エピソード15
「とりあえずもう少しでお店も閉店だからそれまで頑張るか、」
そう自分に言い聞かせて、残りの仕事に取り掛かる。
19時を過ぎてからはさっきまでの忙しさが嘘みたいに落ち着いていた。
時々お客さんが入ってくるものの、先ほどまでのように次々と注文が入るわけではない。
俺は空いたテーブルを片付けたり、食器を洗ったりしながら店内の様子を確認する。
「翔〜、ちょっといい?」
「京子さん、どうしました?」
カウンターの奥から京子さんが声をかけてくる。
「さっきのお客さんのテーブル、片付け終わったら今日はもう大丈夫だよ。今日はかなり頑張ってくれてたしお疲れだろうから、閉店作業は私がやるから。」
「いえ、大丈夫ですよ。最後まで手伝います。
それに京子さんだって疲れてるでしょ」
「でも翔、今日はずっと動きっぱなしだったでしょ。顔には出してないけど疲れてるって顔してるわよ。」
「そうですかね?自分ではまだ平気なんですが…」
「無理しすぎは良くないわよ。」
京子さんは呆れたように笑う。
「そういう訳だから、今日は早めに上がっていいよ。ひかりちゃんとさくらちゃん待ちくたびれてるわよ?きっと」
「……ありがとうございます。でも本当に大丈夫ですよ。お気持ちだけ受け取ります。」
「こういう時くらい店長の言うこと聞きなさい。まったく、、」
「分かりました。ならお言葉に甘えます。」
流石にここまで言われてしまうと断る理由もない。
俺は最後に残っているテーブルを片付け、洗い場へ食器を運んだ。
「それじゃあ、今日はお先に失礼します。」
「は〜い、お疲れ様。今日は本当にありがとうね〜
明日休みなんだからちゃんと休んでね。」
「はい。京子さんも無理しないでください。」
「私は大丈夫よ。それじゃあまた、明後日ね。」
「はい、お疲れ様でした。」
そう言って店を出る。
外に出ると、夜の少し冷たい風が顔に当たった。
「……疲れた。」
思わずそんな言葉が口から漏れる。
今日は本当に忙しかった。
普段ならお客さんと少し話したり、ひかりたちと談笑したりする時間がかなりあるが、今日はそんな余裕が全くなかった。
特にひかりとさくら達とはほとんど話せなかった。
「帰ったら、たくさん話をしよう。」
そんなことを考えながら家へ向かう。
しばらく歩いていると、スマホが震えた。
確認すると、ひかりからメッセージが届いていた。
『お兄ちゃん、今日すごく忙しそうでしたけど大丈夫ですか?』
そのすぐ後に、さくらからも届く。
『おにいちゃん、おつかれさま。おうちでまってるね、』
「……本当に良い妹達だな。」
思わず笑ってしまう。
するとさらに蓮からもメッセージが届く。
『今日の翔、めちゃくちゃ働いてたな。ひかりちゃんとさくらちゃんは無事に家に送り届けたぜ!』
葵からは、
『今日はかなり忙しかったね〜ひかりちゃんとさくらちゃん待ちくたびれてるわよ〜?』
と届いていた。
「みんなそんなに見てたのか……。」
店内が忙しすぎて周りを見る余裕がなかったため、みんにそんなに見られていたなんて気づかなかった。
俺は歩きながら返信をする。
『ひかり、さくらありがとうな。急いで帰るから待ってて』
そう送ってから少しして、ひかりとさくらからすぐに返信が来た。
『お兄ちゃんお疲れ様です!気をつけて帰ってきてくださいね。お兄ちゃんが頑張っているのは分かっていますから!』
『おにいちゃん、お疲れ様、早く帰ってきてね、まってる。』
そして返信を返していると家の前まで来た。
そのまま鍵を開けて玄関に入る。
「ただいま〜」
「……お兄ちゃん!」
「……おにいちゃん!」
玄関に入って靴を脱ごうとしているとひかりとさくらが嬉しそうに駆け寄ってくる。
2人は部屋着姿でリビングから勢いよく出てきた。
