#砂時計の砂が落ちきる前に(20)
帰宅し、母の機嫌を見ながら話す彼女。
『お母さん、欲しい物があるんだけど…フェルト布が欲しい。』
思いもよらない言葉が返ってきた。
『いいよ!でも、妹と半分ずつ使いなさい。』
彼女の顔から笑みが溢れる。
『ありがとう!お母さん!』
初めてokが出たのだ。
めちゃくちゃ嬉しかった。やっと彼女の話を聞いてくれたから本当に彼女は嬉しかった。
過去の出来事が川に流れるかの様に…
翌日、在校生の前で発表をする日を迎えた。
着々と彼女たちのシーンが近づく。
彼女の、肩をポンと叩き笑顔でステージの真ん中に向かう彼。
いよいよ、彼女の番。
『大丈夫ですか?大丈夫ですか!?聞こえますか!?これから病院へ向かいますねー!』横になっている彼の両肩を叩きアドリブが入る彼女。その姿は人(患者)を助けたい!という真の彼女の気持ちの表れだった。
そんな彼女に、彼は声を殺し笑っていた。
無事に劇が終わり、在校生と教員達の拍手が6年生全員を包む。
彼女は、拍手を浴びる生徒たちを見た。
周りを見渡せば皆んな、素敵な笑顔をしていた。
教室へ戻る生徒たち。後ろから彼女の姿は何処か誇らしく見えた。
『お疲れー!お前やるじゃん!アドリブ入れちゃうなんてすげぇーよ!やっぱお前は最高の看護師になれる!俺、笑っちゃった!』話しかける彼。
『ありがとう!オレ、頑張るから!絶対看護師になる!約束守る!』笑顔で話す彼女。
『なぁ、もう"オレ"って自分のこと言うな。強がって自分作ってるお前は、もう卒業しろ。春からは中学。中学からもう嘘の自分を出すな。』強がって、自分自身のキャラクターを作り出していたのを彼は知っていた。
だが、彼女は無言のままだった。
"だって友達居なくなっちゃう…嫌われたくない…"彼女は思っていた。彼は彼女の考えている事がわかるように話した。
『お前、嫌われたくないから、嘘ついてるだろ。俺にはバレてる。』冷静に話す彼の目は真剣だった。その真剣な目に吸い込まれそうになる彼女。
『バレてたかぁー!大丈夫、今日からワタシって言うからー!』必死に場を和ませようと、笑顔で誤魔化す彼女。
そんな彼女に彼は、不安でしかなかった。
話を切り替える彼女。
『蓮くん、大人になったら…いつか絶対会おうね!そして、お酒飲みに行ったりー。デートしたい!』
"ヤバッ!サラッと言っちゃった…コレって告白ってやつ!?“彼女は自分から彼に言っときながら焦ってしまった。
彼は彼女の話が聞いていたのか?聞いていなかったのか?分からず、黙って歩き出した。
“ヤバッ!引いてる!無視してる!“そう思った彼女はとっさに言った。
『冗談だよー!』
それでも歩き続ける彼。
彼を追う彼女。
突然、彼の足が止まり、彼女の方を向き言った。
『お前、何言ってんの!?』
"ですよね…私も何言ったか、もう覚えてないよ。“そのまま思ったことを口に出して言いたかったが、恥ずかしくいえなかった。
また彼は話し出した。
『いいよ!大人なって会ったらデートしようぜ!その代わり、ちゃんとお前が看護師になったらな!』
彼女も言い返す。
『わかった!蓮くんこそ消防士になったらね!』
彼の所まで走りだす彼女。彼女の恋は今日から再スタートした。
スッキリした気持ちで帰宅した彼女。
母親から思ってもいないことを言われた。
『フェルト布買ってきたから。』
茶の間から、透明な包装に包まれている綺麗な赤いフェルト布が1枚。
思わず彼女は言った。
『お母さん、ありがとう!大切に使うね!大好き!』
胸を弾ませ、大きなフェルト布を半分に切り慣れない手つきで裁縫をする。
卒業式まであと2週間…




