エピソード16
食事を終える頃には、さっきまで感じていた身体の重さも少しだけ和らいでいた。
「ごちそうさまでした。」
「お粗末様でした。」
ひかりが食器を片付け始める。
俺も手伝うために立ち上がろうとすると、さくらが俺の服の裾をちょこんと掴んだ。
「おにいちゃんはすわってて。」
「え?」
「きょうはつかれてると思うから……片付けはわたしたちがする。」
「いや、俺も手伝うよ。二人だけに任せるのも悪いし。」
「だめです。」
ひかりが振り返り、少しだけ頬を膨らませる。
「今日はお兄ちゃん、バイト終わって疲れてるでしょ?これくらいは私達にさせてください。」
「でもな……」
「さくらも手伝うと言ってますし、大丈夫ですよ。」
「……うん。わたしもお手伝いするから。」
さくらも小さく頷く。
二人にそこまで言われてしまうと、さすがに断りづらい。
「分かった。じゃあ、お言葉に甘えて休ませてもらおうかな。ありがとうな、二人とも。」
「こちらこそいつもありがとうございます!」
ひかりは満足そうに笑うと、さくらと一緒に食器をキッチンへ運んでいく。
俺はソファーへ腰を下ろす。
そこで一気に眠たくなってきた。
「……やっぱり疲れてたんだな、俺。」
自分ではまだ平気だと思っていた。
店にいる間は忙しさで気が張っていたから、疲れを感じる暇すらなかったのだろう。
こうして家に帰って、安心できる場所にいることでようやく身体が疲労を自覚したようだった。
キッチンからは、ひかりとさくらが食器を洗う音が聞こえてくる。
「さくら、それは私が洗いますよ。」
「ひかりお姉ちゃん、これくらいわたしにもできるよ。」
「でも滑ったら危ないですから。」
「だいじょうぶ。」
「……本当に?」
「うん。」
「ならお願いしますね。」
そんな二人の会話を聞いていると、自然と笑みがこぼれる。
「……平和だな。」
しばらくすると、食器を片付け終えた二人が戻ってきた。
「お兄ちゃん、お待たせしました。」
「二人ともお疲れ様。」
「おにいちゃん、眠い?」
ひかりとさくらが俺の隣に座りながら聞いてくる。
「少しだけな。」
「じゃあ……。」
さくらが俺の肩に頭を預けてくる。
「こうしてたら、もっとねむくなる?」
「たぶん眠くなるな。」
「じゃあ、ねむっていいよ。」
「いやいや、寝ないよ。」
「でもつかれてるでしょ?」
「まあな。でもせっかく二人と話せるんだから、寝るのはもったいない。」
そう答えると、ひかりが向かい側に座りながら嬉しそうに笑った。
「お兄ちゃんって、昔からそうですよね。」
「そうか?」
「はい。自分の事よりも、私達のことを優先してくれるというか……。」
「そんな大したことじゃないよ。」
「大したことですよ。」
ひかりは少し真剣な表情になる。
「今日だって、見てましたけどお店凄く忙しくて大変そうでしたよ?」
「まあ、今日はかなり忙しかったな。」
「それなのに帰ってきてから私達に付き合ってくれて……。」
「俺がそうしたいからしてるだけだよ。」
「……そういうところです。」
「?」
ひかりは小さく笑う。
「お兄ちゃんは、もっと自分のことを大切にしてもいいと思いますよ?」
その言葉に、俺は少し黙り込む。
「……してると思うんだけどな。」
「全然してませんよ。」
さくらも俺の肩に寄りかかったまま、小さく頷く。
「おにいちゃん、がんばりすぎ。」
「二人とも今日は俺に説教する日なのか?」
冗談っぽく言うと、ひかりが慌てて首を横に振った。
「そ、そういうつもりで言った訳じゃないですよ!?本当にお兄ちゃんが心配なんです。」
「分かってるよ。」
俺は笑って二人の頭を撫でる。
「心配してくれてありがとう。」
「……はい!」
「えへへ。」
二人とも嬉しそうに笑う。
そのまましばらく三人で他愛のない話をしていた。
