第十四話:遺影撮影執行人
「なぁ、でび子。知ってるか?
『遺影撮影執行人』って呼ばれる存在がいるんだ。」
「へぇ、ちょっと聞いた事無い物語じゃない。
どんなものなの?聞いてみたいわ。」
「人が亡くなる少し前に、彼らは現れる。
そして、あなたはもうすぐ死ぬから遺影写真を撮りましょうと言う。」
「そんなの、病院のベッドの上で末期の病気とかじゃないと
中々信じられないわよね。」
「そこで、彼は『あの人はもうすぐ死ぬ』と近くの人の死を予告するんだ。
芸能人とかでも良いんだけどさ。そしたら、本当に亡くなってしまう。
それで自分が本当に死んでしまうんだと信じ、遺影撮影に協力する。」
「そこで、ドラマがあるって事かしら?」
「そうなんだ。最高の表情を撮ってもらう為に思い出の場所へ行ったり、
好きな人に会ったり、そうして大切な何かを人生最後に取り戻すんだ。」
「なるほど。
本当にそんな存在がいたら、素敵な遺影がたくさん並びそうね。
その物語、食べさせて貰うわよ。」
久々にデビ子の噛み付き攻撃が来る。
僕が身構えていると彼女は肩に噛み付いた。
コレ、絶対噛み跡残るやつだろ・・・。
僕はフゥッと意識が落ちて行った。
「あ、どうも、遺影撮影執行人の田所です。」
目を覚ました途端に、遺影撮影執行人が自己紹介をして来た。
いや、こんな事ってあるか!?
この人、いきなりこの世界に来た僕達が何者かわかってるって事!?
「あ、何であなた達の正体がわかるのか、ですか?
ほら、人の死期がわかるくらいなので、異世界から来た人も
わかっちゃうんですよ。まぁ半分死神みたいなものと言うか。」
それにしても、こんな小太りのおじさんを想定していなかったぞ。
さぁ、遺影撮影執行人がいると言う事は近くに・・・あ、いた。
遺影撮影執行人田所と病的な女の子とでび子とみぎゃー
それは見るからに病的でゴシックな雰囲気を纏った女の子だった。
彼女がもうすぐ死んでしまう、と言うのか。
まぁ病的な雰囲気から察するに、あまり不思議とも思えないけど。
田所が女の子に近付き、声をかける。
カメラを持った小太りの男が女の子に近付く様は、まるで不審者だ。
「あの~、私遺影撮影執行人の田所と申します~。
実はあなた、もうすぐ死んでしまうのでその前に遺影用の写真を、
最高の表情で撮影しておきませんか?というお誘いです。」
すると、女の子は答えた。
「お気遣い、ありがとうございます。
だけど私の遺影なんて撮影しても意味無いですよ。
だって私は身寄りが無いんですもの。
撮影したとして、一体どこに遺影を飾ると言うんです?」
「えーっと、あー・・・その・・・はい、えぇ。」
田所は口ごもってしまった。
確かに身寄りが無いのであれば、遺影の意味が無いかも知れない。
そこへデビ子が口を挟んだ。
「身寄りが無くても良いじゃない。
最高の一枚くらい、撮ってみたら?
どうせやる事も無いんでしょう?
その様子だと ”死期” を悟ってるみたいだし。」
「最高の一枚・・・ですか。
そうですね、ではある場所へお連れ頂きたいのですが、
よろしいでしょうか?」
田所が答える。
「えぇ、遊園地でも思い出の学校でも、
アナタが最高の表情になれる場所ならどこでも、お連れしますよ。」
「わかりました。じゃあ、『天国』へお願いします。」
僕と田所はビックリした。でび子はどうだか知らないが。
天国って、それキミが今から行く所だろう、と思った。
「先ほど身寄りが無いと申しましたが、
父と母が天国で幸せに暮らしているかが見たいんです。
そしたら、最高の表情が出せると思います。」
どうせ遺影を撮影しても飾る人がいない。
それでも、田所が彼女に目を付けてしまった以上は、
最高の遺影のための一枚を撮影しなければならない。
「わかりました。
ではあなたもいずれ近いうちに行かれる事になるであろう、
天国へと向かいますね。目を瞑って深呼吸をして下さい。」
僕も同じように言われた通りにする。
しかしそこで一つの心配事が頭をもたげて来た。
でび子、悪魔なのに天国とか行けるのか?
