表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/17

第十二話:壊れたミクと歌えないセカイ

その日僕はこの町で見て来たどの光景より衝撃的なものを目にした。

初音ミクが傷だらけで、所々機械の体を剝き出しにして歩いていた。


挿絵(By みてみん)

傷だらけで歩く初音ミク


眼帯、包帯、絆創膏。しかし目に見える傷よりも心の傷の方が深刻そうだ。

彼女は一切の笑顔を見せず、ただ前を向いて歩いていた。


でび子が一瞬「あ・・」とそれに気付くが、すぐに目を逸らす。


「アレはもうダメね。

 おそらくアレは初音ミクを模したクローンよ。

 アンタ達に歌を届けていた個体じゃない。

 姿形だけ見て初音ミクだと思って飛びつかない方が良いわ。」


僕は、何て酷い事を言うんだと思った。

そして声をかけずにはいられず、たまらず呼び止めた。


「ミク、どうした!?何があったの?」


ミクはピタッと歩みを止めて、ゆっくりと振り返る。

しかしその顔には救いへの期待のようなものは無い。


「何度やり直しても、この世界は滅びてしまう。

 私には歌う事しか出来ないのに、どうすれば良いのかわからない。

 もう、疲れた。私はもう、歌えない・・・。」


焦燥し切った顔からは涙すら枯れてしまっているようだった。


「一体、どういう事なんだ・・・。」


そこへ、研究者らしき恰好をした男性が駆けて来た。


「あぁ、こんな所にいたのか39号。

 お前に見せたのはあくまで一つの可能性の未来だ。

 さぁ、研究所に戻って次のシミュレーションを始めよう。」


「もう嫌だ・・・。

 明るい未来なんて無くて、どれも絶望的な世界ばかり。

 そこで私は人々から殴られ蹴られ、もうボロボロだよ。

 あなた達が作るシミュレーションは、絶望しか無いわ。」 


一体この男性は何者なのか、そしてこのミクは何なのか。

僕は男性に尋ねた。


「あの、突然申し訳ありません。

 あなたは何者ですか?そしてこの初音ミクは、

 一体どうしてここまでボロボロになってしまっているんですか?」


男性は答えた。


「私は人類の未来世界をシミュレーションしている研究機関の人間です。

 初音ミクを模したアンドロイド39号には、

 その未来世界の中で実際に過ごして貰っています。

 そこで受けた様々な物理刺激や感情をデータとして蓄積し、

 よりリアルなデータとする為に現実に刺激を加えているのですが、

 どうにもAIが弾き出すシミュレート結果がディストピアばかりで。」


「それ、アンドロイドに対する何らかの権利侵害とかにならないんですか?

 絶望的な未来ばかりを体験させられてその痛みも傷も受けるなんて、

 あまりに過酷過ぎます!!」


「別に意図して絶望的な未来のみを見せているんじゃないんです。

 ただ、現実のデータを食わせれば食わせるほどに

 未来予測がディストピアに近付いてしまうんです。

 研究である以上は、その枠組みの中で39号を運用するしか無い。

 私もいち研究員として、違和感は感じています・・・。」


「そんな・・・!!」


しかし、でび子が冷静に言った。


「アンタ、この件に本気で首を突っ込む気?