学校であったこと。
店で二人が蓮と葵とどんな話をしていたか
そんな話を聞いているうちに、さっきまで身体に溜まっていた疲れが少しずつ消えていく。
「明日はアルバイトお休みですよね?」
「ああ。」
「じゃあ、夕方は空いてますよね?」
「そうだな。特に何もないな。」
「……おにいちゃん。」
さくらが俺を見上げる。
「ん?」
「あした……放課後みんなでおでかけしたい。」
「皆んなで?」
「うん。」
「いいよ。明日蓮と葵にも聞いてみる。」
即答すると、さくらの顔がぱっと明るくなる。
「ほんと?」
「ああ。どこか行きたいところある?」
「えっと……。」
さくらが少し考える。
「みんなで決めたい。」
「それなら、明日皆んなで決めるか。」
「うん!」
嬉しそうに頷くさくら。
するとひかりも手を挙げる。
「私も予定が終わったら一緒に行っていいですか?」
「もちろん。」
「ありがとうございます!」
二人とも嬉しそうだ。
「ただし、あんまり遠くは行けないけど大丈夫か?」
「はい!」
「わかった。」
「ま〜あんまり遅くならない程度にしような?」
「……善処します。」
「ひかり?」
「だって今日はお兄ちゃんアルバイトで全然お会いできなかったんですよ?」
「まあ、そうだけど。」
「ふふ。」
ひかりが楽しそうに笑う。
その隣では、さくらが俺の腕に抱きついている。
「じゃあ、明日はみんなでおでかけ。」
「そうだな。蓮と葵が何もなければ五人で一緒にだな。」
「たのしみ。」
「俺も楽しみだよ。」
そう言って、さくらの頭をもう一度撫でる。
「私の頭は撫でてくれないんですか?」
ひかりがそう言ったのでひかりの方を向くと頬を膨らましている。
「はいはい、ひかりも甘えん坊だな」
ひかりの頭も撫でる。
その後俺は風呂に入り疲れを取っていた。
二人は先に入ってたみたいだったからリビングで待っていると言われた。
風呂から上がりリビングに戻る。
時計を見ると、もうかなり遅い時間になっていた。
「そろそろ寝るか。」
「そうですね。」
「おにいちゃん、きょうはもうやすんで。」
「分かった。」
俺が立ち上がると、二人も一緒に立ち上がる。
「おやすみ、お兄ちゃん。」
「おやすみ、おにいちゃん。」
「おやすみ、ひかり、さくら。」
それぞれの部屋へ向かう前に、俺は二人の頭を軽く撫でる。
「今日は待っててくれてありがとうな。」
「こちらこそです。」
「おにいちゃん、おつかれさま。」
二人の笑顔を見ていると、胸の奥が温かくなる。
部屋に戻ってベッドに横になる。
天井を見上げながら、今日一日のことを思い返す。
朝からバイトへ行って、ずっと忙しくて。
何度も疲れたと思った。
それでも、家に帰ればひかりとさくらが待っていてくれた。
「……明日の放課後が楽しみだな。」
そう呟いて目を閉じる。
すると、廊下から小さなノックが聞こえた。
「……おにいちゃん?」
「ん?」
「まだ起きていますか?」
扉が少しだけ開く。
そこから、ひかりとさくらが顔を覗かせていた。
「どうした?」
「……おやすみ、もう一回言いにきた。」
「寝る前にもう一度お兄ちゃんの顔を見ておきたかったので」
「そっか。」
俺は起き上がって、ひかりとさくらの頭を撫でる。
「おやすみ、ひかり、さくら。明日もよろしくな。」
「うん……。」
「はい!」
ひかりとさくらは満足そうに笑って、部屋を出ていく。
扉が閉まったあと、俺はもう一度ベッドへ横になる。
「……本当に、いい妹達だな。」
小さく呟く。
そして今度こそ目を閉じる。
今日の疲れを包み込むような静かな夜。
明日は何をしようか。
そんなことを考えながら、俺はゆっくりと眠りへ落ちていった。
こんばんは〜!ミレナです!
お仕事も落ち着いてきたのでお話しかけました〜!
今回も甘々でお話を書いてみました!