「わざわざ、玄関まで来なくても良かったのにすぐにリビング行くんだから」
「そう言う訳にはいきません!今日はお兄ちゃんが凄く忙しそうだったので……少しでも疲れが取れたらいいなと思って。」
「うん、わたしたちにはそれくらいしか出来ないからせめて癒しになれたらなって、」
「……ありがとう。でももう遅いんだから先寝てても良かったんだぞ?」
「私達もまだお夕飯食べてませんしそれに直接お疲れ様って言いたかったので。」
ひかりは少し照れながら笑う。
その隣で、さくらも俺の顔をじっと見上げている。
「おにいちゃん……つかれた?」
「ああ、まあ少しな。」
「じゃあ……今日は甘えちゃだめ?」
「え?」
「おにいちゃん、疲れてるから、無理させたくない。」
そう言って、さくらが俺の袖を小さく掴む。
「……そんなことないよ。むしろ甘えてくれた方が俺も癒されるしな。」
そう言うとひかりとさくらは嬉しそうに笑う。
「っとその前に、ただいま、ひかり、さくら。」
「はい!お帰りなさい!お兄ちゃん」
「うん。おかえりなさい、おにいちゃん」
そのまま三人で廊下を歩いてリビングへ入る。
「そういえば蓮と葵はもう帰ったのか?」
そう言うとひかりが答える。
「そうですね。お二人とも明日の課題が大変だから帰るとのことでした。お兄ちゃんは大丈夫ですか?」
たまにだが俺がバイトで遅くなる日は蓮や葵もご飯を食べたりひかり達とゲームをしたりして遊んで待っているが、今日は帰ったらしい。
「俺はバイト始まる前にさっさと終わらせたよ。それにどうせ蓮は途中で力尽きてるだろうからな、後からメッセージ来るだろうから早く終わらせた。」
そんな話をしながらリビングへ入る。
キッチンの方からいい匂いがする。
疲れてたからか匂いを嗅いだだけでお腹が鳴ってしまった。
「ふふ、お兄ちゃんお腹空いてるんですね。もうすぐ出来上がりますから、席で待っててください。」
そう言って直ぐにご飯の準備をして食卓に2人が並べた。
今日一日ほとんど休む暇もなかったせいか、料理を見た瞬間に急に空腹を感じた。
「いただきます。」
「どうぞ!」
一口食べる。
「……美味しい。」
「良かったです!」
ひかりが嬉しそう笑っている。
「うん。本当に美味しい。今日は疲れてたから余計に美味しく感じる。」
「さくら〜早く食べないと冷めちゃいますよ?」
「おにいちゃんたべさせて?……だめ?」
「いや、全然いいけど。」
俺がそう答えると、さくらは小さい口を開けたまま待っているので食べさせる。
「……おにいちゃん、ありがと、だいすき。」
「俺もさくらのことだいすきだよ。」
「……えへへ。」
「さくらばっかりずるいです!私にもしてください!お兄ちゃん。」
そう言ってこちらに口を開けて待っているひかりにも食べさせる。
「ありがとうございます、お兄ちゃん。大好きですよ。」
「俺もだよひかり。」
そんな事をしながらも他愛のない会話をしながら食事を続ける。
店ではほとんど誰とも話せなかった分、家に帰ってからみんなと話せることが凄く嬉しかった。
今日一日ずっと張り詰めていたものが、少しずつ解けていくような感覚がする。
「……明日も頑張れそうだな。」
「お兄ちゃん、どうかしました?」
「いや、何でもないよ。」
そう言って笑う。
今日は本当に大変だった。
でも、こうして帰ってくる場所があって、待っていてくれる人たちがいる。
それだけで、疲れなんて大したことじゃないように思えた。
お久しぶりです!ミレナです。
ここ最近ずっとお仕事でバタバタしており土日に少しずつ書くような形になってお話を書くのが遅くなってしまっております。申し訳ございません。職場でも、お話を考えたりしているのですが中々文字に起こす時間が無く
時間が無限に欲しいですね。
皆さんもお仕事無理をせずに頑張ってくださいね。
それでは〜