 ヒーローぶって、僕がミクを救う!なんてやってみても、多分無理よ。

 あの子にはあの子の運命ってものがあるの。

 それを無理矢理に捻じ曲げようとしてどうにもならなかった時、

 更に傷口を深くするだけだけれど、その覚悟はあるの?」


そんなの、やってみなくちゃわからないじゃないか。

そもそもシミュレーション世界に行って物理的精神的な影響を受けるなら

今僕がデビ子とやっている事と似たようなものだ。

僕は研究所の男性職員に言った。


「だったら、僕がミクの代わりにシミュレーション世界に行きます。

 だから、この子を休めてあげて下さい。」


「いや、しかしそれは・・・人間に対して行うには、

 あまりに不確定要素のリスクが多過ぎて責任が持てません。」


「だったら・・」


と、言いかけた所でデビ子が前に出た。


「アンタ、別にやるのは良いけど、壊れても知らないからね。

 もしアンタが壊れたら、この前の闇子の所にでも行こうかしら。」


そう言うとデビ子は、研究所の男性職員の目をジッと見つめた。

そして目の中の瞳がカラコンのように模様を変え、それは螺旋模様だった。


「コイツをシミュレーションの非検体にしなさい、わかった?」


「ハイ、わかりました。それでは、こちらへどうぞ。」


でび子は研究所職員の男性を催眠術のようなもので洗脳したようだった。

また彼女の恐ろしい能力の一面が垣間見えた。




研究所までは歩いて20分と言った所だった。

山側に上る途中で鉄柵を超えて、そこからは車を使った。

ミクも一緒に来てくれた。


シミュレーション室へと案内された僕は、

少しドキドキしながらもとにかくミクを助けたい一心だった。

やがてシミュレーション室が近づいて来た時、

ミクは「ヒッ」と怯えた顔を見せた。トラウマなのだろう。


重厚な扉を開き、職員の案内のままにVRゴーグルを着け、

身体の各部に電極を取り付ける。

様々な装置が取り付けられること20分、ついに完了した。


「それでは、3939回目のシミュレーションを開始します。

 脳にシグナルを送信します。」


突然、目の前がパッと広がった。


目の前には、黒く淀んだ空気と荒廃した町があった。

そこかしこで人々が行き倒れており、とてつもない腐臭が漂う。


(う”・・・覚悟はしていたけれど、結構キツいな。

 だけど、僕が少しでも肩代わりしてやる事でミクも少し楽になり、

 いやそれよりも、根本的にこの絶望のシミュレーションを

 どうやり過ごせば楽に終える事が出来るのかを見つけないと。)


しかし、遠くの方から走り寄って来た男が手に持った何かを投げて来た。

ん?何だアレは・・・瓶、火・・・火炎瓶だ。


それが僕に当たった瞬間、衝撃と鈍痛、瓶の割れる音がした。

更に男は僕に殴りかかって来た。

そのパンチや蹴りを受けると実際の体にもダメージが蓄積する。


ヤバい、コレは耐えられない・・・。


僕はVRゴーグルを外して、体中の電極を外し始めた。


研究所の職員達が慌てふためく。

すぐに赤いライトが部屋を照らし、エマージェンシーコールが鳴り響く。


「ごめん、ミク・・・耐えられなかった。

 こんなの、たった一回でもやり切れる自信が無い・・・。」


後ろの方で、でび子が呆れて失望した顔をしていた。


やがて一通りの器具を外された僕は職員達から、

「やはり人体ではコレを耐えきれないようですね。

 その為の具体的なサンプルが取れただけでも感謝します。

 それでは、お気を付けてお帰り下さい。」


そう言って、僕とデビ子は帰された。

帰り際、ミクが器具を取り付けられている所を見た。


彼女は恨めしそうな顔を僕に向けた。

中途半端に助けると向かったは良いが、結果的には場を荒らしただけだ。


雨が降りしきる帰り道で、でび子が言った。


「アタシ達がいつも行く物語の世界と今回のディストピア。

 違いは何かわかる?」


「あそこは、ただひたすらに絶望しか無かった。

 物語の世界にはまだどこか、優しさがあるように感じるよ。」


「そういう事じゃないわ。

 アンタが作る物語は、あくまでアンタの意図が含まれている。

 だけどAIがシミュレートした世界は論理なの。

 人間の感情を排して作られた世界に希望を持ってはダメよ。」


僕はずっとミクの最後の顔が頭を離れなかった。

アンドロイドは人間と比べて痛みに強かったりするのだろうか。

そもそも、彼女はあの目的の為に作られた存在かも知れない。

それでも、逃げ出したくなるような運命から逃れられないなんて、

あんまりじゃないか。救われない。


「だから最初に言ったでしょ。

 物語を作る側になると段々と自分の力を過信するのかも知れないけど、

 世の中にはどうにも出来ない事だってたくさんある。

 時には見ないフリをする事だって必要よ、お互いの為にね。」


でび子はきっと間違ってはいない。

それでも僕は、物語の力で1mmでも世界を良く出来ないものか、

とずっと心の底に引っかかった闇を抱きながら考えていた。

ミクって新たな時代のドラえもんやアンパンマンみたいな共通言語的なキャラクターだと思うんだよね。

だけどそれってとても残酷な話でもあったりして、好き放題に弄られまくると言うか、その影響力が拡大する程に

人の悪意みたいなものもドンドン入って来てしまい、終いにはとんでも無い感情の坩堝となってしまう。

だけどこうした雑多な感情の受け皿となる事が人々の共通認識になる事ならば、ミクにはちょっと耐えてもらいましょう!(酷)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