無かった、

 とでも言のかしら?

 だけど、だとしたらアンタが言った "原初の悪意" は存在しないの?」


「あるのだけれど、それはもちろん善意とのセットでもあって。

 それで、原初の一人というのはそれを両面ともに入れられた。

 そうなるとやっぱり『作られた』って考える方がシックリ来る。」


「だから、聖書でもそう言っているじゃない。

 要するにアンタが言っているのは、聖書と人類進化学の対立を

 自分の中で再現しているようなものじゃない?」


「答えはいつだって、対立の中には無いと思うんだよ。

 おそらく、どちらの立場も正しい。ただ、見方が違うだけ。」


「そうね・・・一つだけ、ヒントをあげるわ。

 人間がもしプログラム的に解析可能なコードで造られているとして、

 そうした仕組みを考える事は循環参照にあたるわよ。

 つまりは永遠にループして真理には辿り着けないの。

 バグを直すには、自らを修復しなくちゃね。」


「どれだけ考えても答えには辿り着かないように出来てる、って事か。」


「この宇宙という物語のパッケージの中にいる限りはね。

 だけど、それを考える事で副次的に色々な物語が出来るでしょ。

 アタシはそれを食べさせて貰うだけで良いのよ。

 そうそれはまるで、人間が知恵の木の実を食べるみたいにね。」


「最初から、人類は悪魔の手のひらの上ってワケか。

 どこまで行っても結局僕らは悪魔の食べ物なんだね。」


「そうでも無いわよ?

 だから、聖書に書かれている蛇だってアタシだって、

 アンタ達に知恵を与えてるじゃない。

 決してただ一方的に食べるだけじゃない。

 ギブ&テイクは宇宙の真理よ。それは悪魔でも逃れられない。」


「そう考えると、悪魔も案外悪い存在でも無いような・・・。

 あ、法律的には知っている事を悪意と言うよね。

 別に良い悪いじゃなく、ただ知っている事を悪意、と。

 と言う事は、知恵=悪、無知=善?」


「ふふ。悪意以外にもあるわよ。

 それは『信じていた事・いなかった事』。

 つまりは何かを信じている状態は善、

 疑い学ぶ事は悪、よね。」


「つまりは、何かを知ろうとしてこうして学びを得る事は、

 悪魔の力が必要・・・その象徴がキミって事?」


「ふふ、案外悪くない線行ってるじゃない。

 だけどまぁこんな事、遊びみたいなものよ。

 究極を言えばアンタ達の生き様も命だって、全ては遊びの産物。

 だからあまり真剣に捉えなくて良いわ。

 真剣になりたい人はなれば良いのだけど。

 物語を楽しむくらいがちょうど良いんじゃないかしら。」


「人は知恵を得、知ろうとして物語を書き、読む。

 だけどそこには嘘があったり、また別の疑問を生む。

 そうした永遠の循環の中で彷徨う、それが遊びか。

 だとしたら物語の在り方って言うのはちょうど良いのかもね。」


「さぁ、わかったならサッサと物語を作りなさい。

 アンタは農家みたいに直接の食べ物を作る生産者では無くても、

 アタシみたいな悪魔にとっての栄養となる物語の生産者なの。

 農家がそうであるように、アンタはその運命から逃げられない。

 そしてそれが人として生まれた上での役割よ。

 ほらまたこうして知ってしまった事で、知恵と苦悩が生まれるでしょ。」


僕達はとんでもない世の中の仕組みの中で、ただ坦々と動かされている。

だけどそれは別に決して悪い事でも無くて、

いやそもそも悪い事なんて無くて、ただ人間であると言う事。


原初の人類。そこに与えられた環境を考えると、

それは必ずしも未文化で不便なだけの野蛮では無かったように思う。

そもそも人の脳の処理能力はずっと進化していない。

ハードウェアとしての人類は原初からずっと変わっていない。


原始人の赤ん坊を現代に連れて来て育てれば、順応すると言う。

それくらい、人間は現代の仕組みを上手く処理して生きているだけだ。

外国で生まれ育てば外国語を話すのと同じだ。


僕達は技術が発展して未来に進んでいると思っているが、

実はそれほど何かが進んでいると言う事もなく、

せいぜい終わった映画のフィルムを流し続けているだけでは無いのか。


それは遠くに光る星の寿命がもう既に尽きてしまっていても

それは燦然と光り輝くように見えているように。


この物語を食べる悪魔はその事を直接的ではないにしろ、

考えると言うプロセスを通じて教えてくれる。

この不思議な縁だって、必然と言えばそうかも知れないし、

単なる偶然と片付けてしまえばそれまでだ。

いつだってそこに意味を見出すのは人であり、

事実をどう解釈して味付けをするのかは、その人のいわゆる

『物語力』みたいなものに依存しているのかも知れない。


「ねぇ、いい加減物語を食べさせなさいよ。

 アンタと話していたら何だかお腹が空いて来たわよ。」


当初は一週間に一度なんて言っていたクセに、

この悪魔の食欲はひどく不定期だ。


「電車でう〇こを漏らしそうになっていた主人公が、

 気付けば電車でう〇こを漏らすのが当たり前な世界に移行していた

 素敵なパラレルワールドの話はどうかな?」


「アンタ・・・本当にそれ系好きよねぇ。

 原初の人類の話をしていて、どうしてソレに飛ぶのよ。」


「原初の人類だって、う〇こ漏らしていたかも知れないだろ!!」


「いや、漏らすとかそういう次元じゃないわよ。

 食事中、では無いけれど、アタシの貴重な食事の中に

 う〇この話題を盛り込むのはやめなさい。」


でび子は非常に呆れた顔で僕を見ていた。

だけどその顔の端っこの方では、

少しだけ口角が上がっているような気がした。

今回書くのに本当頭使ってない(笑)

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