物語の中だから大丈夫なのか?
と思いきや、彼女はとっくに行かないつもりらしかった。
「ごめんなさい、先生。私・・・”あの日” なので・・・。」
ぜっっっったいに、ふざけている。何かニヤついてるし。
水泳の授業を生理で休む時の言い方みたいに言っているが、
天国に悪魔が行けない事をわかっていてふざけてやっている。
「そうですか。それではお二人さん、行きますよ。」
田所が両手をパンッと打ち鳴らすと、
一瞬で僕と女の子は雲の上みたいな場所に来ていた。
女の子が言う。
「ここが・・・天国ですか?」
「まぁ、まだあくまで入口ですがね。
それでは、頭で強くお父様とお母様をイメージして下さい。
ここでは考えれば会えてしまう、観念の世界ですから。」
女の子が目を閉じて強く集中すると、僕にも見える形で
彼女の父親と母親であろう人達が現れた。
「パパ、ママ・・・。大丈夫?ケンカとかしていないかしら?
こちらは、住み易い?」
様々な言葉が彼女の口からあふれ出した。
目には薄らと涙を浮かべて、とても嬉しそうな表情をしている。
田所はその瞬間を見逃さなかった。
彼は数回、シャッターをおろしていた。
そうして十分に再開を果たした親子は、ついに別れの時となる。
「さぁ、十分にお話は出来ましたか?
それでは、戻りましょうか。
まぁ最も、あなたも数日後には来る事になる世界ですが。」
「その事なのですが・・」と彼女が言いかけた時、
僕達は元の物語の世界へと戻っていた。
「ふぅ、無事に戻れましたね。
ところで、あなた先ほど何か言いたげでしたよね?」
女の子が少し戸惑いながら、答える。
「実は私、もう既に死んでるんです。
だけど天国にも地獄にも呼ばれず、ずっと幽界で彷徨っていて。」
何と、彼女はもう死者だったと言うのだ。
驚きながらデビ子の方を見ると、”わかっていた”という風な顔をしていた。
田所が一瞬躊躇したものの、すぐに冷静さを取り戻して言う。
「なるほど、既に死者だったとは、見抜けないなんて私もまだまだです。
それで、まだ幽界に留まるおつもりですか?
「だって、まだ天国と地獄のどちらからのお誘いも無いもの。
私にはこのままずっと幽界にいろって言うのかしら・・・。
そうだ、遺影撮影執行人のおじさん、いえ田所さん。
私にもその仕事を分けて頂けないかしら?」
田所は慌てて「どうして?」と聞いた。
「私自身は遺影なんて撮影する間も無く死んじゃったけれど、
その当時まだ両親二人は生きていたの。
それで、古い幼い時の写真しか残っていなくて、
とても後悔していたのよね。だから、遺影の大切さがわかるの。
最初は助手やアシスタントでも良いから、やらせてくれないかしら。」
田所は言った。
「私もそろそろ、自分自身がいずれかの国へ行く頃だと感じておりました。
まだ暫くお誘いが無さそうなアナタになら、
この役割を渡せるかも知れません。」
そう言うと田所は、いそいそと何かを内職して作り始めた。
「はい、出来ました!あなたの遺影撮影執行人としての社員証です。」
手作りで作られたその社員証には、あの時の写真が使われていた。
満足げに、でび子が言う。
「さぁ、そろそろ帰るわよ。もう十分に物語を味わったわ。
今回はまぁ、少し甘い杏仁豆腐って感じかしらね。」
僕はデビ子と共に元の世界へと戻って来た。そして考えた。
人はいつ死ぬかなんてわからない。だから日々を精一杯生きる。
だけどもし死ぬ日がわかれば、せめて最高の自分を残したいかも知れない。
そうした思いに寄り添う遺影撮影執行人は、
実は結構尊い存在なのかも知れない。
そんな事を考えながら僕は、両手を空へ向けてフレームを作っていた。




